マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 遅れてしまい、大変申し訳ありません!

 そう何度も延期するわけにもいきませんでしたので、合間合間の休憩を利用して執筆・投稿。今後、こんな事はないように頑張りたいと思っております。


4年目:マイス「帰りの旅路……?」

 

 

 石碑の前から移動した僕は、村の中へと進んで行き住んでる人たちから食べ物はどうしているのか等、どういった生活をしているのか聞いてまわった。

 

 そうして知ったことなんだけど、僕が予想していたように村の中に畑があって、そこでの栽培する作物を中心にして生活をしているらしい。

 ただ問題もあって、それも予想の範囲内だった。そう、たびたび降る雪によって作物が埋もれてしまうということ。育てている作物が寒さに強いものであってもそれには限度があるし、当然のことだけど成長の(さまた)げにもなる。さらに言うなら、雪を退()けるための「雪かき」は体力も時間も消費するし、下手をすれば作物を傷付けてしまいかねない作業だ。

 

 実際にその畑を見せてもらって改めて実感したけど、見ただけでやりがいがありそ……大変そうだとわかった。雪が降るのは毎日では無いとは思うけど、それでも大変な作業であることには変わりないだろう。

 

 

 そんな状況を見て、僕は「なんとかしてあげたい」と思ったんだけど、そのための方法が明確には浮かんでこなかった。

 

 一番楽なのは作物の上に雪が積もらないようにすることなんだけど……残念なことに、すぐにできるような方法を知らない。

 そもそも『シアレンス』では作物の上……というか畑には雪がほとんど積もらず、多少積もったとしても「()もれる」というほどになったことはなかったのだ。他の地面には積もっているのに、だ。

 そのため、僕が作物の上に雪が積もるのを経験したのは『アーランド』に来てから……年末年始の寒い時期の冬の日だ。そして、今現在は()()()()()()()()()。おそらくだけど、これには『ルーン』もしくはその集合体・精霊とされる『ルーニー』が関わっている……のかもしれない。それ以外に違いが思いつかなかったから、という凄く不確(ふたし)かな理由なんだけど……でも、ありえそうな気がする。

 

 

 

 そんなふうに、畑で村の人たちと話したりしながら色々と調べたり試したりしていたんだけど、そのうちトトリちゃんとミミちゃんが来た。

 

 トトリちゃんが言うには「帰る」とのこと。

 今回の冒険の目的はギゼラさんを探すことで、望んだ形ではなかったものの目的は達成されている。確かに長くこの場に留まる理由は無い。それに、トトリちゃんが言っていた「おねえちゃんとお父さんに早く教えてあげないと」というのは共感できる。……(つら)内容(こと)であっても、最期のことは知っておくべきだろう。

 

 そういうわけで、僕は最果ての村(この村)の畑の事に後ろ髪を引かれつつ、帰るための準備を始めた……。

 

 

 

――――――――――――

 

***海岸***

 

 

「まさか()めた日のうちに掘り返すことになるなんて……でも、放置するわけにもいかないからなぁ」

 

 そう言いながら僕が掘り返しているのは、泊めてある船の護衛のために埋めていた『プラントゴーレム』の種。

 埋めたまま一日経つと『プラントゴーレム』が生成されるのでこのままにしておくと、帰って誰もいなくなった上に船も無いところに『プラントゴーレム』が一体ポツンといる……そんな状況になってしまう。だから、活動させていた『アクティブシード』たちを回収するのと共に、『プラントゴーレム』の種も回収しているのだ。

 ……まぁ、『プラントゴーレム』になってから船に乗せて帰るのは色々大変だし、ある意味種の状態でよかったかもしれない。

 

 

 僕がそうしている間に、トトリちゃんはトトリちゃんのほうで出発の準備をしている。あとは、ジーノくんとマークさんが村の外に行っていて、その二人を連れ戻すためにメルヴィアが行っている……らしい。というのも、畑にいた僕の所にトトリちゃんとミミちゃんが来たあの前にすでにわかれていたそうで、それを僕が知ったのは、船を泊めている海岸に行くまでに話を聞いたから。

 つまり、二人の回収と僕の回収を手分けをしていたらしい。

 

 ……そういえば、ジーノくんとマークさんは「村の外」って言ってたけど、何処に行ってたんだろう?

