マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 『リディ&スールのアトリエ』の公式サイトがオープンしたり、ニンドリにて『RF4 Best版』&限定版の発売記念にコミックが連載されるようになったりしましたが……今作はいつも通りにマイペースで進んで行きます!

 あと、先日、『マイスのファーム IF』の各【*1*】の投稿完了を期に、まとめというか状況整理のようなちょっとしたものを作者「小実」のマイページ等から行ける活動報告に書かせていただきました。時間がある方は暇潰しにでも覗きに来てみてください。



5年目:マイス「塔での決戦!……その前に」【*2*】

【*2*】

 

 

***東の大陸・塔への道***

 

 

 

 僕の元を訪ねてきたトトリちゃんから、「『塔の悪魔』を倒す」と伝えられたのが昨日のこと。

 僕らは『トラベルゲート』を使い『東の大陸』に移動し、今、その悪魔とやらがいるという『塔』を目指して、雪が降り積もり道があったかも確認できない雪原を歩いている。

 

 塔へと向かっているメンバーは過去最多であろう八人(プラス)一人。

 トトリちゃん、ミミちゃん、ジーノくん、メルヴィア、ロロナ、マークさん、ステルクさん、そして僕。最後の一人は、生贄役のパメラさんだ。

 道中、悪魔のいる『塔』の影響なのか。全くと言っていいほどモンスターの気配がしないため各々(おのおの)自由気ままで、気になるものを見つけては近寄ってみたり、誰かと一緒に話ながら歩いていたりと、これから大物を倒しに行くというのになんだかいつも通りな感じだった。

 

 

 そんなことを考えながら歩いている僕は、一人でこれからの戦闘の事を考えていた。

 人が多いというのは、手数的にもスタミナ的にも良い点がある。……が、同時に立ち回りや連携が難しくなってくるというのも事実だ。敵の大きさにもよるけど、大人数だとかえって戦いにくくなってしまう可能性だったある。

 

 僕がここまで戦闘のことを意識しているのかというと、この前、最初に『東の大陸』にたどり着いた際の航海……そこで『フラウシュトラウト』と戦った時に、戦略の重要さを感じたからだった。あの時のように、海の船の上という特殊な状況ではないとはいえ、どうしても慎重になってしまう。

 

「ロロナとトトリちゃん以外は、みんな基本接近戦主体だから……面倒だとか思わないで、やっぱりここは僕が後衛にまわるべきなんだろうなぁ」

 

 というわけで今回は気分一新、いつもとは違う用意をたくさんしてきてるんだけど……ぶっつけ本番な部分も沢山あるから、大丈夫かちょっとだけ不安だったりする。

 それに、いきなりいつもしたことの無いような動きを要求するわけにはいかないから、あくまで僕の中だけで「ああしよう」「こうしよう」と考えているだけで、戦略とは言えないレベルだろう。……でも、もしもの事態も考えて、緊急で指示を出すことも想定しておいた方が良いかもしれないかな?

 

 

 

 

 

マイス(まーいーすー)くん?」

 

「ん? あ、あれ? ロロナ?」

 

 さっきまで先頭あたりでトトリちゃんやパメラと一緒に歩いていたはずのロロナが、気付かないうちに僕の隣にいた。先頭のほうを見てみると、トトリちゃんとパメラの周りにはミミちゃんとジーノくんがいた。ロロナと入れ替わったんだろう。

 となると、あとはなんで僕の所に来たかなんだけど……。

 

「それでどうかしたの? 『塔の悪魔』との戦闘の事でトトリちゃんから何か伝言とか?」

 

「んぇ? 別にそう言うわけじゃなくって……というか、トトリちゃんとはパメラが幽霊だって事とか、会った頃のことを話してただけで……」

 

 ああ、なるほど。

 確かに、『塔の悪魔』の話をしに来てくれた日に僕が説明した時点ではトトリちゃんはあんまり納得できていない様子だった。だからトトリちゃんは、本当に生贄になる前にパメラ本人と事情を知っているだろうロロナに聞いておきたかったんだと思う。

 

「あれ? じゃあなんで僕のところに?」

 

「ええっとね、なんとなくチラッて見た時にマイス君がなんだか難しい顔してたから、どうしたのかなーって思って。ねっ、ねっ? 何か悩み事があるなら、わたしに相談してくれていいんだよ!」

 

 昔、アストリッドさんに言われたりもしたけど、僕って本当にすぐに顔に出るんだろうなぁ。

 

