書くべき事、書きたい事はあるのに、それをまとめるのが上手くいかない今日この頃。
……そして、今回は修行中のジーノ君はちょっと置いておいて、別の話になっています。
***冒険者ギルド***
ああ、イライラする。いえ、イライラとはちょっと違うかしら?
ソワソワというかモヤモヤというか……とにかく、あんまり良い気分じゃない。
私がそうなってしまっている原因は、自分でも大体わかってるんだけど……
「み、ミミ様ー……?」
「なに」
「ぴぃ!? こここ、これ、今回の依頼の報酬ですぅ!!」
……にしても、「様」付けが基本になってきてる気が……なんでかしら?
「あ、あのー……もしかして、怒ってます?」
「別に怒ってなんかないわよっ!」
「ふぇえ……やっぱり無茶苦茶機嫌悪い~!」
「と・に・か・く! あんたには関係無いから黙りなさい!」
弱々しい声で泣きわめき始めそうになっている受付嬢を叱りつけ、これ以上ここにいると余計にイライラしてきそうなので、早々にこの場を後にすることにした……。
――――――――――――
***アーランドの街・広場***
『冒険者ギルド』を出た私は、ある目的のため『アーランドの街』の中央あたりにある広場に来ていた。
その広場の中心にある噴水のそばのベンチに腰掛けて、私は「ふぅ」と息をついた。
「……まあ、あてもなく来たところで会えるとは思ってなかったわ」
「誰が」かというと、この広場など人通りの多い場所で人形劇をおこなう旅芸人のリオネラさんだ。「旅芸人」とは言っても、最近はもっぱら『アーランドの街』や『青の農村』を中心に活動しているみたいだけど……。
でも、いつ、どこでやるかわからない人形劇を目印にしてリオネラさんを探すというのも、普通に考えれば無理な話だった。もしかしたら、街じゃなくて『青の農村』にいるのかもしれないし、そもそも毎日人形劇をしているとも限らないわけで……そこは、一回でどれだけの収入を得られるかっていうことが関係してきそう……だけど、今回はそんなことを知りたいわけじゃない。
「リオネラさんなら、
詳しくは知らないけどリオネラさんは、マイスとかなり親しい間柄だということがわかっている。なにしろ、マイスの家に頻繁に泊まっていたのだから……というか、一時期は同棲に近い状態だったみたい。
まぁ、私はマイスの性格とかお人好し加減を知ってるからわかるが、マイスのほうからしてみれば本当にただ単に泊まらせてあげてるってだけで、二人の間に深い意味はなさそうなんだけど。
けど、どうしたものだろう?
このままリオネラさんが来ないか待ってみるか、それとも今日は素直に諦めてまた後日探してみるか……。
以前にあったある一件でいくぶん話しやすい相手になったリオネラさんではなく、別の人で
「あーっ! ミミちゃんだー!」
「ひゃっ……って、ロロナさん?」
唐突にかけられた声に驚き、色々考えててうつむき気味になっていた顔を上げると、そこにはトトリの錬金術の先生でありアーランドの発展に大きく貢献したとされる錬金術士ロロライナ・フリクセル……通称ロロナさんがいた。これまでにアトリエで会ったり、トトリとの冒険で一緒になったりと、これまでにも付き合い自体はあった人だ。
ベンチに座ってる私の前まで来たロロナさんは、ちっちゃな子が見せるような柔らかな笑みを浮かべながら私に話しかけてくる。
「奇遇だねー。わたしはなんとなくお散歩したい気分だったから街をウロウロしてたんだけど、ミミちゃんは?」
「え、あっはい、私は冒険中に達成した依頼を報告した帰りで……それで、ここでちょっと休憩してました」
「そっか、お仕事頑張ってきたんだね。いいよねー、一仕事終わらせた後のひなたぼっこは格別で……ベンチもいいけど、オススメは『青の農村』でモフモフした子に抱きついてしばふに寝転んじゃうことかな」
「あっ、夏はぷに系がいいよ」と付け足して言うロロナさんに、「ひなたぼっこではない」と言おうかと思いつつもなんとなく相槌を打つ。すると、何故だかよくはわからないけど、ロロナさんは楽しそうに体を揺らし始めた。
「それでそのまま寝ちゃってもいいんだけど、面白い形の雲を探してみたりしても楽しいんだよ。例えば、『シーフードパイ』の形とかー……」
……きっとこの人は、小さい頃から変わらずこんなホワホワした感じだったんだろうという気しかしない。あっ、よだれが少し垂れてる。
この人が、あの稀代の錬金術士様だというのだから世の中わからないものだ。……そんなことを言ったら、マイスも大概か。
「う~、パイのこと考えてたら、なんだか食べたくなってきちゃった! 今からアトリエに帰って
「えっ、ええっと……」
トトリはまた『アランヤ村』に帰っているからいないだろう。けど、よくよく考えてみると……もしかしたら、ロロナさんも
そうなると、このお誘いは良い機会なんじゃないかしら?
