根本的な執筆時間の不足。そして、次から次へと湧き上がってくる他の妄想……まだ『トトリ』が終わっていないのに『メルル』でのイベントが思いつきだして書き留めたり、関係の無い『黄昏』やら『不思議』やらも書き留めたり……。
そんなこんなで書き終えた今回のお話。本当はもう少し内容が進む予定だったのですが……色々と予定通りにはいきませんでした。
『アランヤ村』から船で出発し、フラウシュトラウトを激戦を経て撃退した僕たちは、海峡を越え、数日間の航海の末に雪に
みんなで冒険に出るから、その間の船の安全を確保するために僕が少し残ってちょっとした作業をすることに。なので、みんなにはちょっと先に探索を始めておくようにお願いして、僕はひとりで作業をした。
「作業」なんて言ったけど、そう大したものじゃない。特別時間がかかるわけでもなく小一時間で終った。
それからみんなを追いかけた。幸い、雪が積もっていて足跡があってなおかつ今は雪は降っていないため、みんなの足取りをたどることはそう難しいことじゃない。そうして足取りを追っていると、こんな極寒の地でも群生している樹木があり『青の農村』の近くの林とはまた少し違った雰囲気があった。
……けど、そんな雰囲気を噛み締めて楽しむ暇なんて、僕には無かった。なぜなら、そのあたりに差し掛かったあたりで
その泣き声は遠く、わずかにしか聞こえなかったけど、それを聞き間違いなどと疑うことは一瞬たりともなかった。聞こえた瞬間、ついさっきまで歩きながら確認していた足跡にも目もくれず、泣き声が聞こえてくる方へと走る……。
林を抜けるあたりで見えてきたのは、『アーランドの街』の建物とも『青の農村』や『アランヤ村』の建物とも違った形式の建物群……この雪の大地にある村だった。そして泣き声が聞こえてきているのは、その村の
そして僕の目が
泣き声がしている場所の……雪に覆われた
そして、そのトトリちゃんを少し離れた場所から見守るようにして様子をうかがっているのは、メルヴィアたち。そのそばには見たことの無い子……おそらく、この村の人だろう女の子もいた。
その光景を見て、僕は動かしていた足を止めた。そこにいる誰かに話を聞かなくても
……これが、
―――――――――
***最果ての村***
僕は、地面に刺さっている意思の板……
僕と石碑との間の地面には、僕とは別の誰かが積もった雪に残した
石碑の前で泣き続けていたトトリちゃんだったけど、ある程度時間が経つにつれ段々とその泣き声は小さくなっていき、最終的には鼻をすする音くらいにまでおさまっていった。
そしてそのタイミングで、メルヴィアたちのそばにいた女の子がトトリちゃんのほうへと駆け寄っていき、トトリちゃんに何かを伝えた。話の内容は聞きとる事は出来なかったが、立ち上がったトトリちゃんは女の子に連れられて村の奥の方へと行ってしまった。
トトリちゃんと女の子が行ったところで、トトリちゃんが泣いていた事もあってなんとなく合流のタイミングを失った僕は、ようやくみんなのところに行くことができた。……僕がいたことは、トトリちゃんが泣いている途中には気がついていたみたい。
メルヴィアから聞いたんだけど、トトリちゃんはこの村のまとめ役の人のところに行ったらしい。なんでも、ギゼラさんのことについての話だとか。
そのことを知っていたのは、この一緒にいた女の子から聞いていたのか……もしくは、僕がくるよりも前に何かあったもしれない。
そんなことがあって僕らはとりあえず、まとめ役の人と話をしているトトリちゃんを待つこととなり、
僕が選んだのは、今いるここ。村はずれの石碑……おそらくお墓なのだろうものの前。雪の上に座っているため、お尻に少し冷たさを感じている
ジッと石碑を
「ギゼラさんのこと、聞きに行かなくていいの?」
不意にそんな言葉が後のほうから聞こえてきた。
声の感じから、それはミミちゃんだとわかり……なんとなく振り返る気にもなれず、石碑に目を向けたまま答えることとなった。
「行かない……っていうよりも、
「なんでよ」
「なんでかな、
「だから、行っちゃいけない気がするんだ」、そう続けた。僕は座ったまま、視線を石碑からその先の空へと移す。
見えるのは灰色の雲が広がる空。
「ギゼラさんなら、
「それって、どっちかというと「受け入れられてない」ってふうに思えるわよ。……その気持ちはわからなくも無いけど」
その言葉が聞こえた後、背後のほうから雪を踏みしめる音が近づいてきて……そして、僕から見て右隣のほうでその音が止まった。
「こういうのを受け入れられるかどうかっていうのは、時間がかかったりするものじゃない。別に焦ったりする必要は無いと思うけど」
「そう、かな……?」
「そうよ。私はそうだった、あの時……お母様が亡くなる時、そうだったもの。お母様がかけてくれる言葉はちゃんと聞こえたし憶えられた……けど、自分がそこにいないような感覚になって、なんだかよくわからなくなって……お母様が亡くなってからも、泣きはらしてからも、そんな感じだった」
「でもね」とミミちゃんは続けて言った。
「そこから立ち直るきっかけをくれたのは、アナタなのよ、マイス。アナタはあの時、私たちの周りの事をしてくれた。お母様が亡くなった後は、黙って家のことを全部して、私に考える時間をくれた。そして、私が
「あはは、そんなこともあったね。あの時は、エスティさんにお世話になったなぁ……」
「マイスのほうで何があったかは知らないけど……とにかく、今思えば嫌なくらい気を遣ってもらったわ。だからこそ気づけた。「このまま泣いてるわけにはいかない、他の人の模範になるような立派な『貴族』にならないと」って」
そう言ったミミちゃんは、しゃがみこみ、僕に並ぶようにして石碑を向いた。
「まっ、そう考えるようになったらなったで、何処かの誰かさんがそっくりそのまま大きな壁として私の前に立ちはだかっちゃって、また複雑な気持ちになっていったんだけど」
「ええっと……もしかして、それって僕のこと……なのかな?」
「もしかしてでも、なんでも無いわよ。と・に・か・く! 悲しんでもいいし、泣いたっていいけど……それでも、ずっと立ち止まっているわけにはいかない。マイスにだって目標とか、やるべきことがあるでしょ? ……なら、なおさらよ」
「私は、当然「立派な『貴族』になる」ことと……あと、今は「トトリをツェツィさんたちの所に無事送り届ける」ことかしら」と言って、ミミちゃんは話を
チラリと横目で隣にいるミミちゃんの様子を確認しようとしたところ、そのミミちゃんと目が合った。どうやらミミちゃんも僕を見てきていたようで、ちょうど視線が合わさってしまったようだ。……そして、その目は「
……目標、やるべきこと……そんなものが、僕にあるだろうか?
