戦闘描写やその表現に関して、最初から最後まで満足できる出来栄えにならず、終始悩み続けました。
自分の妄想が少しでも伝われば……そんな風に思っています。
……ゲームの時は、トトリちゃんがあのアイテムでものすごく動いていた思い出があります。このお話では使いませんが、いつか物語の中で話題にあげてみたいとか思ってはいます。
***海・船の上***
「ど、どうしよう……!」
降りしきる雨が船の甲板を叩く音と、波が荒れ狂う音とが混ざり合った音。それが周囲から絶え間なく聞こえてくる中で、わたしはつい不安をもらしてしまってた。
思ったように動けず、これまでにない苦戦を
きっと、みんなも同じようなことを思っていると思う。
ついさっきフラウシュトラウトの攻撃からわたしを守ってくれたマイスさんも、戦闘に参加する前に少し話したけど、なんだかとても困ったような顔をしていた。他のみんなも頑張ってくれてるけど、内心では
「せめて、もっと強い爆弾を使えたら……」
わたしがそう呟いたのとほぼ同時に、フラウシュトラウトがザブンと海へ潜り……そして、船からそれなりに離れた海面から現れた。
その距離はこれまでより遠くて、ジーノくんとミミちゃんの剣と槍はもちろん、メルお姉ちゃんの斧も、マークさんが背負う機械から発射されるトゲ付きグローブも届きそうにないほど離れている。
「でも、わたしなら届くかも! それに……」
アイテムを投げるのはたくさん練習した。それに実際の戦闘でも何度も投げてきた。そこで得た知識と経験があれば……例えば、杖に引っ掛けて振りかぶり遠心力を活かして飛ばせば、このくらいの距離ならきっと……た、たぶん届くはず!
そして、それくらい遠くまで投げれば爆発範囲に船を巻き込んでしまうことは絶対ないと思う。そうなれば、強力な爆弾でも遠慮なく使えるから、この戦況だってひっくり返してしまえるだろう。
そう思って、
……あれ?
なんていうか、こう……今の状況に何かを感じて、わたしは爆弾を取り出そうとしていた手を止めて、顔をポーチのある手元からフラウシュトラウトのいる方へと向けて……気がついた。
「あっ……!!」
遠くのフラウシュトラウト。そのまた後方から迫ってくる大波。
……そう。この戦いが始まる最初の最初と同じ状況にいつの間にかなっていたことに気がついた。
あの時の事を思い出し、ポーチから手を抜き出してとっさに近くの
そして、あっというまに大波は船のそばまで押し寄せてきて、船を傾け、のみ込んできた。
お父さんが造ってくれた船は本当に凄かった。これまでのフラウシュトラウトの攻撃でも大きな損傷は受けなくて、大波にのみ込まれて転覆することも無く耐えてくれている。
そんな船と一緒に大波に耐えていたわたしだったけど、ふと
大波が通り過ぎ大きな揺れがおさまったところで、わたしはフラウシュトラウトを確認した。……どうやら、船がまだちゃんとしていることが気に入らないみたいで、短く吠えた後、また海へと潜っていった。きっと、また船のそばに出てくると思う。
ひとまずの安全を確認した後、わたしは一番近くにいたマークさんにへと声をかけた。
「マークさん!」
「うん、大丈夫だよ。海への冒険と聞いた時から機械の海水対策、防水加工には着手していてね。今、戦闘に使ってる装置も対策はばんぜ……」
「そんなどうでもいいことじゃなくて!!」
「それはいくらなんでもヒドくないかな?」ってマークさんが呟いたけど、そんなことを気にしている場合じゃなかった。
「
わたしがそう言うと、マークさんじゃなくて、もう少しだけ離れたところにいたメルお姉ちゃんが声をあげてた。
「なってたわね。軽くあたしの
「そうは言っても、高くなったのは事実じゃない。しないのか、できないのかはわからないけど、連続してあの波を起こさないのが不幸中の幸いかしら」
そう言ったのは、離れたところから駆け寄ってきたミミちゃんだった。その視線はさっきまでフラウシュトラウトがいた海面の方へと向けられている。
マークさんはといえば、かけていたメガネを
「波も一層荒くなってきてるし、雨量も増えてきてる。……こういう時、雨粒が付くのはメガネの欠点だね。それは僕だけの問題だけど、雨は人の体温を奪うということも忘れちゃいけないよ。あの波のことも含めて、今以上の長期戦はどう考えても危険だろうね」
