マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 今回、なんと過去最長12674字となりました! というか、なってしまいました!!
 そして、やっと一段落です。


 と、今作のことは置いといて……なんと! 2017年10月26日に、3DS用ソフト『ルーンファクトリー4 Best Collection』が発売決定! あの『ルーンファクトリー4』がお求めやすい値段で帰ってきます!

 さらにさらに!! なんとなんと! 同時に『ルーンファクトリー4 Platinum Collection』という数量限定セットも販売されます!
 こちらは希望小売価格6980円(税抜)とちょっと値ははりますが、驚くことに3DS用ソフト『ルーンファクトリー4 Best Collection』に加え、あの名作DS用ソフト『ルーンファクトリー3』と、3&4の『オリジナルサウンドトラックCD』がついてくるという豪華セット!!
 なんということでしょう! 最新作(5年前)の『RF4』がプレイできる上に、あの中古が高く中々無い『RF3』も手に入り、『(オリジナル)(サウンド)(トラック)』も…………!

 ……って、そうじゃない。嬉しいけども。
 正直なところ『RF3』単品をお求めやすい価格で売って欲しかった。嬉しいけども。
 希望小売価格6980円(税抜)だと他人(ひと)(すす)めにくいから困る。嬉しいけども。
 というか、数量限定っていうのも予約できなくなったりするからどうかと思う。嬉しいけども。
 ……嬉しけどもっ!!

 こんな汚い商戦なんかには絶対負けない!
 ……でも、ちょっと考え方を変えて「『RF3』を買うおまけで『RF4』と『OST』がついてくる」って考えたら安く思えてくる不思議。というか、『RF3』の中古が高いから、新品が手に入るなら実際お得ではある……。そりゃあもう「買うしかないでしょ」ってなりました。
 お得感には勝てませんでした。


 アトリエもアトリエで、色々とありましたね。
 「コミックマーケット」の情報やら、ガストショップに追加されたグッズの紹介やら……あと、アトリエシリーズ公式LINEスタンプの配信も。歴代キャラの立ち絵などを流用して作ったようなものでしたが、ついついポチッとしてしまいました。

 ……作者みたいなチョロいファンはいいカモでしょうね。個人的には本望です!!
 



5年目:トトリ「緊急事態発生!?」

 

 

***トトリのアトリエ***

 

 

「おねえちゃんたち、帰ってこないなぁ……」

 

 アトリエの中を当ても無くグルグルと歩き回っていた足を止めて、わたしは窓の外に見える空を眺めた。

 

 

 そもそもの始まりは、メルお姉ちゃんの提案からだった。

 

 おねえちゃんとメルお姉ちゃんが小さい頃にしていた約束。それは、お母さんのように冒険することに憧れていた二人が、将来一緒に冒険に行くというもの。実際は、おかあさんがいなくなってから、おねえちゃんがお(うち)のことを一手に引き受けるようになって、その約束は長らく果たされることは無かった。

 けど、わたしが一人前の冒険者になったということもあって、メルお姉ちゃんはこの機会におねえちゃんを冒険に連れて行く計画をたてていたらしく、わたしにも協力してもらえないかなって声をかけられたの。

 

 結果的に言えば、おねえちゃんを冒険に連れ出すことには成功した。おねえちゃんは最初こそ行くのを渋ってたんだけど……一度近所の採取地まで冒険に行ったところ、次回誘った時には「実は今度はいつなんだろうって誘ってくれるのを待ってたの」なんていうくらい楽しみにするようになってた。

 

 

 で、今日がおねえちゃんと三回目の冒険ってことになってたんだけど、わたしはある理由で出発直前にアトリエに残ることにした。

 というのも、前回の冒険の時にわたしとおねえちゃんで盛り上がっちゃって、メルお姉ちゃんをほったらかしにしてしまったのだ。今回の件を提案してきたのがメルお姉ちゃんだということからもわかるように、メルお姉ちゃんだっておねえちゃんとワイワイ冒険がしたい。なのに、わたしは「協力する!」なんて言いながらも、自分ばっかり楽しんでしまってた。

 そんなことがあったから、今回はその反省を踏まえてわたしが「アー! ソウ()エバ依頼品(イライヒン)納品期限(ノウヒンキゲン)明日(アシタ)マデダッター! (ハヤ)調合(チョウゴウ)シナイトー!」って言って途中で離脱して、メルお姉ちゃんとおねえちゃんの二人だけで楽しんでもらおうと行動したんだけど……

 

 