いや、そもそも今回の冒険だって「ギゼラさんが気にならない」と言えばウソになるけどトトリちゃんのお手伝いっていう側面が強くて、自分の中にあった目標とかそういうのじゃなかった気がする。
なんというか……でも、自分の意思が無かったとかそういうわけじゃなくって…………「しないといけない」とかそういう使命感でもなく、何か自分の中で大きな目標があってそのためにっていうわけでもなく……こう、
そう。思えば
「あっ。そういえば……うん、そうだった」
「どうしたのよ、いきなり?」
僕がついこぼしてしまっていた呟きに、ミミちゃんが少しだけ首をかしげて問いかけてきた。
「そういえば、
「初めて会った時のこと……そういえば、ギゼラさんが村でやった無茶苦茶なこととか冒険の武勇伝はマイスから聞いたことはあったけど、その話は聞いたこと無かったわ」
「ミミちゃんに会うより少し前のことだけど、面白くもない話だったからね。「
文化も色々と異なる土地……もっと言えば「世界」自体違うのだと考えられる『アーランド』。そこから『シアレンス』に帰るための最後の頼みの綱だった『魔法』。それでも帰れなかった僕が絶望した数日間。そして出会ったギゼラさん。
あの時、僕は色々と変わったんだと思う。
僕は大きな目標の代わりに、「自分できること・できそうなこと」に全力で取り組んでいくことにした。農業に、鍛冶、料理。そして誰かのお手伝い。……結局は僕がしてみたいことをしてばっかりになってたんだけど、でも僕がやってきたことの結果、気づけば村ができたり、お祭りが行われるようになったりと何かへと繋がった。
それらが僕自身や周りにどんな影響を与えたかとかはわからない……けど、確かなことはある。あの出来事が無かった場合の自分を想像することが出来ない……だから「これで良かったんじゃないかな?」と僕は思ってる。
「うん。とっても悲しいことは間違い無いけど……ギゼラさんの事を
僕は再び石碑を見て……心の中で一度頭を下げて、ゆっくりと立ち上がる。そして頭の上まで指を組んだ両手をあげて身体を伸ばし、「ふぅ」と息を吐きながら腕を降ろす。
そして考える。僕が今、この村ですることを……
「この村って食べ物ってどうしてるんだろう?
「へ? いや、確かにマイス
……あれ? なんでだろう? 何故かミミちゃんがひとりで頭を抱えだしてる。
そんなミミちゃんのことも気になったけど、すぐに復活したようだから心配はいらないだろう。
そう判断した僕は「それじゃあ、さっそく村の人たちに話を聞いてみるよ!」とミミちゃんに伝えて、人が良そうな村の中心の方へとむかって歩き出した。
――――――――――――
「まっ、ちょっとは元気になってくれたみたいだし、これで良かった、のよね? ……マイスにまでどうにかなられちゃったら、私だって困るもの」
歩いて行くマイスの背中を見つめながら立ち上がるミミが、ボソリと独り言をこぼす。
自分とは才能も理想も、持っているモノが根本的に違う存在……けど、まぎれもない憧れであり目標であるマイス。
そんな彼も一緒の長期の冒険。その中での日常や戦闘、そしてつい先程の出来事を間近で見て感じたものがミミの中でグルグルと回っていた。
「……私も、自分のこれからの事、考える時間が必要なのかもしれないわね」
そう言いながら自然と目がいったのは、少し前にトトリが連れていかれたこの村の代表の人の家。今、そこではトトリがギゼラの事を聞いているはずだ。
「トトリも……大丈夫かしら」
「それにしても……「帰る」って目標が無くなるってどういうことなのかしら? 事情が変わった? でもそれならもっと違う言い方をするような……?」
次回、やっとあの子が登場予定。今作ではどうなるのやら……。