 

 

 

「あら、やっぱりトトリたちの方が早かったみたいね」

 

 遠くからそんな声が聞こえたため、掘り返す作業を一旦中断して僕は顔を動かしてそちらを向けた。

 そこにいたのは、こちらへとむかって歩いてくるメルヴィアとジーノくん、そしてマークさんだった。むこうも僕が見てきたことに気がついたようで、メルヴィアが「よっ」といった感じに軽く手をあげてきた。

 

「マイスー? 何してんの……って、ああ。そういえば海岸(ここ)から離れる時に船(まも)るための何かをするって言ってたっけ? それに関係あるんでしょ?」

 

「うん、そうだよ。まさか一日足らずで戻ってきたから、用意しておいたものを回収してるんだ。そういうメルヴィアは何処まで行ってたの?」

 

「あたし? あたしは……ほら、あの村から柱みたいな長細い(とう)見えたでしょ? あそこまで行ってたの」

 

 メルヴィアにそう言われて、村の風景を思い出す。

 ……うん。確かにあった。近いと言えば近いかもしれないそこそこ離れた距離に、灰色の雲の天井に突き刺さるような高い塔があったのを思い出す。

 

 思い出した僕が何かを言う前に、メルヴィアに変わってマークさんが口を開いた。

 

「遠目で見た時から気になってね。実際にその足元まで行ってみたんだ。まっ、残念なことに扉がしっかりと閉ざされていて外回りしか調べられなかったんだけど……でも! あれはなかなかに興味深いものだったよ! アーランドにある遺跡とは様式が違ってね。もしかしたら用途が違うのかもしれない。そうなると塔の形状も考慮に入れると、個人的にはちょっと残念だけど機械には関係無い遺跡かもしれないね」

 

「オレは、トトリは村の中で安全そうだからってことで、一緒に行ってたんだ。まっ、モンスターは出てこなかったんだけどさ」

 

 マークさんに続いてジーノくんがそう言う。

 

「そんでもって、二人が出ていくのを見ていて行先を知ってたあたしが「帰る」って言いに行ったってわけ」

 

「なるほど、そういう事だったんだね」

 

 考えてみれば、二人が出ていったのはトトリちゃんがギゼラさんのことを聞きに代表さん……ピルカっていうおばあさんの家に行った後のことだろう。そう考えると、トトリちゃんはもちろん、トトリちゃんを見送ってから僕のそばに来ていたミミちゃんも、ジーノくんとマークさんが何処に行ったかは知りようが無かったはずだ。だからメルヴィアだけが知っていて彼女が行ったんだろう。

 

 

 

 何はともあれ、これで全員集まった。

 とは言っても……。

 

「それじゃあ、コッチの作業はもうちょっと時間がかかるから、先に船のほうに行ってトトリちゃんたちの手伝いをしてあげてくれない」

 

「うん、もちろんそうするわよ」

 

 メルヴィアに続いて、ジーノくんとマークさんも頷いた。

 

「わかったー! マイスも早く来いよー!」

 

「ふむ。なら、キミが船に乗った時には出発できるようにしておこうか」

 

 

 

 そう言った三人が船へとあがっていくのを見届けた僕は作業を再開する。

 

「よいしょっと…………ん?」

 

 ふと、積もった雪を踏みしめるような音が聞こえてきたような気がして、地面へ向けていた視線を上げた。

 見えたのは白銀の世界、そしてその中にまばらに生えている針葉樹たち。音の原因でありそうな人やモンスターの姿は見当たらない。

 

「気のせい……かな?」

 

 「まっ、いっか」と、僕は改めて作業を再開する。

 のんびりとやって皆を待たせたりするわけにもいかないから、なるべく手早く済ませないと。

 

 

 

 

――――――――――――

 

***海・船の上***

 

 

 あの後、『プラントゴーレム』の種を回収し終えた僕は船へと乗った。

 

 そこまでの移動の際にも、僕以外の足音が聞こえたような気がした。けど、振り向いてみても誰もいなかった。

 「もしかして……幽霊!?」なんて一瞬思ってしまったけど、よくよく考えると幽霊ってフワァって浮いて移動するから足音なんてしないことにすぐ気がついた。パメラさんっていう実例もあるから間違い無いはず。

 

 そんなことを考えながら、僕が一番最後なので船の乗り降りのためのハシゴを回収した……んだけど、その時も甲板を小走りするような足音が聞こえたような気がして振り返った。でも、やっぱり誰もいなかった。……うん、疲れてるのかな?

