遅れるのが当たり前になってきていることに危機感を覚える今日この頃です。
圧倒的時間不足……!
***マイスの家***
「ぷはーっウマかったー! やっぱ、修行の後のメシは最高だぜー」
「おい、なんだそのだらしない様は。気の知れた相手の家であってもそのような腑抜けた態度は見過ごせないな……そんなことでは、剣の腕が上がろうとも騎士としては半人前以下だぞ」
「いや、オレ騎士じゃないし、なる気もねぇんだけど?」
「だとしても、だ。最低限の礼儀作法すらなっていないのは、問題外だ」
朝の畑仕事と僕との修行の後に食べ始めた朝ゴハン。それを食べ終えたジーノくんが、座っていたイスにふんぞり返るようにして倒れ込んでいた。そして、その様子を見た
さて、賑やかな僕の家だけど、なんで農業をするために僕の家に泊まりこんでいるジーノくんだけでなくステルクさんもいるのかというと……。
きっかけは、少し前のある日。畑仕事を終えてジーノくんの修行に付き合っていた時のこと。ジーノくんの「オレには必殺技が足りていない」という趣旨の発言から、ジーノくんに合った『必殺技』を考えることになったんだけど、それは難航することとなった。
そこに現れたのがステルクさん。そのステルクさんがジーノくんに必殺技を教えると言って、それからはジーノくんの修行にステルクさんも付き合うようになったのだ。……とはいっても、ステルクさんはジーノくんのように僕の家に泊まったりはしてないんだけどね。
それからというものの、僕らの生活リズムは……早朝に起きて畑仕事。それが終わったら基礎トレーニングや僕とジーノくんとの試合などといった特訓。それから朝ゴハンを食べて、それ以降はジーノくんはステルクさんと必殺技の特訓……といったふうになった。
……で、ステルクさんはいっつもじゃないけど、畑仕事のすぐ後の特訓にも参加することがあり、そういう日はこうしてステルクさんも一緒に朝ゴハンを食べるようになっている。
僕としては、作った料理を美味しく食べてくれているから嬉しいので、全く問題無い。
それに……
「おにいちゃん、ホムは食後のデザートが欲しいです……ダメですか?」
朝から誰かが唐突に訪ねてくるなんてことは
そう、こうやって素材を貰いにホムちゃんが来たりするように……。
「そう言うと思ってたよ。今日は『プリン』を用意してるからねー……はいっ、どうぞ」
準備していた『プリン』をキッチンから持って来て、座っているホムちゃんの前のテーブルに置いた。
それを見ていたジーノくんが、もたれかかっていたイスから跳びあがり、大声をあげる。
「あーっ! チビッコだけずりぃ!」
「「チビッコ」ではありません。ホムはホムです。それに、ホムはくーちゃんより身長が高いのでチビという表現は適切ではないかと」
ジーノくんの言葉にホムちゃんは抗議していたが、当のジーノくんは聞いていないようで『プリン』をうらやましそうに見続けるだけだった。
……クーデリアよりも身長が高いって、前に聞いた話だとアストリッドさんがホムちゃんを創る時に
そんなことを考えつつも、『プリン』を凝視し続け段々と顔が近づいていくジーノくんをみかねて、これ以上イジワルをするのも悪いから、またキッチンへと行き、もう一つの『プリン』を取ってきた。
「心配しなくてもジーノくんの分の『プリン』もあるよ。はい、どうぞ!」
「わぁっ! ありがとな、マイス!」
「いやいや、気にしないで。最近修行を一段と頑張ってるジーノくんへのちょっとしたご褒美だからね」
『プリン』のお皿につけておいたスプーンを手に取り、勢いよく食べ始めるジーノくん。ホムちゃんのほうもゆっくりとモグモグ食べ始めた。
……と、ふと視線を少しずらすと、朝ゴハンを食べている途中だったステルクさんが呆れたような顔で見てきている事に気がついた。
どうかしたのかな……?
