今回は本当に謝ることしかできません……。パソコンの前で寝落ちしたのは久々です。
『豊漁祭』!……は次回からで、今回は前回の最後にあった「トトリたちと金モコの交流回」……に見せかけた「フラグを建てる回」です。
最近、そういうお話が多い気がしなくも無いような……?
***青の農村***
「こうして来たってことは、やっぱりあの子も『
「それが、違うみたいで……。マイスさんが「いるように言っておく」って言ってたし、普段はあちこちに行ってるらしいから『青の農村』に住んでるってわけじゃないみたい」
「ふぅん、そうなんだ。まっ、青い布巻いてたし『
おねえちゃんの問いに答えたわたしの言葉に、メルお姉ちゃんが相槌を打つ……。そんな事をしながら、わたし達は並んで歩き『青の農村』へと足を踏み入れた。
「……で、どこにいるのよ? モコちゃんっていう例の金色のモンスターは?」
そう。メルお姉ちゃんが言う通り、今日わたし達が『青の農村』に来たのは、『アランヤ村』の近くまでスカーレットの群れが来たあの時にわたし達を助けてくれたモコちゃんに会うため。
あの時はお礼も何も言えなかったから、わたしもおねえちゃんたちも一度ちゃんと会ってお礼を言いたかったのだ。
それで、そのモコちゃんがどこにいるのかって話だけど……
「たぶんマイスさんのところに……あっ、でももしかしたら村の中をウロウロしてるかも? 落ち着いてるってイメージがあんまり無いし……」
「なら、途中で誰かに聞いてみたりしながら、マイスの家を目指せばいいんじゃない?」
「そうね。もしかしたらその途中でバッタリ会うかもしれないし」
メルお姉ちゃんの言葉に頷いたおねえちゃんが、そう言って「じゃあ、行きましょ?」と続けた。
……と、畑や畑に囲まれたお家に挟まれている村の中の道を歩いていると、向かっている方向から大きな荷物を背負った人がコッチに来ているのが見えてきた。
見えてきたその顔はわたしの知っている人だった。
その人はコオルさん。わたしが初めて『青の農村』に来た時に会ってから、ここに来るたびに何度も会っている人で、お友達……ってほどじゃないけど、こうして会っては世間話をしたりするくらいの仲になっている。
『青の農村』を拠点にして活動しているけっこう大手の行商人さん……らしいけど、わたしにはそんな印象が無くて、普段の村の運営とかお祭りとかをまとめている「村の偉い人」ってイメージが強いかなぁ?
なんていうか村長のマイスさんを差し置いて、実質の村のナンバーワンな気がする。それに、時々突拍子の無いことをするマイスさんのブレーキ役っていうイメージも……ちゃんと
「こんにちは、コオルさん。お出かけですか?」
「おうっ、トトリか。ちょっと街の奴と新しい取引があってさ、それでちょっとな。……と、そっちにいる二人は、確か前にも『
そう言ってコオルさんが目をやったのは、おねえちゃんとメルお姉ちゃんのほう。
そういえば、おねえちゃんたちとちゃんと会ったのは初めてだった気がするから、せっかくだし紹介しておいた方が良いよね?