 

 

 

 そんなこともあったけど、無事船は『アランヤ村』へと出発した。

 

 ただ、気になることも()()()

 

 出発の号令の時元気に声をあげていたトトリちゃんだったけど、やっぱり元気が無さそうで、どこか無理矢理な空元気に思えたのだ。

 (いま)だ詳しいことは聞けていないけど、これまで必死に探し続けたお母さん(ギゼラさん)が亡くなっていたのだから当然のことだろう。それこそ僕なんかよりも大きなショックを受けているに違いない。

 

 トトリちゃんにかけるべき言葉も思いつかず、とりあえず方位磁針を片手に操舵輪(そうだりん)のそばにつき、波や風を見ながら進路を確保し続けた。

 

 

 

 けど、その航海の途中、僕の気がかりは()()()()()

 その理由は、ふと海風に(まぎ)れて聞こえてきた会話にあった。

 

 

「……えへへ、久しぶりに大泣きしちゃった。恥ずかしいな」

 

「恥ずかしくなんてないわよ。あんな時くらい、泣いても当り前じゃない……私だって泣いたんだから」

 

「ミミちゃんのお母さんも……もう?」

 

「ええ。あんたと違って、最期の時まで一緒だっただけマシ……いえ、()()だったんでしょうけど」

 

「そっか……」

 

「私、さ。小さい頃は体が凄く弱くて、いじめられっ子だったのよね」

 

「うそっ!?」

 

「なんで即座に否定するわけ?」

 

「ご、ごめん。だって今のミミちゃんからだと、全然想像できなくて……」

 

 甲板の中腹……そのあたりから聞こえてくる会話。その声からしてトトリちゃんとミミちゃん。僕のいるところからはちょうど見えない位置で確認は出来ないけど間違い無いだろう。

 

「それで、悪ガキどもにいじめられてよくお母様に泣きついてたの。それこそ数えきれないくらいに、ね」

 

「…………」

 

 

「いつだったかしら? ある日、泣いてる私にお母様が言ったのよ。「ミミちゃんは立派な『貴族』なんだから、いじめられたくらいで泣いちゃダメなのよ」って」

 

 そしてミミちゃんが続けて言ったのは、お母さんが教えたという『貴族』のことだった。「生まれた時から偉い人で、偉いから周りの誰もが尊敬するような立派な振る舞いをしないといけない」……といった内容だったらしい。

 

「ほんと小さかった私はあんまり理解できなくて……ちょっと迷った後、お母様が言ったのよ、「もし、今度泣きそうになったら、私はシュヴァルツラング家の娘なんだ! って思ってみなさい。力が湧いてきて、きっと我慢できるから」って」

 

 ……『貴族』の話も含めて、どこか受け取り方によっては『貴族』であることを鼻にかけているようにも思える内容だけど、僕はそうじゃないって事がすぐにわかった。ミミちゃんのお母さんのひととなりを知っているから、きっと何かミミちゃんに伝えたかった……伝えたかったけど伝えきれなかったことがあるんだろうと。……もちろん、今となってはどういう意図だったのかなんて聞くことはできないけど。

 そしてこの話が、僕がミミちゃんと出会う前の話だという事も推測できた。というのも、僕があった頃、泣き出しそうになった時やことあるごとに『シュヴァルツラング家』であることを意識したような発言をミミちゃんがしていたのを憶えているからだ。

 

「そんな私でも、さすがにお母様が亡くなった時は泣いちゃった、ってお話」

 

「……そっか。だからミミちゃん、いっつも家のこと……」

 

「さすがにね、『貴族』じゃなくても凄い人がいるっていうのを間近で見てきたし、この歳にもなれば『貴族』の名前なんて大した意味のないものだってわかってる。けど、それを認めたら、お母様がウソをついてたみたいになっちゃうじゃない。だから私は、シュヴァルツラング家の名前を聞けば、誰もが憧れるような人になりたいって……」

