マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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予告をしておきながら更新できず、誠に申し訳ありませんでした。諸事情にてパソコンに触れることが出来ずにいました。
 詳しくは「小実」のマイページの活動報告『生存報告』にて書いています。……端的に言えば、病院に運び込まれ数日間お世話になっていました。


 今現在も本調子ではありませんが、また更新を再開していこうと思います。
 マイスくんとのイチャイチャの妄想がそこそこはかどっていて、早くお話を進めたいのです。なお、一番妄想がはかどっているのは『ロロナルート』ではなく『ホムルート』の模様。


 今回のお話は、ついに訪れた『塔の悪魔』との決闘!
 原作ストーリーではラストバトルと言える一戦であり、今作でもトトリちゃんとの因縁はあり、熱くなること間違い無し! ……と思いきや、『フラウシュトラウト』の時のほうが盛り上がりがあるかもしれません。理由は…………(続きは後書きのほうで!


 そして最後に……前に言っていた『マイスのファーム IF』は9/1に更新予定です!




5年目:トトリ「塔での決戦」

 

 

***東の大陸・(リヒタィンツェーレン)入り口***

 

 

「ふぅ……そろそろいいかな?」

 

 天高くそびえる塔の入り口、その扉の前でわたしはあたりを見わたした。

 問題は……うん、無さそう。もう大丈夫かな? 何人かとは目が合って、その中にはわたしの意図を読み取ってくれたのか、頷いてくれた人もいた。

 

 

 今回、『塔の悪魔』を倒すためにここまで来たわたし達だけど、この入り口にたどり着いてから、すでに少し時間が経っている。そう、ちょっと休憩を取っているのだ。

 

 別に、ここに来るまでにモンスターと遭遇して戦ったから……とか、そう言うわけじゃない。

 休憩を取る事になった、その原因は……塔の入り口の脇に転がっている、()パメラさん。パメラさんっぽいけどちょっと違う、生気は全く無い等身大ぬいぐるみ。

 

 ええっと……何て言えばいいんだろう?

 幽霊のパメラさんが歩いたり物を触ったりするための肉体の代わりで、身体(それ)を作ったのは先生の先生で先生もちょっとだけ関わってて、首のボタンを押したらヒラヒラのドレスを着たパメラさんが飛び出してきて、そのパメラさんには足が無くて、ちょっと透けてて、浮いてて…………と、とにかく、本当に幽霊だった。

 

 そんなわけで、一応聞いてたわたしでも驚いちゃうくらいなんだから、事情を全く知らなかった人はもっと驚いたわけで……それで、ちょっと落ち着くためにちょっと休むことになっちゃったわけだ。

 驚きのあまり呆然としたり、叫び声を上げたり、腰を抜かしたり……あっ、ある意味一番反応が怖かったのはマークさん。なんていうか、その……人を見るような目をしてなかった。いやまあ、幽霊は人として数えていいのかわかんないけども。

 当のパメラさんは、驚くわたし達を見て喜んで、わざと驚かせようとしてきたりもして、ひとしきりやった後、満足したのか疲れたのか「先に帰ってるわ~」と身体を残してフワフワどこかへ飛んでいってしまう始末。

 

 

 ま、まあっ、とにかくもうみんな大丈夫そうだし! 塔に入って『悪魔』をやっつけよう!!

 

 そういうわけで、わたしは先生やマイスさん、みんなに声をかけ始めた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

***(リヒタィンツェーレン)・1F***

 

 

 

 パメラさんを生贄にして解放された扉。それを開けた先にあったのは、真っ直ぐに上へ伸びる幅のある階段だった。

 周囲に床は無く、脇の(手すり)をから下を覗きこむと闇が広がっていて、その何も無い空間が地下のほうまで続いていることがわかる。そして、上を見上げると天井はあるけど、とても高くて……このフロアだけでもかなり広大な空間みたいだ。

 

 そんな浮世離れした塔の内部に目を奪われつつも、わたしたちは階段を上り続けていく。

 

「……おや? どうやら、あそこで一旦階段は終わりみたいだね」

 