マークさんの言う通りだろう。こっちだって少しずつだけど、みんなで攻撃していって確実にダメージは蓄積させていってそれなりには削れているとは思う。けど、持久戦になったら、回復アイテムがあるとはいえ、あんな大きなモンスターに体力勝負で勝てるとは思えなかった。
「くっそー! 陸の上でなら
「一番近い陸地は、見えていた海峡のところだろうけど……フラウシュトラウトが行かせてくれないんじゃないかな。それに、あの大波の事を考えると、陸地のほうが危険かもしれないよ」
マストにしがみついていたジーノくんが苛立たしげに声をあげるけど、それにどこからかマイスさんが否定的な意見を言っていた。
マイスさんがどこにいるのか探そうとしたところで、雨音に紛れてパシャパシャという足音が聞こえてきた。振り返って見ると、わたしの後ろのからマイスさんが駆け寄ってきていた。
「トトリちゃん! さっき言ってた強い爆弾用意しといて!」
「えっ!?」
い、いきなりどうしたんだろう!? それは、もし使えたらフラウシュトラウトに大ダメージが与えられるし嬉しいんだけど……でも、船のことを考えると危ないから無理だし……。
驚くわたしをマイスさんはスルーし、そしてそのまま声を張り上げてきた。
「メルヴィアとマークさんは、アイツの頭に思いっきり強いの喰らわせて!」
「はぁ!? あんた、何言ってんのよ!?」
「今の状況を打開するには大きな一撃を与えるのが理想ではあるけど、出来ないと思うよ?」
色々と言うメルお姉ちゃんとマークさんもスルーして、マイスさんは続けて言い続ける。
「ジーノくんとミミちゃんは、アイツの
「おう! わかった!!」
マイスさんの言葉にジーノくんだけが元気に返事をした。……というか、「わかった」なんて言ってるけど、ジーノくん絶対何もわかって無くて勢いだけで返事してると思うんだけど……。
いったいマイスくんは何を考えているのか……それを聞こうとしたんだけど、わたしが口を開こうとした時に「ゴゴゴ……」という地鳴りのような音と共に船が大きく揺れ始める。
倒れないように踏ん張っていると、さっきまでとは反対の方向の船の側面。その海面からフラウシュトラウトが水しぶきをあげながら現れた。
みんなが身構える中で、わたしの隣に来ていたミミちゃんがフラウシュトラウトを見たままマイスさんへとビシッと言い放った。
「マイス! あんた、無茶なことばっかり言ってるけど、何か考えがあってのことよね!? 信じてるわよ!」
「うん。ミミちゃんにもトトリちゃんにももう嫌われたくないから、ウソは言わないし、いつだって全力でやるよ! だから…………
……えっ? どう……いう…………こと?
「ちょっ、信じるとかそれ以前にもの凄く不安になるんだけど……やっぱり何するか教え……」
訳の分からないわたしと違い、ミミちゃんは目を細め、口のはしっこと眉をピクピクさせて「ギギギ……」とマイスさんのいる後ろを振り向いていって……
そこでフラウシュトラウトが大きく
「それじゃあ行くよ!」
そう言ったマイスさんがフラウシュトラウトの方へと走り出した。
凄い速さで近づいてくるマイスさんに、フラウシュトラウトがその鋭い目で狙いを定めた……ように見えた。
わずかに首を引いたフラウシュトラウト。そして、その勢いでフラウシュトラウトの頭部が……鋭い牙が見える口を開きながらマイスさんの進む先へと勢いよく伸びた。
けど、その時にはマイスさんは甲板上にはいない。走った勢いのまま飛び上がっていて、噛みついてくるフラウシュトラウトの上を通り越すような感じになっていた。
飛び上がったマイスさんはいつの間にか両手を頭の上に上げるようにして『
わたしは自分の目を疑う。というのも、ついさっきまでマイスさんが持っていたのは竜とかそう言ったモンスターの爪みたいな『
なのに……だ。今の飛び上がってるマイスさんは
あれ? でも、『剣』にしては持つところ……
けど、だからと言って、ミミちゃんの持っているような『槍』にも見えないし……?
いや、ううん…………瞬時に色々な考えをめぐらせてたけど、わたしはすでにそれがなんなのかわかってた。ただ、今のこの状況と噛み合わなくって、理解できてなかった……理解したくなかった。
そう、
噛みついてくるフラウシュトラウトの頭と、走った勢いのまま飛んでいっているマイスさんとがすれ違う瞬間、マイスさんの手元に集まっていた光がはじけたっ!
