マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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4年目:マイス「嬉しい気持ちは次へと繋ぐ」

***冒険者ギルド前***

 

 

 アーランドの街。その名の通り、旧・『アーランド王国』、現・『アーランド共和国』の中心となっている街だ。ゆえに人口は最も多く、人や物が最も集まる場所でもある。

 そんなアーランドの街だけど、今日、僕が歩いてきた道は(ひと)一人(ひとり)も見当たらないほどで、人によっては不気味に思えるほどとても静かだった

 

 けど、別に何かがあったというわけでは無い。ただ単純に()()()()だけ

 季節的に一年の中でも特に日が長くなっているここ最近だけど、それでも僕が冒険者ギルドにたどり着いた時は()()()()()()()()()()くらいで、朝と言うよりもまだ夜に近いと思えるくらい、今日は「朝が早かった」のだ

 

 

 そんなに早くに街に来たのには、理由があるのだけど……それにしたって、僕でも「やってしまった」と思うくらいに()()()早く到着してしまっている。原因は、()()()行けばちょうどいい時間に着くぐらいに『青の農村』を出たのに、昨日の夜の出来事の影響で気分が高揚してて気付かないうちに足取りが軽くなってて……結果、予定の半分以下の時間で村と街の間を移動してしまっていたのだ

 

 おかげで……

 

「……うん。やっぱりまだ開いてないよね」

 

 『冒険者ギルド』の営業時間よりも早くに着いてしまうということに……おそらくあと一時間強は時間があると思う

 他所(よそ)で時間を潰す……と言っても、今は早朝。当然だけど時間が潰せるような場所もないことだろう

 

 これは、もう大人しく待っておくしかないのかもしれない。まぁ、仕方ないか……

 

 

 

「……こんな朝早くに誰かと思ったら」

 

「ん?」

 

 『冒険者ギルド』の扉にむかった状態で立っていた僕に、誰かが声をかけてきたようだったので、そちらの方へと目を向けた

 そこにいたのはクーデリアだった。何故か少し呆れたようにため息を吐きながら首を振った後、ポケットから何かを取り出しながらコッチに歩いてきた

 

「ほら、退()きなさい。開けらん無いでしょーが」

 

 そう言ったクーデリアの右手には『(かぎ)』が。どうやら、ポケットから取り出していたのは『鍵』のようだ

 

「……って、ここの鍵ってクーデリアが開けてるんだ」

 

「たまたまよ、いつもじゃないわ。……まっ、ここに勤めて結構()つからかなり色々と任されるようになってきたのも事実だけど」

 

 そんな話をしているうちにガチャリという音が聞こえ、「ほら開いた」と小さく吐き捨てる様に言ったクーデリアが『冒険者ギルド』の出入り口の扉を開いた

 

「ん、こんなとこにずっとつっ立ってるわけにもいかないでしょ? まだ時間外だけど、入んなさいよ」

 

 

―――――――――――――

 

***冒険者ギルド***

 

 

 働いている人たちや冒険者、依頼主等々の人で少なからず賑やかさがある『冒険者ギルド』だけど、今入ってきた僕とクーデリアが今日初めて入った人ってことで、普段なら考えられないくらい静まっている

 クーデリアはカウンターの向こう側まで移動し、定位置の冒険者免許の受付のほうへと移動し始めた。僕もそれに合わせて、その反対側に当たる……クーデリアの正面の位置へと歩いて行った

 

 

 そして、互いにいつもの位置に着いたあたりで、「……っで?」とクーデリアが腕を組んで少しだけ首を傾けて僕に問いかけてきた

 

「こんな朝早くからどうしたのよ……まあ、なんとなく想像はついてるんだけど」

 

「そうなの? ……というより、クーデリアこそ何かしないといけないことがあって早く来たんじゃ?」

 

「ただの当番。それに、そこまで急いでやらないといけない仕事も無いわ」

 

 「だから遠慮は必要ないわよ」と続けたクーデリアは、僕の顔をじーっと見てきた

 その視線を。話の催促(さいそく)だと判断した僕は、とりあえず事情を話すことにした

 

「えーっと……実はこんなに早くには来る予定は無くて、本当は『冒険者ギルド』のお仕事が始まるのに合わせて()ようと思ってたんだけど……色々あって凄く早くに着いちゃって」

 

「どうせ、ミミと仲直りできたーって変に舞い上がってスキップでもしてたんでしょ?」

 

 クーデリアが言ったことを聞いて、僕は驚き目を見開いてしまう。何で知ってるんだ!?