「メルお姉ちゃんが一緒だし、大丈夫だとは思うけど……うーん…………うずうず……」

 

 冒険の目的地だった採取地は、これまでおねえちゃんを連れて行った冒険の中では一番村から遠い……とは言っても、日をまたがないといけないほど遠く離れてない。

 まぁ、だからと言って今帰ってくるには早すぎるんだけど……なんでか、早く帰ってこないかなーって思ってる自分(わたし)がいる。

 

「うずうず……いらいら……そわそわ……あーっ! 気になってなんにもできなーい!」

 

 うー……! そんなにすぐには帰ってこないってわかっているつもりなんだけど、どうしても落ち着けない。

 ……わたしが『冒険者免許』を貰いに行ったあと帰ってきた時なんかに、おねえちゃんが「トトリちゃんはいつ帰ってくるの!? 毎晩ごちそうを用意して待ってるのに!」なんてお父さんに行ってたりしたけど……もしかして、今のわたしと似たような気持だったのかなぁ?

 

「はぁ……やっぱりわたしもついて行けばよかったかなぁ」

 

 今からでも遅くない……? でも、二人がいい感じに楽しんでるところに乱入しちゃうのは、なんだか気まずいし。

 なら、二人には合流しなくて、陰に隠れて見守っておくとか? ……ううん。それもちょっと無理かな。おねえちゃんが戦ってるのを見たら、フォローしたくて絶対に手を出しちゃうと思う。

 

 

 

 「どうしたらいいんだろう……」って、一人で悩んでいたら、不意に「カンッカンッカンッ」と何かが叩かれる音が聞こえてきた。

 悩み込んでてうつむき気味だった顔をあげてみると、さっきまでわたしが空を眺めていた窓の外に、見覚えのあるハトさんがいた。

 

「あれ? このハトさんってもしかして、前にステルクさんに先生の名前を……う、ううん、ただのステルクさんのハトさんだったね……うん。そういう話だった。わたしは何も見てない、何も聞いてない……」

 

 ステルクさんに口止めされてたことを、寸前のところで何とか言わずに踏みとどまることができた。今は周りに人はいないけど、普段から気をつけてないと人前でポロッと言ってしまいそうで怖い。

 ……本当に怖かったのは、ハトさんに先生の名前を覚えさせて「ロ・ロ・ナー」って言わせてたのを、必死に口止めするステルクさんなんだけどね……。

 

「って、あれ? このハトさん、足に何か付けてる。……あっ! これが『伝書鳩(でんしょばと)』なんだね」

 

 前にミミちゃんから聞いた話を思い出して、わたしはピンときた。

 ……でも、なんでわたしのところに?

 

 不思議に思いながらも窓を開けて、ハトさんにアトリエの中に入ってもらう。そして、ハトさんに怪我をさせたりしないように気をつけながら、足につけられている手紙を取り外そうとした。

 手紙はハトさんがジッと大人しくしててくれたから、初めてだったけど難なく取り外せた。

 

 わたしは何が書いているのか気になって、さっそく丸められている手紙を開いた。

 

 

『村周辺にスカーレットの群れが目撃された。非常に危険なため、こちらが討伐隊を編成し駆け付けるまで村の外には出ず、外にいる場合は至急帰還せよ』

 

 

「えっ」

 

 ハトさんが飛ぶのに邪魔にならないサイズの小さな手紙。それにぎゅうぎゅうに書かれていた短い文章を見て、わたしは一瞬固まってしまう。

 

 でも、事態を把握できてすぐに、わたしは杖といつものポーチを掴み取ってアトリエを飛び出していた。

 

 

 ステルクさんは「村の外に出るな」って言ってた。理由も、『スカーレット』の群れの危険性も、全部わかってた。

 でも、だからこそ「村の外出るな」って言葉を気にしている場合じゃないってわたしはわかってた。

 

 

「おねえちゃん……!」

 

 おねえちゃんとメルお姉ちゃんが無事でいることを頭の中で祈りながら、わたしは村の外……おねえちゃんたちが行ってるはずの採取地へ向けて全速力で走っていく……!