「それじゃあ……お邪魔させてもらいます」
「うんうん! それじゃっしゅっぱーつ!」
――――――――――――
***ロロナのアトリエ***
「ふんふん、ふふふーん。そぉれ! ぐーるぐーる」
軽快……というか愉快な掛け声と共に錬金釜をかき混ぜるロロナさん。
色々とあってなりゆきで錬金術を習った私から見ても、謎の掛け声は必要なのかわからずなんとも不思議に思えてしまう。同じ『錬金術』なはずなのに、私がするものとは別物のように感じているのはどうしてだろう。
私はというと、錬金釜をかき混ぜて『パイ』を作っているロロナさんの後ろ姿をソファに座って眺めていた。
……この光景に何の疑問も違和感も覚えなくなってきたあたり、私ももうずいぶん毒されているのかもしれない。
「ねぇ、ミミちゃん」
不意に、こっちに背を向けたままのロロナさんから呼ばれた。
ロロナさんの手は相変わらず杖を持っていて釜の中をかき混ぜ続けていたため、聞き間違いか何かかと思ったんだけど、そう間をおかずにまたロロナさんの声が聞こえてきた。
「もし間違ってたらゴメンなんだけど……もしかして、何か悩んでたりする?」
「えっ」
「なんとなくなんだけど広場で見かけた時、目と目の間がキューってなってたから何かあったのかなーって」
目と目の間がキューって……つまりは、眉間に皺が寄っていたという事なんだと思う。けど、私、そんなふうになってたのかしら?
見抜かれ、指摘されてしまったのはあまり気分の良いものではなかった。けど、
「えっと、実は悩み事ってほどじゃないんですけど、気になってることがあって」
「気になってる? なあに?」
「マイスが前にいたところのことなんですけど……」
そう。私がずっと気になっていたことは、マイスが前にいたという『シアレンス』のことだ。正確に言えば本当は少し違うのだけど、おおよそはそのとおりだ。
これまでに何度かマイス本人に聞こうとし、出鼻をくじかれたり、他の人の乱入があって結局聞けずじまいになってしまっている。
それを聞いたロロナさんは、何を思ったかはわからないけど「うーん……」と首をかしげて小さくうなりだしてしまっていた。
……混ぜるスピードがこころなしか速くなってるんだけど、大丈夫かしら?
「マイス君が前いたところって確か、し、し、し……しーくわーさー?」
「……『シアレンス』です」
「そう! それ! ……って、あれ? ミミちゃん知ってたの?」
「それは、まあ」
かき混ぜつつも振り向いてきてキョトンとしているロロナさんを見て「もしかして、名前しか知らない?」という一抹の不安を感じつつも、とりあえず他の情報が無いかロロナさんの目を見て次の言葉を待ってみる。
「となると……あとは何も知らないかなぁ。あはははっ……」
知らなかった。名前も曖昧だったことも含めると、私の人選が悪かったと思うしかないのかもしれない。
「師匠を探しに旅をしてまわってた時に、その『シアレンス』のことも聞いてまわってみたんだけど、最初に
ちょっと失礼だけどちゃんと調べようとしていたことに驚きつつ、また行き詰ってしまったことに肩を落とす。
ロロナさんもマイスとは仲が良さそうだったから何か知っているんじゃないかって思ったんだけど……。
「そういえば、ミミちゃんはどうして『シアレンス』のこと気になってるの?」
当然と言えば当然の疑問が、ロロナさんの口から出てきた。
「実は……」
ここまで来たら隠すことでも無いので、事の顛末をロロナさんに説明した。
トトリのお母さんを探す旅で、たどり着いた場所でマイスの口から聞いた言葉を。その後、マイスから直接聞こうとした時に、マイスが喋ろうとしない
それを聞いたロロナさんは大きく首をかしげてしまい、釜をかき混ぜている手も完全に止まってしまっていた。
……最終段階に入っているのであればある程度は放置していても問題無いとは思うんだけど……爆発、しないわよね?