 

「わかるわよ、顔に書いてあるんだもの。もっと簡潔に言うと、今日のあんたは笑顔が三割増しって感じ」

 

「三割って何とも微妙な……けどクーデリアの言った通り、昨日の夜、ミミちゃんとちゃんと話せたんだ! 凄く久々だったから本当にうれしくて……!」

 

「ふん。ま、一応「おめでとう」とだけは言っておくわ」

 

 

  何故か一瞬だけ僕から目をそらしたクーデリアだったけど、すぐにまた僕の顔を見て、組んでいた腕の片手を自分のアゴのあたりに持っていき、ほんの少しだけ首をかしげてきた

 

 

「……で、結局あんたを避けてた原因って何だったのよ」

 

「それがね、ミミちゃん、僕が怒ってるんじゃないかって思ってたみたいで……」

 

「怒る? あんたが? そもそも怒ってるかもしれない相手に対して、悲鳴をあげて逃げたりするものなの?」

 

「クーデリアには話したことがあるけど、僕とミミちゃんが別れる時ってよくわからないまま僕がつき離された感じだったんだけど……その時とか、その前に言ったこととかを時間が経っていく中で自分を責めてたみたいで……まあそれも、ミミちゃんがひとりで思い込んじゃってた感じがあるんだけど。それでドンドン僕と顔をあわせ辛くなっていったというか、どう接したらいいかわからなくなったらしくって……」

 

「……本当にそれだけ?」

 

 疑わしいものを見る目で僕を見てくるクーデリア。そんな視線を受けながら、僕は他に何かあったかを思い出していく

 

「えっと、僕と距離をおいた理由になるんだけど……僕は大きすぎるんだって」

 

「……あんたとあの子って同じくらいの身長よね? 何? 遠回しにあたしに……」

 

「いや、そういう意味じゃなくって……自分で言うのはちょっと恥ずかしいけど、ミミちゃんにとって僕は理想の貴族に近いとかなんとか……それで、近くにいたら甘えてしまって自分がダメになってしまいそう、って」

 

 僕がそこまで言うと、さっきまでの視線は何処へ行ったのか、クーデリアは納得した様子で小さく頷きだした

 

「あーなるほど。お金にがめつい連中ならあんたに取入ろうってするでしょうけど、貴族の名にこだわってるあの子なら……。あたしは詳しくは知らないけど、家名(かめい)を広めるために冒険者にまでなったって聞くし……そんな考えを持つようなやつからすれば、確かに()()()()()目の上のたん(こぶ)でしょうね」

 

「……ミミちゃんが言ってたんだけど、僕ってそんなに有名なの?」

 

「『青の農村(あんたのとこ)』はもちろん『アーランドの街(こっち)』でも知らない人はいないわ。あとは、行商人とか商人を中心に『青の農村』って名前と商品と一緒に結構広く知れ渡ってると思うわよ。保存のきく加工品なんかはほとんどあんたが作ってるんでしょ?」

 

「ああ、そっか。野菜とかなら他の人のも出回ったりするけど、加工品のほうは僕が作ってるからなぁ」

 

「まぁ、そのあたりがどう宣伝されてるかは、あんたのところのあの赤毛の行商人に聞けばわかるんじゃないかしら?」

 

 赤毛の行商人というと……コオルのことか。確かに、外との交易とか難しい事は全部任せてるから聞けばわかるかも知れない。今度機会があったら聞いてみるのもいいかもしれない

 

 

 

 

「……そういえば、この報告をするためだけに『冒険者ギルド(ここ)』まで来たの?」

 

 クーデリアにそう聞かれたが、僕は首を振って本来の目的のほうへと話の(かじ)をきった

 

「実は、どうしてもしておきたいことがあって……ちょっと無茶苦茶(むちゃくちゃ)なお願いなんだけど、クーデリアに頼めないかな?」

 

「んなこと言われても、内容によるわよ」

 

 「で、なんなの?」と聞いてくるクーデリアに顔を近づけて、僕は少し抑えた声でお願いをしてみる

 

 

「話せるようになって()()()()()()()()()お手伝いができるから、ランクアップのための依頼を()(つくろ)ってあげたいんだ……ミミちゃん名義で依頼を受注したいんだけど、どうにかできないかな?」

 

「……本当に無茶苦茶ね」

 

 クーデリアはこれでもかと言うくらい大きなため息を吐いてきた

 けど、「しょうがないわね」と、冒険者免許の受付から、隣の依頼の受付へ移動し、僕を手招きして呼んだ

 

「今回は色々と事情があるからってことで特例。けど、わかってると思うけど、ちゃんとあの子にやらせなさいよ? 間違っても、あんたがやって、それをあの子の手柄にするのはダメよ。……マイスなら心配いらないって()()()()()()()()()()