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

***採取地のはずれ***

 

 

 『アランヤ村』を飛び出してから、おねえちゃんたちが行ったはずの採取地へと向かって、わたしは走り続けてた。

 周りなんて気にしないで、ただただ道を走っていってた。他の採取地をつっきって通り過ぎて言ったりしながらも、ずーっと走り続ける。

 

 その途中、採取地や道を走っている最中に行く手に真っ赤な悪魔『スカーレット』が四、五体の塊でいることが何度もあった。きっとそいつらがステルクさんからの手紙に書いてあった「スカーレットの群れ」の一部分だったんだと思う。……何回も会ってるから、全体の群れの数はかなり多いのかも。

 

 その可能性が、わたしを不安にさせ「もっと急がないと!」とおねえちゃんたちのもとへとせかしてくる。

 だから、『スカーレット』たちなんて一々(いちいち)立ち止まって相手をしてあげるヒマなんてなかった。だから……

 

 

「どいてー! どかないと爆弾で吹っ飛ばしちゃうんだからー!!」

 

 

 ()()()()()()()、走る足を止めずにポーチから引っ張り出した爆弾系の道具を行く手を(さえぎ)る『スカーレット』たちめがけて投げつける。……そして、そのまま走り続けてく。

 

 再び『スカーレット』が見えてきたら爆弾を投げつけて走り去り、また見つけては投げて、またまた見つけては…………

 

 そんなことを何回か続けたところで、おねえちゃんとメルお姉ちゃんがいるはずの採取地にたどり着いた。

 だけど、そこに二人はいなくて、『スカーレット』が数体いるだけ……。でも、『スカーレット』がわたしを見るまでそんなに警戒してなかったことを考えると、ここでおねえちゃんたちが『スカーレット』と戦ったりしたわけじゃなさそう……? もしかして、もっと採取地の奥の方に行ってるのかも。

 

 そう考えたわたしは、ここの『スカーレット』もとりあえず倒してしまうことにした。

 

「とりゃぁー!」

 

 放り投げた爆弾が狙い通りに『スカーレット』たちの所まで飛んでいき、轟音と共に爆発した。爆破したモンスターの確認もそこそこにしてわたしはまた走り出す……。

 

 

 

 

 

 そうして、また何度か爆弾で倒しながら奥地へと進んで行くと……そこには、わたしが予想した通りにおねえちゃんたちがいた。

 けど、二人の数メートル先には十体ほどの『スカーレット』の群れが……ううん、メルお姉ちゃんが倒したのか、周りの様子からして元々はもう数匹『スカーレット』いたんだと思う。

 『スカーレット』に相対しながらも片膝をついてるのは、()()()()()()()()()()()()()()メルお姉ちゃん。おねえちゃんはその後ろに隠れるようにしていた。

 

 

「おねえちゃん! メルお姉ちゃん!」

 

 走ってきた勢いのまま、わたしはメルお姉ちゃんと『スカーレット』たちの間あたり……ややメルお姉ちゃん寄りの場所に飛び出した!

 

「トトリちゃん!」

 

「ナイスタイミング……とは言い難いわね。もうちょっと早いと嬉しかったんだけど……」

 

 いつもと違う、泣き声が混ざったような声で名前を呼ぶおねえちゃん。

 そして、メルお姉ちゃんもいつもの軽口はいまいちで、声も元気とは言い難いメルお姉ちゃんらしくないものだった。

 

 ……その理由はわかってた。メルお姉ちゃんの身体のあちこちの『赤』、それがモンスターの返り血だけじゃなくて、身体のあちこちにある傷から溢れ出したメルお姉ちゃん自身の血なんだということを。おねえちゃんはメルお姉ちゃんの後ろに隠れてるんじゃなくて、メルお姉ちゃん()おねえちゃんを背中(はいご)に隠して『スカーレット』の攻撃からおねえちゃんを守っていたんだということを。

 

グガアアアアア!

 

 『スカーレット』の群れの内の一体……他よりも少しだけ体が大きい個体が大きな叫び声を上げてきた。もしかしたら、群れのボスなのかもしれない。そのボスの目は、間に入ってきたわたしを睨みつけていて、まるで戦線布告のようにも思える。

 

 けど、そっちが気合十分なのと同じように、わたしの方もヤル気は満々だよ!

 

「むう、よくも二人を……! 許さないんだから! わたしのとっておきの爆弾で……」

 

 そう言いながら、わたしは肩から下げているポーチに手を突っ込み、爆弾を(つか)んで取り出し……

 

 爆弾を掴んで取り出し……

 

 爆弾を掴んで…………

 

 爆弾…………………

 

 

「……あれ? もうない? やだ、使い切っちゃった!?」

 

 えっと……まあ確かに、ここにくるまで沢山投げてきた。でも、それでもいつもの冒険でもあれ以上に投げてることも普通にあるし、いつも多めに用意してる爆弾系の道具が底を尽きるなんてことは……

 

 あっ……! そうだ! わかった!!