「なるほど……『シアレンス』に帰れない理由かぁ。それは聞いても話してくれなかったんだね?」
「はい。結局トトリたちが来てうやむやになったんですけど……」
「そっかー、わたしは初めて聞いたよ……。そういえば、会ってちょっとしたころからマイス君は全然『シアレンス』のことを調べたりしてる感じはなかったけど、それも関係したりするのかな? うーん、よくわかんないや」
そう言って腕を組んで悩みだすロロナさん。
当然私も、ずっと前から悩んでいる。
何故『シアレンス』に帰れないのか。そこからアーランドに来たはずなのだから、帰る事だってできないほうがおかしいと思う。
そして、何故『シアレンス』に帰れない理由を私やロロナさんにも言わないのか。理由を聞けば絶対納得できるとは言えないかもしれないけど、少なくともこんなモヤモヤした気持ちにはならずに済んだはずだ。
「うーん……イクセくんなら何か知ってるかな?」
「イクセくん?」
聞いたことの無い名前……いや、トトリに連れられて行った『
数軒隣の店だし、知り合いなのかもしれない。
私の言葉をどう受け取ったのかはわからないけど、ロロナさんは「あっ、えっとね」と私に何か説明するように話し出した。
「私が『シアレンス』のことを聞いたのって、マイス君からじゃなくて、エスティさんとイクセくんからだったの。エスティさんは今は街にいないけど、イクセくんならもっと何か知ってるんじゃないかなーって思って」
ロロナさんがそう言ったところで、まるでタイミングを計ったように錬金釜から「ぽんっ」と音が立った。どうやら調合は無事成功したようだ。
「それじゃあせっかくだから、さっそくイクセくんのところに行ってみよっか!」
「え、でもお店は営業時間で邪魔になるんじゃ……」
「大丈夫、大丈夫。今はそんなお客さんが多い時間じゃないし、多めに作った『パイ』をお土産に持ってくから!」
そう言って、つい今さっき出来たばかりのパイをかかげるロロナさん。紫色のクリームや上に乗っているモノからして『ベリーパイ』だろう。
でも、それって……
「飲食店に飲食物を持ちこんでも良かったかしら……?」
不安を感じつつも「それじゃ、いこー!」とやる気満々のロロナさんを止めることはできそうになかったため、仕方なく大人しくついて行くことにした……。
――――――――――――
***サンライズ食堂***
「こんにちはー! イクセくん、いるー?」
「友達ん家に遊びにでも来てんのかよ、お前は」
「えっ?」
「おいおい……今はちょうど客がいないけど、ここは店だぞ?」
ため息を吐いているイクセルさんからは、諦めているような様子が感じられ、おそらくはこう言ったやり取りは初めてではないんだとわかる。
「あっ、これ『ベリーパイ』! 出来立てだからイクセくんも一緒に食べよう」
「当り前のように誘うなよ。つーか、食いもんならウチで買ってけ」
「飲み物は頼むからね? ねっ?」
ロロナさんのお願いに、イクセルさんは呆れ顔を見せつつもカウンター席を指し示した。
「『香茶』用意すっから、まぁ座って待ってろ」
「はーい! ミミちゃんもこっちこっち」
「は、はぁ」
トコトコとカウンター席に駆け寄ったロロナさんが、振り向いて隣の席をポンポンと叩き私に勧めてきた。……二人のノリについていけず置いてけぼりをくらった感覚だけど、いまさら帰るわけにもいかず勧められるがままにロロナさんの隣の席に座ることに……。
「あの……ロロナさんはこの人とどういった関係なんですか?」