「えっと、こっちがわたしのおねえちゃんで、こっちが幼馴染で村の先輩冒険者のメルお姉ちゃん。……で、おねえちゃん、メルお姉ちゃん、この人は『青の農村』を拠点に行商人をしてるコオルさんだよ」
「はじめまして、ツェツィーリアです」
「どうもー、メルヴィアよ」
軽く頭を下げて挨拶をするおねえちゃんと、手をヒラヒラさせて挨拶をするメルお姉ちゃん。
それに対して、コオルさんは二カリと笑って二人へ向かって話しだした。
「ああ、よろしく。紹介してもらった通り、オレはコオル。トトリにはウチのお祭りに参加して盛り上げてもらったり、ウチの村長を連れだしてくれたりしてもらってて、ずいぶん世話になってる」
「あの……お祭りのほうはともかく、村長のマイスさんを連れだすのはご迷惑になっていないんですか?」
コオルさんの言っていたことが気になったんだろう。おねえちゃんが、ちょっと不安そうにコオルさんに
聞かれたコオルさんはといえば……困ったように笑いながら首をすくめていた。
「それがそうでもないんだよな、これが。アイツの場合、程よく休めばいいのに普段からずーっと働くし、祭りの準備でも人の仕事を取ってしまいかねないくらい働こうといるからな。アイツのチカラは心強くはあるし色々と頼ってる部分はあるんだけど、働き過ぎられるとそれはそれで困ったことになるんだよ、いろんな面でな」
そう言って「ハアァ……」と深いため息をついたコオルさん。
説明を聞いてもおねえちゃんとメルお姉ちゃんには、具体的にそれがどう問題になるのかわからなかったみたいで、少しだけ首をかしげてしまってた。前にそのあたりのことを聞いたことがあるわたしはといえば、「あははは……」となんとなく笑っておくことしかできなかったよ……。
「そういえば、トトリたちは何の用で来たんだ? またマイスか?」
「マイスさんって言えばマイスさんかもだけど、正確にはモコちゃんに用があって……それで、前に来た時にマイスさんにモコちゃんに会えるようにお願いしてたんです」
わたしがそう言うと、コオルさんは納得したみたいで「ああ、なるほど」と頷いた。
「しっかし久しぶりだな、アイツに会いに『
「えっ、前は沢山いたりしたんですか?」
「まあな。一時期から「幸せを呼ぶ金色のモンスター」だとかそういう噂が広まってさ、そのころはよく外から来た奴が「いませんか?」って村の人間に聞いたりしてたんだ」
「あっ、その噂ならアタシも結構耳に挟んでたね。ちょうどアタシが『冒険者』になったころだったかしら? 他の噂が悪い意味で気になって、アタシ自身はコッチには行かなかったけどさ」
「今はこうして普通に来てるけどね」とメルお姉ちゃんは付け足して言った。
そういえば、わたしが「幸せを呼ぶ金色のモンスター」の話を聞いたのはメルお姉ちゃんからで、その時、他にも「クワでグリフォンを追い払う」とか色んな噂のことも聞いたんだっけ?
わたしはそんな事を考えていたんだけど、目の前にいるコオルさんは目を瞑って少し黙ったかと思えば、短いため息を吐いた。当時のことでも思い出していたのかもしれない。
「あの頃は大変だったぜ。そういう奴が来る
「マイスさんのところに? それって、やっぱりあの子はマイスさんがお世話してるんですか?」
「んー、そういうわけじゃねぇんだけど、今は違うが、当時はマイスしか村のモンスターたち全員のことを把握できてる奴がいなくてさ。あとは……あのモンスター自体がちょっと特殊つーか……」
腕を組んで喋っていたコオルさんだったけど、そこまで言ったところで口を止めて少し俯いたような体勢で首を振った。そして、顔を上げたかと思えば、わたし達にニカリと笑いかけてきた。
「話そうと思えばいくらでも話せるけど……そろそろオレも時間でさ。悪いけどここまでだな」
「あっ、すみません、呼び止めちゃって」
「気にすんなって。まぁ、今回トトリたちはマイスに事前に言ってるみたいだし、問題無いと思うぜ? じっくり話してみたりしていきな」
そう言ってコオルさんは「じゃっ!」とわたし達を通り過ぎて街の方へと向かって行った……。
「あのコオルって人が言うには、アタシらが考えてた通りマイスの家に行けばいいってことよね?」
「うん、それで間違い無いと思う」
メルお姉ちゃんの確認にわたしは頷いてみせる。
……と、おねえちゃんが何故か歩いて行ってるコオルさんの後ろ姿をじーっと見つめていた。
「どうしたの、おねえちゃん?」
「えっ、ちょっとね……あの人、ジーノくんみたいに砕けた話し方だったけど、その割にはなんだか凄く真面目そうな感じがして……ちょっと驚いちゃったの」
おねえちゃんの言うことは、なんとなくわたしにもわかった。
けど、わたしの場合はコオルさんの事を色々知ってるからだったりもするんだけど……。
「聞いた話だと、村のお金のこととかお祭りの計画とかはコオルさんがまとめてるらしいよ?」
「それって村長のマイスの仕事じゃないの?」
メルお姉ちゃんの指摘に、わたしとおねえちゃんは「そうだよね」と頷く。
本当に、事実上の村のトップってコオルさんなんじゃないかなぁ……?