 

 

 初めて聞くミミちゃんの言葉。

 これまで小さかった頃も近くで見てきて知っていたつもりだったし、このあいだ仲直りした時に色々と話したからミミちゃんの事を知った気でいたけど……本当は何も知らなかったんだなぁ……。

 ミミちゃんが度々(たびたび)口にしていた『貴族』という言葉。『シアレンス』にいたころからずーっと関係も無く関心も薄かった言葉だけど、ミミちゃんにとっては本当に本当に大事なものなんだと初めて理解することができた。

 

 

 

「……ありがとね、ミミちゃん」

 

「別にお礼なんていらないわよ」

 

「だって元気付けてくれたんでしょ? わたしのこと」

 

「勝手にそう思ってなさい」

 

 心なしか元気が出てきたように聞き取れる声色になってきたトトリちゃん。それに対しピシッと言い放つミミちゃん。

 

 

「…………う……あああああ……」

 

 ん? なんだろう?

 声からしてミミちゃんっぽいんだけど……何かあったのかな?

 

 そう思ったのとほぼ同時に、僕と同じ考えを持ったのだろうトトリちゃんの声も聞こえてきた。

 

「あれ? どうしたの? 急に……」

 

「なんでこんな話しちゃったのかしら……!? 自分で話しといてなんだけど、無茶苦茶恥ずかしくなってきたわ……!」

 

「ええ? あっ、すごい。ミミちゃん顔真っ赤」

 

「く、くううぅ~! わ、忘れなさい! 今すぐ記憶から消去しなさい!!」

 

「む、無理だよ。ばっちりおぼえちゃったもん!」

 

「普段は忘れっぽいくせに、こういう時だけ……! いい!? 絶対に誰にも言っちゃダメだからね! 言ったら……ぜ、絶交なんだから!!」

 

「誰にも言わないよ。ミミちゃんが私だけに話してくれたんだもんね」

 

「だから、そういうことを……ああ! もういい!」

 

「あはは……なんか、今日のミミちゃん、かわいい」

 

「普段はかわいくないみたいな言い方ね。……ま、笑えるくらい元気が出たなら、話した甲斐(かい)はあったかしらね」

 

「……ありがとう。ミミちゃんが一緒で、本当良かった」

 

「あんたみたい危なかっしい子を一人になんてしておけないもの」

 

 

 ……ええっと……なんだか大変申し訳ない気分というか、何と言うか……。

 その、僕も聞いてしまってるんだけど……うん、そうだ。僕が聞いてないふりをしておけばいいだけだよね? そうすれば問題無い……はず。

 

 

「そ、それよりも、進路は大丈夫なの? 変なとこ進んでたら一生帰れないわよ!?」

 

「……ミミちゃん、また顔真っ赤になってるよ? もしかして、今度のは照れ隠し?」

 

「ち、違うわよっ!? そうじゃなくて進路よ! 進路!!」

 

「大丈夫。今はマイスさんが見てくれてるから心配いらないよー」

 

「くっ!? なんでこういう時に限ってマイスが当番なのよー! 空気を読みなさい!!」

 

 いや、ミミちゃん。当番制で交代交代(こうたいごうたい)なのに「空気を読む」なんて言われても一体どうしろって言うのかな?

 ……そう心の中でツッコみつつも、トトリちゃんが元気が出たことに、僕はとりあえず安堵した。

 

 

 

 

「あっ……」

 

 ……? 今度はトトリちゃんの声みたいだけど、どうしたんだろう?

 

 気にはなったものの、何故か話し声がこれまでよりもトーンダウンしているようで、しっかりと聞き取る事が出来ず、何を話しているのかわからなかった。

 

 

 少しの間、聞こえないかと耳をかたむけ続けてみたけど、聞き取れそうにも無かったので「まあ、いっか」と諦めかけたその時……僕のいる方へと二人分の足音が近づいてきているのがわかった。方向からして、トトリちゃんとミミちゃんで間違い無いだろう。何かあったのかな?

