マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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※※注意!※※
 このお話には「原作改変」「捏造設定」等がいつも通りに含まれている上に、紳士的な表現や描写が混入しています! ご注意くさだい。


 前回「更新するよ!」と言っておきながら、結局、告知無く一回分更新が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした!
 それだけ力が入っている……と、自信を持っては言えませんが、頑張りました。過去最長19000字越え、第二位の約1.5倍になりました。

 今回のお話はサブタイトルに名前がないように、誰の視点でもないお話となっています。


 そして今回、一部を除いてキャラのセリフは大体原作通りですが、地の文やモブがちょっと大変なことになってしまっています。祭のイベントの内容が内容だけに、紳士的な表現やらが多々あるかと……。R-18までは決して行きませんが、CERO:Bくらいだと思ってください。下手すれば、黒歴史待った無しなお話になってしまったと思っています。
 ……あくまで、個人の感想ですが。

 そう大きな意味があるわけじゃありませんが、作者の勝手な考えに寄り原作とは変更された点は、「声援」などといったわかりづらいものでなく単純明快な「票」になったことです。
 「なんのこと?」と思う人もいるかもしれませんが……あんまり気にしなくていいです。

今回の『豊漁祭』、お話の中で説明されている「アレ」については、気になる方は「トトリのアトリエ 豊漁祭」で画像検索をしていただければ、画像が出てきてみることが出来ると思います。


 そして……途中、諸事情でお見苦しいものが挿入されていますが、大目に見ていただければ幸いです。



豊漁祭《上》

 『アランヤ村』。

 

 『アーランド共和国』の中心地である『アーランドの街』から見て南にある海岸沿いの村である。

 海のすぐそばということもあって、主な産業は漁業。そこで得られるものを自分たちで使ったり、村の外の人間と売買することで生計を立てている村だ。……もちろん、漁業以外の農業等も「盛ん」とは言えないが行われている。

 

 また、アーランドの中で唯一の外洋に出れる船を有している場所でもある。

 正確には「外洋船を作れるのは、造船技術が発達している『アランヤ村』くらいだろう」という見解と「大きな船を満足に泊められる立派な港がある土地が無い」という理由で、アーランドには『アランヤ村』以外には外洋船が存在しないのだ。

 

 

 そんな唯一の要素も持っている『アランヤ村』だが……お世辞にも「賑やか」とか「活気がある」とは言えない村である。

 

 別に、村人がいなくて村としての機能が死んでしまっているとか、そういった深刻な事態に(おちい)っているわけではない。多いとは言えないが、村人たちはちゃんといて各々自分の仕事を持ち、時に助け合いながら生活している。

 

 では、何が問題か。

 

 それは、外からの人の出入りが少ないことだ。

 来る人は魚やその加工品の買い付けに来る商人か、たまたま近くの採取地を探索していた通りすがりの冒険者。あとは、この村でアトリエを開いている錬金術士トトゥーリア・ヘルモルト、通称トトリの知り合いくらいだろう。そして、そのどれもがあまり頻繁にやって来るわけでも、大勢で来るわけでもないため、村がそう賑やかになることは無いのだ。

 

 「外洋船は?」と思うかもしれないが、そっちはそっちで「利用する利点が無い」&「大きな危険がともなう」ということで、必要とする人自体が(まれ)である。

 というのも、外洋に出てもあるのは、未踏……ではないものの未開である島々や大陸であり、冒険者以外にはあまり見向きもされない。さらには、外洋に出れば出るほど遭遇するモンスターが強くなるうえ、一度撃退されたとはいえ『フラウシュトラウト』のような規格外の凶悪モンスターの出現も有り得ないわけじゃないため、高ランクの冒険者であっても気軽に行ける場所ではないからだ。

 

 

 まぁ、そんなわけで『アランヤ村』は賑やかで活気のある村とは言い難いわけだ。

 ……比べる対象が、街のすぐそばの『青の農村』だということは、ちょっとかわいそうな気もするが。

 

 

 

――――――――――――

 

 

***アランヤ村***

 

 

 

 そんな『アランヤ村』なのだが……『アランヤ村』を訪れた『青の農村』の村長という肩書を一応持っているマイスには、今日の『アランヤ村』は心躍るものだった。

 

 

「うわぁー……! 賑やかだねぇ、やっぱりお祭りはこうじゃないと!!」

 

 

 そう! なんといっても、今日は『アランヤ村』の『豊漁祭』の開催日。

 村のあちこちが飾り付けられ、食べ物・飲み物・お土産物各種の出店が村のあちこちに出ている。また、アランヤ村の人たちの宣伝の賜物(たまもの)か、はたまたどこからか噂を聞きつけたのか、村の外から来た人も多いようで普段とは比べ物にならないほど人通りが多い。

 『アランヤ村』は今まさにお祭りの空気で満たされているのだ。

 

 そんな場所に来て、あのお祭りでも有名な『青の農村』の村長であるマイスがテンションを上げずにいられるだろうか? いや、そんなはずはない。

 なお、村長だからではなく、正しくは……『シアレンス』で季節ごとのお祭りが楽しみのひとつになり、アーランドに来てからは年に一度の『王国祭』だけで少し不満を感じ、共和国になり『王国祭』がなくなってしまってからは、新たにできた自分たちの村でお祭りを開催するようになるくらい……お祭りがいつの間にか好きになってしまっていたからなのだが……。

 その『青の農村』のお祭りが、マイスが時には私財をガッツリ使っているという事実を知れば、その祭り好き加減も知れることだろう。……お祭りで消費したマイスの私財の総額(そうがく)を知る事はあまりオススメしない。

 

 

 

 さて、そのマイスだが、今日の『豊漁祭』には一人で来ているわけではなかった。

 

 

「は~。『青の農村』の祭と比べりゃ人数は少ねぇけど、村の規模的には上出来な感じか?」

「そうね。むしろ、普段との人の多さの差はコッチのほうが大きいんじゃないかしら? ……リオネラ、人が多いけど大丈夫?」

 

「う、うん。こういう人混みは『青の農村』のお祭りで慣れたから……」

 

 ……アラーニャの問いにそう答えながらも、時折周りをキョロキョロして少し落ち着きが無い様子なのはリオネラ。そう、マイスは以前考えていた通り、『トラベルゲート』を使って午前中に街での人形劇の公演を終えたリオネラを連れて『アランヤ村』に来たのだ。

 

 そしてもう一人……。

 

「ここがマスターの弟子の生まれ故郷ですか……。おにいちゃん、ホムは彼女のことを何と呼べばいいのでしょうか?」

 

