結婚後は、結婚相手の姓を名乗ることになることにしようと思っています。
つまり、今作のマイス君はロロナと結婚しますので「マイス・フリクセル」になるということです。
ついでまでに、仮にお嫁さん候補だった他のメンバーの姓を名乗ったとすると……
「マイス・フォン・フォイエルバッハ」(くーちゃん)
「マイス・エインセ」(リオネラ)
「マイス・エアハルト」(フィリーorエスティ)
「マイス・ヘルモルト」(トトリ)
「マイス・ウリエ・フォン・シュバルツラング」(ミミちゃん)
という具合になっていましたね。ホムちゃんだけ、マイス君と同じく姓がありませんが……。
……それにしても、姓があるだけで、かなり印象が変わるものですね……。それに、姓によっても印象が全然違うというのも中々面白いものだと思います。
***サンライズ食堂***
最近の『冒険者ギルド』はといえば、通常業務に加え冒険者制度の整備のための業務もあり、特別ヒマだったりするわけじゃ無い。とはいえ、冒険者制度が始まってすぐのころに比べたら、時間的にも気持ち的にもかなり余裕はあるんだけど……。
あとは、『青の農村』出身の数人を中心に『冒険者ギルド』で働く人員が増えたことも余裕ができたことの一因でしょうね。新人の中にはまだ失敗したり、あたしの半分も仕事をこなせない子もいるけど、それでもやる気はあるし、それに比例してドンドン成長していっているから今後はもっと余裕が生まれるはず……。
まぁ、何が言いたいのかというと……休みもそこそこ取れるようになり、こんな
とは言っても、あたしが「来たい!」と思って来たわけじゃなく、休暇中に会った
「さあさあっ! くーちゃんも飲んで飲んでー!」
「飲んでって……こんな時間からそんな飲む気にはなれないわよ」
グラスではなくわざわざボトル一本で注文した『ぶどう酒』を、まだほとんど減っていない私のグラスに注ごうとしているのはロロナ。他でもない、あたしを『
「むー……飲んでくれないの?」
「うぅっ……!? の、飲まないなんて言ってないわよ! でも、もうちょっとゆっくり飲んでいくから……ね?」
……肩を落として上目遣いで言うロロナの破壊力に負けて言っちゃったけど、正直なところ飲む気はほとんど無い。時間帯とか気分の問題もあるのだけど、それ以上に
まず、さっきから言っているように、飲みに誘うにしては時間がおかしい。今はちょうどおやつ時、お茶に誘うならまだしもお酒は無いだろう。お酒が好きなヤツだったらわかるけど、ロロナは特別お酒好きでもないから違和感がある。
続いて、あたしたちが座っている位置もおかしい。スイーツ系のメニューが充実しているとは言い難い『サンライズ食堂』はおやつ時は客が少ない時間帯だ。今もあたしたち以外に客はいなくてスッカラカン……だというのに、数あるテーブルの中でも、店の奥の一番端のテーブルにわざわざ座っている。
普段のロロナなら、景色が見えて明るい通りに面した窓際の席か、客がいなくてヒマしてるイクセルと話せるカウンター席を選ぶと思うんだけど……。
あとは、ロロナがやけにあたしにお酒を
……
「……って、あんたのが空っぽになってるじゃない。ほら、あたしが注いであげるから、ボトルを貸しなさいよ」
「えっ、注いでくれるの? 本当?」
「なんで嘘を言わなきゃならないのよ。せっかく丸々一本注文したんだから、美味しく飲んじゃわないともったいないでしょ」
「えへへっ、それじゃあくーちゃんに注いでもらおっかなー」
そう言って顔をほころばせるロロナから『ぶどう酒』のボトルを受け取って、ロロナのグラスに注いであげる。
「おいおい……お前が酒を勧められちまってどうするんだよ……」
カウンター奥の厨房のほうから、そんな呟きがわずかにだけど聞こえてきたんだけど……ってことは、やっぱり何か裏があったようね。それも、
……まあ、とりあえずはもう少し様子見でいいかしら?