「てぇやぁああぁー!!」
振り上げていた
「「「「「『
マイスさんが振り下ろした
そして、わたしはある事を思い出した。
前にメルお姉ちゃんが話してくれた「『青の農村』の噂」の中に「戦闘訓練をうけていない農民が『クワ』で『グリフォン』を追い払った」という噂を。
あれ、信じてなかったんだけど……今だと「追い払った」んじゃなくて「倒した」んじゃないかなって思えてきた……。
「きゃぁ!?」
その衝撃、そしてフラウシュトラウトの体重がかかったことで船が揺れ傾く。倒れないように必死に踏ん張ったけど、つい尻餅をついてしまい、そこでフラウシュトラウトのほうが見えた。
船の
「マイスさん!?」と、心配から声をあげそうになった私よりも先に、そのマイスさんが大声をあげてきた。
「みんなー!!」
「……ったく! あたしとの試合の時みたいに何かやらかすとは思ったけど、これは予想外ね!」
メルお姉ちゃんが
「けど、この思い切り方は嫌いじゃないわね! そ! れ! に! こんくらい近づければ……
その込めた
メルお姉ちゃんの側面からの一撃の衝撃と、その痛みからかフラウシュトラウトの首が少し縮こまったことによって、さっきまでとは少しずれた位置で甲板よりも少し上の位置まで浮き上がったフラウシュトラウトの頭。
そして、そこにいたのは……。
「いいタイミングだねぇ。さてっと、コイツの本領発揮といきましょうか」
フラウシュトラウトの頭に向かって
気のせいか、その形が少し変わっていて、トゲの付いたグローブが外に飛び出していて、その根元には何か部品が折りたたまれているような……?
「ワン! ツー! フィニッーシュ!!」
フラウシュトラウトの鼻先目がけて背中の機械からグローブが飛び出し、引っこみ、もう一度飛び出し、引っ込んだ。そして最後には足を屈めていたマークさんが飛び上がるのと同時に、グローブもその根元のバネのようなものをめいいっぱい伸ばすほど空へと向かって飛び出した。その一撃は正確にフラウシュトラウトのアゴの先端あたりをとらえ、フラウシュトラウトの頭をかちあげた。
元々、メルお姉ちゃんの一撃で頭を揺らされていたこともあったのかもしれない。フラウシュトラウトはマークさんの攻撃で苦しそうなうめき声と共に、船の甲板の真上の範囲から外れるくらいにのけぞった。
「おっしゃあ! いくぜ!!」
そう元気の良い声が聞こえたかと思うと、わたしのすぐそばをすり抜けるようにしてジーノくんがフラウシュトラウトのほうへ向かって走り出していた。
「続くわ!」
わたしの隣にいたミミちゃんが、ジーノくんにわずかに遅れるようにして走り出す。
一直線にフラウシュトラウトへ向かって行ったジーノくんは、船の
「うぉぉおりゃぁあぁぁ!」
風切り音が聞こえてきそうな速さで横一線に振るわれたジーノ君の剣は、普段はなかなか見えない……のけぞっていたことで
「…………ハァ!!」
ジーノくんに続いて同じく船から飛び出したミミちゃんが、ねじった上半身、肩から腕、手首までもを一体として勢いよく槍をフラウシュトラウトへと突き出した。振り続けている雨の壁に穴を
ジーノくんとミミちゃんがフラウシュトラウトに大ダメージを与えた。それは喜ぶべきことだったんだけど、二人は勢いよく船を飛び出していってしまっていたため、甲板に戻ってくることは出来ず……ジーノくんは前のめりになって空中で前転し始めながら、ミミちゃんは槍を引き抜いた時の体勢の関係で後ろ向きに倒れ込みながら……波が荒れ狂っている海へと落ちていっていた。
「このままじゃ、さっきのマイスさんみたいに落ちちゃう!」と、いてもたってもいられず二人にむかって声をあげようとした……その時。マイスさんの時と同じく、落ちていく本人たちの声がわたしの言葉を止めた。
「「いっけぇー! トトリぃー!!」」
いつもと変わらない笑顔で、いつもと変わらないキリッとした綺麗な眼で、ジーノくんとミミちゃんがわたしに大声でそう言ってきた。
「何を?」という疑問は
ポーチから取り出したのは『N/A』という爆弾。爆発範囲は狭いけど材料を
その凄さは、わたしにこの爆弾のレシピが書いてある調合書を渡した時にロロナ先生が「変に調合に失敗したら、このアトリエごと吹っ飛んじゃうくらい爆発しちゃうの!」という一言もあったから間違い無い……はず。
その『N/A』を持った時点でわたしは助走をつけるため走り出してた。視線の先にはマイスさん、メルお姉ちゃん、マークさんに重い一撃を加えられたうえ、ジーノくんとミミちゃんによってひっくり返りそうなくらいのけぞったフラウシュトラウトの姿が。
そのフラウシュトラウトがいる位置は突き飛ばさるように押し出されたため、爆発範囲に船が巻き込まれないくらい離れておりながら、投げたものが確実に狙ったところに届く絶妙な距離。
