予定の都合でちょっとした休みなることになり、それなら半日で書き終えられると思ったら、無理でした。
「ははっ、ありがとね。お祭りの直前で忙しいだろうってのに、こんなワガママに付き合ってくれて」
「「お祭りの参加者だから」って……相変わらずと言うか、何と言うか……。
「いや、別にそれがそれが悪いわけじゃないし、むしろそのゆるい感じが実は凄い人なのにとっつきやすいっていう魅力でもあると思うわよ?」
「……ああっと、待って。ワガママついでってわけじゃないけど、少し時間貰えないかしら? 確認と……それと、一言二言、言っておきたいことがあるってだけで、そんなに時間はかからないから」
「ん、ありがとね。……で、さっそくなんだけど、
「へぇ。村長さんっていっても、さすがに『
「…………。」
「……いやぁ、そんなに目を泳がせながら言ってもねぇ? って、そんな顔しないでよ。別に獲って喰おうってわけじゃないんだから。……にしても良く顔に出るって言うか、マイスってウソつけない性格してるわよね。まぁ、そんなあんたについこの間まですっかりダマされてたわけだけど」
「「なんでわかったの?」って……まぁ、半分くらいは勘で、あとは今日発表するっていう『魔法』を見た『塔の悪魔』との戦いの時
「ジーノに続いて助けに来てくれた時……あの時にちょっとひっかかったのよ、『スカーレット』みたいにあんなグルグル振り回されたりしなかったし、立場が全然違ったんだけど……なんか
「で? なんで『変身魔法』使ってコソコソするような真似するのよ? 場合によっては……」
「…………。」
「『ハーフ』って、そういう事情が…………まいったわねぇ、随分予想からズレてて、言いたいことがあったけど言えそうにないわ。でも、そうねぇ……変身するのは、みんなからちやほやされたいからとか?」
「……むしろ、もみくちゃにされて疲れる? でも、それはその姿を利用した自業自得のような気もするけど……にしても、本当に下心が無いわねぇ。トトリたちにも接してるわけだし、個人的には安心できてうれしいけど、別の意味で心配な気もするわ」
「っと、ゴメンゴメン、話がズレちゃったわね。えーと、あたしが言いたいのは……事情があるにしても、やっぱり近しい人に騙されてたって知った時は少なからずショックを受けるものよ」
「別に、トトリやツェツィ、他の人たちに明かしてほしいってわけじゃないわ。誰にもバレずにいられれば何の問題も無いわけだし」
「だけど…………マイスは
「自分って自分自身のことを一番よく知ってるもの。あたしは、ギゼラさんのことをトトリに黙ってた時、「トトリのため」って思っててもやっぱり何処か引っかかってさ」
「…………。」
「……そっか。ならいいんだけど」
「まっ、これも何かの縁だし、困ったり迷ったりした時はあたしのところに相談に来てくれていいわよ? 解決してあげられるかはわかんないけど、愚痴ぐらいは聞いてあげられる」
「あたしじゃなくてもいいんだけどね。マイスはあたしが知ってる範囲だけでも、一人で頑張り過ぎてるように見えるし、時には他人に頼ることも覚えたらいいと思うわ」
「あとは…………ありがとね。あの時、トトリやジーノが助けに来てくれたけど、でも
――――――――――――
***マイスの家・二階・寝室***
「…………ぁ」
特に何があったわけでも無く、不意に目が覚めた。上体を起こし、うっすらと開いた目から見えたのは、窓の外のほんの少しだけ明るくなってきた空。その感じからして、いつもの時間に目が覚めただけみたいだ。
ようやく朝日が顔を出し始めた空を見て「今日はいい感じに晴れそうだなー」と思いながらも、僕はあることに考えが回っていた。
「ううん……
夢とは言っても、あり得ないことが起こったりするものじゃない。実際にあったことが出てきてるという夢。
あのメルヴィアとのやり取りがあったのが、数日前のお祭りの時……前々からちょっと頼まれてて、その日の朝に『アランヤ村』に迎えに行った後のことだった。
メルヴィアが、金のモコモコが僕だと気付いた……正確には、半分確信して鎌をかけてきたみたいなんだけど……まぁ、それに僕が見事に引っかかってしまってバレちゃったわけだ。
