マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 『ソフィーのアトリエ』キャラが参戦している『無双スターズ』ですが、その中で別々の作品の記憶喪失キャラ三人のイベントがあるのですが……その中でのとある一コマが印象に残っています。

「それにしても、三人とも記憶が欠けているとは妙な偶然ですね」
「なかなか高い確率ですね。記憶喪失はごく一般的な現象だと理解しました」
「いや、それは違うと思うが……」

 歴代主人公がそろって記憶喪失なRFって……。
 一人、例外の人もいますけども。


4年目:マイス「ゆっくりのんびり、そして準備」

 

 

 前にミミちゃんやクーデリアから聞いていた「マイス(ぼく)は有名」っていう話を、ついこのあいだふと思い出して、そんなに名前が知れ渡るほどのものなのか、その辺りに着いて知って良そうなコオルに聞いてみた。

 

 その時のコオルの反応はと言うと……

 

「えっ、今更かよ……」

 

 呆れを通り越して、引いていた……気がするけど、気のせいであってほしい。

 

 

 コオル(いわ)く、初めてウチに来る商人のうち一割が「たまたま立ち寄った」、もう一割が「街の近くだったから」、残りの八割が「マイスもしくは『青の農村』の噂を聞いて」という内訳らしい。中でも村長……つまりは僕にわざわざ挨拶しき来てくれるような人はほぼ僕の名前を知っている人たちだったらしい。

 思い出してみると、最近はそれほどではないものの一時期は本当毎日のように、時には一日に何人も挨拶に来ていたことも確かにあった。……アレって、有名だったからとか、そういう理由だったんだ……。

 

 ただ、どうも僕の有名さは(かたよ)っているらしく、直接的に関わりのある『アーランドの街』の人たちや商人たち以外にはよくて「名前は聞いたことがある」程度らしい。

 だからと言って、他所から来た商人は詳しく知っているというわけではない。だって、挨拶に来た人たちの大半が僕に会って子供だと思ったり、信じなかったりしていたから……きっと僕が出荷したものを手にした商人さんから話を聞いて「これは『青の農村』のマイスっていう村長さんが作ったのか! とても凄い人に違いない!」くらいしか知らなかったに違いない。

 

 

 ……でも、それってそんなに有名じゃないってことなんじゃ……?

 

 そう思ったのだけど、コオルは「商人の情報網を舐めちゃいけないぜ?」と不敵に笑ってくるだけだった。……つまりは「商品と名前だけが広がってる」というこのとなのかな?

 

 ……とりあえず、僕の噂に変な尾ひれがついていないことだけ祈ることにした。

 

 

――――――――――――

 

***ロウとティファの雑貨店***

 

 

「……ということがあってー」

 

「あらあら~。マイスくんらしいけど……でも、もっと自分に自信を持ってもいいのよー?」

 

「あははっ、そう言われても実感がないもので……」

 

 そんな先日の出来事を、いつも通りにカウンター()しに僕と話しているのはティファナさん。昔から何かとお世話になっている人だ。

 ……まあ、ある状況に遭遇した場合、僕のほうが「お世話」というか「対処」をしているのだけど……それを除けば、本当にお世話になっている。

 

 

 昔のように毎日ではないものの、僕は定期的に街へと行っている。

 その理由は、僕のところから商品を(おろ)しているお店や『冒険者ギルド』といった施設の様子……それと、そこにいるみんなに会いに行くため。もちろん、他に外せない用事なんかがあった場合、行くことはできないんだけど……それでも、定期的に街を散策している。

 

 ティファナさんのお店も例外ではなく、ある時期からお店に置いてもらうようになった調合品や加工品の補充・現状確認をしに行くんだけど……いつの間にか、こうした世間話などといった談話になって、何かきっかけがあるまでついつい長居してしまうこともしばしばある。

 

 

 

 そして、今日もそんな日……というわけだ。色々と確認を終えた後に、悠々と雑談を楽しんでいる。

 

 

「お店に置いてある商品の中でも、マイスくんが卸してくれてる物は人気商品よー? それ目当てで来るお客さんもいるわ」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。ほら、あそこにいる人たちもマイスくんのとこの商品をよく買って行ってくれてるのよ」

 

 そう言ってティファナさんが目をやったほうへ、僕もその視線を追った。その先には、商品が置かれている中でも店内の端のほう、そこにたむろっていた三人の男性……ティファナさんのお店でよく見かける常連さんたちだった。

 

 その常連さん三人は、ティファナさんから急に視線を向けられたからか少し(あわ)てた様子で壁際の棚の商品のほうを向き、わざとらしい(せき)ばらいをしたりしていた。

 まるで、何かしていたのを隠そうとしているような……って、あの人たちが落ち着きが無いのはいつものことか。

 店内にティファナさんがいなかったら三人で何かを話し合って、ティファナさんが奥から出てきたら出てきたでワイワイ嬉しそうにして、僕がティファナさんと話してる時もこっちをチラチラ見ては何か言ってるし……あの人たちが静かなところはあんまり覚えが無かった。だから、今、なんだか変なのもいつものことというだけかもしれない。

 

 

 「でも、待てよ?」と僕は首をかしげる。

 

 ティファナさんは、あの人たちがウチから卸している商品を買ってるって言ってたけど……卸している商品の中に、あの人たちが何度も買うようなものがあっただろうか?