 

 そんなことを考えているうちに、二人がヒョッコリと顔を出してきた。

 

「あのー……マイスさん」

 

「トトリちゃん? どうかしたの?」

 

 もしかして、偶然だけど盗み聞きをしてしまっていたことに気づかれたのかな……?

 そう思っていた僕をよそに、何故かトトリちゃんは申し訳なさそうな顔をしている。

 

「その、実は……『トラベルゲート』持ってるの、忘れてました」

 

「『トラベルゲート』? それって確か……」

 

 理論上、言った事のある場所なら一瞬で移動出来てしまうという『錬金術』のアイテムだったはずだ。でも、それがどうしたんだろう……?

 つい首をかしげてしまった僕に、トトリちゃんの隣にいたミミちゃんがコメカミに手を当てて、ため息を吐いた。

 

「それが、()()()移動したりもできるらしいのよ……信じられないことにね」

 

「えっ」

 

「少し演算方法とか座標のこととかもありますけど……アトリエから座標を少しずらして、港から少し出たあたりの海に座標を合わせれば問題無いはずです」

 

 そう言ったトトリちゃんに、僕はおそるおそる問いかける。

 

「船だけが飛んでいって、僕らが海の上に取り残されるって可能性は……?」

 

「無いと思います……たぶん」

 

 たぶんって、凄く心配なんですけど……?

 

 

 

 でも、使えるなら使うに越したことはないだろう。

 ……というわけで、トトリちゃんたちにこの場にいない三人にその話をしに行かせ、僕はとりあえずすることもないため戻ってくるのを待った。

 

 数分後、船内からトトリちゃんが他の皆を連れて甲板に出てきた。

 ジーノくんはよくわかっていない様子だったけど、メルヴィアはケラケラと笑い、そしてマークさんは「はぁ。前回に続いて今回の件……本当に錬金術士は頭がいいのか悪いのかわからないよ」と呟きながら首を振ってた。

 

 

「え、えっと……それじゃあ『トラベルゲート』を使いますね。えーいっ!」

 

 

 

――――――――――――

 

***アランヤ村・埠頭***

 

 

 僕らの視界を光が包んだかと思うと、数秒後にその光が引いた。

 そして見えた景色は、見覚えのある港だった。どうやら無事『アランヤ村』へ帰り着いたらしい。

 

 

「ふぅ、本当に船ごと移動出来たのね」

 

 やっぱり、どこか不安があったのだろう。安心したように息をついていたのはミミちゃんだった。

 マークさんはマークさんで、アゴに手を当てて興味深そうにしている。

 

「はあ、やっぱり不可思議(ふかしぎ)なものだね。……で? 元々あった船の上に移動していたりしないのかい?」

 

「そ、そんなことないですよっ! 怖いこと言わないでください!」

 

 そう言って否定するトトリちゃん。

 ……でも、見えない場所に移動するわけだからそういう事故も起きたりしそうではある。何か予防策はあったりするのかな?

 

 

 慌ててる様子のトトリちゃんを見て笑っていたメルヴィアが「さて」と口を開く。

 

「まあまあ、とりあえず手早く船を港につけちゃいましょ」

 

「あっ、うん、そうだね! 早く帰っておねえちゃんとお父さんに、お母さんのこと教えてあげないと!」

 

「港に船をつけたら、トトリちゃんは早く家に帰ってあげたらいいよ。船の荷物の整理とかはこっちでやっとくからさ」

 

 僕がそう言うと、トトリちゃんは少し迷った後「……ありがとうございます」と軽く頭を下げてきた。

 

 

 

 

 ……そして、ほどなくして船は港へついた。

 トトリちゃんは「それじゃあ、よろしくお願いします」と行ってから家へと走っていった。

 

「さて。片付けよっか」

 

「おう! 俺も手伝うぜ!」

 

「私も手伝ってあげるから、さっさと終わらせましょう」

 

 僕の言葉にジーノくんとミミちゃんが元気よく返事をした。同じく、メルヴィアもやる気はあるようで軽く腕をまわしている。

 あと、マークさんなんだけど……。

 

「僕としてはこの船の製作者と話をしてみたいんだけど……お嬢さんが話しに行ったわけだし、数日間()を開ける必要がありそうだ。まっ、片付けついでに改めて船の細部を見て周るとしようかな」