――――――――――――
「くーちゃ~ん、のんれる~?」
「はいはい、ちゃんと飲んでるわよ」
あれから二十分ほど経ったけど、つまむものを少し頼んだりしつつもあたしたちは『ぶどう酒』を飲んでいた。
状況は見ての通り。ゆっくり飲んでいたあたしに比べ、勧められるままにハイペースで飲んでいたロロナの方が酔払っている。
「……にしても、キレイに出来上がっちゃってるわね」
「え~? なぁに?」
「別に何でもないわ。って、ちょっと、口周りが汚れちゃってるわよ」
「んー」
少し身を乗り出しつつ、腕を伸ばしてロロナの口元をハンカチで拭ってあげる。拭っている間は口を閉じておとなしくしていてくれてたけど、ハンカチを離したとたん、ニヘラッと笑った。……なんていうか、普段以上に酔払っていて、幼児後退気味になっている気がしなくも無い。
「ねーねー、くーちゃん」
「はいはい、何かしら?」
「くーちゃん、もう酔払ったー?」
今それを
そう思いつつも、これは最初とかにあたしにやけにお酒を勧めてきてたことに関わっている気がする。そう考えると、なんとなくそれっぽい返答をしてロロナが何を思ってこんなことをしているのか聞き出してみるほうがいいのかもしれないわね……。
「ええ、まあそうね……いい感じに酔っぱらってるんじゃないかしら?」
「そっかー! よかったー」
あたしなんかよりもよっぽど酔払って顔を赤くしているロロナが、「うんうん!」と嬉しそうに頷いている。
というか、「よかった」って……ホントにどういうことなのかしらね?
「じゃー、
「……は?」
「
えっと……何を言ってるのかしら、
いや、たぶん、きっとロロナの中ではちゃんと何か順序があった上で聞いているんだとは思う。
けど、残念ながらコッチからしてみれば何が何だかサッパリだ。やっぱり、酔払っちゃってるから色々とおかしくなってしまっているんでしょうね……。
「……で、何を教えてほしいの?」
「う~! くー
「いや、話しを聞きなさいよ!?」
自己完結が早いというか、あたしに話しかけてきてるはずなのに、あたしを見ていないというか……勝手に機嫌悪くなっちゃうし……。
……というか、ロロナが思っている以上に酔払っちゃってる? あたしが色々警戒し過ぎて、飲まされないようにと逆にロロナにお酒を勧めていっちゃったけど……飲ませ過ぎたかしら?
「いいもん、いいもんっ! くー
「だから話を……何する気?」
「トトリ
「いやそれ、あたしは何も困らないし、むしろ困るのは
もうすでに『サンライズ食堂』から飛び出して行ってしまっていたロロナ。かなり酔払ってたけど、走って出ていけてたし、いちおうは大丈夫……なのかしら? そうなると、心配すべきはあの酔っ払い状態のロロナの相手をしないといけないトトリのほうかもしれない。
……あら? そういえば、トトリは『アランヤ村』のほうにいるはず……ってことは、ロロナは『錬金術』の道具で『アランヤ村』まで行くつもり? だとすれば、あの酔っ払い状態で道具を上手く使えるかが心配になってくる。間違って変なところに移動しちゃったりしないかしら?