 

「えっと、ティファナさん? あの人たちって具体的にはどんなものを買って行くんですか?」

 

「マイスくんが昔から卸してくれてるお花よ。誰かへのプレゼントか何かじゃないかしら? 後は、簡単な傷薬とか栄養ドリンクを時々……」

 

「お花はともかく、薬のほうは意外ですね。てっきり冒険者の人たちが買って行ってるのかと思ってました」

 

 あの人たちは冒険者じゃなくて、街の中で仕事をしている人だと思うんだけど……それだとモンスターなんかに襲われたりしないだろうから、傷薬なんて何度も買うほどいらないと思うんだけど……?

 ティファナさんも僕と同じ考えを持っていたようで、頬に片手を当てて頷いてきた。

 

「そうなのよー。もしかしたら、何か危ない事でもして怪我しちゃったんじゃないかって、私もちょっと心配なの。でも、聞くのも何だか悪い気もするし……」

 

 

「てぃ、ティファナちゃんが私達の心配を……!? 感無量だ!!」

「ああっ……! その慈悲深さがティファナちゃんの美しさをより引き出してる!」

「でも、カミさんとのケンカで出来た怪我だから言い辛い……」

 

 

 そんな常連さんたちの声が、僕の耳に(かろ)うじて入ってきた。何というか、いつも通りなようだ。

 ……でも、「かみ」さんって誰なんだろう? 街って広いし人も多いから僕の知らない人がいて当然だんだけど……なんというか、このあたりでは聞かないような変わった名前な気がする。

 

 僕とは違い、ティファナさんには常連さんたちの声は聞こえていなかったようで「あっ、でもね」と、先程までの話からちょっとだけズレた内容の話を切りだしてきた。

 

「もちろん、冒険者の人たちもマイスくんのお薬を買いに来てるわ。それにリピーターも多いのよ。きっと、どれもマイスくんが安く卸してくれるから、うちでもお手ごろな値段で出せてお客さんも手が出しやすいからなんだと思うわ~」

 

「あはは、このお店の売り上げの手助けが少しでもできているなら嬉しいです!」

 

「うふふっ……やっぱりマイスくんは謙虚(けんきょ)ね。「少し」なんてものじゃなくて「たくさん」助かってるわ」

 

 

 とっても優しい微笑みを浮かべたティファナさんは、そう言いながら僕の頭を撫でてきた。

 

「あのー……僕ももうそんな子供じゃない、いい歳になってるんで、ちょっと……」

 

「あらあら~……でも、もうちょっとだけ」

 

 そんな綺麗な笑顔で言われると無理矢理振り払う気も()がれてしまい、もうなすがままにされるしかなかった。

 

 

 

「まただ!! また彼はティファナちゃんに撫でられている!!」

「やっぱり撫でやすい身長がポイントなのか? くっそう! この平凡な身長が憎い!」

「身長を小さくする方法は……いや! 子供になる、若返る薬は無いのか!?」

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 ひとしきりティファナさんに撫でられ……撫でられ……なで…………。

 

 ……さ、さすがにそろそろ止めてもらいたいかなー?

 

 

 そう思って、改めてティファナさんに声をかけようとしたんだけど……僕が声を出すより先に、来客を告げる店の扉に着いているベルの音がカランコロンと鳴った。

 

「あら、いらっしゃい」

 

 そう言いながらティファナさんはゆっくりと撫でていた手を僕から離した。

 ようやく解放された僕は、ちょっとだけ(かみ)が乱れていないか気にして手で整えつつ、振り向くようにしてお店の入り口のほうへと目を向けた。

 そこにいたのは……。

 

 

「あっ、ミミちゃん! こんにちは!」

 

「えっ、あ、こんにちは……じゃなくて!?」

 

 僕の挨拶に頭を軽く下げて応えようとしていたミミちゃんだったけど、クワッっと目を見開きながら下げかけていた顔を上げて、声をはりあげてきた。

 

「何? 何してたのよ? 何か変なものを……いや、むしろ自然過ぎておかし過ぎるものを見た気がするんだけど……?」

 

「何って言われても……」

 

「ただ撫でてただけよー? ほら、こんな風に……」

 

 そう言って再び僕の頭に手を乗せて撫でてくるティファナさん。さっきまでとの違いは、僕が入り口のほうを向いているために後ろから撫でる形になったことくらいだろう。

 

 その様子を見たミミちゃんは、一瞬だけ固まった後、大きなため息を吐きながら肩を落とした。

 

「……貴方(あなた)、仮にも()()『青の農村』の村長なんだから、いい加減子供扱いされるのからは卒業しなさいよ……」

 