「えっ? うーん……普通に「トトリ」とか「トトリちゃん」でいいんじゃないかな?」

 

「わかりました」

 

 マイスの言葉にいつもの仏頂面で頷いたのはホムンクルスのホム。

 ホムがこんな質問をしたのは、創造主であるアストリッドを「グランドマスター」と呼び、そのアストリッドの弟子であるロロナを「マスター」と呼んでいるので、そのまた弟子であるトトリのことも「○○マスター」などと呼んだほうがいいのでは? と、ホムちゃん自身が考えたからなのだろう。

 ……そういうことを聞くのは、マイスにではなくてアストリッドに聞くべきなのだが、この場にいない以上仕方ない。

 

 ホムがマイスたちと共にいるのは本当に偶然で、今朝たまたまマイスの家を訪ねてきたからである。……少し時間がズレてしまっていたらマイスがいなかったわけなので、なんとも運が良いというか……。

 

 

 

 マイス、リオネラ、ホムの三人組は、あちこちに出ている出店を眺めたりしながら、とりあえず村の中心の広場のほうへと歩いて行っていた。なお、普段よりも人の行き来が多いため、アラーニャとホロホロはリオネラの両サイドには浮いておらず、アラーニャをリオネラが、ホロホロをホムが抱きしめる様にして持ち運んでいる。

 

 ……と、そんなマイスたちの進んでいる方向から三人の知った人が歩いてきた。むこうもマイスたちに気付いたようで、ちょうど目が合った。

 その人物とは、『アランヤ村』出身の冒険者であるジーノ。マイスはもちろん、リオネラやホムともいちおうは面識がある。

 

「あっ、マイス。それに、人形劇のねぇちゃんとちみっこも……」

 

「やぁ、ジーノくん! お祭り、楽しんで……て、どうしたの? その左頬(ひだりほほ)?」

 

 いつもより二割増しに元気な挨拶をしたマイスだったのだが、何やら元気が無い……というか、上の空なジーノを不思議に思い首をかしげていた。そして、変な様子のジーノの中でも目立っている、何故か真っ赤になっている左頬のことを本人に聞いてみるのだった。

 

「虫歯? いやでも、なんだか手形のようにも見えるような……?」

 

「な、なんでもねぇって!! じゃあな!」

 

 マイスの言葉で何故かハッとしたジーノは、それ以上の言及(げんきゅう)を避けるように、手で頬を隠しながら別れの言葉と共に足早にマイスたちの(わき)を通り過ぎていった…………っと。

 

「あっ」

 

 余りにも普段のジーノとは違う様子だったため、ちょっと心配になり通り過ぎていったジーノのことを振り返ってまでして目で追っていたマイスだったが、謎の呟きと共に不意にジーノの背中が止まったことに少し驚く。

 そして、そのジーノもマイスたちのほうへと振り向き、口を開いた。

 

「酒場、今日は何もしてないから入るなよ! 絶対だぞ!?」

 

「え? うん、わかったよ……?」

 

 いきなりで何のことかさっぱりだったマイスだが、とりあえず反射的に了解の返事を返した。それに満足したのか、ジーノは再び歩き出し、マイスたちからドンドン離れていった……。

 

 

「……なんだったんだろう?」

 

「さぁ? ホムにもわかりません」

 

 マイスの呟きに首を振りながら言葉を返すホム。その言葉にマイスは「だよね」と相槌を打ち、その上で気になっていたことを口にする。

 

「左頬は目立ってたけど……なんだか()()()()()()()()()()ような気がするんだけど、僕の気のせいかな?」

 

「確かにそんな気が……。それに、なんだか耳まで赤かったような気もするような……?」

 

 マイスの言葉にリオネラが同意して、付け足して言った。

 

 ジーノの変な様子や謎の注意が何だったのかはわからず、揃って首をかしげる三人……。とはいえ、ジーノ本人が何処かへ行ってしまった以上考えても答えは出てこないわけで……

 

「もしかして風邪かな?」

 

「せっかくのお祭りなのに……ちょっとかわいそうだね」

 

「ホムは「バカは風邪をひかない」と聞いたのですが……」

 

 三人の中では、そんな結論で落ち着いた。

 

 

 ……実際は風邪などではなく「ジーノ(ぼうけんしゃ)」だったのだが……それはまた別の話である。

 

 

 

 

 そんなこんなで、マイスたちは噴水のある『アランヤ村』の広場までたどり着いた。

 ここにくるまでに見たお店の中に気になったお店は三人とも各々あったのだが……それよりも先に確認しておかなければいけないことがあった。

 

「トトリちゃんやロロナたちが手伝ってることが何かあるはずなんだけど……いったいどこにいるんだろう?」

 

 そう。マイスが言っているように、トトリたちもこの『豊漁祭』で何かをしているはずなのだ。マイスと一緒にいるリオネラも()()のためにトトリから声をかけられていたのだが、人形劇の都合で断ったという経緯があった。

 

「若くて美人の女性を八人……でしたか? 看板娘にしては人数が多いとホムは思うのですが?」

 

「そうなんだよね。それに、何をするのかはトトリちゃん自身も知らないみたいだったし、よくわからなくって……」

 

 せめて何をしているのかがわかっていれば、どのあたりにいそうだとかわかりそうなのだが、マイスたちにはそれすらわかっていないのでどうしようもなかった。

 

 

 マイスが「トトリちゃんたちに会うのはひとまず諦めて、お祭りを楽しんでしまったほうがいいかな?」と考えだしたのだが……

 

「……? あっち、人が集まってる?」

 

 リオネラが不意にこぼした呟きにマイスと、そしてホムも反応した。

 二人がリオネラの視線を追ってみると……確かに、一角に人が沢山集まっている。よくよく見てみれば、その人々が幕を下げられた劇場のような屋根付き箱型の大きなステージを囲むようにして集まっていることがわかった。

 それを見て、マイスが首をひねる。

 

「あんなところにあんな建物無かった気がするけど……もしかして、何かイベントでもしてるのかな?」

 

「そうなんじゃない? それ以外にあんなのをわざわざ作る理由がわからないわ」

「つっても、そんなに盛り上がってる様子じゃねぇから、まだ始まってないのかもしれねぇな」

 

 アラーニャとホロホロが各々見た感想を言う。そして、それに続くようにして、ホロホロを()(かか)えているホムが、マイスの顔を見ながら彼に問いかける。

 

「おにいちゃん、行ってみますか?」

 

「うん……でも、もう人がいっぱいで、あの中に割って入って前にいくのはさすがにできないし……正面じゃなくて、人の少ない脇の方から観てみることにしよっか」

 

