マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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※※注意!※※
 このお話には「原作改変」「捏造設定」等がいつも通りに含まれています!


 今回は少し短い……気がしますがこれくらいが普通で、ここ数話がやけに長かっただけです。

 ちょっと同時進行で別のものを書いています……時間が無いとか言ってたのに何をしているのやら。

 これまでにあった「なんの話?」というやつが少しだけ判明するお話です。 



5年目:イクセル「女じゃなくても三人寄れば」

 

 

***サンライズ食堂***

 

 

 イクセル・ヤーンは『サンライズ食堂』のコックである……何言ってるんだ俺は。

 ともかく、今日も今日とて包丁を走らせ、鍋をかき混ぜ、フライパンを振るい、料理を腹を空かせた客たちの前へと運んでいた。

 

 ……時々、「ちゃんと休んでるか?」と心配されたりもするが、そんな心配されるほどでもない。この生活リズムになってからは結構経っていて慣れているし、その気になれば休みの二日や三日程度取れなくもない。それに、今の生活元々好きでやってる仕事だから別に苦でも何でもないというのもある。

 

 

 

 まぁ、そんな俺のことはさておき……今日も『サンライズ食堂』は賑やかだ。昼間とはまた違った空気の、酒飲みたちが大半を占める大人の時間っていうやつだ。

 そんな中に一人……俺はもうとっくに見慣れてしまったが、夜の雰囲気にはそぐわなさそうな外見(見た目)をした奴が、連れの二人と一緒になってテーブルを囲んでいる。

 

「……って事がきっかけだったんです。それからマークさんとは付き合いがあって、今回ので手を貸してもらうことに決めたのは、その付き合いから来てるんですよ」

 

「あえて補足しておくと、あくまで仕事上の付き合いだけだったんだけどね? でも、あのお嬢さん繋がりで接触機会が増えたせいで、何故か多少は気の許せる相手にいつのまにかなっちゃってたけど」

 

「まぁいいじゃねぇか、マー(ぼう)! マー坊が村長さんがこうして一緒に飲むようになったのも何かのご縁ってやつよ! 将来、それが思いもよらないことに繋がるかもしれねぇぞ?」

 

 「苦労が増える予感しかしないんだけどねぇ」と、嫌そうな顔をしながらジョッキを傾けたのは、この『アーランドの街』でも珍しい機械技術者であるマーク・マクブライン……自称「異能の天才科学者、マーク・マクブライン」だ。

 そのマークと対面する位置にあるイスに腰かけて豪快に笑っているのは、『サンライズ食堂(ウチ)』のすぐ隣の店『男の武具屋』の店主であるハゲル・ボールドネス(おやっさん)。おやっさんも勢いよくお酒をあおっている。

 

 ……で、その二人に挟まれるような位置取りに座っているのは、ご存知「見た目は少年、中身も少年」な『青の農村』の村長マイスだ。

 酒は言うほど飲んでいない。理由は長年の経験でわかっている。こいつはどこか遠慮がある……のではなく、時折気分的な時もあるが、大抵相手によって飲み方を変えている。今回の場合、マークやおやっさんと飲むのは初めてで最初は様子見してて、二人が思った以上に飲みだしたから自主的に介抱する側にまわることにしたんだろう。

 店側からしてみれば、酔っ払いが三人出来上がってしまうより凄く楽でありがたいんだが、どう考えても損な役回りだ。人がよすぎるというか、変に気を遣い過ぎているというか……まぁ、マイスらしいと言ってしまえばそこまでなんだけどな。

 

 

 そんなマイスをよそに、より酒を飲むペースが上がってきているマークとおやっさんだが、二人の間には遠慮とかそういうものはなかった。

 

 というのも、この二人は何故か異様に仲が良い。こうやって『サンライズ食堂(ウチ)』に飲みに来るのも初めてではなく、度々(たびたび)来ては酒飲んで、酔払って、騒いで帰ってく。実のところ、ここ最近では夜の『サンライズ食堂』の常連だったりする。

 歳は離れているし、そんな接点も無いだろうからこんなに仲良くなるとは俺からしてみても驚きだった。……まあ大きかれ小さかれ何かあったんだとは思う。それこそさっきおやっさんが言っていたような「ご縁」ってやつなのかもな。

 

「おーい。もう一杯、追加してくれないかなー?」

 

「マー坊もイケル口だな! よしっ、俺も負けちゃいられねぇ……こっちもジョッキ追加だ!!」

 