 マークさんが見つめる先……わたし達が上っている階段の先に大きな円柱状の足場が見えてきた。

 

 

 そして、ほどなくしてわたし達はそこにたどり着く。円柱の上部、円形の足場の上でわたし達はあたりを見わたそうとして…………身体が固まった。

 

 真っ先に目に付く、上がってきた階段から見て真正面にある二体の石像。その間から伸びる道は、途中から階段が途切れてた。でも、問題はそこじゃない。

 そのちょっと手前。その場所に()()()()()()()()

 

 

 

 見た瞬間、わたしはすぐに理解できた。アレが『塔の悪魔』なんだと。ただ、その姿は想像していたような姿ではなかった。 

 

 (えり)などの裏地は血のように赤く、ボタンや刺繍などは黄金の輝きを放っていて、黒に近い紺の礼装。似たデザインで銀の装飾が施されたシルクハット。

 洗練されたデザインの礼装(それ)を纏う姿はまるで貴族のように優雅ささえ感じさせるもので、わたしが想像していたような悪魔らしい姿をしていなくて、お母さんと相打ちになるような屈強さも全くと言っていいほど感じられない。ただ、目も鼻も無い真っ黒な顔と、そこにギザギザの歯をのぞかせながら三日月形に笑みを浮かべている口。そして、背中から伸びる一対の翼のようであり、風でなびくマフラーのようでもある二本の『闇』が、目の前の存在が人の形をした「人ならざる者」だということを示していた。

 

 その凶悪な口以外黒く塗りつぶされた顔にはあるはずの無い目と目が合ったと思った瞬間、身体が固まってしまい背筋がゾワゾワする感覚に襲われる。

 嫌でもわかる。強いとか弱いとかじゃない、もっと違う恐ろしさ。まるで、身体そのものじゃなくてその奥深くにあるものが感じ取っているかのような、逆らいようの無い感覚。

 

 その恐怖心を何とか押し殺しながら、わたしは視線の先の『塔の悪魔』を睨みつけ……ふと、ある事に気付く。

 

「……あれ? もしかして、ちょっと元気が無い?」

 

 別に『塔の悪魔』に目に見える大きな傷があるわけでも、肩で息をしているわけでもない。だけど、本当になんとなくだけどそう感じたのだ。

 

 考えられる事と言えば、前に『塔の悪魔』が起きた時にお母さんが戦って……その時のダメージが残っているか、お母さんのせいで人を食べる暇無く塔に押し戻されてお腹が空いてしまったか……もしくはその両方なのかもしれない。

 なんにせよ、これはチャンスだ。わたしは覚悟を決めて、震える手で杖を強く握りしめる。

 

 

 そして、それとほぼ同時に感じた。

 

 前に

 隣に

 後ろに

 

 

「トトリがそんなカッコイイ顔するんじゃ、アタシも頑張らないわけにはいかないわね。……よっし! それじゃいっちょ派手にやっちゃいましょっか!!」

 

「案ずるな、(うれ)いはいらない。私が騎士として、キミの盾となり刃となり、道を切り拓こう」

 

「見たところ、この塔は外部も内部も石造りとは思えないほど丈夫みたいだ。僕らが暴れたところで何ともないだろうね、遠慮なくいかせてもらおうじゃないか」

 

「心配すんなって。なんかあっても、オレがこん前みたいに助けてやるからな!」

 

「トトリはトトリでいつも通りに自分の出来ることを一生懸命やって頂戴。……そうしてくれるから、いつも私達が安心して背中を預けられるんだから」

 

「今回は僕もサポートに回るよ。だから、慌てたりせずに一歩ずつ確実に進んで行こう! 一流の冒険者になれたトトリちゃんになら出来るよ!!」

 

 

 『塔の悪魔』から放たれるプレッシャーよりも強く感じる。これまでにも色々なところでわたしを支えてくれた人たちの存在を、その安心感を。

 