 その提案に、ホムもリオネラも頷いた。特にリオネラのほうは心なしか力強く頷いていた気がする。ある程度は人混みに慣れたとはいえ、やはりできる限りは避けたいのだろう。

 

 

 ……というわけで、マイスたちはステージの方へと移動を始めた。

 

 

 三人が端の良い感じの位置に移動出来たころ。ちょうどその時にステージ上に一人の男性が上がり、観客たちがにわかに騒がしくなり始めた。

 そう。『豊漁祭』のメインイベントが始まる時が来たのだ……。

 

 

――――――――――――

 

 

「あーあー。会場にお集まりの主に紳士(ジェントルマン)の皆様。大変長らくおまたせしました。アランヤ村『豊漁祭』メインイベント『美少女水着コンテスト』、いよいよ開幕です!」

 

 ステージの(はじ)でそう高らかに宣言したのは、『アランヤ村』出身、村と街の間を中心とした馬車の御者を生業(なりわい)にしている青年、ペーター。

 そのペーターがステージ脇にあった縄を引っ張ると、ステージの大半を隠していた幕が左右にシャーッと開かれた。

 

 幕に隠されていたステージ、そこにいたのは……並んで立っている、()()()()()()()()()()()()()

 

 

「こ、ここ、こんなの聞いてないですよー!?」

 

 そう弱々しい声で泣きそうになりながら、しゃがみ込んだ上に腕で何とか体をかくそうとしているのは、フィリー。緑と黄緑をベースとしたボーダー(がら)の、バスト部分はチューブタイプの上下でわかれた(セパレート)水着を着ているが、本人が隠そうとしているため中々にわかり辛い。

 

 

「いえ~い! みんな楽しんでる~?」

 

 フィリーと打って変わって楽しそうにポーズを取ったり、観客に手を振ったりしているのは、パメラ。彼女が身につけている水着は白と黒を基調として落ち着いた色合いの草花のデザインなのだが……形状がなんとも表現し辛く、胸部は二本の帯が交差して左右の胸を隠すようになっている。……とにかく、色合いとは裏腹に大胆なデザインの水着だった。

 

 

「ま、たまにはこういうのもいいかもね。ほら、アンタも前出なさいって」

 

 特別恥ずかしがる様子もみせたりせず、そんな事を言いながら隣にいる幼馴染の背中を叩いているのは、メルヴィア。着ている水着は「ビキニ」と言われて真っ先に思いつくであろうセパレート水着。色は明るいメルヴィアらしい、赤、橙、黄、黄緑の暖色のグラデーションになっていた。

 

 

「や、やだ! ちょっと、押さないで!」

 

 一歩下がっていたのにメルヴィアによって前に出されたのは、ツェツィ。茶色をベースとしたチェック柄のスカート付きワンピースタイプの水着を着ていて、これまでの水着の中では肌面積が少ないように見える。が、実は背中のほうはバッサリと開いているため、背中側にフェチズムを感じる人であれば(おもむき)深いもの……なのかもしれない。

 

 

「あ、あははは……さすがにこれは、恥ずかしいね……」

 

 頬を赤く染め、本人の言葉通り恥ずかしそうにしているのは、ロロナ。普段着ている服と同様に赤とピンクを基本色としたビキニ水着。ただ、メルヴィアとは違い、腰にパレオと呼ばれる布を巻いているため、全体の印象がまた違ったものとなっていた。

 

 

「恥ずかしいなんてもんじゃないわよ! なんであたしが、こんな見せ物みたいにっ!!」

 

 恥ずかしさと怒り、その他諸々が混ざってしまい色々と大変そうなのは、クーデリア。彼女が身に付けているオレンジ色の水着はオーソドックスなワンピースタイプの水着で、あえて特筆するべき点は、肩紐や水着の(ふち)などに細かなフリルがついていて可愛らしいことくらいだろう。

 

 

「トトリ……? あんたには後でゆっくり話があるから、覚悟しておきなさい」

 

 もの凄く鋭い目つきで、今回ステージに上がっている女性陣を集めてまわった人物を睨みつけているのは、ミミ。その水着は見る人(別世界の人間)が見れば「赤のチャイナドレス」と表現しそうなデザインで……違いといえば、水着ということもあって(たけ)(また)と同じくらいまでしかないことくらいだろうか?

 

 

「そ、そんなこと言われても、わたしも知らなかったしー!」

 

 睨まれながらも、自分も被害者であることを主張しているのは、トトリ。彼女はクーデリアと同じく縁に小さなフリルがあしらわれた、青と水色のビキニ系のセパレート水着を着ている。また、左右の腰のあたりに結ばれている青いリボンがワンポイントとなっていていいアクセントになっていた。

 

 

 水着姿の八人の女性に、会場の熱気はさらに高まる。当然だ。男は単純で……なおかつ紳士となれば、その結束力も半端ではない。これが盛り上がらないはずがなかった!

 

 

「さてさて、それでは順番にお話をうかがっていきましょう。なお、このコンテストの優勝を決めるのは皆さんの票です! 最後の投票の際に、お気に入りの娘のエントリーNO(ナンバー)を書いて投票してください!」

 

 ペーターからの説明を受けて、紳士と少々の淑女たちは応えるように「おおー!」と歓声をあげた。

 

 そして、ここからが本番。

 出場者を一旦、観客からは見え辛いステージ脇の舞台(そで)にさげ、一人づつステージに出てもらいインタビューをする……いわゆるアピールタイムだ。

 ……出場者たちにアピールする気があるかは不明であるが。

 

 

 

 

 

 

「それではエントリーNO.1番! アーランドの冒険者ギルドの受付嬢! フィリー・エアハルトさん!」

 

「え、え、わ、私ですか? あ、あの、そのぅ……」

 

 ペーターに呼ばれて舞台袖から出てきた……というよりは、ノリのいいパメラとメルヴィアに押し出されて出てきてしまったフィリーは、未だに落ちつかない様子でキョロキョロしながら(ちぢ)こまってしまう。

 

 そんな様子はお構いなしに、ペーターはイベントを進行していく。

 

「いやー、本日ははるばる遠いところをありがとうござい……」

 

「きゃあああ! ちち、近づかないでください! それ以上、だめー!」

 

 ……まあ、そうなるだろう。慣れた『冒険者ギルド』の受付ならまだしも、こんな大勢の人前、それも水着姿で男性に近づき喋るなんてことは、あのフィリーには無理な話だ。

 

 だが、そんなフィリーの性格や事情も知らず、察してやれるほど立派な大人ではないペーターはといえば……

 

「え……でも、近づかないとお話をうかがえないですし……」

 