「イクセくんと? 幼馴染だよ。私とくーちゃんとイクセくん、ちっちゃいころからよく一緒に遊んでたりしてたんだー」
それを聞いて納得した。だからあんなノリの会話を普通に慣れた様子でしていたのか、と。
……いや、ロロナさんは大体誰とでもあんな感じか。
そんなふうにロロナさんと話しているうちに、イクセルさんが『香茶』を用意し終えたようで、私たちの前に持ってきた。それに合わせる様にしてロロナさんが私とロロナさん自身、そしてカウンター向こうのイクセルさんのほうへと、切り分けた『ベリーパイ』を配った。
「それじゃー、いっただきまーす!」
「……いただきます」
「おう。んじゃ、俺も休憩がてらちょっと食うとしますか」
私たちは各々自分の分の『ベリーパイ』を一口食べた。
いつだったか、トトリが「先生は錬金術でパイを作るのが上手なんだよ」とか言ってた通り、そして、これまでにもたまたまお邪魔した時にいただいた『パイ』たちと同じく、『ベリーパイ』はとても美味しかった。お店で出てもおかしくないくらい……というより、お店よりも美味しいのだから自然と二口目にいってしまう。
「んで、珍しい組み合わせに思えるんだが……今日はどうかしたのか?」
はっ!? 『ベリーパイ』に夢中になり過ぎて、ここに来た本来の目的を忘れるところだったわ!?
何か付いてしまっていないか気になる口元をハンカチで拭いつつ、姿勢を正し顔を上げる。
見えたのは、興味深そうに……というよりは、単純に意外で少し驚いているといった様子のイクセルさん。おそらくは、ここにあともう一人……トトリあたりがいれば何の違和感もなかったことだろう。
「ふひゅあへ、ひょほは……」
「口の中のもの、飲み込んでから喋ってくれよ。さすがに何言ってるかわかんねえから」
口元を両手で隠しながらモゴモゴ喋ろうとするロロナさんと、それを止めるイクセルさん。
ロロナさんは一度頷くと、そのままモグモグして「……ごっきゅん」と喉を鳴らしたかたかと思うと、口を隠していた両手をそのまま頬に当てて満足そうな笑みを浮かべた。
「えへへ~……はっ!? え、ええっとね、今日はマイス君のいた『シアレンス』のことでちょっとあって……」
「ああ、あの事か。何かわかったのか?」
「わかったっていうか……わからないことが増えたっていうか……」
「あっ、それについては私から……」
二人の会話に割り込む形で私が声をあげる。……この話を持ってきたのは私なのだから、事の経緯は自分でちゃんと説明したかった。
アトリエでロロナさんに話したことと同じ事を、イクセルさんに説明した。すると、イクセルさんは納得したように大きく頷いた。
「なるほどな。そういう流れでウチにも来たってわけか」
「はい。それで……何か知ってたりしませんか?」
そう問いかけたのだけど、残念ながらイクセルさんも何もわからないようで、ゆっくりと首を振ってきた。
「いや、今初めて聞いた話だ。そもそも『シアレンス』のこと自体、マイスやエスティさんから最初に聞いたこと以外、わからないままだしよ。料理とか食文化のことなら結構詳しく聞いてるんだけどなぁ……」
「そっか……イクセくんも私と同じ感じだったんだね」
「そうなると、マイス以外で知ってそうなのって、その……エスティさん、って人だけですか?」
けど、エスティさんという人は今は街にいないとかロロナさんが言ってた。となると、後はやっぱりリオネラさんあたりなのだろうか?
「妹のフィリーが何か知ってるとは思い辛いし……待てよ?