「えへへっ……凄い場所にいるはずなのに、ものスッゴイ強いモンスターが目の前にいるはずなのに、「皆がいるからきっと大丈夫!」って思えちゃうんだよね。わたしも前に……って、そんな昔話はいっか! よしっ、悪魔さんなんてコテンパンにやっつけちゃおうっ!!」

 

「……はいっ、先生!」

 

 先生の言葉に頷いて、わたしは大きく息を吸った。

 それぞれその手に武器を持って『塔の悪魔』を睨みつけているみんなに向かって、わたしはできる限りの気持ちを込めて、()()()をする。

 

 

「お願いします……わたしに、わたしに力を貸してくださいっ!」

 

 

 返事は聞かなくってもわかってた。そして、みんなの口からは想像通りの答えが返ってきてくれた。

 

 そしてそれと同時に、偶然かなんなのか『塔の悪魔』がそのギザギザの歯を開て『声の無い笑い声』を上げた。すると円柱の上部の円形の(ふち)をなぞるようにして青紫の炎のような何かがゆらめき出した。

 

 でも、わたしは驚きも恐れもしない。みんながいてくれるから。

 

 

 こうしてわたし達と『塔の悪魔』との決戦が始まった……!

 

 

 

 

 

「『アクセルディザスター』!!」

 

 でも、「サポートに回る」とか言ってた人が、開始直後に『竜の牙』で作った槍を構えて、(きり)()み回転しながら『塔の悪魔』に向かって飛んでいくのは、さすがに驚いちゃうかなぁ……あは、あははははっ……。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 ジーノくんが素早い連撃で武器の性能を最大限に()かし、メルお姉ちゃんが床を砕かんばかりの一撃をお見舞いし、ミミちゃんが身長ほどもある槍を見事に操った槍術で貫き、マークさんが自作らしい機械でのトリッキーな攻撃をくりだし、ステルクさんがその剣と飛ぶ斬撃で断ち斬り、ロロナ先生が凄い爆弾で吹き飛ばす。

 

 対する『塔の悪魔』の一撃一撃は、その成人男性と同じくらいの体格から考えられる最大限の重さで、背中から伸びる二本の『闇』が刃のように鋭くなる攻撃は何もかも貫くほど。また素早さも高く、最高と思える速さでは残像が見えるほどのものだった。

 

 

 だが、マイスさんの特攻から始まった『塔の悪魔』との戦闘。けど、その戦闘自体はわたしが想像していた以上に()()()()()()

 

 要因は大きく分けて三つ。

 一つは、予想外にも『塔の悪魔』が弱っていたから。

 もう一つは、わたしを含め八人という多いメンバーで単純に一人一人への負担が少なくスタミナがもっているから。

 そして最後に、最初の特攻以降、マイスさんが本当にサポートに(てっ)しているから。

 

 ただ、「サポート」とは言っても、それはとても奇妙というか、目を疑うというか……

 

 

 

「ワン! ツー! フィニッーシュ!!」

 

 敵に背を向けたマークさんの、その背中に背負われている機械から飛び出す(グローブ)によって放たれるストレート・ストレート・アッパーの三連コンボ。それが『塔の悪魔』に命中したんだけど……当たり所が良くなかったのか、『塔の悪魔』丈夫だったのかどちらかはわからないけど、マークさんの攻撃では『塔の悪魔』の体勢を崩すには至らなかった。

 そのため、攻撃を終えて離脱しようとするマークさんの背中に、『塔の悪魔』が追い討ちをかけようと『闇』を鋭くさせて(せま)る…………が

 

 

「『アーススパイク』っ!」

 

 

 そう叫ぶマイスさんの声が聞こえたかと思うと、マークさんに迫っていた『塔の悪魔』の目の前に、人の身長ほどありそうな鋭く尖った岩が「ズゴンッ!」と床から飛び出した!