 無自覚ではあるものの、容赦無くフィリーに近づいた。

 

「いやー! こないでー! 変態(へんたーい)!!」

 

 そうなれば当然逃げだすのがフィリーだ。涙目になりながら一瞬にして舞台袖のほうへと帰って行ってしまった。

 なお、観客たちの方からは何故か「ありがとうございますっ!」という声がちらほら聞こえてきていた。

 

「あー……トップバッターということで、かなり緊張されてたみたいですね」

 

 最後まで的外れなことを言うペーター。実に残念……残念なのは元からだった。パーツパーツは結構美形なのに猫背やら表情やら内面がアレなため、ペーターは残念な奴なのだ。

 

 

 

「気を取り直していきましょう。エントリーNO.2番! 村のオジサマ方に(ひそ)かな人気を(ほこ)る『パメラ屋』の店主。パメラ・イービスさん!」

 

「は~い♪ 今日はあたしのために集まってくれてありがと~!」

 

 ノリノリ以外に言葉の見つからない調子のパメラ。おそらくは彼女が最も観客へのファンサービスをする人物だろう。

 なお、人気だったのは『アランヤ村』のオジサマだけではなく、『アーランドの街』でも一定数のファンを持っていた。そして、実はどこから聞きつけたのか、観客の中に街在住のパメラファンが混ざっていたりする。……奥さんのいるオジサマは、怒られたりしないのだろうか?

 

「いやあ。ノリノリですね、パメラさん」

 

「うふふ。あたし、こういうのに一度出てみたかったの」

 

 そう言って体を左右に揺らしながら笑うパメラ。紳士な観客の大半はその揺れに合わせて揺れる豊満な胸に目を取られている……。これはパメラの計算ではなく偶然だろう、魔性というやつかもしれない。

 

「さすがパメラさん。見た目だけでなく、心も若々しい。……しかし、本当に歳をとってませんね。村に来たのは何年も前なのに、全く見た目が変わって無いような……何か、若さを保つ秘訣でもあるんですか?」

 

「無いわよ? ただ、あたしは歳をとらないの。死んじゃってるから」

 

 ペーターの、本人にとっては何気ない質問。だが、それへのパメラの返答によって場の空気が一瞬固まった。

 

「……え? すみません、よく聞こえなかったんですが……?」

 

「だから~、もう死んじゃってるの。だから、歳はとらないの」

 

 今度こそ鮮明に、全員の耳に届いたであろうパメラの言葉。そこで「え、ええ~っ!?」といった感じに大騒ぎにならず、「何言ってるんだ?」となるのは良いのか悪いのか……。

 そんな中で、街からのファンで昔のパメラを知っているオジサマは「まったく、そんなことも知らないのか……それにしても、他人(ひと)を驚かそうとするおちゃめさは相変わらずだな」と、優越感に(ひた)りつつ彼氏面をしていた。……なお、そんなことを考えている人は複数人いるため、パメラは色々とオジサマ方をカンチガイさせてしまっているようだ。

 

「んー、えー……ま、祭りのテンションで少々舞い上がっているようですね」

 

 またもや的外れな事を言うペーター。……だが、今回はさすがに仕方ない気もする。

 

 

 

「次、次に行きましょう! エントリーNO.3番は……ああ、まあ来るんじゃないかと思ってました。メルヴィアさんでーす」

 

「はーい、どうもー」

 

 先程までの紹介よりもあからさまにやる気がなくなっているペーター。また、呼ばれたメルヴィアもいつも通りの調子で軽い挨拶をして出てきた。

 

「はい、ありがとうございました。それでは続いて……」

 

「ちょっとちょっと。さすがに扱いが悪すぎるんじゃないの?」

 

 紹介してすぐに退場させようとすることに、抗議の声をあげるメルヴィア。しかし、幼馴染で気の知れている間柄だからか、ペーターは遠慮も無く、自分の気持ちのまま態度もそれ相応に適当な感じで、メルヴィアを軽くあしらうように言う。

 

「それは司会者権限ということで。はいはい、時間もおしてますからー」

 

「ふーん、今日はずいぶん強気なのねー。いくら優しいあたしでも、怒ることくらいあるのよー?」

 

 まぁ、ペーターが強気でいったところで、昔からの力関係が(くつがえ)ったりはしないのだが。

 さすがのペーターもメルヴィアが怒っていることには気付き、途端に低姿勢になる。

 

「あ、あの……今はほら、大勢のお客さんが見てますから……ね?」

 

「見てない時ならいいってことよね? それじゃ、後でゆっくりお話ししましょうねー?」

 

 いまさら低姿勢になったとしても、メルヴィアの怒りが(おさ)まるわけではないので、ペーターが後々痛い目を見るのは逃れられない運命だろう。

 

 なお観客の中に、二人の最後のやり取りを聞いて()()()()()()()をしてしまった紳士たちがいたとか。……さすがに想像力が豊か過ぎでは?

 

「……少し、調子に乗り過ぎたかもしれません。まぁ、後のことは後で考えるとして!」

 

 撮り返しのつかないとこは、考えても無駄なのでひとまず置いておく。ある意味賢いかもしれない。ペーターだが。

 

 

 

「続いてのエントリーNO.4番……来ました! 文句なしの優勝候補! ツェツィーリア・ヘルモルトさんです!!」

 

「は、はい! うう、恥ずかしい……」

 

 贔屓(ひいき)されまくりな紹介で呼ばれたのは、トトリの姉であるツェツィ。

 贔屓されている理由は、司会のペーターがツェツィに惚れているため。本人はそれを隠しているつもりだが、村の人はだいたい察している模様。幸か不幸か、当のツェツィには気付かれていないが……ある理由で逆に「ペーター君は私の事を嫌っている」と思っている始末。

 

「ありがとうございます! 素晴らしいです! あーっと、そのー……」

 

「素晴らしいだなんて、そんな……。流れで参加しちゃったけど、やっぱり場違いだったかなって」

 

 勢いは良かったのに、目の前に水着姿のツェツィがいるからか次第に言葉が出て来なくなってしまうペーター。いっつもそんな感じだからトトリやジーノに「へたれ」と言われてしまうのだ。

 なお、対するツェツィはペーターが言葉に詰まったことをマイナスな方向に(とら)えてしまったようで、遠慮というか自虐的な事を言ってしまっていた。

 

 ここで上手くフォローできれば、ツェツィの中のペーター株は爆上がりなのだが……

 

「いえいえ、そんなことは決して! つまり、だから……」

 

 ……やはり、ペーターはペーターである。肝心なところを言っていけない。

 