 そしてロロナは何もしていないのに何故か得意げな顔をして「さあさあ!」と、僕に相談してくるようにと詰め寄ってきた。

 でも…………。

 

「『塔の悪魔』の大きさとかがわからないから、どう立ち回ったらいいかわからない、って話だからロロナでも……というか、誰に聞いても答えが出てこない類の悩みなんだよね……」

 

「あはははっ、それはー……うん、わたしもわかんないかな」

 

 ヘラリと何かを……頼ってもらおうとしたのに何のチカラにもなれなかった後ろめたさを……隠すかのように笑ったロロナだったけど、すぐに悲しげな顔になりガックリと肩を落とした。知ったかぶりをしたり、嘘をついたりすることは、ロロナにはできなかったんだろう。

 

 

「でも、なんだか意外だなぁー。マイス君がそんな真剣に戦うことを考えてるなんて……なんだかもっと「なんとかなるって」って感じであんまり考えてないんだと思ってた」

 

「ロロナの言ってる通りで大体あってるけど、今回は相手が相手だしさ。それに、ピアニャちゃんの故郷は絶対に守ってあげたいからね」

 

「ああ、そっか……そうだね」

 

 そう言ったロロナは、視線を正面方向に見える『塔』から左手の方向にずらしていた。

 その視線の先に見えるのは、針葉樹林の向こう側……遠くに見える独特の形をした住居群。そう、ピアニャちゃんがいた村だ。唯一林に全く隠れていない一番上の建物が、以前トトリちゃんに色々話してくれたピルカさんっていうおばあさんのいる家だったはずだ。

 

 そんな事を考えていると、不意にロロナが「よし!」と意気込みだした。

 

「うんっ! トトリちゃんのことも守ってあげなきゃだけど、わたしも先生としてピアニャちゃんのためにも頑張らないと!」

 

「……ん? 先生って、ピアニャちゃんの?」

 

 トトリちゃんはロロナの弟子だ。だからロロナはトトリの「先生」ってわけだけど……今のロロナの言い方だと、まるでピアニャちゃんの先生でもあるような感じがしたんだけど……?

 

「あれ? 言ってなかったっけ? ちょっと前にトトリちゃん()でピアニャちゃんに『錬金術』を教えてあげたんだ。ピアニャちゃん、飲み込みが早くてすごかったんだよー」

 

「へぇ……あっ、そういえば前にピアニャちゃんがパメラさんのお店で手伝いしてるって時に「ピアニャが作ったのも売ってる」みたいなこと言ってたけど、アレって『錬金術』で作ったものだったのかな?」

 

 僕がそう言うと、「たぶん、そうだと思うよ」とロロナも頷いてくれた。

 

 

 

「でも、あの時よりも前ってなると……いつの間に教えに行ってたの?」

 

 ちょっと気になってついつい聞いてしまったんだけど、何故かロロナは「あー……」と謎の声をもらしながら目をそらしてきた。

 

「教えに行ったっていうか、たまたまトトリちゃん家でお世話になってたわたしに、トトリちゃんが調合してるのを見てて興味を持ってたピアニャちゃんが「教えて!」ってせがんできたんだよね」

 

「たまたまってことは、他に別の用事があって来てたの?」

 

「ええっと、そういうわけでもなくて……」

 

 歯切れの悪いロロナに、さすがの僕も首をかしげてしまった。一体、何があったというのか……それとも、それほど言い辛いことでもあったのか……?

 

「実は、わたしもよくわかんないんだよね……。トトリちゃんが言うには、ベロンベロンに酔っぱらったわたしがいきなりアトリエに来たとか何とか……?」

 

「それって、『バー・ゲラルド』で飲んでたってこと?」

 

「ううん、違うよ? だってあの日は確か、昼間っからイクセくんのところでお酒を飲んでて……」

 

 昼間からお酒って……それも、話によると凄く酔うくらいに飲んでたみたい。なんだか、不自然でロロナらしくないっていうか……。

 自棄(やけ)飲み? って、ロロナはそんなことしないで、トトリちゃんあたりに泣きつきそうだなぁ。……弟子に慰めてもらう師匠ってどうなんだろう?