 『塔の悪魔』はその岩に行く手を(はば)まれるどころか飛び出してきた岩に突きあげられてしまい、かする程度のように見えたけどそれでも後退してしまっていた。

 

「続くわ!」

 

 謎の岩によって後退した『塔の悪魔』……それを予想していたかのようにいつの間にか『塔の悪魔』の死角から接近していたミミちゃんが、上半身のねじりや肩から腕にかけてのバネを最大限に活かした渾身(こんしん)の一突きをお見舞いする。

 が、やはり『塔の悪魔』も黙ってはいない。体勢を多少崩しながらも先端を鋭く尖らせた『闇』を射出するようにしてミミちゃん攻撃しようとし……

 

 

「『パラレルレーザー』っ!」

 

 

 またマイスさんが叫んだかと思えば、マイスさんの近くに人の頭ほどの大きさの水の丸い塊が二つ現れ、それぞれの水の丸い塊から勢い良く水が『塔の悪魔』へと向かって放たれた!

 バックステップで『塔の悪魔』から離れようとしていたミミちゃんを避けるようにして、両サイドから『塔の悪魔』へとぶつかっていった水。それにより、より体勢が崩れたのか、狙いが定まらなかったのか、『闇』はミミちゃんの身体をかすめる程度にしか当たらなく、傷はほんの僅かだけで済んだ。

 

 しかも、その傷は……

 

 

「『キュアオール』っ!」

 

 

 マイスさんの身体から(あふ)れ出した()()()()()が、幾筋(いくすじ)もの流れに分かれ、その一つ一つがわたし達一人一人へと飛んできて……わたしたちを包み込むようにして薄緑色の光が淡く広がった。

 そうしたら、ふっと体が軽くなるような感じがした。

 そして……注目するべきなのは、さっき『塔の悪魔』によって小さな傷を負ったはずのミミちゃん。その綺麗な肌のどこにも()()()()()()()()。他の人たちも、これまで受けていた傷がキレイサッパリ治ってしまってる。

 

「やっぱ、これって()()()の……?」

 

 メルお姉ちゃんの呟きを耳にしたわたしは、心の中で頷いた。

 

 きっとわたしとメルお姉ちゃんが思い出している「あの時」は、同じ場面だと思う。

 『アランヤ村』のそばに『スカーレット』の群れが現れたあの時。おねえちゃんを(かば)って傷だらけになったメルお姉ちゃんと、爆弾を使い切ってしまったわたしを、ジーノくんとモコちゃんが助けてくれた後のこと。傷だらけで血を沢山流していたメルお姉ちゃんを治してくれた謎の光……あの時は、その場からいなくなったモコちゃんが何かしてくれたんだと思ったんだけど……でも、同じような現象を、今、目の前でマイスさんが引き起こしている。

 

 

 え、ええっと……モコちゃんと同じ薄緑色の光もそうだけど、それ以前にマイスさんがしているが引き起こしているんだと思う謎の現象が衝撃的過ぎて、色々と気になってしまう。

 それはわたしだけじゃなくて、他のみんなもそうだった。最初なんかは固まってポカーンとしてたり……今はもう普通に戦ってるけど、それでも時々マイスさんをチラチラ見たり、謎の現象にビクッと体を震わせたり……。

 

 

 そんな中、最初っから特に何もリアクションをしないで戦ってた人もいた。

 それは、ジーノくんとミミちゃん、あとマークさんだ。

 ジーノくんは、たぶんいつも通りに何にも考えてないだけだと思うけど……ミミちゃんとマークさんはどうして驚きも動揺もしなかったんだろう?

 

 

 

 ミミちゃんたちにも、マイスさん本人にも、すぐにでも話を聞きたいところだけど……それはさすがに目の前の『塔の悪魔』が許してはくれそうになかった。

 

 『塔の悪魔』の攻撃はマイスさんが防いだり()らしたりしてくれているけど、それも全部の攻撃に対して出来ているわけじゃない。ただ単に間に合わない時もあれば、これまでに二回『塔の悪魔』が使ってきた一人を『闇』で包み込む大技らしき一撃は、マイスさんでもどうしようもなかった。

 ……それでも、あの薄緑色の光で回復してるから、何の問題は無いんだけど……。

 

 

 でも、今の一番の問題は……

 

「ったー……コイツ、ちゃんと攻撃が当たってるのかー!?」

 