 

 いつもは冒険に出る前にポーチの中身を補充して、帰って来てから採取した物とか大事なものをコンテナに片付ける習慣になってる。

 けど、今日は最初からおねえちゃんとメルお姉ちゃんで行ってもらって、わたしは冒険に行く気は無かった。だから、ポーチの中の道具は前回の冒険が終わってから何も補充していない状態……つまりは色々と不足しているのが当然なくらいで、ここに来るまで爆弾がもったこと自体運がよかったくらいだと思う。

 

「トトリちゃん……」

 

「うん、まあトトリらしいけど……この状況じゃ笑えないわよね」

 

 ……わたしの様子から察しちゃったのか、おねえちゃんとメルお姉ちゃんから何とも言えない視線と言葉が……。

 

ゴギャアアアア!!

 

 そんなわたしの都合なんてお構い無しに、また『スカーレット』のボスが大きな叫び声をあげた。

 

 どう考えても襲いかかってくる一歩手前の状態だろう『スカーレット』たちを見ながら、ポーチの中を(あさ)り続けてみる……。

 ……うん。やっぱり爆弾は使い切ってしまったみたい。お薬も『ヒーリングサルヴ』っていう初歩中の初歩の薬しか残ってない。しかも、コンテナからアイテムを取り出せる『秘密バッグ』も、使える(すき)があるかはわからないけど一瞬で村に帰れる『トラベルゲート』さえもアトリエに置きっぱなしになってしまってるみたい。

 

 せ、せめて爆弾が一個でも残ってたら、威力や効果は弱くなるけどアイテムを複製できる『デュプリケイト』で爆弾を増やして何とかできると思うんだけど……無い物ねだりだっていうのはわかってる。

 

 

「こんなことなら来るまでの間は『デュプリケイト』使ってたのに……ううううう……で、でも大丈夫! これくらい武器だけでも……!」

 

 ポーチに突っ込んでいた左手を出して、覚悟を決めて両手で杖を構えた。

 

 ……でも、マズイ状況だということは間違い無い。十体近くいる敵に対してわたしは一人。

 ううん、一人だったら避けたり逃げたりしながらやりようがあったと思う。けど、今、わたしの後ろにはおねえちゃんと身体中に傷を負って血を流し、片膝をついて斧を杖のようにしてなんとか顔をあげてるメルお姉ちゃんがいる。避けたりなんかしたら、おねえちゃんたちが大変なことになっちゃう!

 でも、戦って勝たなきゃ、村に帰る事も出来ない……。

 

 口では勢いに任せて強気にも思える言葉を吐いてたけど、今、少しでも気を抜いたら脚も腕も震えあがってしまうそうなくらいになってた。

 

 

 わたしが動くか、『スカーレット』たちが動くか……どっちが先に動くかと言う状態で止まってた戦況。それを動かしたのは例の群れのボスの『スカーレット』だった。

 空を向けてクルクルと振るわれる指、その指先辺りには直径十センチくらいの大きさの『闇の球体』が形成され……「ガアァ!」という掛け声と共に腕が振り下ろされ、『闇の球体』はわたしの方へと向かって射出されたっ!!

 

 後ろにはおねえちゃんたちがいる。避けるわけにはいかない。わたしは杖を前に突き出すようにして、どうにかガードしようとする。

 速いスピードで(せま)ってきた『闇の球体』につい目を(つむ)ってしまいながらも「どうか……!」と防げるようにと心の中で祈る。

 

 

 

 

 

 

()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

 「バシュン!」と何かがさく裂したような音。でも、わたしは何の衝撃も感じてなかった。

 いや、でも……聞こえた。炸裂するような音じゃなくて、()()()()()()()が。

 

 瞑ってしまってた目を開けた先……そこに見えた背中は……

 

 

「えっ…………()()()……()()?」

 

 

「ん? 変なこと言うなぁ、トトリは。オレが誰に見えたってんだよ?」

 

 剣を構えたままチラッと振り向いて返ってきた言葉。それは間違い無くあのお調子者で元気なことが取柄なジーノくんの声だった。

 

「な、なんでここにいるの!?」

 

「へ? トトリにリベンジするために決まってるだろ」

 

「いや、そうじゃなくって……なんでわたしがここにいるのがわかったの、って聞いてるの!」

 

「なんでって……あともう少しで村に帰り着くってところでトトリに会っただろ? んで、オレが「勝負しろー!」って声かけたのにトトリはどっかに走って行っちまって……んで、ムカついたから追いかけてたらここまで来てたんだ」