「司会者ー! なーに緊張してんのよー!」

 

「う、うるさい! 口を挟むな!!」

 

 そんなペーターを舞台袖から茶化すメルヴィア。それにペーターは即座に反応して言葉を返す……こうやってメルヴィアに対して言うように、ツェツィにも思ったままのことをビシッと言えれば……無理か、ペーターだもの。

 

「あっ、ごめんね。私の水着なんて見ても、コメントしずらいわよね。次の人にかわるから」

 

「あ、待った! もう少し……ああ……」

 

 悪い意味で自己完結して舞台袖に戻ってしまうツェツィ。そんな彼女を引き止めることが出来ず、伸ばした手だけが虚しく空を切る。

 

時間(じーかーん)おしてるんじゃなかったのー?」

 

「だ、だからうるさい! あー……こほん。さあ、まだまだ祭りはこれからです!」

 

 メルヴィアの紹介の時に使った適当な理由を、メルヴィアにそっくりそのまま返されたことで、ペーターはイベントを進行せざるをえなくなった。

 

 

 

「次はこの方、エントリーNO.5番。まさかまさかの超有名人のご参加です! ロロライナ・フリクセルさん!」

 

「あははは……よ、よろしくお願いします」

 

 天才錬金術士と名高いロロナ。水着の恥ずかしさに加え、有名人などと言われ慣れていないため、ロロナの顔は一層赤くなった。

 ただし、有名人とは言ってもその容姿についてはあまり詳しく出回っていないようで、初めて会ったメルヴィアには「えっ!? このカワイイ子があの!?」と驚かれたりしている。有名とはなんだったのか。

 

「いやあ、驚きました。まさかこんな小さな村のお祭りに参加していただけるとは」

 

「それは、トトリちゃんに頼まれたからで……こんなことやるってわかってたら、出なかったんだけど」

 

 そんな事を言ったら、参加者の半分以上は参加していなかったと思う。もしそうなっていたとすれば、『豊漁祭』は……少なくともこのコンテストは開催されなかっただろう。それでいい気もするが、ペーターはもの凄く落ち込んでいたことだろう。

 

「しかし、ご高名な錬金術士というのに、ずいぶんとお若い……いや、むしろ幼いと言ったほうが……」

 

「うぐっ! わたしも気にはしてるんですけど……もうちょっと威厳とかほしいなって……」

 

 威厳の無さは童顔とか見た目の幼さ以上に、その性格や普段の言動にあると思うのだが……。結局はそう簡単に変えようが無いので、どうしようもない。

 

「顔だけでなく、体つきもどちらかというと幼児体型なんですね」

 

「うぐぐっ!?」

 

 ショックを受けるロロナ。

 だが、観客からは少なからずペーターの評価へ疑問の声が聞こえてきた。おそらく、ペーターの中ではツェツィあたりが基準になっているのだろうが……それでも、幼児体型寄りと言うのは厳しい気がする。

 

「まあでも、そのへんのギャップがいいという人もきっと……あいたっ!?」

 

「ちょっと! あんた、なにロロナ泣かせてんのよ!!」

 

「せ、先生の悪口言わないでください!」

 

 どこからか石がペーターめがけて飛んできたかと思えば、ロロナとペーターの間に割って入るようにしてクーデリアとトトリが舞台袖から飛び出してきた。

 

 観客の紳士たちの一部が「ああいうのが幼児体型だろJK」「本物の幼児体型キタコレ」「合法と違法……」「いや、17ならもう合法じゃないか?」「えっ、あれで17?」とわざめいたが、クーデリアが睨みつけると大人しくなった。

 ……また「ありがとうございますっ!」と聞こえたような気がするが、何にお礼を言っているのだろうか? そして、彼らは本当に『アランヤ村』の……いや、『アーランド共和国』の人間なのだろうか?

 

「わあぁ!? 出番まだの人は出てこないでください! ええっと……とにかく、ありがとうございました! ロロライナ・フリクセルさんでしたー!」

 

「うう……。しばらく立ち直れないかも……」

 

 なんだかんだバタバタで終ったロロナの紹介。

 ちょっと目に涙を溜めて舞台袖へと帰っていくロロナ。その姿を見てか、観客に紛れていた元騎士が目を光らせ、司会のペーターをロックオンしていた。ペーターに、このイベント(コンテスト)後にまたイベント(意味深)が追加された瞬間だった。

 

 

 

「えっと、それでは続きまして、エントリーNO.6番! この方もアーランドの冒険者ギルドの受付嬢。クーデリア・フォン・フォイエルバッハ嬢です!」

 

「っ……なによ!? ジロジロ見てんじゃないわよ!」

 

 怒りも隠さず、恥ずかしそうにしながらも律儀にステージに出てくるクーデリア。

 その言葉に、会場からは歓声にまざって「恥じらっているクーデリア嬢、いい……」とか、また「ありがとうございますっ!」といった声が聞こえてきた。

 

「さてさて、こちらのクーデリア嬢。一見、参加者中最年少に見えますが、実は……」

 

「ちょっと。どういう意味よ、それ」

 

 ペーター、毒舌のトトリとはまた違った感じで地雷を踏み抜いた。それはもう思いっきり。

 

「へ? そりゃあ、見たまんまの……」

 

「言ってごらんなさい?」

 

 ペーターは何故こうもギリギリで気付けるのだろうか? 逆に言うと、ギリギリまで気付かないのだが。

 笑顔でニッコリ笑っているクーデリア。その背後には真っ黒なオーラが……鬼の顔さえ見える気さえしてくる。

 

「……あの、言ったら殺すぞ的なオーラを感じるんですけど」

 

「うん、殺してあげる♪ だから、早く言ってみなさい?」

 

 クーデリアは笑顔で優しく言う……が、怒っているというのは誰が見ても一目瞭然なように、威圧感がもの凄かった。

 

 なお、観客の中には「()ってきます!」と言ってステージに上がろうし、周りに止められている紳士がいたとか、いないとか。

 

「……あ、ありがとうございました! それでは次の方にいってみましょう!」

 

「チッ……せめてぶん殴って、ストレス解消しようと思ったのに」

 

 とにかくイベントを進行させ、勢いで逃げたペーター。その結果に舌打ちをして割と本気で残念がるクーデリア。

 

 

 

 

 ……と。

 

「ん?」

 

 舞台袖にさがっていってたクーデリアが、ふとその足を止める。その視線の先は観客たちのいる方向……それも端のほう……。

 

「あーっ! あんた来てたのね、リオネラ!」

 

「え、ええっ?」

 