……と、私も知ってる名前を出して悩んでいたイクセルさんが、不意に動きを止めた。なにやら心当たりがあるみたい。
「えっ、イクセくん、アイツって誰?」
「クーデリアだよ、クーデリア! アイツ、前に俺も知らねぇマイスのことを言っててさ。だから、もしかしたら何か知ってるんじゃないかって思ってさ」
「げっ」
つい口に出てしまったけど、私にとって嫌な奴の名前が出て来てしまった。
……正直なところ、私だけで考えた時もリオネラさんと同じくらい知ってる可能性はありそうだとは思ってた。けど、個人的に嫌いだったから話を聞いてみる相手から真っ先に除外しておいた。……だというのに、ここで名前が出てくるなんて……。
「ねーねーイクセくん。くーちゃんが言ってたマイス君のことって何?」
「ああ、結構前の話なんだがな……二人がウチに飲みに来てた時に酔払ってていつもの身長自虐ネタで絡み辛い空気を作ってた時に言ってたんだよ」
当時の様子を思い出しながら、語り始めたイクセルさん。
身長自虐ネタって……まあ、確かに
「確か、「マイスが小さいのは親の影響だ」とかそんな感じに言ってたんだ」
見たことの無い、酔っ払ったマイスの姿を想像していたのだけど、そんなことがどうでも良くなる情報が私の耳に入った。
「ちょっと待ちなさい! この前、マイス本人に聞いたら「記憶喪失で、親のことはほとんど憶えてない」って言ってたわよ!?」
驚きから、普段の口調に戻ってしまっていたことに途中で気付きつつも、そのままイクセルさんに疑問を投げかけた。対するイクセルさんは、私の言葉に特に驚いた様子も無く「あー、となると……」と、腕を組んで考え込むような姿勢を取った。
「クーデリアはマイスから聞いただけって言ってたんだが……その辺りはマイスの記憶喪失がちょいと特殊な状態なのが関係してるんじゃないか? 一回キレイサッパリ無くなった後、部分部分をちょくちょく思い出してる「虫食い状態」って最初の頃聞いたぞ?」
「……つまり、マイスの親に関する記憶は大半が欠けてるけど、身長のことは思い出してたっていいたいの?」
「じゃないか? アイツがウソ言うとは思えないし……まあ、なんでそのことをクーデリアが知ってたのかは知らねえけどさ」
まあ、それならまだ筋は通るとは思う。納得はできないけど。
だってそうでしょ?
「あー……けど、そう考えるとな……「『シアレンス』に帰れない理由」かぁ……」
「……? イクセくん、どうかした?」
うなるイクセルさんを不思議がったロロナさんが、少しカウンターに身を乗り出しながらその様子をうかがった。
「いや。普段、自分の身に危機が迫ってもウソ言わないようなあのマイスが秘密にしようとするなんて、よっぽどのことだと思ってさ。ほら、リオネラとかジオさんの事とかの時も隠そうとしてなかっただろ?」
イクセルさんが言ったことに、ロロナさんが「あぁ……」と納得したような声をもらす……が、私からすると何の話かわかるはずがなかった。
でも、マイスがウソを言うような人じゃないということは私もわかっている。……だからこそ、あんなあからさまに隠し事をされたのが嫌な意味で記憶に残ってしまっているのだけども。
「……で、アイツが何の意味も無く隠したりするはず無いだろ? でも、それを興味本位で調べてまわってもいいものかって思うわけだ」
「気にならないって言ったらウソになるけどな」と続けて言ったイクセルさん。
……確かに、その通りだと思う。
隠すには隠すなりのちゃんとした理由があるはず。間違いはないと思う。
けど、納得できない。
本当に帰れないのか。なんでそうなったのか。
そして……それと同時に、私は思っている。これが私がやるべき事なんじゃないか、と。
でも、私は知っている。
今ならわかる。小さい頃に、『シアレンス』の話を聞かせてくれたマイスの様子を思い出せば、マイスは『シアレンス』のことを忘れられないんだと。帰れるのであれば、帰ってみたいという思いがあるということを。
帰れない理由は教えてくれない。でも、確かなことはある。
何でも、どんなことでも、自分で出来てしまうマイスが、唯一かもしれない「できないこと」と自分で認めていること。
ならば、と私は思ったの。
だから、帰れない理由を知りたい。その理由をなんとかしてあげたい。
私にできることなんて何もないかもしれない。でも、何もせずにはいられない……気がすまないから。
……こ、こんな恥ずかしいこと、マイスはもちろん、他の人にも言えるわけがない。
でも、今のままじゃあ何も出来ないままだというのもわかっている。
私は、「どうしたものかしら?」とため息混じりに呟くことしかできなかった……。