 

 ええっと……つまり、わたしがおねえちゃんたちの所に走って行ってる途中に会ってたってこと? でも、わたしはジーノくんに気付かなくて、そのまま走って行って……うん、『スカーレット』の群れを何回か吹き飛ばしたことは憶えてるけど、ジーノくんがいたなんてことは全然覚えがない。

 いや、そもそもここに来た理由が「助けに来た」とかじゃなくて「リベンジするため」とか「ムカついたから追いかけて」なんて言ってる時点で、色々と残念というかジーノくんらしいというか……

 

 

「つーか、どうなってるんだよ? こんなところに『スカーレット(こんな奴ら)』はいないはずだろ? それに、メル姉はともかく、なんでトトリのねぇちゃんまで……」

 

「ジーノっ! 危ない!!」

 

 振り向いてわたしたちのことを見て不思議そうにしているジーノくんだったけど、不意にわたしの後ろにいるメルお姉ちゃんが声をあげた。わたしはどうしたのかと驚いたんだけど何のことなのかはすぐにわかった。……振り向いてるジーノくんに向かって『闇の球体』が二つ飛んできてたのが、見えたのだ。

 

 ジーノくんを突きとばしてでも……!

 

 そう思って一歩踏み出そうとしたんだけど……

 

「こんくらい、問題ねぇ!」

 

 ジーノくんはそう言って、チラッとだけ前を見て……手に持つ剣を二回振るった。

 すると、どうしたことか剣に当たる少し前に二つの『闇の球体』は「バシュン!」と音を立てて爆散して……あっ、もしかして、最初にわたしを守ってくれた時もこうやって防いでいたのかな?

 …………って

 

「いやいやいや!? ジーノくん、何したの!?」

 

「何って、見りゃわかるだろ? 斬った」

 

「普通あんなの斬れないよ!? それに見えてなかったのに反応するなんて……」

 

「師匠たちも普通に出来ると思うんだけどなぁ? それに不意打ちも、師匠よりも軽いし、マイスよりも遅いし、どうってことないって」

 

 そう言ったジーノくんは、こっちを睨んできている『スカーレット』たちのほうに向きなおり、剣の刃の無い方で自分の肩をトントンしながら「でも……」って言葉を続けた。

 

「身体が軽かったりいつもよりも動けたりするのは、たぶん修行以外にも、マイスがしてくれた剣の強化が何か関係あるとは思うけど……ここに来るまで何回も使ったけど、よくわかんねぇんだよなぁ? 他にも色々変なことになってるし」

 

 剣の強化……? 今、ジーノくんが持ってるのって、前にわたしがあげた『ウィンドゲイザー』って剣のはずなんだけど……見たところ間違ってないと思うんだけど、どういうことなんだろう?

 というか、「よくわかんない」とか「変」とか……そんなものを使ってて大丈夫なのかな?

 

グガァアアアアッ!!

 

 その時、ボス『スカーレット』がひときわ大きな叫び声をあげた。剣に有効なはずの遠距離攻撃であるはずの『闇の球体』による攻撃が何度も通じなかったから苛立(いらだ)っているのかもしれない。……そのくらいの知能はあるはずだし。

 でも、その考えが間違いだってことをすぐ知ることになった。

 

「……笑ってる?」

 

 明確にそう思えたわけじゃないんだけど、なんとなくボス『スカーレット』の口が歪んだような気がしたのだ。

 わたしたちの前で、叫び声を聞いた時点で剣を構え直していたジーノくんも、わたしと同じような違和感を感じてたみたいで「なんだ?」って小さく呟いていた。

 

「……っ!? トトリ、後ろだ!」

 

 いきなり振り向いてきたジーノくんに言われて、反射的に振り返る。すると、そこには草むらから飛び出してくる数体の『スカーレット』が……!!

 そうだ……っ! ここに来るまでにわたしが何体もの『スカーレット』に出会ったように、目の前にいた奴らだけじゃなくて他にも沢山いた事を、わたしたちはすっかり忘れてしまってた。

 

「ジーノくん、トトリちゃん、前っ!!」

 

 次に声を上げたのは、怪我をしてるメルお姉ちゃんのそばにつきそうようにして震えていたおねえちゃんだった。

 言われて再び前を見てみれば、群れのボスたちが一斉に『闇の球体』をこっちにむかって打ち出してきていたのが見えた。つまり、後ろからの強襲に合わせて挟み撃ちにしてきたわけだ。

 

 前方から迫ってくる『闇の球体』。後方からは別の『スカーレット』たちが襲いかかってきている。

 時間も無い。でも、どっちから対処すれば……!? じゃないと、わたしもジーノくんも、おねえちゃんたちも……!!