 そう。クーデリアが見つけたのは、イベントを見学していたリオネラだった。

 クーデリアの言葉に反応して舞台袖から顔を出したのは、フィリーとロロナ。

 

「ホントだ、リオネラちゃん来てる!」

 

「ほむちゃんも一緒にいる!?」

 

 二人は……あとクーデリアも、舞台袖に戻ったかと思えば、ステージの裏にあるのであろう出入り口から大きめのタオルを巻いて身体を隠し出てきて、リオネラとホムの方へと駆け寄った。そして……

 

「リオネラ! こうなったら、あんたも道連れよ! ついてきなさい!!」

 

「え……えええぇっ!? そ、そんなぁ」

 

「大丈夫だよ。水着も、リオネラちゃんが人形劇してる時の服と、さほど変わらないから!」

 

 そう言って、クーデリアとフィリーはリオネラを左右からとっ捕まえて、『バー・ゲラルド』のほうへと連行していった。

 

「ほむちゃんも行こうっ! それでそれで、カワイイ水着色々着ちゃおう!!」

 

「マスターの命令であれば、ホムは従います。……ですが、なんでしょう? 仕事と違ってあまり嬉しくありません」

 

 そう言いつつも、特に抵抗もせずにロロナに連れていかれるホム。

 

 

 なお、リオネラとホムと一緒にいたマイスはといえば……

 

「いやぁ、キミがあの『青の農村』の村長さんか!」

「いつもあなたの村の商品にはお世話になってます」

「噂はかねがね。少しお話を聞いてもいいですかな?」

 

「ええっと、今はちょっと……って、ああっ!? 連れてかれちゃった……」

 

 半ば無理矢理連れていかれそうになってたリオネラとホムを見て「さすがに止めないといけないよね」と、動き出そうとしていたのだが……それを察知した近くの紳士たちが世間話をする流れでマイスを(かこ)い、それを阻止したのであった。美女の水着のためなら、紳士にとってこれくらい朝飯前だった。

 

 そして、ここを取り仕切っているはずのペーターはといえば……

 

「おおっ、飛び入り参加者か! なんかコンテストっぽくていいなぁ!!」

 

 止めるどころか、テンションを上げていた。

 

 

 

 

「さあ! 飛び入り参加者が準備をしているうちに、次に行きましょう! ……あー、なんかまたギスギスしそうな予感。エントリーNO.7番! アーランドの名門貴族! ミミ・ウリエ・フォン・シュバルツラング!」

 

「どうも、みなさま。本日はよろしくお願いいたします」

 

 ステージに出てきたのはミミ。それも猫かぶりモードである。

 

「あれ……?」

 

「どうかいたしまして?」

 

「いえ、なんかおしとやかといいますか、想像と違うというか……」

 

「そうですか? 貴族として当然の立ち居振る舞いをしているだけです」

 

 当然、猫かぶりモードにを知らないペーターには違和感たっぷりなわけで、驚き首をかしげていた。

 

「さっき、トトリに毒づいてましたよね?」

 

「人違いでは?」

 

 ペーターの指摘を受け、張り付けていた笑顔をわずかにひきつらせてしまうミミ。だが、それでも華麗に流そうとする。

 ……が、そこで手を緩めないのがペーター。その先に待っているのが自分自身が大変な目に遭う未来と気付かず、そのまま突っ込んで行く。

 

「村で何度か見かけた時は、もっとこう偉そうというか、暴君のようなイメージがあったんですが……」

 

「……一つ、気付いたことを言わせてもらってもいいでしょうか?」

 

「あ、はい。なんでしょう?」

 

 相変わらず笑顔のミミ……だが、先程のクーデリアと同じく、その体からとてつもない殺気を放ちだしていた。

 

「先ほどから場がギスギスしているのは、参加者のせいではなくて……あんたが言わんでいいことを、誰彼構わず、べちゃくちゃ喋ってるせいではないかしらねぇ……?」

 

 もっともな意見である。というか、そうやって指摘してあげているミミはむしろ優しいのではないだろうか? 無論、ペーターは次にいらんことを言った時点で終わりなのだが。

 

「す……すみません……その、大勢の美女を前にして、テンションが上がってしまって……」

 

「あら、美女だなんて恥ずかしいですわ」

 

 珍しく比較的まともな返答ができたペーター。

 喜んでいるように見えるミミだが、当然これも猫かぶりの演技だろう。本心ではどう思っていることやら……。

 

 ……観客の中に「猫かぶりミミちゃんカワイイprpr(ぺろぺろ)」と言っている紳士がいたが……(あめ)かアイスキャンディーでも舐めているのだろうか?

 

「……で、ではミミさん、ありがとうございました……!」

 

 なんとか死地を脱したペーター。だが、基本的に自業自得なため、仕方のないことだと思う。

 

 

 

「さ、さあ! このコンテストの終わりも近づいてきましたが、まだまだ盛り上がっていきましょう! エントリーNO.8番! このコンテストの開催にも尽力してくれました、我が村が生んだ錬金術士、トトゥーリア・ヘルモルト!」

 

「はい! トトリです。よろしくお願いします!!」

 

 恥ずかしい……というよりは、緊張で固くなっている様子のトトリ。……舞台袖から聞こえてくる「トトリちゃーん! 可愛いわよー!」という声援は、間違い無くツェツィによるものだろう。

 

「いやあ、ありがとうっ! あなたのおかげで我々は、至福かつスリリングなひとときを過ごすことができました」

 

「そ、そんな。わたしは声をかけてまわっただけで……」

 

 「至福」はともかく「スリリング」だったのは、九割がたペーター自身のせいだと思うのだが……残念ながら、そこにツッコむ人物はいなかった。

 

「せっかくですし、何かやりません? サービス的なことを」

 

「……は? そ、そんな! 無茶振り過ぎますよ!!」

 

「やっぱりそういうのが無いとコンテストっぽくないだろ? ここは一つ、俺を助けると思ってさ、な?」

 

 同じ村で育ってきた仲からか、メルヴィアに対してとはまた違った感じに遠慮のないペーター。そもそも彼には気遣いとかは出来るのだろうか?