そんなことを考えても、もう行ってしまったのだからあたしにはどうしようもないのだけど……。
「……で、結局なんだったのよ、今のは?」
あたしがそう言いながらカウンター向こうにいるイクセルをジロッと睨みつけると、イクセルは「俺っ!?」と驚いた様子で声をあげてた。
「何驚いてんのよ。あんたも絡んでるんでしょ?」
「まぁ、半分……いやっ、三分の一くらいは俺のせいと言えばそうなんだけどな?」
バツが悪そうにしながらも笑いながら髪をかくイクセルに、ちょっとイラッとしながらもあたしは次の言葉を待った。すると、「どこからどう話したらいいのやら……」と悩んでいたイクセルが、何かを決めたのか大きく一度頷いてから口を開いてきた。
「ちょっと前の話なんだが、ロロナがトトリの友達のミミを連れてきてだな……」
――――――――――――
「……つまり、きっかけは
「ん、まぁ大体の流れはそんな感じだ」
頷くイクセルを見て、あたしは大きなため息をついた。
つまりは、ロロナは「マイスが
「なるほどね。でも、なんでそれがこうなるのかしら?」
「そのあたりは、
「後半のほうって、どう考えてもあんたが情報源よね? 確かにあの時のあたしは酔払ってたけど……」
そこまで言って、あたしはもう一度ため息をついた。正直なところ、「何事かと思えばそんなことで……」という肩透かし感がある。
「たくっ。そんなこと、
あたしがそう言うと、その内容が予想外だったのか、イクセルが驚いたように目を見開いていた。
「やっぱ、何か知ってんだな? ……けど、あのマイスが秘密にしてることだから、てっきり教えねぇものだとばかり思ったんだが」
「どこの馬の骨とも知らない奴ならそうするわ。けど、ミミはともかく、ロロナやあんた相手ならあたしは言ってもいいと思ってるのよ」
「マジか!?」
これも予想外だったみたいで、イクセルはカウンターから飛び出してあたしのそばまで来て、小声で問いかけてきた。
「……で、結局何なんだよ、マイスが隠してることって」
「
「…………はっ?」
「あたしからは言えないの。本人に聞いてみればいいと思うわ」
「いやいやいやっ!? お前教えるっていっただろ?」
「「答える」とか「言ってもいいと思ってる」としか言ってないわ。だから、教えない」
そう言うと、イクセルはあたしが言ったことを思い出そうとしているかのように、腕を組んで首をひねって頭を悩ませ始めた。……が、すぐに「でもなぁ……」と納得していない様子であたしを見てきた。
まぁ、わからなくも無い。立場が逆だったとすれば、アタシも納得できていないだろうもの。
仕方がないから、教えない理由を丁寧に答えてあげることにした。
「マイスが隠す理由も、中々話せないその気持ちもわからなくはないの。だから、アタシの口からは絶対に言えない。……けど、赤の他人じゃなくてロロナやあんたくらいの間柄なら別に隠さなくてもいいんじゃないかって、あたしは思ってるわ。なんていうか、
「はぁ、なるほど……やっぱ、よっぽどのことなのか?」
「突拍子の無いというか、常識外れというか……帰れない理由の方も、思い出せてないはずの両親のことを知ってる方も、ね。聞いて驚かない奴はいないと思うわ」
「そっか……あー。そうなると、気にはなるんだがやっぱ聞き辛いなぁ」
自分のグラスに入っていた『ぶどう酒』を飲み干して、あたしは立ち上がった。そして、自分はどうするべきか悩んでいるのだろうイクセルへ向かって、あたしは言う。
「まっ、どうしても知りたくなったらあたしに言いなさい。仲介くらいはしてあげるから。……あっ、でも今日の話は他の奴にはしたらダメよ。あくまであんたやロロナだったらいいってだけなんだから」
「あー、
ちょっと間の伸びた頼りない返事ではあったけど、
「……っと。そうね……大丈夫だとは思うけどいい機会だし、いちおうフィリーとリオネラには他人に勝手に話さないように言っといたほうがいいかしら」
そう思いたち、あたしは『サンライズ食堂』を出て、二人がいそうな場所を周ってみることにした。
ちょっとお酒臭いかもしれないけど……まぁ、大丈夫でしょ。
――――――――――――
「
そう一人で納得するイクセル…………が。
「あっ……あいつら、金払ってなくね?」