「あははははっ。僕もそう思うんだけど、どうしようもないというか……それに、ティファナさんからは前からずっとされてるから、なんというかあらがえないというか……」

 

「もうっ……マイスって本当に良くも悪くも変わらないわね」

 

 そう言ってはまたため息を吐いて首を振った。……けど、ほんの少しだけ口元が笑っているような……でも、十中八九呆れて笑ってるんだろうなぁ、あれは。

 

 

「それで、ミミちゃんは何か買い物に来たの?」

 

 何とも言えない空気をどうにかしたく、僕がそうミミちゃんに話を振ってみることにした。すると、ミミちゃんは「まあ、そんなところよ」と返してきた。

 

「ちょっと冒険に必要な物のストックを補充しに来たの。最低限の自分の分くらい自分で用意してなきゃ、やっていけないでしょ」

 

「なるほどね。……って、あれ? もしかして、これからトトリちゃんたちと冒険なの?」

 

 「そうなんじゃないかな?」と思って聞いてみたんだけど、どうやら僕の予想は外れたみたいで、ミミちゃんは首を振った。

 

「トトリは村に船の材料を届けに行ってるわ。「最後のー!」なんて言ってたし、じきに船も完成するだろうからってことで、()()()のために準備してるってわけ」

 

「へぇ! 半年も経ってないのに、もうそこまで! トトリちゃんは凄いなぁ」

 

「そうね。正直、私も驚いてるわ。でも、それは材料の調合素材集めをマイスが手伝ったからってことも大きいと思うけど?」

 

「それを言ったら、ミミちゃんだって…………ん?」

 

 話の途中、()()()()()を感じたため、僕は口にしかけていた言葉を途中で止めて振り返った。

 

 

 

 振り返った先にいたのは、当然と言えば当然だけどティファナさんだった。

 ただ、さっきまでと違うのは、僕とミミちゃんをジィーっと見つめ、何故か少しだけ眉をひそめて首をかしげていることだ。……何か気になることでもあったのかな?

 

「あの、どうかしましたか?」

 

 僕が問いかけてみると、ティファナさんは「うーん……ちょっと、ね」と首をかしげたまま返してくる。

 

「そのね、本当に大したことじゃないかもしれないんだけど……この前はマイスくんのことを「マイスさん」って呼んでた気がするんだけど、今日は「マイス」って呼んでるなぁって思って」

 

「んなっ!?」

 

 ティファナさんの言葉に、僕よりもミミちゃんが凄く反応した。

 そしてティファナさんはというと、そのままミミちゃんに問いかける様に言葉を続けてた。

 

「ほらぁ。かなり前だけど、お薬の説明をした時に「これもマイスさんが……」って言ってたじゃない? でも今日は違うから……何かあったのかなーって」

 

「別にそういうわけじゃないわよ……! あれは、その、呼び捨てなんて失礼で出来ないし、他人(ひと)に言う時だって……でも、この人があいかわらずマイペースで変わらな過ぎてついこっちも昔みたいになるっていうか、染みついててつい素が出ちゃうっていうか……!」

 

 ……何故かミミちゃんがもの凄く早口なんだけど、一応は聞き取れたのでなんとか理解することができた。

 

 

 思い返してみれば、ミミちゃんの僕の呼び方は一転二転している。

 まず、出会ってすぐの頃は「マイスさん」と呼んでいた。そして、僕が何度もシュヴァルツラング家を訪れていくうちにいつの間にか「マイス」って呼ぶようになって。でも、会えなかった時期を超えて最近に会った際には最初の頃のように「マイスさん」って呼んできて……で、本当にここ最近でまた「マイス」って呼ばれるようになった。

 ミミちゃんが考えていることが完全にわかるわけじゃないけど……この前の話とかと合わせて考えると、会えなかった時期にミミちゃんは色々考えて僕に「さん」を付けて呼ぶようにしたのかもしれない。

 

 結局は昔みたいにまた「マイス」って呼んでくれるようになったんだけどね。

 最近では口調も随分と(くだ)けてきて、昔のたどたどしい丁寧語で話すミミちゃんを知っている僕としては逆に違和感を覚える部分もあるけど、これが今のミミちゃんということだろう。

 

 

 

「って、私は本人(マイス)の前で何言ってるのよ!? バカみたいじゃない!!」

 

 そう言ったかと思うと、ミミちゃんは声にならない叫びをあげて、ついさっき入ってきた扉から店の外へと飛び出していってしまった。

 

 

「……あら? 買い物に来たんじゃなかったのかしら……?」

 

「あは、あはははは……」

 

 ……これは、今すぐ追いかけるべきなのか? それとも、冒険に必要そうな道具を一式僕の方で用意して持っていってあげるべきか?

 

 つい苦笑いを浮かべてしまいながらも、僕はそんな事を考えた。

 

 

 

 それにしても、もう船の材料は全て集まったのか。そうなると、僕も色々と準備しなきゃいけないね……。

 





 さて。
 やっと、ようやく、船完成! ストーリーが進みます!
 ……マイス君、何か協力できたかな?

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