狙うは、ジーノくんとミミちゃんによってつけられた喉元の真新しい傷。……そして、その向こうにわずかに見える、お母さんが付けたと思われる古傷。……それらがある頭部へむかって…………わたしは『N/A』を思いっきり投げた。
「えいやーっ!!」
『N/A』がフラウシュトラウトの頭に当たるか当たらないかというあたりで、「カチンッ」という音が聞こえたような気がした。
その一瞬後に『N/A』が轟音と共に周囲の雨粒を吹き飛ばし爆発した。その衝撃の範囲はフラウシュトラウトの頭をまるまる包み込むくらいものだった。
……けど、それで終わりじゃない。
たまらず鳴き声をあげるフラウシュトラウトに
そして、
これまでで最も大きい音と共に発生した爆発。その衝撃は喉元の傷から……それだけでなく古傷のほうからも血を噴き出させ、ただでさえ体勢の悪かったフラウシュトラウトを完全に海面と平行になってしまうくらいまで倒してしまった。
平行、とは言っても、フラウシュトラウトは空中にとどまることなんてできない。ひっくり返るように海面へ倒れ込んでいく。
大きな音と水しぶきと共に、フラウシュトラウトはついに海へとおちた。
心臓が耳元にあるのかと思うくらい心音が聞こえる中、落ち着けようとしたところで……これまでに何度か感じた揺れをまた感じた。
そう。頭を中心に様々な箇所に傷を負ったフラウシュトラウトが、再び海から顔を出したのだ。
「嘘……」とわたしが声をもらす……よりも先に、フラウシュトラウトがひときわ大きな咆哮をあげ……わたしたちのいる船とは反対の方向、大海原のほうへと方向展開してゆっくりと海へと沈んでいった。
――――――――――――
……気がつけば、空からは暗雲は消えていて、あれだけ降っていた雨もやんでいる。さらには、波も船の揺れもおさまっていて、まわりはフラウシュトラウトが現れる前の
「か、勝った……?」
「まあ、あれだけの傷を負わせたんだし、むこうから逃げたわけだから「勝ち」なんじゃないかしら?」
フラウシュトラウトが去っていった海を見ながら言ったわたしの呟きに、斧を肩でかついだメルお姉ちゃんがそう応えた。そして、わたしの肩を叩いてニッコリと笑った。
「やったわね、トトリ」
「やった……やったー! 勝ったんだ! わたしたち、フラウシュトラウトに! 勝った……あっ」
やっと実感がわいてきて、飛び上がるように喜んだ……んだけど、わたしはある事を思い出して動きをピタリと止める。
「そ、そうだ!? ミミちゃん! ジーノくん! マイスさん!」
そう、フラウシュトラウトに向かって飛び出して海に落ちた三人。
わたしは慌てて駆け出し、船の縁から身を乗り出すようにして海を覗きこみ……覗きこみ……覗き…………? 数回まばたきをして、目を
「
「あ、いえ、その……?」
今、船の上にいるメルお姉ちゃんとマークさんはわたしのことを「トトリちゃん」とは呼ばないし、それにこの声は確実にわたしの視線の先……海の方から聞こえてきてる。
それで、海のほうなんだけど……
海の上に
海の上に
ミミちゃんは……海に立つマイスさんに『お姫様抱っこ』されて顔を真っ赤にしてる。
その……これってどういうこと?
わたしがその疑問を口にするよりも先に、わたしの隣から……いつの間にかわたしと同じように海を覗きこんでいたマークさんが、マイスさんに問いかけた。
「それがキミが前に言ってた、海面を走る方法なのかい?」
「はい! 僕が
「いや、うん。いろいろと意味わかんないから」
マークさんがいるのとは反対のわたしの隣にきたメルお姉ちゃんが苦笑いまじりにそう言った。
わたしはといえば……よくよく見るとジーノくんの下にあるのがわかる大きな葉っぱに「そういえば、初めてマイスさんと行った冒険で教えて貰った『アクティブシード』の中に、そんな名前の奴があったっけ?」とうろ覚えの記憶を探っていた。
「まあ、海があれてたらバランスとるのに手一杯になっちゃうし、下手すると簡単にひっくり返るから戦いながら使うっていうのはできそうになかったんだよね」
「はあ……? わかったような、わからないような……? と、とりあえず、上がるための
そう言って、メルお姉ちゃんと一緒に縄梯子を取りに行ったんだけど……
「ちょ、ちょっと……! 早く降ろしなさいよ!」
「えっ? そんなこと言っても、ミミちゃんを海に降ろすわけにもいかないし……」
「そもそもなんで
「借りも何も、当たり前の事をやってるだけ……それに、ただ単にどっちが先に落ちてきたかってだけで……」
「いいから早く降ろしなさい! これ以上このままっていうなら、この際、泳いだっていいわ!」
「でも……あっ、そうだ!
「はぁ? 上がるってどうやって……何
……何か聞こえて気がするけど、気にしない方がいいの、かなぁ?
ミミちゃんはどうなったのか……?
それはほら、こう……ぽーい、って。