 

 僕がそんなことを考えているうちに、ロロナは当時の記憶を掘り返していたようで……ハッとしたかと思えば手を叩いていた。

 

「そうそう! あの時はくーちゃんと一緒で、それでくーちゃんに…………あーっ!? そうだ、思い出した!!」

 

 いきなり大声を上げたかと思えば、「あっ、でも今はマイス君が……でも、これってチャンスだったり……?」と、おそらく本人は独り言のつもりで小声でブツブツ言っているんだろうけど、僕の聞こえていた……何のことなのかはさっぱりだけども。

 

 

「うん……うん、そうだよね。よし、決めた!」

 

 何かを決めたというよりは、まるで覚悟を決めたかのような雰囲気があるロロナ。

 けど、いったい何を決めたっていうんだろう?

 

 

 

「ねぇ、マイス君……。マイス君、わたしに何か隠し事してるよね?」

 

 

 ロロナにしては珍しく真剣なトーンでの質問。

 心当たりは……ある。というか、普通に()()()にこういう状況はすでに覚悟していた。

 

「マイス君がわざわざ隠してることだし、言い辛いんだろうなってことはわかってる。わかってるんだけど……やっぱりマイス君本人の口からちゃんと聞きたくて……」

 

「ロロナ……」

 

 そこまで真剣に、真正面から言われたら答えるしかないだろう。色々と不安もあるけど、それは全部話してから考えればいい。

 僕はさきほどのロロナのように、覚悟を決めて口を開いた。

 

 

 

 

「……やっぱり、もうロロナの耳にも入っちゃったんだね。学校を作るって話」

 

 

 情報漏洩した場所がアトリエと同じ通りにある『サンライズ食堂』だったから、知ってて当然と言えば当然だろう。まあ、あのことはすでに仕方のないことだと割り切ってる。

 

「そう、学校を……って、そうじゃなくて、わたしが聞きたいのはマイス君の…………えっ? 学校?」

 

「基本的な教育に加え、希望で『農業』とか『鍛冶』とかも教えられるようにする予定で、その中に『錬金術』も入れる予定はあって……でも、実現できるか分からないし、国に提出した「学校設立の案」が通るまではロロナには伝えずにいようって決めてたんだけど……もうばれてるなら隠す必要も無いかな」

 

 

「え…………えええぇっー!?」

 

 大声をあげるロロナ。……って、あれ? これって何かおかしくないかな?

 だって、ロロナはどこからか学校の話を聞いて「マイス君の口から聞きたい」って言ってたんだよね? だったら、そんなに声をあげてまで驚く必要は無いとおもうんだけど……?

 いや、もしかしたら、これまでの付き合いの中で一番驚いているかもしれない……と思ったのは、僕の勘違いなのかな? もしくは、声をあげたのは、まだ国からの許可がおりてないことに対してだったのかも?

 

 そのどっちが正しいのか……もしくは、どちらでもないのか……どうなのかはわからないけど、隣を歩いているロロナの(ほほ)はプクーッと膨らんでいた。

 

「マイス君、ズルーい! 前に『体験祭』の時に言ったよね!? 今度そういう事する時はわたしもするって! 何で言ってくれなかったの!!」

 

「えっ。だから正式に決まったわけじゃないから、まだ言うわけにはいかなくて……ほら、期待させちゃって結局ダメだったら悪いし」

 

「それでもだよ! それに、トトリちゃんやピアニャちゃんだけじゃなくて沢山の人に教えたいから、わたしも『錬金術』の学校を作るの考えてたんだもん!! 教科書だって作ってるんだよ!?」

 

「ええっ!? そうだったの!?」

 

「今度、持っていって見せてあげる! ううん。今度じゃなくて、これが終わって帰ったらすぐ行くんだから!!」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 叫んだり、何か言い合って騒いだりして賑やかなマイスとロロナを、振り返って見つめるトトリ、ミミ。

 

「後ろに行った先生、なんだか賑やかだね……今日はピクニックだっけ?」

 

「たくっ、マイスもマイスよ。これから大物と戦うって言うのに緊張感もなにもないじゃない」

 

 ついさっきまで雑談をしていた二人がそんなことを言うという、「お前が言うな」状態だったのだが、残念ながらそこを突っ込む人はいなかった……。

 

 

そして…………。

 

「…………」

 

 賑やかな二人をジッと見つめる人物が、トトリとミミ以外にももう一人いたそうな……。

 




 次回、ついに「『塔の悪魔』戦」!
 ……おそらく、今作では彼の名前は出ずに『塔の悪魔』のまま進んで行くと思います。


 あと、本編の執筆が遅れたりしない限り、8/25あたりに『IF』のほうを投稿したいと思っております。

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