 

「そ、そんなこと言われても、サービスって何を……えっと、ええーっと……」

 

 「できません」とバッサリ断ってしまえばいいのに、その真面目さからか「何かしなければ!」と必死に頭を悩ませ始めてしまうトトリ。

 そして、導き出した答えは……

 

 

「う……うっふ~ん♥……とか、言ってみたりして……」

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「「「「「…………」」」」」

 

 色気のかけらもない「うっふーん」に、司会も本人も会場の観客たちも数秒間停止した。

 そんな中で真っ先に動いたのは……無茶振りを振ったペーターだった。

 

「……はい! ありがとうございました!」

 

「ちょ、ちょっとー! せめて何か言ってよー!」

 

 まるで何も無かったかのように流して終わらせるペーターに、顔を真っ赤にしたトトリが非難の声を上げる。

 なお、固まってしまった紳士たちだが、羞恥心で顔を赤くするトトリを見て「これはこれで……」と満足したようだった。

 

 

 

「さあ、ここからは準備か完了しこちらまで来た、飛び入り参加者二名となります! まずはこちら。エントリーNO.9番! アトリエの寡黙な小さき従者。ホムさんです!!」

 

「…………」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 舞台袖からゆっくりと歩いてきたホムは、正面を見て丁寧にお辞儀(じぎ)をした。

 着ている水着は黒に近い紺色の()に水色の水玉模様。また、デザイン的に特徴的なのは、腰から伸びている二段のスカートと肩の部分にフリッフリのフリルがついていることだろう。そのせいか、見方によっては水着というよりバレエの衣装……レオタードなどに見えるかもしれない。

 

 普段からレオタードを着ている人がいた気がするが、気にしてはいけない。

 ……というより、彼女たちの衣装を決めた()()()()の趣味なのでは……?

 

「少々表情が固いようですが、やはり飛び入り参加ということで緊張されているのでしょうか?」

 

「そんなことはありません。ホムはこの程度で緊張したりはしません」

 

 そう淡々と返すホム。それを聞いてひとまず安心したのかなんなのか、ペーターは「そうですか、そうですか!」と満足そうに言って進行を続けた。

 

「飛び入り参加というわけですが、そこまでコンテストに自信があるんですか? それとも、何か目的でも……?」

 

「マスターに命令されただけで、特に深い意味はありません。むしろ、『青の農村』のお祭りとは違い、参加賞どころか入賞賞品すらないようなので、出る意味が全くありません。命令でなければ出てませんでした。」

 

「あ、あははは……さすがにあの村の祭りと比べられると……それに、『豊漁祭』自体久しぶりの開催で手探り状態だったから、多めに見ていただければと」

 

 御者の仕事で『アランヤ村』と『アーランドの街』を行き来しているため、街のすぐそばにある『青の農村』のお祭りについてはペーターも知っていたのだろう。ホムの言ったことに苦笑いをして事情説明……というか、言い訳をした。

 まぁ、確かにペーターの言う通り、『青の農村』と比べるのはあまりに(こく)だろう。色々と条件が違うのだ……主に財力とか。

 

「では、次回のお祭りはもっと良くなるものだと思っておきます。そうなれば、グランドマスターも喜ぶと思いますので」

 

「は、はぁ?」

 

 ホムが言っていることはわかるが、主に「グランドマスター」という一言のせいであまり意味がわからず、ペーターは疑問符を浮かべる。

 なお、ホムが言っているのは他でもない『水着コンテスト』のことで、グランドマスターことアストリッドはコレを見て喜ぶだろうとホムは判断したのだ。その見解は間違いでは無いとは思う……が、アストリッドは「騒ぎ立てる汚らしい男共はいらん」と言って会場の紳士たちを吹き飛ばすだろう。言葉通り、ドッカーン!と。

 その証拠とも言えるのは……

 

「グランドマスターといえば、以前「お前に欲情する変質者は容赦無く殲滅していい」と許可をもらっているのですが……あなたは殲滅(ボコボコに)していい変質者(ヘンシツシャ)ですか?」

 

 しっかりと教育されているホム自身だろう。うみだされた時に与えられている知識の他にも、やや男性に対してキツめの教育が施されているようだ。ただ、今回のに関してはホム自身の身を守るという意味では間違っていない教育だろう。

 

 そして、「変質者ですか?」と聞かれたペーターはといえば……

 

「まっさかー。お前みたいなつるぺたは誰にもそんな目で見られねぇて。まぁ後七年……いや、十年後なら可能性はあるかもだけどさ」

 

 司会の口調ではなく、素の口調でそう返した。

 

「それは良かったです。……ですが、無性にボコボコにしたい気分です。先程のくーちゃんの気持ちがわかったような気がします」

 

 そう呟くホムに名前を出されたクーデリアはといえば……というより、とある身体的特徴を持った人たちは、ペーターに鋭い視線と殺気を向けていた。ペーターなんかにどう思われてもいいだろうが、はっきり口にされると少なからずイラッとくるものがあったんだろう。ペーターはまたもや敵を作ってしまったわけだ。

 

 そして、ペーターの言葉は他の場所にも影響をおよぼしており、会場の紳士たちの間では「大は小をかねる、大きいにこしたことはない」「小さいからこそコンプレックスからの羞恥心が……」「大きいのを気にする娘もいいだろう?」「でかけりゃいいってもんじゃない」「大きい胸より小さい胸。美女より永遠の少女だぜ!」等々……ある種の戦争に発展しそうなほどの論争が巻き起こり出していた。

 もちろん紳士以外の観客たちはドン引きで、紳士たちから数歩離れた。

 

 

 

「さあさあ、これでラストです! エントリーNO.10番最後の参加者も飛び入り参加の方で……もしかすると、会場のみなさんの中には彼女()()を知っている方やファンの方もいらっしゃるのではないでしょうか? 不思議な人形劇の旅芸人、リオネラ・エインセさん!」

 

「あわ、あわわわわ……っ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 目を点にして、固まっている状態でステージに出されたリオネラ。その両サイドにはいつも通りホロホロとアラーニャが浮いている。……逆に言うと、二人を浮かせている(チカラ)のコントロールが切れていないので、極限状態ではなくまだ少しは余裕があるのだろう。

 そんなリオネラの水着は、ロロナが着ていたものと似たようなタイプだった。上下がわかれている黄寄りのオレンジ色のビキニ水着に腰にはパレオを巻いている。決定的な違いは、上下の上のほう……胸の大きさによる差以外にも、肩紐ならぬ首の後ろで結ぶための紐に途中までネットのようなアミアミがついているのだ。そのデザインは、谷間を隠すわけでもなく、開けっ広げにしてるわけでもなく……言うなれば谷間のチラリズムに挑戦しているモノだった。

 

「オイオイ、落ち着けって。フィリーの奴も言ってたけど、普段の服とそんな変わんねぇぞ?」

「いや、そうは言っても水着は水着でしょ? それに、パレオはまいてるとは言っても左足は半分くらい見えてるし、中だって普通に水着でズボンじゃないわ」

 

「そんなこと言われたってどうしようもないっていうか……ううっ」

 

