……船の構造が、書いている中での一番の強敵です。そもそも、帆船の操縦については知識は皆無ですし……そのあたりは誤魔化しながら書いていきます。……資料、どこにやったっけ?
ついに完成した……お父さんが造ってくれた船。それは、普段『アランヤ村』の港を出入りしている船とは比べ物にならないもので、初めて見るくらい大きくて立派な船。
そして、その船でお母さんを探しに出発するその日。
荷物を積み込み、一緒に来てくれるみんなと船に乗り込む私たちを見送りに来たのは、おねえちゃんやお父さん、ゲラルドさんにパメラさん、ペーターさんといった村の人たちだった。
わたしがお父さんに「船を造ってほしい」って言った時にずっと反対してたおねえちゃん。結局は船を造ることを許してはくれたけど……やっぱり、お母さんみたいに帰ってこなくなるんじゃないかって心配してるみたいで、それが顔にとっても出てた。そんなおねえちゃんの心配が
……だから、「ハンカチ持った?」とか、そんな細かいところまで心配しなくても……
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***海・船の上***
そんなふうに、村のみんなに見送られて『アランヤ村』を出発したのが十数日前。出発する時にお父さんが教えてくれた「
そして今現在、甲板から見えるあたり一面は、見渡す限りの大海原。海のすぐそばの『アランヤ村』で生まれ育ったわたしだけど、この空と海に
「……お母さんも、これと同じ景色を見てたのかなぁ」
村や街、その周りの街道といった場所では、建物や道が新しくできたりと、時代が変われば景色も少しは変わったりするだろう。
けど、海や空は変わりようが無いはず。なら、何年か前にお母さんもここで同じ景色を見ていたとしても、何もおかしくはない……と思う。
「なにボーっとしてるのよ」
不意にかけられた声に振り向くと、そこにいたのはミミちゃんだった。最初は、初めての船に乗った感覚に慣れなくて時々ふらついたりしてたけど、今ではそんなことは無さそうで、いつも通りのミミちゃんだった。
わたしはミミちゃんの方へ向き直りながら、さっきまで考えていたことを大まかに説明してみる。
「えっとね。天気が良くて波も穏やかだったから、なんだか気が抜けちゃってて……それで、お母さんもこうやって海見てたのかなーなんて思ってたの」
「なるほどね。……まぁ、変にずっと気を張ってるよりはいいんじゃないかしら?」
そう言ったミミちゃんは、わたしの隣あたりまで来て、並ぶように立って水平線を見た。
船の帆に吹き付けるのと同じ海風がミミちゃんのサイドテールに結んでいる黒くて長い綺麗な髪を揺らし、その髪の流れが、わたしからはミミちゃんの横顔
「……ん、何よ? 私の顔に何か付いてる?」
「う、ううん! そうじゃなくって、えっと、マークさんは大丈夫かなーって思って!」
ミミちゃんにそう、なんとなく別の話題を振った。ここでマークさんを選んだのには色々と理由がある。
まず、この船の進路確認・
……でも、もうお昼が近いから、今マイスさんは船内の一室でゴハンの用意をしている。つまり、残っているのはジーノくんとマークさん……なんだけど、ジーノくんは
……けど、マークさんはマークさんで悪い人じゃないんだけど、マイスさんとは別方向に感覚がズレているというか、何を考えているのかわからなかったり、何をするか予想できなかったりと、ちょっとだけ不安だったりする。
だから少し気になるんだけど……。
そんなことを考えてるわたしの前で、ミミちゃんは肩をすくめて
「大丈夫も何も、ダメだったら私たちはこんなところでノンビリできてないわよ。一応さっき確認してきたけど、ちゃんと進路をとれてるみたい。……どうしても心配だって言うなら、今から一緒に見に行く?」
「ううん、大丈夫。ちょっと気になったってだけで、そんなには心配してなかったから」
「……まあ、あえて心配するとすれば、こんな海の上でいきなり船をイジッたりしださないかってことくらいかしらね」
「あはははは……ありえないって否定しきれないのが怖いよね」
ミミちゃんの言ったことに、わたしはただただ苦笑いをこぼすことしかできなかった。
というのも、元々「未踏の遺跡があるかもしれないから」なんて理由で飛び入りに近い形で今回の冒険に参加してきたマークさんだけど、船に乗り出発してからというもの「ほーう……ほうほう」なんてふうに呟きながら興味深そうに船のあちこちを見てまわっていた。そして、ひとしきり見てまわった後、「いやぁ、この船は素晴らしい! 帰ったら
……そして、それ以降もマークさんは船を見てまわって、
前に、『アランヤ村』に来たマークさんが、馬車の車輪の運動効率が悪いとか何とか言って改造したことがあったんだけど……今回もそういう方向で思いついたのかな? でも、あの時改造された馬車って色んな意味で凄くなって、初めて乗った
今回は馬車の時とは違って大切な冒険の途中だから、いますぐ何か変に改造されて大変な目に遭うのはやめてほしい。
……こんな海のど真ん中、改造するための素材なんて無いわけだし、きっと大丈夫……だよね?