「剣が当たった感触自体はちゃんとあるだろう。……だが、そう思いたくもなる気持ちはわからんでもない。ここまで反応が皆無だとな……」

 

 『塔の悪魔』を攻撃してから離脱したジーノくんが苛立(いらだ)たし()に愚痴を言い、それにステルクさんが言葉を返した。

 

 

 二人が言ったように、『塔の悪魔』にいくら攻撃をしても悪魔は、その服や体に変化は起きず、動きが鈍ることも無く唯々(ただただ)ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるばかりなのだ。

 

 通常のモンスターであれば、いくら強大な相手であっても……例えば『フラウシュトラウト』のような人よりもはるかに大きいモンスターでも……強烈な一撃を当てることが出来れば傷を負うし、攻撃を続けていれば疲れるし、追い詰めれば怒りや焦りといった感情を見せてくる。

 だけど『塔の悪魔』にはそういった様子が全くと言っていいほど見られない。まるで幻でも見ているかのようで、本当にそこに()()のか疑問に思ってしまうほどである。

 

 そんな奴を相手にしていたら、どうしても焦りや不安がうまれてしまい行動に粗くなったり、連携に乱れが出てしまいかねない。それにそうなってしまうと集中が乱れる分気力も無駄に使ってしまい、いくら八人いるとはいっても消耗が激しくなって()が悪くなってしまう。

 事実、ジーノくんがそうであるように、ステルクさんや他の人たちにも苛立ちや焦り、不安の色が顔に出てきていた。

 

 このままじゃマズイ……!

 

 そう思いながらも、攻撃を続ける以外に何かできそうなことも思い浮かばないため、どうしようもない。でも、ここまで攻撃を続けて来たわけだから『塔の悪魔』も間違い無く弱っていってるはずなんだけど……。

 

 

 

「……っ!? 何か来るわよ!!」

 

 メルお姉ちゃんの注意喚起に、わたしはハッとして『塔の悪魔』のほうを見た。

 すると、『塔の悪魔』の足元からモヤモヤとした闇が湧き出し、地面を()うように低く広がりはじめている。そして、その(もや)が数か所に分かれて集まりはじめ……それが、『スカーレット』によく似た見た目の悪魔になった。その違いは体の色が赤くなくて黒いこと。

 

「ええっ!? 『黒の悪魔』!? それもなんでいきなり……!」

 

 『塔の悪魔』と、現れた八体の『黒の悪魔』から目を離すわけにもいかないため振り向くことはできなかったけど、その声だけで先生が驚きアワアワしてる姿が目に浮かぶ。

 見たところ『黒の悪魔』は『塔の悪魔』が呼び出した……というか、闇から生みだしたようにも思えるんだけど……。

 とにかく、ここに来て予想外の敵増援。ただでさえわたしたちの方は、手応えが少なくて焦りが出てき始めてるのに……これ以上は精神的にだけではなく体力的にもキビシくなってきてしまう。

 

 

 さすがにこれはなんとかしないと、考えたくないけどこのまま負けちゃうなんてことも……何か新しい一手を考えて流れを変えないと!

 

「って、あれ?」

 

 と、不意にわたしの頭の中で疑問符が浮かんだ。

 

 

 いきなり湧いて出てきた『黒の悪魔』。急な増援に間違い無くわたし達は焦るし苦戦もしてしまいかねない。

 

 けど、なんでそんなことが出来るなら『塔の悪魔』は最初から『黒の悪魔』を呼ばなかったんだろう?

 

 その表情通り、必死に戦っているわたし達をあざ笑うために、ワザと使ってこなかった? ……でも、最初からずーっと大きなダメージを与え続けているのはわたしたち。優勢だったならまだしも『塔の悪魔』のほうが劣勢だったのに、そんなことをするとは思えない。

 

 なら、他に考えられる理由は……なるべく使いたくなかったか、ここまでは使う気が無かったか……?

 そこでふと思い出した。さっきわたし自身が考えてたことを……「このまま負けちゃうなんてことも……何か新しい一手を考えて流れを変えないと!」……もしかして、攻めあぐねていた『塔の悪魔(あっち)』も似たようなことを考えてた?