 カウンター奥の厨房で、別の席の客の料理を準備をしながら聞き耳を立てていた俺の背中に、そんな声がかけられた。

 

「あーい! すぐ用意するから、大人しく待ってろよー!」

 

 知った顔の常連客ということもあって多少普段の接客口調よりも砕けた言い方で返事をする。

 そんな俺の耳に、「楽しく飲むのに、別に競わなくっても……」というマイスの呟きがギリギリ聞こえた。……あいつのことだし、他人(ひと)が楽しそうに飲んでいるのは止めたり出来なんいだろうけどなぁ……。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 さて。料理を終え、客に運び、新しく酒を用意した俺は、この酒を注文したマークとおやっさんのほうへと向かう。

 

 

「だいたいキミは非常識すぎるんだよ。キミにとっての普通が全員にとっての普通だとは思わないで欲しい」

 

「そのことはこの十年ちょっとの月日で十分にわかってますよ。だからマークさんにはああして事前に説明をしたんです」

 

 ……何の話をしているかはよくわかんねぇけど、いちおう言っておきたいことがある。

 マークが言ってることは、マーク自身にも言えることじゃないのか?

 そして、マイス…………お前はいくらかマシになったのは確かだが、俺から見ると未だにけっこうズレてる気がするんだが?

 

 視線と言葉を交わす二人の間に割って入ったのはおやっさん。

 

「まあまあ、村長さんもマー坊のことも考えてのことだったって話だろ? 別にいいじゃねえか。それに、俺も話は聞きはしたんだがけっこう面白そうな話だったよな。俺としては協力は()しまないつもりなんだが……マー坊はどうなんだ?」

 

「それは、まぁ……ハゲさんの言う通りだと僕は(ぼかぁ)思いますよぉ? 研究時間は削られてしまうけど、僕個人への見返りも十分にあるし……それに、この国が抱えている問題への良い一手になると思ってますから」

 

 

「なんだ? なんか随分とデカい話になってるみたいだが……?」

 

「あっ、イクセルさん」

 

 俺の言葉に真っ先に反応したのはマイスだった。

 俺はマークとおやっさんに酒の入ったジョッキを渡しながら、さっきの話のことをそのまま聞いてみることにする。

 

「んで、結局何の話だったんだよ? 国の抱えてる問題とか言ってたけど?」

 

「なに、この国の教育への注力の足りなさを(なげ)いているだけさ」

 

「教育?」

 

 マークの返答に俺は首をかしげた。

 教育と言えば、いわゆる「お勉強」ってやつだろう。正直なところ俺はあんまり関心が無い……というかそう気にするものじゃなかった。というのも……

 

「あれだろ? 読み書きとか計算とか……そんな感じだろ? 注力も何も、問題無いと思うんだが……普通にどこの家でもやってることだし」

 

「うん、やってるね。でも、僕が言ってるのはもう一歩先……もっと高い基礎能力や専門的な能力を育てる教育の事なんだ」

 

 どういうことだろう?

 俺のそんな疑問が顔に出てしまっていたのか、「それはですね」とマイスが説明を始めた。

 

「とっても凄い技術なのに『錬金術士』がほとんどいないことや、機械技師と呼べるような人がマークさんくらいしかいないことは、そういう人たちを育てられる環境が無いからってことです。それに、専門的な学問だけじゃなくて基礎的な読み書き・計算の能力もあまり高いとは言えないのが現状で……ほら、『冒険者ギルド』が今はちょっと落ち着きましたけど、少し前までは人材不足で大変でしたよね? あれは処理しないといけない書類の量が処理できる量をオーバーしてしまってできる人が少なくて続けられる人がごく少数だったからだそうです」

 

 「性格とかの適性もありますけど、基礎能力の問題かと」と言ってマイスは話を〆た。

 

 まぁ、言わんとすることはわかった。

 確かに、錬金術士や機械技師の少なさについては俺も疑問に思ったこともある。それに、『冒険者ギルド』のほうもクーデリアが「休みがほとんど無い……」と数少ない休みに『サンライズ食堂(ウチ)』に来てぼやいていたことがあったのを覚えている。

 だが、それをどうするっていうんだ?