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そんなふうに海を眺めながらミミちゃんと話していると、船の中から誰かが出てきた。
それは、ゴハンの用意をしていたマイスさん……ではなく、メルお姉ちゃんだった。
ひとつ大きな
「おはよう、メルお姉ちゃん。よく眠れた?」
「おはよートトリ。うーん……微妙なところかなぁ」
右手で軽く口元を隠しながらまた欠伸をしたメルお姉ちゃん。やっぱりまだ眠いんだろう。
「寝ないで一晩過ごすこと自体は普段の冒険でも経験はあったんだけど、こうやって仮眠取った後もなんか違うんだよね。やっぱり、海の上で慣れない環境だから か……それとは全く関係無しに、あたしももう歳ってことなのかしら」
「えっと……それはどうだろう? と、とにかく、
寝ずの番。お父さんに教えて貰った事なんだけど、夜の航海は非常に危険なため
なお、一人で寝ずの番をするのはメルお姉ちゃん、マークさん、マイスさんの二十歳以上組。わたしやミミちゃん、ジーノくんは誰かしらと二人で……ということになってる。
「いやぁー、でも何も危なげも無くって退屈なわけだし、いっそのことみんなで寝ちゃえばとか思っちゃうわけよ。まあ、安全面的にそれはできないってことは重々承知してるんだけどさ」
そんな事を言いながら「んー!」と伸びをするメルお姉ちゃん。話したりしているうちに目も覚めてきたみたいで、その表情もいつも通りになってきている。
そのメルお姉ちゃんの言葉に反応したのはミミちゃんだった。
「気持ちはわかるけど、陸地ならともかくこんな海上じゃあ危険すぎるでしょうね。「海は少しの気候の変化ですぐに表情を変える」なんて言ったりするらしいし」
「確かに。ちょっと風が変わっただけで波も結構荒れる……
メルお姉ちゃんの言葉に、わたしも頷きミミちゃんにちょっと聞いてみる。
「わたしも初めて聞いたんだけど……「山の天気はよく変わる」っていうのと似たようなお話なの?」
「どうかしら? 人から聞いた話だし、私もよくは知らないのよ。ただ、その話と関連した話が印象深かったから、たまたま
「人から?」
わたしがつい首をかしげてしまいながら聞き返したところ、ミミちゃんは「ええ」と頷いて言葉を続けた。
「マイスから聞いたの。確か、大元の理由は……海、というか『水』が『変化』という事象に関わりが深いから……とか何とか言ってたわ」
「えっと、わかるような……わからないような……?」
「マイスって遠い国出身らしいし、そっちのほうの考え方なのかしらね?」
メルお姉ちゃんがそう言うと、ミミちゃんは「そうだと思うわ」と頷いていた。
マイスさんが『アーランド共和国』とは別の遠くの国出身だという話は聞いたことがあった。確か、マイスさんの農業や料理、鍛冶、装飾品加工や薬の調合といった技術は、
……けど、噂なんかでは聞いたことはあるけど、マイスさんから直接聞いたことは無かった気がする。
ミミちゃんが言った今の話で少し興味も
「あっ、マイスと言えば……」
何かを思い出したかのように。ポンっと手を叩いて目を少し見開くメルお姉ちゃん。
わたしとミミちゃんは「どうしたんだろう?」とメルお姉ちゃんの顔を見つめたまま次の言葉を待ってみた。
「さっきまでの話とあんまり関係無いけどさ。村から出発する時、あたしたちはツェツィと話してたりしてたじゃない? その時のマイスのこと思い出してさ。アレって何だったのかなーって」
「アレ?」
何かあったかな?