 

 『塔の悪魔』がわたし達と同じような思考回路を持っているかはわからないけど、()()()()()()()は十分にあると思う。

 わたしは、そのことをみんなに伝えるために、一旦大きく息を吸った。

 

 

「みなさん! これまでにしてこなかったことをしてきたのは、表面的には見えなくても『塔の悪魔』も追い詰められていってる証拠だと思います! あと少し……あと少しです! 頑張りましょう!!」

 

「……なるほど。悪魔というものがどこまで生物的かはわからないけど「生存本能による必死の抵抗」……そういう風にも考えられなくはないね」

 

 わたしの言葉にマークさんが一応は納得してくれたみたいで、あごに手を当てて頷いてくれた。

 他のみんなも、どこまでわたしの言ったことを信じてもらえているかはわからないけど、否定するような言葉は聞こえなかった。……ただ単に、目の前のことをどうにかしようと考えていて、聞いてないだけかもしれないけど……。

 

 

グガアアアアア!

 

「来るぞ!!」

 

 『黒の悪魔』の一体が大きな泣き声を上げたのと同時に、八体全員が一斉に動き出した。それも、一体一体がそれぞれわたし達一人一人を狙うようにして突撃してきた。

 そうなると、さすがにわたし達も目の前の相手の攻撃をどうにかしないといけないわけで、他の人へのサポートが難しくなる……。

 

 

 ……八体? そういえば『()()()()()()

 

 

 はたと気付き、わたしに(せま)ってくる『黒の悪魔』を倒すための『N/A』を取り出し投げつつも、視線を周りへと向けてみた。

 

 すると、ちょうど見えた。

 迫ってくる『黒の悪魔』と対峙するマイスさん…………その側面から接近している『塔の悪魔』の姿が。

 これまでさんざんマイスさんが行動を邪魔してきてたから、『塔の悪魔』から目をつけられていたのかもしれない。そして『黒の悪魔』を呼び出し一斉にわたし達を攻撃したのは、一番邪魔になっているマイスさんを倒すべく、マイスさんの(すき)を作りながら周り(わたし達)に邪魔をされないための一手だったのかもしれない。

 

 とにかく、「マイスさんが危ない!?」と思ったわたしだったけど、その声が出る間も無く『塔の悪魔』は攻撃範囲にマイスさんを(とら)え…………

 

「とりゃあぁ!!」

 

 マイスさんが()()()()を持った腕を振るった瞬間、『黒の悪魔』共々『()()()()()()()()()()()()

 

 

 …………えっ?

 

 

 わたしがさっき投げた『N/A』の爆発音と『黒の悪魔』の断末魔が聞こえてきたけど、そんなことはどうでもいいくらい、わたしはマイスさんのほうに目が釘付けになっていた。

 

 その手にある()()を見てみると、どう見ても光り輝くものでは無さそうだった。どうやら、()()()のようにマイスさんの手元が光っていただけみたい。

 その、マイスさんが持っているものとは……

 

 

 

 

()()()()

 

 

 

 

 えっと……つまり、いつもマイスさんが畑で水を()いている時のように、周りに水を振り()いて…………その水に当たって『塔の悪魔』は吹き飛んだってこと?

 『フラウシュトラウト』の時の『クワ』がまだマシに思えてしまうほど、非常識というか、なんというか……。そもそも、そんな水を毎日受けているマイスさん()のお野菜ってどうなってるの……?

 

 

 

 そんなわたしの驚きをよそに、マイスさんは止まったりせずに次の行動に移っていた。

 

 どこからか『(ビン)』を取り出し、吹き飛んだ先で着地して立ち上がっている『塔の悪魔』に向かって、マイスさんは思いっきり投げつけた。調合した『毒薬』か何かかな?

