今回は一部原作中にあるイベントなのですが、原作とは状況・セリフ等を変更している部分があります。ご了承ください。
***アランヤ村・トトリのアトリエ***
「んー、ふわぁ……」
朝日が昇ってきて、窓から差し込んできた光を感じながら、わたしは重いまぶたを開ける。
「……ん。またここで寝ちゃってた」
先生のアトリエにはベッドが無いからソファーで寝させてもらってるんだけど、そっちでの生活が習慣として身に染みついてしまっているため、いつからか、
……でも、ちむちゃんたちと一緒に寝たい時には、わたしもベッドに一緒に寝転ぶんだけどね。逆に言うと、そんな時くらいにしか使わないかな?
それに、今回はちむちゃんたちは連れてきていない。
その理由は、こっちにそんなに長く滞在する予定じゃないとか、本格的な調合をする予定も無いとか、色々。そもそも、わたしがここにいる理由がそのまま一番大きな理由になるんだけど……。
ちむちゃんがいないのを残念がったのはおねえちゃんだった。おねえちゃん、ちむちゃんたちのこと大好きなんだよね……ちむちゃんたちを初めて連れてきた頃から凄く可愛がってたし、「トトリちゃんだけズルい! 私もこの子たち欲しい!」って言うくらい好きみたいだったし。
そんなことを思い出しながら、まだちょっと眠くて閉じてしまいそうなまぶたを
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***ヘルモルト家***
アトリエから隣の部屋に移動すると、そこには広いスペースにイスとテーブルが一式。その奥に見えるキッチンスペースには朝ごはんの用意をしているおねえちゃんの背中が見えた。
「おねえちゃん、おはよー……」
「あら。おはよう、トトリちゃん。もうすぐできるから、ちょっと待っててね」
「んー、わかったー……」
料理を作りながらこっちを振り返って言うおねえちゃんに返事をしつつ、わたしはテーブルそばにあるイスのうちの一つに座る。
「……あれ?」
イスに座って、料理を作ってるおねえちゃんの後ろ姿をボーっと
お父さんが
といっても、船造りをしだしてからのお父さんの存在感は強過ぎるくらいだから、最近じゃあ見えなかったり気づけなかったりすることのほうが珍しくなってきてるんだけど……。
けど、こんな朝の時間にこの部屋にいないなんてことはこれまでに無かったから、どうかしたのか気になってしまう。……まさかとは思うけど、寝坊なんてことは無いよね?
「おねえちゃん。お父さんは?」
「お父さんなら港よ。私が起きた時にはもう家を出る準備してて「飯時には戻ってくる」って言って、行っちゃったわ」
「えっ? そんな朝早くから?」
おねえちゃんが起きる時間っていったら、お日様が登り始めるころだったはずだ。そんな時間からお父さんは出ていったのかな?
「そうなのよ。このあいだから「大詰めだー」なんて言ってやる気満々だったし、船造りの続きがしたくてしたくてたまらなかったんじゃないかしら?」
「そ、そうなのかな? なんだか子供みたいかも……」
「んー……そう、見えなくもないのかしら? とにかく、もうそろそろ
おねえちゃんがそう言ったのをまるで見計らったかのように、玄関の扉がゆっくりと開いた。
「ふぅ、いい仕事してきたぜ。……おっ、トトリ、起きてたか」
「おはよう、お父さん」
「おかえりなさい。トトリちゃんはついさっき起きてきたところよ」
おねえちゃんの言葉にお父さんは「そうか」とにこやかに返事をしていた。
わたしはお父さんをジーッと見つめる。そうしていると、イスに座ったお父さんが気付いてくれたみたいで、ちょっと驚いたようにほんの少し目を見開いた。
「どうしたんだ、トトリ? 俺の顔なんかジッと見て……何か付いてるか?」
「ううん。そうじゃなくって……船、どれくらいできたのかなーって思って」
そう、わたしが今回『アランヤ村』でゆっくりと滞在している最大の理由が、言われていた全ての素材を集め終えて本格的に始まった造船……その船の完成をいち早く知るためだったりするのだ。
だいたいの完成予定日を聞いておいてその日に来るっていうのでももちろん問題は無かったんだけど、なんとなく出来たその時に『
そんなわたしの気持ちを知ってか知らずか、お父さんはちょっとわたしの方に顔を近寄せつつニヤニヤしてきた。
「おっ、気になるか? 気になるよなぁ?」
「むぅ。気になるから聞いてるのに……」
「悪い悪い。つい、気分が高揚しちまってな」
もったいぶるようにして一人で愉快そうに笑うお父さんにわたしは頬を膨らませ、ちょっとだけ睨みつけてみた……けど、あんまり効果は無かったみたいで、お父さんは変わった様子も無く笑ったまま。
「いやぁ、実はな。今さっき完成したところだ」
「えっ……」
「本当は昨日のうちに完成させてしまいたかったんだが、思っていたよりも早く日が落ちてな。……で、今朝、最後の仕上げをしてきたってわけだ」
「ええーーーっ!」
思わず大声をあげてしまってた。別に、知らないうちに完成していたことにおどろいているとか、そういうことじゃ……全く無いわけじゃないけど、どちらかと言えばただ単純に船の完成が嬉しいってだけ。
「本当!? 本当に船、できたの!?」
「嘘なんて言うものか。なんなら今から見に行くか? トトリが想像してるよりも立派で腰抜かすと思うぜ?」
「うん、行く! ねぇ! 早く行こうよ!」
嬉しくて嬉しくて、ついつい跳び跳ねる様にしてイスから立ち上がってしまう。お父さんのほうももったいぶろうとしていたくせにお父さんも見せたくて仕方ないのか、わたしと同じくらいの勢いでイスから立ち上がってた。
けど……
「その前に、朝ごはんをちゃんと食べてからね?」
「「はい」」
おねえちゃんがテーブルにお皿を置く音と同時に、わたしとお父さんも再びイスに座った。
「そっか……できた、のね…………」
「えっ? おねえちゃん、何か言った?」
「……早く行きたいからって、よく噛んで食べないとダメよ、って。ね?」
「……? うん、わかったー」
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***アランヤ村・
「わぁ…………!!」
朝ごはんを食べ終えてから、お父さんとそろって飛び出すように港へと向かったわたしだったけど、港に入るちょっと前くらいからいつもは見えない大きなマストが見え始めていて、より一層早足になって……ほとんど全速力くらいの速さでその船のそばまで行っていた。
「できたんだ……本当にできたんだ! わたしの船! お父さん、ありがとう!!」
「なに、トトリのがんばりのおかげさ。お前が文句のつけようの無い一流の素材を集めてきてくれたからできた船だ。同じくらいのもんを造れって言われても二度とできるかわからねぇほどの出来さ。これ以上の船は無いってくらいにさ」
そう言って、わたしと並んで船を見つめるお父さん。
確かに、お父さんの言う通り……船の事がよくわからないわたしでも一目でわかるくらいに立派な船だ。そんな船にわたしが乗るなんて……!