 

「うん、その信用は絶対に裏切らない。そんなことしたら、クーデリアにもミミちゃんにも怒られちゃうし、絶対しないよ!」

 

 クーデリアは僕の言葉に「そっ」とだけ短く返して、僕に依頼書の束を渡した……

 

 

 

―――――――――――――――

 

***マイスの家***

 

 

 僕が家に帰り着くと、リオネラさんが朝ゴハンを作ってくれていて、ミミちゃんとリオネラさんたちがお話をしていた

 どうやら、帰り着く少し前に作り終えていたらしく、僕を待っている間お話でもしよう……ということになっていたそうだ。昨日ふたり(とホロホロとアラーニャ)が帰ってきた時はギスギスしてる気がしたけど、こっちも仲直りできたみたいで僕は一安心した

 

 

 そして、朝ゴハンとその片付けを終えてから、ミミちゃんに依頼を受けてきたことを話した

 少しごねられたものの、昨日の帰りの時に『冒険者ギルド』に寄って依頼を新しく受けられなかった事を指摘すると、少し申し訳なさそうにしながら「……ありがとう」と受け取ってくれた

 

 

「それに、それを全部達成すればきっとランクアップできるくらいポイントが貯まると思うよ!」

 

「そうなの?」

 

 そう言いながら、僕が持って来た依頼書の内容を確認していくミミちゃん

 ……と、その手が止まって、僕のほうに顔を向けて目を細めてきた

 

「……マイスの依頼が混ざってない?」

 

「そんなこと無いよ?」

 

「いや、だってこれ、というか後半からは全部…………()()調()()()()じゃない!?」

 

 そう。依頼にはモンスターを討伐する『討伐依頼』の他に、採取地で採れる素材アイテムを納品する『調達依頼』、そして薬や爆弾等を調合する『調合依頼』が存在する。僕がとってきた依頼の大半がそのうちの『調合依頼』だったのだ

 

 そして、ミミちゃんが驚いている……というか、ちょっと怒り気味な理由はもちろん……

 

「調合なんて、私はできないんだけど……どうするつもりなの!?」

 

 調合というのは専門知識が欠かせないものなのだ。いきなり「やれ」と言われたところで出来るはずもない

 

 

 

「まさか、マイスがものを私が納品して……!? 言っとくけど、私はそんなこと……」

 

「もちろんさせないよ。……とりあえず、話を聞いてくれるかな?」

 

 僕がそう言うと、少し興奮気味だったミミちゃんも「……しかたないわね」と、なんとか感情を抑え込んでくれたようだった

 

 

「えっと、冒険者ランクを上げるための冒険者ポイントの中には、依頼の種類ごとの総達成数によって得られる項目があるんだよ。これまで『討伐依頼』や『調達依頼』はミミちゃんも沢山達成して来たよね? だから……」

 

 そこまで言ってわかったのだろう。ミミちゃんが僕の言おうとしたことを引き継いで言った

 

「これまでずっとやってきた二種類よりも『調合依頼』をした方がポイントは貯まりやすいってこと?」

 

「そう! 今の状況じゃあ間違いなく一番手っ取り早いよ」

 

 僕はそう言って笑いかけるけど、当のミミちゃんはまだムスッとしていた

 

「……けど、結局私が調合出来ないと意味無いじゃない」

 

 

「大丈夫! ()()()()()()()! ……というわけで、ミミちゃんは『()()()()()()』、()()()()調()()()()()()()?」

 

「はっ……?」

 

「あっ! 『薬学』っていうのは、街のお医者さんなんかが薬を処方する時に作る方法とほぼ同じやつで……『錬金術』っていうのは、見たことあるかもしれないけど『錬金釜』でぐるぐるかき混ぜるやつだよ!」

 

「えっちょ、そうじゃ…………ちょっと考えさせて」

 

 何かブツブツを呟きながら、頭を抱えて悩みだしたミミちゃん。……一体、何をそんなに悩まないといけないんだろう?

 それに、時々「トトリ」って言ってる気が……やっぱり、今回の一件はトトリちゃんとのケンカが発端だったらしいし、そのあたりで何か考えないといけないことでもあるのかな?

 

 

「……決めたわ!」

 

「うん! それで、どっちでやってみる?」

 

「私は…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

============

 

 

 その日、珍しく『青の農村』で爆発音が聞こえたという……




 実は、マイス君とミミちゃんのことでまだ拾えてないことがいくつかあるんですが……そう重要な事でもないので、後々出していく予定です

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