 

 

 

 

 

「モッ……コォオオォォーッ!!」

 

 

 

 

 

 何かの鳴き声と共に、()()()()()()が後方から襲いかかってきていた『スカーレット』の先頭の一体にものすごい勢いでぶつかった。

 

 弾き飛ばされるように吹き飛んだ『スカーレット』。そっちに目がいっていると、ジーノくんの「でりゃあ!」という掛け声と共に複数回破裂するような音が聞こえた。どうやら、前方から迫ってきていた『闇の球体』をまた全部斬ったんだろう。

 

 ……と、『スカーレット』にぶつかった金色の丸い塊が、クルクルと回ったままお姉ちゃんたちのそばの地面に落ちる……かと思ったその時、「シュタッ!」と()()は着地した。

 

「モコちゃん!?」

 

 そう、その金色の丸い塊は一時期噂にもなったという「幸せを呼ぶ金色のモンスター」であり、先生のアトリエや『青の農村』のマイスさんの家なんかで度々見かけた、先生なんかに「モコちゃん」って呼ばれているモンスターだった。『スカーレット』には丸まった状態で突撃してたみたい。

 その存在に、わたしだけじゃなく、おねえちゃんやメルお姉ちゃん、ジーノくんも驚いていた。

 

 モコちゃんって、首に青い布を巻いているから『青の農村』の一因なんだと思うけど……だから『青の農村』や『アーランドの街』周辺が行動範囲だと思ってたんだけど、ここ『アランヤ村』のそばまで来てたりするとは予想外だった

 でも、おかげで『スカーレット』たちの攻撃を防ぐことができた。

 

 

「モコッ! モコモコ、モーコモココッ!」

 

 おねえちゃんたちのそばに着地したモコちゃんは、何かを喋っているかのように鳴きだした。けどそれは、そばにいるおねえちゃんたちやわたしに話しかけているというよりは、モコちゃんの視線の先にいる『スカーレット』たちに向けられたもののように思える。

 そのわたしの考えは正しかったようで、モコちゃんが何か言った後にモコちゃんが見ている『スカーレット』が、そのまた後に反対側……ジーノくんが剣を構えている前方のほうにいるボスの『スカーレット』が鳴いた。

 

グキャアァ!

 

ガアァ! グガガガギャァ!!

 

「モコッ!?」

 

 ……? よくわからないけど、モコちゃんはまるで言い返された鳴き声が予想外だったみたいに驚いた様子で短く鳴き声を上げた。

 モンスターたちの言っていることが理解できるらしいマイスさんがここにいたら、モコちゃんたちが何を話しているのかがわかったんだろうけど……残念だけど、わたしにはさっぱりわからなかった。

 

 

 心なしか大きな耳がいつも以上にダラーンって()れてしまっている気がするモコちゃん。

 そのモコちゃんに声をかけたのは、わたしやおねえちゃんじゃなくて、モコちゃんとは反対方向にいる『スカーレット』を睨みつけていたジーノくん。ジーノくんは目の前の敵から目を離さずに背中を向けたままモコちゃんに向かって声を張り上げる。

 

「助かったぜ、ちっちゃいの! よくわかんねぇけど、お前『青の農村(マイスんところ)』の奴だろ? オレがこいつら全員ぶっ倒す! 悪いけど、後ろを……トトリたちを任せていいか!?」

 

「モコ……モコッ!」

 

 ジーノくんの呼びかけに、少し悩むように……でもすぐに切り替えたのか、元気に返事をしたモコちゃん。

 

「ジーノくん! わたしもっ」

 

「心配すんな、もうさっきみたいにはならねぇ! オレが……オレたちがトトリも、トトリのねぇちゃんも、メル姉も守ってやるからな!!」

 

「ジーノくん……!」

 

 

 

「いくぜっ!」

 

「モコォ!!」

 

 

 掛け声と共に、ジーノくんは目の前にいる『スカーレット』の群れに向かっていった。そのジーノくんに『スカーレット』たちはまた『闇の球体』を数発打ち出したけど……

 

「だりゃあっ!!」

 

 走ったままジーノくんは剣を振って、それらを斬りかき消した。

 そして、その勢いのまま……剣も振るった流れのままに……群れへと突っ込んでいく。

 

 グギャア!