 

 一応、手伝ってはくれるみたい。

 

 

 

 ……っと、さっそく始めるとしますか。

 

 

「わあ……! さっきまで海ばっかりだったのに、見たこと無いおうちがたくさん! ちっちゃなお船もいっぱい! ねぇねぇマイス、ここが()()()()()()()ってとこ?」

 

「違うよー? ここは『アランヤ村』。『青の農村』はずっと内陸のほうだよ」

 

「へぇ。ここがアランヤ村なんだー」

 

「そうそう。トトリちゃんの家とかがここにあるんだよー……あれ?」

 

 甲板にあった『たる』を移動させようとしていたんだけど、ふと誰と話しているのか疑問に思った。

 今、甲板にはみんないるけど、その誰とも声の感じが違う気がする。でも、最近聞いたことがある声ではあるんだけど……。

 

 そう思い自然と声のした方を向いてみると、そこには『アランヤ村』や『アーランドの街』で見かける服装とはまた違った様式の服と装飾を身に(まと)った緑色の髪をした女の子だった。背は低く、おそらくは十歳ちょっとくらいだと思われる。

 その女の子は、つま先立ちをしながら船の(へり)から『アランヤ村』を(なが)めて「うわー!」とか感嘆の声をあげている。

 

 そして、よくよく周囲を見てみると、僕以外の皆もその女の子に目をとめピタリと固まっているようだった。

 

 

 さっきの声といい、女の子の見た目といい、どこかで……いや、つい最近見たような……? それに、今さっき僕の名前や『青の農村』って言ってたから会ったことがあるのは間違い無いと思うんだけど……。

 

 

「あっ、えっと確か……ピアニャちゃん、だっけ?」

 

「……? うん、ピアニャだよ?」

 

 僕の声に振り返った女の子は不思議そうにコテンと首をかしげた。

 

 思い出した! 最近も最近……『最果ての村(あの村)』で会った女の子!

 石碑の前で泣いていたトトリちゃんが泣き止んだ後に、トトリちゃんをピルカおばあさんの家へと案内した女の子で……その後、僕があの村の畑で土いじりをしていた時にも来て「何してるの?」って話しかけてきた子だ!

 その時、畑のことの延長で『青の農村』の事を話したりしたから、僕の名前も『青の農村』のことも知っているわけだ。

 

「マイスー、あそこ地面に葉っぱがいっぱい! 白くないよ!」

 

「ああそっか、あっちは雪が積もってるからね。こっちは雪が積もってる方が珍しいけど、逆にむこうは草が()(しげ)ってるのが珍しいよね」

 

 

 「なるほどなー」なんて思いながら笑っていたんだけど、そんな僕の肩にポンッと誰かの手が乗った。振り返って見ると、ジトーっと僕を睨みつけてるミミちゃんがいた。

 

「ちょっと……何和気藹々(わきあいあい)と話してるのよ! 誰よあの子!」

 

「えっ? 誰ってピアニャちゃん。ほら、あの村にいた子だよ」

 

「あの村って……」

 

「ああ、確かにこんな子いたような気もするわね。……で? なんでこの船に乗ってるのかしら?」

 

 驚いたような顔をしたミミちゃん。そしてメルヴィアが思い当たることがあったように頷いて……そして僕に疑問を投げかけてきた。

 

「なんでって、それは…………なんで?」

 

 考えてみたけどその理由が思いつかなかった僕は、その疑問をそのままピアニャちゃんの方へと流した。

 よくよく考えてみればそうだ。『最果ての村(あそこ)』にいた子がなんでここに?

 

 

 ピアニャちゃんはキョトンとしていたけど…………ハッっとしたかと思うと、右手の人差し指だけを立てて口元に当て、目をギュっと(つむ)って……

 

 

「しぃーっ!」

 

 

「いや、それはさすがに無理じゃないかな?」

 

 冷静にツッコミながらも困ったようにモジャモジャした髪をかくマークさん。

 

 

「えっと……とりあえず、トトリのところに連れてくか?」

 

 何が何だかわかっていなさそうなジーノくんがそう言ったけど……本当、どうしたらいいんだろう?

 


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