その時はおねえちゃんに色々心配されて、あんまり他に気がまわらなかったからよく憶えてないんだけど……マイスさんって、何かしてたっけ? とりあえず、わたしのすぐそばとかにはいなかった気がするんだけど……?
そんなふうに思い出せないわたしとは対照的に、隣にいるミミちゃんはすぐに何かに思い当たったみたいで「ああ……」って何とも言えない感じで声をもらしていた。
「いや、うん、あれは……
「あっ!」
ミミちゃんが言ったことを聞いて、わたしもその時の光景を思い出した。
パメラさんは『アランヤ村』でちょっと変わった雑貨屋さんをしている、とっても綺麗な人なんだけど……確かあの時は、マイスさんの後ろからマイスさんの頭のてっぺんにあごを乗せるような感で抱きついてて……えっと、その……メルお姉ちゃんに負けず劣らずな大きさの胸がマイスさんの肩に乗ってて……。
……で、そんなマイスさんを、パメラさんのお店によくかよってる村の男の人たちが凄い目つきで睨んでた……。
うん、ミミちゃんの言う通り、いろんな意味で驚いた。
「ああ、それ
「いや、女の子だからって無反応ってことは無いと思うけど……」
「そう? でも、それは置いておいても、マイスって女装とか似合うと思うんだけどなぁ」
ううん……なんだか話がズレてきてるような……。
それに、ミミちゃんはミミちゃんであごに手を当てて何か考え込みだしてるし……。
「そういう話じゃなくて! メルお姉ちゃん、さっき「それ
わたしがそう言うと、メルお姉ちゃんは「ああ、そうだった」ってハッとした。
「その時さ、マイスが話してたじゃない」
「パメラさんと?」
「そっちはパメラさんが「何で来てくれないの?」とか「やっぱりウチの商品に興味無いの?」とか大きめの声で言ってて聞こえたからそんなに気にはならないわよ。そっちじゃなくて、ゲラルドさんのほう」
そう言われて思い出した。そういえば、パメラさんに抱きつかれたマイスさんが、そのままゲラルドさんと何か話してたっけ? でも、それってそんなに気にすることなのかな?
「前にマイスが村に来た時はゲラルドさんとはそんなに話したりしてなかったんだけど……あの時は、なんか少し話し込んでた気がしてさ」
「そうなんだ。うーん……?」
「気にし過ぎじゃないかしら?」
わたしとミミちゃんの反応に「そうかな?」と小首をかしげるメルお姉ちゃん。
……と、そんなところに、船内からゴハンを用意し終えたマイスさんが現れて、お話はそこでいったん終わりということになった……。
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「……で、あの時、ゲラルドさんと何話してたの?」
食事中という短い時間であっても進路がズレるのは大事に繋がる……ということでもしもの事態にそなえて、船の後方付近にある
……ちょっと前に「船内の設備の問題で、料理のレパートリーが制限されてる」とマイスさん言っていたっけ。
そんな食事の途中に、メルお姉ちゃんがさっきの話をいきなり切りだしてきた。わたしとミミちゃんはまだ何のことかわかるからいいけど、ジーノくんやマークさん、聞かれたマイスさんはサッパリの様子で首をかしげていた。
さすがにどうかと思ったから、わたしは「出発する直前のときの話です」とマイスさんに補則して伝えた。すると、「ああっ!」とマイスさんはわかってくれたようだ。
何のことかわかった様子のマイスさんはメルお姉ちゃん……ではなく、わたしのほうを向いて口を開いた。
「すっかり忘れてた! トトリちゃん、『秘密バッグ』って持ってきてる?」
「えっ、はい。船じゃあ『調合』は出来ないから冒険中に使った爆弾とかお薬とかの補充のために持ってきてます」
どういう事かと言うと、マイスさんの言った『秘密バッグ』という道具は、その中がわたしのアトリエにある、素材や調合した道具などのアイテムが入っている『コンテナ』に繋がっているという不思議な道具。事前に調合してコンテナに入れておけば、荷物を最小限にしておいても、旅先で必要な時々にコンテナからアイテムをとりだせるという優れ物なのだ。
「ちょっと今、中身を確認してくれないかな?」
「いいですけど……?」
けど、それがどうしたっていうんだろう? それに、ゲラルドさんと話してたっていうのと、何か関係があるとは思えないんだけど……?