そんな事を思いながら、わたし達は改めてマイスさんの家へ向かって歩き出した……。
――――――――――――
***マイスの家前・玄関***
いちおう村の中にモコちゃんがいないか、キョロキョロ周りを見て確認しながら歩いていったわたし達。
そして、特に何も無くマイスさんの家へとたどり着くことが出来た。
さっそくノックをしようとしたんだけど……少し気になることが……。
「……? マイスさんの声?」
そう。普通にしてても外から聞こえるくらいの声でマイスさんが何かを言ってるような気がする。
思わず漏れ出していたわたしの呟きに、おねえちゃんが頷いてくれた。
「そうみたい。お客さんが来てるのかしら?」
「例の金色のモンスターとかかもよ? でも、マイス以外の男の声もするから違うかも。なんか聞いたことがある気がするんだけどなぁ?」
そう言って、メルお姉ちゃんは首をかしげる……と、思いきや、そのまま横移動をして玄関の横にある窓から中を覗きこみ始めた。
「あっ、なるほど。アイツだったかー。それにあの様子だと、ノックしてもしかたないしだろうし入っちゃおうか?」
窓から離れて、再びわたしとおねえちゃんのそばに戻ってきたメルお姉ちゃんが、そう言って玄関の扉を開いた。
……って、勝手に入ってもいいのかな? ……これまでにいるかどうかわからなくて、何回か入ったことはあるけど。
ちょっと不安に思いながらも、わたしはメルお姉ちゃんに続いてマイスさんの家へと入っていく。
――――――――――――
***マイスの家***
「理論はだいたいわかった。……け・ど! 僕は認めないよ!」
「ホントに頭が固いんですね、マークさんは! 何度も説明しましたけど、この『魔法』は『ルーン』を
「だーかーらー! そのそもそもの『ルーン』が気に入らないって言ってるんだよ!! 『プラントゴーレム』の説明の時にも聞いたけど、なんだいその不思議パワーは!? 人やモンスターが内に秘めてるだとか、大地や空気中にも存在してるって言うけど、僕は一回も見たこと無いし感じたことも無いよ!?」
「見た事はあるでしょう!? うちの周りなんかにもいるフワフワ浮いてたりする『ルーニー』を! あの子たちは『ルーン』の集合体で、精霊とかそういったスピリチュアルな存在で……」
「不思議パワーが不思議生物を呼んだだけじゃないか! アレらが生物かどうかは怪しいけども!」
「えーっと……どういう状況なんだろ、これ」
本が数冊おかれたテーブルを挟みながらも、それぞれイスとソファーから腰を浮かし気味に身を乗り出すようにして言い合っているのは、この家の持ち主のマイスさんと
何のことを話しているのはさっぱりだけど……二人ともケンカしているかのように、結構大きな声で言い合ってる。
「よくわかんないけど……力づくで止めてみる?」
「ちょっとメルヴィ!? いくらなんでもそれは……!」
握りこぶしで自分の手のひらを殴るようにして手を叩いてたメルお姉ちゃんを、おねえちゃんが驚きながらもすぐに止める。そうするとメルお姉ちゃんは「冗談よ」とケラケラ笑ってた。
……まぁ、わたし達がそんなことをしている間にも、マイスさんとマークさんの口論は白熱していってて……。
「ですから! そこで『ルーン』と使用者の意識とイメージが……」
「そこのことはもう大方わかってるんだって! 問題はその『ルーン』の存在の証明であってだね、キミの言う『魔法』の原理じゃないんだよ!!」
「あるったらあるんです! ロロナの師匠のアストリッドさんは、僕が何か言う前に空気中から『ルーン』を
「なんだいその言い草は!? 化学が錬金術により劣ってるとでも言いたいのかい!? いいだろう! 僕も科学のチカラで『ルーン』とやらを見つけ出してみせようじゃないか!!」
マークさんがそう言って勢いよく立ち上がり、わたし達のいる玄関のほうへとカツカツと歩いてきた。
……で、こっちに来たマークさんも、そのマークさんを目で追っていたマイスさんも、ここでようやく私たちのことに気がついたみたいで、ふたりともハッとした顔を一瞬だけしてた。
さっきまでの強い口調と勢いは何処へ行ってしまったのか、いつもの猫背とゆるい表情になったマークさんは、わたし達を見てにへらと笑った。
「いつぞやぶりだね、お嬢さん。いやぁ、お見苦しい所を見せちゃったね。どうしても熱くなってしまう話題でね、少々騒がしくなってしまったよ。……まぁ、僕はこれで失礼するから、ゆっくりしていくといい」
そう言ったマークさんは、わたしの横を「おっと失礼」と一言言ってから通り過ぎ、玄関の扉を開けた。