 それはクルクルと回りながらも弧を描いて『塔の悪魔』へと一直線に飛んでいき…………勢いよくぶつかり「パリンッ」と軽快な音を立てて割れ、中の液体が飛び散った。

 

 飛び散った液体を思いっきり(かぶ)った『塔の悪魔』だけど、特に毒とかに(おか)されている様子は無いように思えた。

 あの『毒薬』は不発だったのか? それとも、『塔の悪魔』が元々異常状態に対して耐性が高かったのか? ……どちらかなのか、両方なのか、はたまたどちらでもないのか。よくわからないけど、なんにせよマイスさんの攻撃は効果が無かったようだ…………

 

 

 ……と、マイスさんが吹き飛んで少し離れた場所にいる『塔の悪魔』に向かって、勢いよく右手をつき出した。すると、その手の平から拳よりも小さいくらいの「火の玉」が『塔の悪魔』目がけて飛び出し…………

 

 

「『エクスプロージョン』!!」

 

 

 …………『塔の悪魔』に触れたかと思った瞬間、いきなり炎の「赤」が膨張して……文字通り「巨大な炎の柱」になった。

 

 離れているわたしの髪やスカートを勢いよくはためかせる膨張による爆風はもちろん凄いんだけど、それ以上に光源の少ないこの塔の内部を煌々(こうこう)と照らすほど燃え盛っている直径三メートル、高さ六メートルほどもありそうな炎の柱が凄いとかを通り越して唯々(ただただ)眺めることしかできなかった。

 

 

 長く感じられたけど、実際はほんの一、二秒間だけの存在だった「炎の柱」が消えた時、その場に残っていたのは…………

 

「―――――――――!!」

 

 全身が炎に包まれ火だるまになりながら、笑いとも叫びともどちらとも取れそうな「声の無い声」を上げて狂乱する『塔の悪魔』だった。

 

 

 その姿を見て……未だに口は笑みを浮かべ続けている『塔の悪魔』を見て、底知れない恐怖を感じていると、かなり驚いた様子のマイスさんの声が聞こえてきた。

 

「そんなっ!? あんなにみんなで攻撃して、『エクスプロージョン』を使う前に『油』をかけたのに、まだ倒れてないなんて……! 早くこの(すき)に追撃をしないと!!」

 

「いや、追撃って言ってもあれじゃあ近づけないし、そもそも必要なさそうな気が…………というか、『油』をかけたってどういうことなんですか!?」

 

「えっ、だって『油』って良く燃えるよね? その性質は火属性攻撃をする時に活かせるよね?」

 

「ええっ……そんな「常識でしょ?」みたいに言われても……って、あっ」

 

 マイスさんとそんなやりとりをしているうちに、ふと赤い光が消えた。……燃えていた『塔の悪魔』がまるで塔の内部の闇に溶け込むように霧散したのだ。

 

 

「か、勝った……のかな?」

 

 

 そう口にしてみるけど、どうにも実感が湧いてこなかった……。

 その原因は…………まるで幻のようにその体を残さず消えていった『塔の悪魔』のせいか、終始よくわからないことをしていたマイスさんのせいか……。

 

 半々、ってことにしておこっか……。

 




 海上の船の上という不利な条件で『フラウシュトラウト』を倒したメンバー+ロロナ&ステルクの二人。……これで『塔の悪魔』に負けるどころか苦戦する理由が無いんですよね……。

 そもそも原作のほうでも『フラウシュトラウト』を倒せたのであれば、「パーティは三人」という制限無しでDLC追加メンバー以外を全員連れて行けるのであれば、よっぽどアイテムの準備不足だったりしない限りまず負けないでしょうし……今作でも、正直なところマイス君がいなくても普通に勝てていたと思います。
 それこそ弱っていない状態のあの『塔の悪魔』なら苦戦すること間違い無しなんですが、そうしたらギゼラさんが何もできてないというかわいそうなことになりますし……。

 そんなわけで、今回はこのようなことになりました。
 今後、本調子に戻った時にちょっとした描写の修正は加えるかもしれませんが、大筋は変わらないと思います。

 ……原作ストーリーラストバトルなのに、盛り上がりはどこに行ったんでしょうか?
 迷子なのか、今後別に盛り上がる予定なのか……

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