「……あれ?」
取り出した『秘密バッグ』を
「……お弁当箱?」
「あ、やっぱりもう入ってたかぁ。でも、ロロナがいじったっていうコンテナなら中のものは痛んだりしないはずだし、問題無い……かな?」
マイスさんはそう呟いているけど、わたしを含めその他のみんなはどういう事かわからず、マイスさんのほうを見た。
「えっとね、ゲラルドさんに言ってあったんだ。もしツェツィさんが仕事に手がつかないくらいに元気が無かったらアトリエのコンテナにお弁当を入れて一日待ってみるように、って言ってあげてって。それを受け取ったトトリちゃんが感想をそえた手紙と一緒にお弁当箱を戻せば、ツェツィさんの心配も和らぐんじゃないかなーと思ってね」
「そうだったんですか!?」
「へぇー、ツェツィのことを考えてねぇ……良い事だけど、やっちゃったかなーこれは」
驚いたわたしとは別に、メルお姉ちゃんは呆れ顔に近い表情でため息をついていた。
「メルお姉ちゃん、どうかしたの?」
「いやさ。トトリに物を送れるって知ったら、ツェツィってば毎日のようにフルコースなみに突っ込んできて色々大変になっちゃうだろうなーって」
「ああ……うん」
メルお姉ちゃんに言われて、わたしにもその光景がすぐ頭に浮かんだ。おねえちゃんならそんなことをしそうだ……。
「……とりあえず、食べ物は密閉できるお弁当箱で、コンテナの中をしめらせたりしないように。あと、取り扱いに注意が必要な物もあるから他の物は触らないように……そんなことを書いた手紙をいれておこうかな……?」
マイスさんも悪気があったわけじゃなくて善意でやったわけだし、おねえちゃんのほうもわたしが心配かけちゃってるわけだから「しないで」とは言い辛い……。ならせめて、危なくないようにしてもらうしかないと思う。
「どうしたんですか、マークさん? 『
「いやぁ、そんなものがあるなら、船に積み荷をたくさん積まなくても何の問題も無かったんじゃないかと思ってね」
「あっ」
「……キミといい、キミの先生といい、『錬金術士』は頭が良いのか悪いのかわからないねぇ、本当にさ」
『秘密バッグ』は便利。錬金術士の道具の中では『トラベルゲート』の陰に隠れてしまってますが、それでもかなり便利です。
次回、やっと『フラウシュトラウト戦』に突入します。
原作とは色々と違う点がある予定ですが……うまく書けるよう頑張りたいと思っています。
――――――――――――
※補足※
マイスのことについて……
●異国出身だと知っている
・ほとんどのキャラ
●もといた場所は『シアレンス』という場所
・王国時代『ロロナのアトリエ編』時点での知り合い&『青の農村』関係者
●もといた場所は俗に言う「異世界」のようなもの
・リオネラ、フィリー、クーデリア、ホム
●マイスは人とモンスターの『ハーフ』
・上に同じ
……大体こんな感じになっています。
これ以外にも、『青の農村』関係は『シアレンス』の行事について知っていたりします。
また、例外が約三人います。
一人はアストリッド。マイスが異世界から来たことを
もう一人はギゼラ。ある一件からなりゆきでマイスや『シアレンス』のことの大半を知る。ただ、マイスのことを誰かに話したりすることはなく、それがグイードが言っていた「初日の話だけは話してくれない」の理由につながっていたりする。
最後はミミちゃん。正確にはミミちゃんとミミちゃんのお母さん……だけど故人のため、数には入っていない。少し特殊で『異世界』とか『ハーフ』とかそういうことは知らないけど、それ以外のことは誰よりも話に聞いているという状態。その理由は主にマイスがシュヴァルツラング家にかよっていた時期、病気であまり外に出られないお母さんとそのそばから中々離れないミミちゃんに冒険や農業の話をしていくうちに、マイス君が自然と昔の……シアレンスでの体験や聞いた話を話す様になっていったから。