 

 その疑問に答えたのはおやっさんだった。

 

「んじゃあ、興味を持って行動力がある子供の頃から色々教えたりやらせてみたりした上で、きちんと学べる場を用意してやろうって話になったってわけだ……村長さんのところでな!」

 

 その言葉に、俺は「そうなのか?」とマイスのほうへと顔を向けた。

 

「ええっと……本当は他にも色々とあったんですけど、今回の()()の設立の件に関しては、だいたいその通りです」

 

 

 

「…………ん?」

 

 

 

「まぁ、そういう反応になるよな」

 

 ゲラゲラ笑うおやっさんを無視して、俺はいちおう確認のためにマイスに問いかけてみることにした。

 

「今、学校って言ったか? 学校ってあの学校なのか?」

 

「あはははっ、おやじさんもマークさんもそうでしたけど、凄く驚きますね」

 

「だってなぁ、話には知っているけど学校なんてもんは『アーランド(ここ)』には無い(ねぇ)し……いや、どういうものかくらいは知ってるけどよ?」

 

「その辺りは、良くも悪くも機械の恩恵なんだろうね。よほど精密なものでない限り大抵の人に使えて、なおかつ日々の生活の糧を十分に得られる。その恩恵が浸透し当たり前になった事で、今ある以上の物を開発しようとしなくなったり、知識や技術を蓄える必要性も薄くなったわけだ。その程度で満足してしまうとは、僕としてはどうにも理解し難いけどね」

 

 マイスと俺のやりとりの途中で、そうマークが持論を展開した。珍しく機械に対して否定的……かと思ったが、どうやらどちらかと言うと使う人間側のほうを否定しているようだ。

 

 

 マイスのやることにはもう驚かないくらいに思ってたんだが……これはさすがにそうは言ってられないな。色々と予想外だった。

 

 だが、よくよく考えてみれば、マイスは前々から学校の設立(こういうこと)を考えていたんじゃないだろうか?

 というのも、前に『青の農村』で『体験祭』というお祭りが開かれたことがあった。料理・鍛冶・薬学・農業といったことを参加者が実際に体験してみるという趣旨のイベントで、俺も料理体験の手伝いを頼まれて協力をした。

 今思えば、あのイベントを開催した時点ですでに学校の設立を考え始めていたような気がしてならない。何かの物事を大人数に教えるというものの練習のような……さすがに考え過ぎか?

 

 

 

「あっ、でもこの話、本当はトップシークレットですから、『青の農村』の今度のお祭りまで秘密にしといてください!」

 

「んなこと言われてもな……自信を持って言うことじゃないかも知れねぇけど、ついついぽろっと喋ってしまいそうな気がするんだよなぁ」

 

 マイスには悪いが、本当に言ってしまいそうなんだよな……。それに、今俺たちが話しているのは『サンライズ食堂』の店内。普通に別の客たちにも聞こえていたと思うから、今の話を完全に秘密にするって言うのは難しいだろう。

 

 けど、マイスもそのことは気付いているみたいで、不満そうにしながらも悔しそうにし「ムムム……」と俺を見つめて……本人は睨んでいるつもりだろうが……きた。

 

 

 そんなマイスの肩をマークがポンポンと叩く。

 

「まあ、いいじゃないか。()()()を喋ったわけじゃないんだし……キミとしては、()()()の事のほうが隠しておきたかったんだろう?」

 

「それはそうですけど、あとちょっとでできる今回の件の案を国に提出する前に噂が流れるのはちょっと……」

 

 そう言って、何かを考えたのか数秒間目を瞑って黙った後、短いため息をついたアイス。

 

 俺はと言えば……

 

「アッチ?」

 

「あー、それに関しては俺も聞いてねぇんだよなぁ。けど、学校と同じで次のお祭りん時に発表するって言ってたぜ?」

 

 おやっさんとそんな話をしていた。

 

 

 

 ……結局、謎は謎のまま……というか、気になることが増えてしまったまま夜は更けていったのだった。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 なお、その後もハイペースにお酒を飲み続けたマークとおやっさんは見事に酔っ払い、残されたほぼ素面なマイスは予想通り大変そうにしていた……。

 

 

 

 

 




 学校を建てるのは『RF3』ではなく『RF2』なのでは? そんな疑問があるかもしれませんが……気にしたら負けです。二次創作ですもの。


 実際の理由は不明ですが、アーランドの街には学校は無いっぽいですよね。必要が無かったのか、なんなのかわかりませんが。
 仕事に関しては基本的に、お手伝いしたり、弟子入りしたりして学んでいったんでしょうかね?

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