「……って、喜んでる場合じゃない!? お母さん! お母さんを探しに行ってあげないと!!」
「おいおい。まだ、船の動かし方も教えてないだろう? あと、航海に必要な物も用意できてるのか?」
「あっ……! お父さん! 早く教えてよー!」
「
そう言ってお父さんは、わたしの頭を撫でてきた。
「ほら、まずは荷物の準備だ。必要な物を教えておくから、それを
「わかった!」
わたしは準備のために、来た道を駆け足ですぐさま引き返す。
駆け出してからすぐ、振り返って
「お父さん、早くー!」
その声はちゃんと聞こえたみたいで、お父さんはこっちに手を振ってきた。それを確認してから、わたしはまた駆け出した。
「……頼んだぜ。俺が
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***アランヤ村・広場***
「もうっ! お父さん、ちゃんと走ってきてるかなー?」
港から村に入ってすぐの広場まで来たところで、わたしは立ち止まってもう一度振り返った。
……お父さん、まだ見えてこないってことは、ゆっくり歩いてきてるんじゃないかな?
「トトリちゃーん!」
そう声をかけられて、反射的にそっちを向いた。
……というか、この声って……
「先生! ……あれ? 街にいるはずなのに、どうしてこんなところに?」
「どうしてって、『トラベルゲート』で来たからだけど?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
『トラベルゲート』は、一度行ったことのある場所に一瞬で移動できる便利な『錬金術』の
……って、わたしが聞きたいのは「何かの用があって『アランヤ村』に来たのか」って事なんだけど……。
「私がトトリちゃんに会いたかったから!……あと、もうそろそろ船が完成する頃だろうからってことで、伝言を頼まれて来たの」
「伝言?」
「うん。「何か必要な物があったらコッチで用意するから、遠慮しないで言いに来てね」って、
何日も航海することになるだろうから、お父さんも言っていたように出港する前に荷物をしっかりと用意をしておかないといけないだろう。そして、色々な物を買い揃えようとすると、必要なお金は結構な額になるはず……そう言う時に協力してくれる人がいるのは凄く助かる。けど……。
「ありがたい……ですけど、申し訳ないというか、これ以上はというか……」
「アハハ……うん。トトリちゃんの気持ちもわかるよ」
前にお母さんの借金の件をそばで見ていたからか、ロロナ先生は苦笑いをしながら頷いてくれた。
でも、何か他に思うことがあるみたいで、ロロナ先生は「うーん」とちょっと悩むような仕草をした後、私へ向いて言った。
「ねぇ、トトリちゃん。マイス君に食料とか荷物のことを頼る代わりに……
「えっ? マイスさんって強いですし、それはむしろお願いしたいくらいなんですけど……大丈夫なんでしょうか?」
わたしが気になるのは、お母さんを探しに行く冒険の期間の不透明な長さだ。ほぼ未開の、前人未踏と言っても過言じゃないような海の旅。安全性はもちろんだけど、海が何処まで続いているのか、本当に終点があるのかも不明な冒険になりかねない。
そんなこれまでの冒険以上に不安要素のある冒険につき合わせてしまっていいのか躊躇いがある。長期間、マイスさんが『青の農村』を離れれば、マイスさん本人はもちろん村にも大きな損害が出ることは間違いないはず……。そこにわたしは不安
そうわたしは思ったんだけど、先生は首を振ってきた。
「ううん。マイス君の事情はわたしもわからないけど……だけど、マイス君はギゼラさんを探したいんだと思う。きっと、それをいろんな理由で我慢してる」
「どうしてそう思うんですか?」
「ついこの前、ステルクさんが言ってたの。マイス君、何年か前から船に関する本を買いあさってたって。それがもしかしたらギゼラさんの行先を知ってて、調べたり、勉強したりしてたんじゃないかって……でも、船を造ってくれる人がいなかったのか、別の理由があったからか、何かしたくても何もできなかったんじゃないかな?」
そう言った先生は「だから、ね」と続けて言った。
「わたしが言うのはなんだかおかしいかもしれないけど、マイス君の背中を押してあげたいんだ。きっとトトリちゃんやトトリちゃんのお姉さんとお父さんと同じくらい、マイス君もギゼラさんのことが大好きで……心配してると思うから」
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そう先生に言われて……
……そういえば、ジーノ君強化イベント完全に忘れていたなーと思う今日この頃。
そもそも、ジーノ君の出番が少ないって言うのもあるんだけど……。
次回、出航……の予定です。