「どうかしましたか、ステルクさん?」
「コイツがいつまで経っても子供っぽいのは、キミのような甘やかす人間がそばにいるからなのだろうと思ってな」
「ええっ、甘やかすってほどじゃぁ……それに、ジーノくんの近くに僕以外にそういう人はいたかなぁ?」
ジーノくんの家族には会ったことはないからどんな感じかはわからないけど、他に甘やかしているような人は……実際にその場を見たわけじゃないけどツェツィさんあたりはそう厳しくしたりしてないかな? メルヴィアも、なんだかんだで気にかけてそうな気もするけど……でも「甘やかす」ってほどの人はいないと思うんだけど……。
「……まぁ、キミの場合、誰にでも甘い気もするがな」
「さっきもでしたけど、あんまり褒められてる気がしないんですけど……」
「そうだろうな」
何故か「フッ」と鼻で笑ってきたステルクさん。
とはいえ、褒められてなくても、笑われてても、僕は僕がしたいからやってるだけなのでそこまで気にしない。それに、これはステルクさんがジーノくんの今後の事を過剰に心配しているからそう思ってしまってるだけで、別に全員が全員、僕の行動をそう思っていたりするわけじゃないだろう。
「あっ、ステルクさんの分の『プリン』もありますから、ゴハンを食べ終わったら言ってくださいね!」
「そういうところがなんだが……やはり自覚は無いようだな」
――――――――――――
「はぁ、なるほど……この「ジーノくん」が強くなるために、おにいちゃんの家で働いていたんですね」
そう納得したように頷いたのは、『プリン』を食べ終えて『香茶』をノンビリと飲み始めたホムちゃん。
『プリン』を食べている途中にホムちゃんが「そういえば、この二人はどうしてここにいるのですか?」と聞かれたので、おおよその経緯をホムちゃんに説明していたのだ。
「というわけで、今は僕が基礎能力の底上げを手伝って、ステルクさんが必殺技の習得をさせてるんだ。もう、今の時点でもジーノ君は前よりも随分強くなったと思うよ」
「そうか!? オレ、そんなに強くなれたかな!」
僕の言葉に反応したのは話していたホムちゃんじゃなくて、その隣にいたジーノくんだった。……で、そのジーノくんの様子に厳しい顔で苦言をもらすのは、『プリン』を食べているズテルクさん。
「世辞を言われた程度で調子に乗るな。贔屓が無いわけじゃないんだ、もっと現実を見て己を鍛えろ」
「ちぇーっ、また師匠のお小言が始まったー……メンドクセェ」
「だから、そういった不誠実な態度はだな……!」
口調を強くしつつ、本当にジーノくんへのお小言を始めたステルクさん。その手には『プリン』の乗ったお皿があるのが、少しだけ
ステルクさんのお小言は長くなりそうだし、その間に片付けられるものから洗い物を初めてしまおうかなぁ……?
なんて考えていたところに、ふとホムちゃんがある質問を僕
「強くなりたいのであれば、まずは武器を強いものに変えてみてはいかがでしょうか?」
あたり前と言えばあたり前の発想。強さというのは戦う本人の強さはもちろん関係してくるが、その人が使う武器も無関係ではない。もし能力・経験などが同じ人同士が戦った時、武器の差がものをいうように、武器の強さも最終的な強さに深くかかわっている。
それをわかっているステルクさんや僕は、ホムちゃんの言葉に「まぁ、確かに」と小さく頷いた。
けど、ジーノくんはなんだか納得していないというか、ちょっとふに落ちてい無さそうな顔をしている。
「強い武器って言ってもなぁ……オレが今使ってるのって、トトリが「一番すごいので作ったんだよ!」って自信満々に渡してきたやつでさ。だから、これ以上強いのってねぇと思うんだけど……」
「そうですか。では、今使っている武器を強化してみるのはいかがでしょう?」
ホムちゃんの提案がいまいち理解できないようで、首をかしげるジーノくん。
対するホムちゃんはと言うと、僕のことをジッと見つめてきていた。……まぁ、今さっきジーノくんにしていた提案のこともあわせて考えると、
「できますよね、おにいちゃん?」
「うん、できるよ。それなら、その一番すごいもので作った武器をそれ以上強くするのもそう難しくは無いかな?」
「んー……どういうことだよ、マイス?」