……と、はたと何かを思い出したのか「あっ」と声をもらして振り向いてきて、わたし達のほう……では無く、その向こう側のマイスさんのほうを見て口を開いた。
「そうそう。最初の
「あっ、はい。わかりました」
さっきまでの言い争いは何だったのかと思ってしまうほど、アッサリとマークさんとマイスさんの間で交わされる会話。
それにわたしが驚いているうちにマークさんは「じゃっ」と外へと出ていってしまう。
そうして残されたのは、マイスさんとわたし達なわけで……イスから立ち上がったマイスさんがわたし達のほうへと向きなおった。
「いらっしゃい。ええっと……とりあえず『香茶』を淹れなおしますから、みなさん座って待っててくれませんか?」
――――――――――――
用があるのはモコちゃんにだから『香茶』は断ろうかとも考えたけど、マークさんが出ていった後のあの場の何とも言えない空気のせいでなんとなく断れなくて、わたし達は言われるがままイスとソファーに座ることとなった。
……少し経ってから、キッチンのほうから『香茶』を持ってきたマイスさんに、わたしはさっそく話を切り出そうとして……それよりも先に、マイスさんのほうからわたしに話しかけてきた。
「来てくれたところに悪いんだけど……実は僕、今からちょっと予定があって家をあけなきゃいけないんだ」
「ええっ!? そんな……」
「あっ、ううん! トトリちゃんたちは家にいてくれていいんだよ? 今からでかけるついでにあの子に「トトリちゃんたちが来た」って伝えるから」
そう言ってマイスさんは、こっちを向いたまま玄関のほうへと後ろ歩きで歩いて行く……。
「ん? でもそれなら、アタシたちも出ていって会いに行ったほうが早いんじゃないの」
うん。確かに、メルお姉ちゃんの言う通りだと思う。わたしも、マイスさんと一緒に出た方がいいんじゃないかなーって気はしてる。
「それに、マイスさんがいないのに居座るのって迷惑にならないかしら……?」
お姉ちゃんも申し訳なさそうにマイスさんに言っている。
けど、対するマイスさんは玄関の扉に背中をくっつけた体勢で、ブンブン首を横に振ってた。
「ううん! せっかくきてくれたんですから、家でゆっくりしていってください! ……というか、留守番をしてもらっちゃう感じで、むしろありがたいくらいですよ? だから、冷蔵庫の中身を勝手に食べちゃうくらい好き勝手してくれてもいいです!」
「いや、いくらなんでもそれは……」
いちおうわたしがマイスさんにツッコミを入れるけど……半分予想していた通り、特に触れられずにスルーされてしまう。
そして、マイスさんはそのまま扉を開けて……
「そんなにかからずに帰ってきますけど……気にせずゆっくりしててくださーい」
そう言い残して出ていってしまった。
「……なんかマイス、変じゃなかった?」
玄関の扉をジーッと見つめ続けてたメルお姉ちゃんが、ポツリとそう呟いた。
「そうかしら? マイスさんが親切過ぎるのはいつものことだと思うんだけど……?」
「それはそうだけどさぁ、なんかねぇ……」
おねえちゃんの言葉に、腕を組んで首をかしげるメルお姉ちゃん。
見慣れてるはずなのに、目がメルお姉ちゃんの胸元にいっちゃうのは……わたしじゃなくてメルお姉ちゃんが悪いと思う。
……って、今はそういうのじゃなくて!
「何言ってるのメルお姉ちゃん、マイスさんが変なのはいつものことっていうか、昔からだよー?」
「「…………」」
……なんでだろう? メルお姉ちゃんとおねえちゃんの視線がわたしに突き刺さってる気がする。
コンコンコンッ
と、不意に玄関のほうからノックの音が聞こえてきた。
「はーい!」
アトリエにいる時の癖で、ついつい反射的に返事をしてしまって、ハッとなって手で自分の口を押えちゃった。
そのわたしの返事を聞いてかどうかはわからないけど、ゆっくりと玄関の扉が開いて……
「モコッ!」
プルプルと震えながら背伸びをし、がんばって扉を開けているモコちゃんだった。
その姿を見て笑いそうになり、それをなんとか
「いらっしゃい、モコちゃん」
「いらっしゃい、って、ここアタシ達の家でもないんだけどねぇ……」
そんなメルお姉ちゃんからのツッコミが聞こえたけど、気にしないことにした……。
どこかで見たことのあるような最後のやりとり。
次回はちょっと飛んで、ついにあの『豊漁祭』!
いろんな意味でやりきれそうか心配です。投稿が遅れてたら「あぁ……上手く書けてないんだな」と察してあげてください。
Q、トトリたちと金モコとの交流は?
A、カット。