 ギギッ!

 ガアァ……

 

 ジーノくんの振るった剣が直撃したモンスターはすぐさま倒れていく。

 ……それでも、『スカーレット』たちもバカじゃなくて、何体かはすぐにジーノくんから距離を取っている。ジーノくんはその一体を追うように動き、そいつを切り裂いた。

 けど、別方向に避けていた『スカーレット』は剣の届く範囲から抜け出していた……ように、()()()()()()()()()()()はずだった。

 

 ギィ!?

 グゥ……ガ……

 

 ジーノくんの剣の刃が届かない範囲まで下がっていたはずの『スカーレット』たちが、まるで斬りつけられたかのようにいきなりのけぞった。それだけじゃない。体に斬りつけられたような跡ができたかと思えば、そこから「パキ……パキッパキッ」っと(こお)りついてきたのだ。

 でもわたし、あの『ウィンドゲイザー』を作った時に「氷属性付与」の特性を付けた覚えはないんだけど……それに、付けてたとしても、あんなに凍りついたりはしないはず……。

 

 傷口周りにできた氷の塊のせいか、それとも体を(こご)えさせる冷たさのせいか、『スカーレット』たちの動きは鈍っていく。そのため、マイスさんに負けないくらい素早い動きで追撃をかけてきたジーノくんの攻撃を避けることが出来ず、モロに受けてしまっていた。

 

 

「モッコモコー!!」

 

 そんな鳴き声が聞こえてそっちの方を見てみると、一体の『スカーレット』の両脚を両手で(つか)んで自分の身体ごとグルングルンと回転しているモコちゃんが。

 

 グギャァ!?

 ガァ……

 ギィッー!

 

 その様子はまるで小さな竜巻みたいで、わたしたちの後方に現れた『スカーレット』の群れへと突っ込んで巻き込んでいってた。最後には、掴んでいた脚をはなし(ほう)り投げ、遠くにいた別の一体へと勢い良くぶつけた。

 さらに、いつの間にか『スカーレット』のすぐそばまで近づいていたかと思えば、アッパーで打ち上げて……モコちゃんも跳びあがって『スカーレット』を掴み、そのまま落下と同時に地面に思いっきり叩きつけた。

 

 ……前に『青の農村』に行った時に、マイスさんが「村ではネコのなーが一番強い」みたいなことを言ってたけど、どう考えてもこのモコちゃんのほうが強いと思う。

 

 

 

 そうやってジーノくんとモコちゃんが『スカーレット』を倒しているうちに、いつの間にかあと一体までになっていた。

 

 残っていたのは、あの体が大きいボスらしき『スカーレット』。そいつが、ジーノくんと向かい合った。

 

 グゴアアァッ!!

 

「見せてやるよ! 師匠直伝の必殺技!!」

 

 そう言ったジーノくんは、わたしでも目で追うのがやっとなくらいの連続攻撃をボススカーレットに浴びせ……一旦距離を取ったかと思えば、凄い速さで突進して……

 

「うおおぉー! アインツェ……うわぁっ!?」

 

 さっきまでに倒した『スカーレット』のものだろう『角』を踏んでこけた。それも、ジーノくんは持っていた剣を放してしまって、剣は空中に放り出されて…………って、あれ?

 

ギイィヤャアアァアァァ!?

 

 ……ボススカーレットに突き刺さった。しかも、次の瞬間、ボススカーレットを中心に一瞬で大人よりもはるかに大きい氷の結晶の山が出来て……「パキィン!!」と砕け散った。

 そこに残ってたのは、ジーノくんが放り投げてしまった剣『ウィンドゲイザー』だけだった……。

 

 

 

 

 

「あいたたたっ……! あれ? た、倒せたのか……?」

 

「モコッ」

 

 前のめりにこけてしまい鼻を赤くしたジーノくんが、自分の目で見ることが出来なかったからかあんまり納得できていない様子で、確認するように言ってた。それに答えたのは、周りの敵をすでに全滅させていたモコちゃん。いつの間にかわたしたちのそばまで戻ってきてた。

 

「……な、なんとかなったのかな……? おねえちゃんたち、大丈夫!?」

 

 周囲にもうモンスターの気配がないことを確認したわたしは、周囲への警戒をといておねえちゃんたちのもとへ駆け寄った。

 

「ええ、私は……でも、メルヴィが……!」

 

「いやぁー、まさかトトリとあのジーノ坊やに助けられる日が来るとは……長生きはするものねぇ」

 