腕を組んでますます首をかしげてしまっているジーノくん。そして、よくよく見てみると、ステルクさんも眉をひそめて僕のほうを見てきていた。おそらくはステルクさんもどういうことなのか気になっているんだろう。
「『鍛冶』ですでに完成している武器を素材を使って強化するんだ。鉱石で鍛え直して
「すでに出来上がっている武器を……そんな技術もあるのだな……」
驚いた様子でそう呟くステルクさん。ジーノくんも「はぁー……へぇー」と本当にわかったのか少し心配なことを呟きながらうんうんと頷いていた。
「強化に使う素材によって、武器がどう強くなるのかは全然変わるんだけど……でも、強くなるのは間違い無いよ」
「でもさぁ……やっぱり武器のおかげで強くなるのって、なんかズルみたいだし、カッコよくないだろ?」
口をとがらせるジーノくん。必殺技のこともそうだけど、ジーノくんにはジーノくんの美学のようなものがあるみたいだ。
「そうでしょうか?」
そんなジーノくんの言葉に疑問を示したのはホムちゃんだった。
「達人は
「それはまあ……確かに……」
「それに、良い素材ほど厳しい環境にある傾向があるので、強化素材を探すこと自体が良い修行になるかと。それに、
ホムちゃんがそこまで言ったところで、ジーノくんがイスから勢いよく立ち上がった。
「おっしゃー、やってやるぜ! そうと決まれば出発だ!! マイス! 帰ってきたら俺の剣、鍛えてくれよな!」
そう言って、そばの壁に立てかけてあった剣を手に取り家の外へと飛び出していくジーノくん。その後ろ姿はあっという間に開け放たれた玄関の戸から見えなくなった。
「こら、待て! この後は必殺技の……ああ、くそっ! そもそもなんの冒険の準備もせずに行く気かアイツは!!」
食べ終わった『プリン』が乗っていたお皿を素早くテーブルに下ろして、慌ててジーノくんを追いかけるステルクさん。ここで、そのまま放置せずにちゃんと追いかけるあたり、ステルクさんはなんだかんだ文句なんかも言いながらも面倒見がいい人だと思う。
「……って、冒険に出たってことは、数日間は帰ってこなかったりするよね? そうしたら、ジーノくんがやっていた範囲の野菜も僕がお世話しないといけないか」
とは言っても、そこまで広い範囲じゃないからそう難しいことじゃないし、問題は無いんだけど……。
「おにいちゃん」
と、そんなことを考えていると、不意にホムちゃんから呼ばれた。どうしたのかな、と思い、そっちを見てみると……
「…………」
無言で、胸の前あたりで右手で小さく
……えっと、どういうことだろう?
ホムちゃんの行動の意図がわからず目を白黒させていた僕をよそに、ホムちゃんはVサインをしていた右手を下ろし、フリルの付いたいつものスカートに包まれた自分の
……ああ、これはあの合図か。
僕は家の中を……そして、窓から見える景色を確認し、回転しながらピョンと跳び跳ねて『変身ベルト』で金のモコモコの姿へと変身した。
「えっと、それじゃあ……」
座っているホムちゃんのすぐそばまでテコテコと駆け寄り、ピョンとホムちゃんの膝の上へ飛び乗った。
すると、ホムちゃんの両腕が
いやまあ、このくらい慣れたものだから別にいいんだけど、それよりも……
「……もしかして、ジーノくんたちを冒険に行くように仕向けたのって、こうするためだったりする?」
「はい。ホムが久しぶりのおにいちゃんと遊びたかったので、お出かけしてもらいました」
特に悪びれた様子も無くそう言うホムちゃん。
……まあ、武器を強化すれば強くなるのは事実だし、ホムちゃんは別にウソを言ったりしたわけじゃないんだけど……ちょっと驚きだなぁ。
驚きから来た沈黙を、ホムちゃんはどう思ったのか少しトーンの落ちた声で尋ねてきた。
「おにいちゃんも彼らと一緒に行きたかったのですか? それとも、おにいちゃんには別に何か用事が……」
「そういうわけじゃないんだけど、なんて言ったらいいのかな……? とりあえず、嫌とかそういうことは全然ないから、気にしないで」
そう言って、僕は僕を抱きしめているホムちゃんの手を撫でてあげる。
すると、頭の上のホムちゃんのあたまが動いている感じがした。この感じは、あごでグリグリしてる……わけじゃなくて、おそらくは
……まぁ、お皿洗いはちょっと後回しにしないと、かな?