「はははっ、相変わらず賑やかで楽しいですねぇ」

 

 ()()()()のやり取りを見て愉快そうに笑うペーター。

 彼が……いや、彼だけでなくリオネラたちを知っている大半の人がそうなのだが、人形たち(ホロホロとアラーニャ)が喋る事に驚くことはない。その理由は、ある時点からリオネラたちがホロホロとアラーニャの言葉を人前でも隠さなくなったからだ。それがどういう心境の変化から来たかはわからないが、今では人形劇の前にさんにんの漫才のようなやりとりがあるのが恒例になっているほど周りにも受け入れられている。

 なんというか、アーランドの人たちは寛大……というか、順応が上手い気がする。その最たる例が、モンスターたちと暮らす『青の農村』だったりする。

 

「とりあえず、いつもみたいにしてみたらどうだ? 人前に出るって意味じゃ同じだしよ」

「そうね、もうステージにでちゃってるけど、人形劇の前みたいに一回深呼吸して……」

 

「う、うん、わかった。すぅ……はぁ……」

 

 ホロホロとアラーニャに言われて、目をつむり二度三度深呼吸をするリオネラ。そして、最後にもう一度スゥッと息を吸った後、パチリと目を開き……腕を左右に広げた!

 

「そ、それでは、始めさせていただきます! 今日の演目は……!!」

 

「いやいやいや!? そこまでいつも通りじゃなくていいわよ!?」

「そうだって! 一番短いのでも十分くらいかかるのに、今は無理ってもんだぜ!?」

 

 「えっ、あっ……!」と、自分が間違えていつものように人形劇を始めそうになった事に気付き、顔を真っ赤にするリオネラ。失敗したことへの反射的な対応なのか、両手を下腹部あたりで重ねて頭を下げる…………と。

 

 むにょん。

 

 目の前の光景を見て、そんな音が聞こえた気がした紳士たちがいた。

 

 手を重ねていたリオネラだが、緊張のためか腕は伸びきった状態だった。となれば、彼女の出場者の中でもトップクラスの胸は彼女自身の胸に左右から挟まれることとなる。さらにお辞儀をしたことで、多少頭や髪で隠れるものの谷間が正面から見えやすくなった。……それも左右の腕におされ、アミアミに押し付けられる形で。

 

「「「「「おおぉ……!」」」」」

 

「へ?」

 

 何故歓声が上がったのかわからないリオネラは顔を上げる。それと同時に会場からは、主に紳士の人たちによる拍手が沸き上がった。

 

「え、ええっと……あ、ありがとうございました……?」

 

 その拍手が結局何なのかわからないまま、リオネラはこれまた人形劇の時のくせで拍手の中を舞台袖へと帰って行った。

 ……これは、後からどうしてそうなったか聞いたときには、顔をこれでもかというほど真っ赤にしてもだえることだろう。そして「もう人前に出れない……」と……。その場合は、周りの人たちが励ましてあげられればいいのだが……。

 

「トトリ、こういうのをサービスって言うんだぞ……」

 

 そう呟いたのは司会のはずのペーター。今回は何か地雷を踏んだりしたりはしなかったが、リオネラ・ホロホロ・アラーニャのさんにんだけでよかった感があり、司会がその役目をはたしていなかったという意味では一番酷かったかもしれない。

 

 

 

 

 

「以上で、全参加者の紹介が終わりました。会場のみなさん、参加者の方々にもう一度盛大な拍手を!」

 

 ペーターの言葉に合わせて、会場からは本当にたくさんの拍手が鳴り響いた。

 そして、それと同時進行で、ペーターと共にこのイベントの開催につくしている係の人たちが、会場の観客たちから一人一枚の投票権を回収していく。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、投票権が全て集められ少し経ってから、ステージ上のペーターの元に一枚の紙が届けられた。

 

「……と、早くも集計結果が出たようです。記念すべきアランヤ村『豊漁祭』『第一回水着コンテスト』、その優勝者は……」

 

 どこからか聞こえてくるドラムロール。それが最後に「ダンッ!」と大きく一回鳴ったところで、ペーターの口から優勝者が告げられる。

 

 

 

 

 

「エントリーNO.5番! ロロナさんです!!」

 

「へ? わ、わたしですか? えええええ!?」

 

 予想外だったのか、いささか大袈裟に驚くロロナ。そんな彼女をたたえるように会場から再び大きな拍手が沸き起こる。

 その拍手にまざって、「キャベツ娘ー!」とか「さすがだ、鉄腕怪力娘!」とかいう声も聞こえてきたが……それが何のことなのかは、街出身の人ならわかるかもしれない。

 

「おめでとうございます! 国一番の錬金術士の称号に続いて、村一番の美女の座まで手に入れてしまいましたね」

 

「いいのかな? わたし、この村の人じゃないのに……」

 

 そんな事を言ったら、参加者の大半が『アランヤ村』に住んでいる人ではないこと自体が問題になってくるだろう。

 だが、そう言っていることからもわかる通り、ロロナはどこか遠慮している上に納得できていないようだったが……

 

「と、とにかくありがとうございました!」

 

 これまでなんだかんだでお祭りのイベントを優勝して来た経験からか、とりあえず綺麗にまとめることが出来ていた。

 

 

「最後まで初々しいロロナさんでした! さて、それでは今回のコンテストはここまでっ! また次回をお楽しみに!」

 

 最後にペーターがそう言ってしめて、『水着コンテスト』は幕を下ろした。

 だが、『豊漁祭』自体はまだ終わっていない。そして…………

 

 

 

 

 

 

 …………次回はあるのだろうか?

 




 ロロナが優勝してしまったのは、ロロナが結婚相手に決まってるから……ではなく、『ロロナのアトリエ』の正史において『キャベツ祭』や『武闘大会』といった無理矢理参加させられたイベントで、なんだかんだで優勝してしまっているということもあって、そういうイメージがついてしまっていたからです。
 そのあたりについては、次回の本編中でも少し触れさせたいと思っています。

 そして……原作では登場しなかったリオネラとホムを参加させました。原作『ロロナのアトリエ』の水着イベントと同じ水着でもいいかとも考えましたが、誠に勝手ながら水着を考え勝手に描かせていただきました。
 『ロロナのアトリエ』からは作中では何年も経っているのに、髪型とかに変化をつけようとしなかった中途半端さ。……リオネラの髪型についてはいちおう試みてみたんですが、しっくりきませんでしたのでボツとなりました。
 感想は……「慣れないことはするんじゃなかったな……」です。


 次回のお話ですが、コンテスト後のマイス君たちの反応とかをまとめた話になる予定です。

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