 そういつもの軽口の調子で言うメルお姉ちゃんだけど、その顔も、腕も、脚も……身体のあちこちが赤く染まっている。どう見ても無事ではなかった。

 

「わああっ!凄い血が!? 死んじゃう! メルお姉ちゃんが死んじゃう!!」

 

「死にゃしないわよ、この程度で……あーでも色々限界。ちょっとだけ寝かせて……」

 

 メルお姉ちゃんはそういうけど、大変な状況だとわたしは思った。

 だって、メルお姉ちゃんの身体には、致命傷と言えるほど深い傷は見当たらないものの、さっきから言っているようにあちこちに沢山傷を負ってしまってる。そのせいだと思うけど、地面に広がっている血の量から見積もって、どう考えても血の流し過ぎだった。

 

「ダメ! 目を閉じちゃダメー!!」

 

「メルヴィ? やだ、しっかりして! メルヴィってば!」

 

「……だ、大丈夫だって。だからちょっと揺すらないで……体に響く……」

 

 早く止血をしないと……これ以上血を流してしまったら、本当に寝たまま二度と起きなくなっちゃう!!

 でも、爆弾が底を尽きたように今のわたしのポーチの中はお薬も残念な状態で、とてもメルお姉ちゃんの全身の傷を治して塞いでしまえそうにない……どうすれば……!?

 

 

 その時、メルお姉ちゃんを薄緑色の光の流れが包んだ。……ううん、メルお姉ちゃんだけじゃない。わたしやおねえちゃんも、それぞれ薄緑色の光の流れに包み込まれたのだ。

 

「きゃ!?」

 

「なに? なんなの!?」

 

 わたしもおねえちゃんも驚き慌てたけど、薄緑色の光はほんの数秒ですぐにわたしたちの周りから消えた。

 

「トトリちゃん、大丈夫!?」

 

「う、うん。たぶん何ともないと思う……って、あれ?」

 

 とりあえず自分の身体に何かあったか確認しようと、身体に目を走らせていたんだけど……その途中にチラッと見えたメルお姉ちゃんに違和感を覚えた。

 

 

「メルお姉ちゃんの怪我……()()()()?」

 

「えっ、ウソ」

 

 ううん、間違い無い。相変わらず血まみれのままだけど、そこには傷らしきものは見当たらない。実際に触って確かめてみたけど、手に血はつくけどメルお姉ちゃんの肌はどこもツルツルしてた。

 

「ん……んんんっ! 静かになってくれたのはいいけど、ベタベタ触られると寝てられないんだけど……あら? まだちょっとフラフラするけど、身体が痛かったのはなくなってる?」

 

 「治してくれるの早いわね、ありがとっ」なんてメルお姉ちゃんは言ってくれたけど、わたしは何もしていない。

 

 いったい誰が……。というか、いったい何が……?

 

 

 そう思ってあたりを見まわしてみたけど、目に止まったのはジーノくんだけだった。……いちおう聞いてみることにした。

 

「……もしかして、ジーノくんが何かしたの?」

 

「いや? オレはなんにもしてないぞ? たぶんアイツだって」

 

 肩をすくめて首を振りながら、ジーノくんはそう言った。

 

「あいつ?」

 

「ほら、あのちっこいのだよ! アイツから変な光が出たの、オレは見たんだ。……今は、もうどっか行ってしまってるみたいだけどさ」

 

 ジーノくんにそう言われて周りを見てみたけど、確かにジーノくんが「アイツ」と言ったモコちゃんはどこにも見当たらなかった。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 色々と気になるけど、もう絶対に『スカーレット』が現れないと決まったわけじゃなかったから、とりあえずこの場を後にすることにした。

 わたしとおねえちゃんで、怪我は治ったけど本調子じゃないメルお姉ちゃんに肩を貸し、唯一戦えるジーノくんが護衛として付き、わたしたちは『アランヤ村』へと帰っていく……。

 





 ダラダラと続いてしまった一連のお話ですが、なんとか今回で一区切りということになりました。次回に、後日談じゃないですが少しだけ絡みはありますが、ひとまず終わりです。
 今回はあまりマイス君自身に関係の無いお話のように思えたかもしれませんが、今後の展開からすると色々と意味のあるお話だったりします。


 今後はお祭りと、ラストバトル。あと、マイロロのイチャイチャ……に至るまでのお話を進めて行くことになると思います。
 ……ちょっと前にも同じようなことを言ったような気が……? 気のせいですかね?

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