メルヴィアは「他の姿に色々変身できる『魔法』」っていう微妙に違う予想をしてたみたいだったんだけどね。
だけど……別にあの時の事を夢に見て、僕はそう目覚めが悪いってわけでも無かった。
もちろん、メルヴィアが僕のことに気付いたのには驚いたんだけど……でも、僕が『ハーフ』だってことを知っても驚きはしても嫌そうな顔とかはしてなかったし、いつもの調子で受け入れてくれたことにはむしろ嬉しさやありがたさを感じたくらいで、嫌っていう気持ちも無かった。
でも、何故かこうして何度も夢で見ることになっている。
悪夢ってわけでもないし、逆に良い記憶だったから夢で見てるって感じでも無い気がした。
「うー……なんでだろう?」
そんなわけで、ここ最近、朝起きてはこうして首をかしげて考え込むことが多くなってしまっている。
そして…………
「っと、そんなことより、早く畑仕事を始めないと!」
毎回、今やるべきことを優先してやっているうちに「まっいっか。そのうちわかるだろうし」と思考を切り上げている。
「ああっ!? 今日って
――――――――――――
***青の農村・集会所前『広場』***
前回のお祭りを終えてから、僕たちは本格的に『学校』造りに力を入れていくことになった。
各教科の教科書や教師、学校施設の建物の計画とそれを立てるための土地の確保。他にも『青の農村』にわざわざ足を運んで聞いてくる問い合わせで生徒募集に関する質問等も増えてきて、準備はもちろん事務的な対応にも追われている。
……が、新しい出来事っていうのは、一つも物事に対してだけ新しく起きるわけじゃない。
これまで通りの生活の中にも季節の流れや、ちょっとした変化なんてものも家ごとに……人、一人一人に起こっていたりするものなのだ。
そう。例えば――
「
「ち、誓いますっ」
「
「……誓います」
――幸せな門出とか。
……この愛の誓いを確認する役回りも、随分と慣れてしまったものだ。
歴史も何も無い『
「式とかどうする?」って話になって、村のみんなで祝うように決めて……で、ほとんど農家ばっかりで「あーでもない、こーでもない」と話し合って形となった『青の農村』流のなんちゃって『結婚式』なんだけど……それを誰がどうまとめるかって話になった時、僕を除いた全員が「村長で」と満場一致で決めてこんなことになったのだ。
みんなで決めた台本を読むだけなんだけど、最初のころはやっぱりきんちょうしたりしちゃって、終わった時にはドッと疲れたりした。けど……
僕の目の前で愛を誓いあい、そしてキスを交わす男女。
……新郎新婦の幸せそうな姿をこうして間近で見れる立場って言うのも悪くない。
最近はそう思うようになってた……。
――――――――――――
***青の農村・集会所***
『広場』での誓いを終えた後は、『集会所』内での身内でのお祝いになる。
……まあ、新郎新婦っていう主役がいて、ちょっと料理に手が込んでて豪華なだけで、あとはお祭りの打ち上げなんかとさほど変わらない賑やかなパーティーなんだけど……それはそれで『
そんな中、僕はと言えば新郎新婦へのお祝いの言葉を終えて、彼らから少し離れた場所で一人グラスを傾けていた。
……と、そんな僕に声をかけてくる人が。
村の誰でもありえそうなんだけど……こういう時は決まって
「よっ。なに一人で寂しそうにしてるんだ?」
「寂しそうにって……僕、そんな顔してた?」
「いや、巣立っていく雛鳥を見る目してて気持ち悪かったな。似合わないったらありゃしないって」
そう言ってけらけら笑うのはコオル。『青の農村』の初期の頃からのメンバーの中でも『行商人』ってこともあって僕個人とは付き合いが長い彼とは、こうして冗談交じりに話すことも多い。
多いんだけど……本当にそんな目をしてたのかな、僕は?
そんなことを考えて首をかしげる僕。その隣に来たコオルは「でもなぁ……」と呟いてから言葉を続けた。
「マイスんところに教わりに来たヤツの中で最年少だったアイツが結婚って……早いもんだよな」
「最年少って言ってもコオルのいっこ下だったよね? まあ確かに、あの頃に比べてずいぶんと立派になったけど」
そう。彼は僕のところに『農業』を教わりに来たメンバーで、その時はまだギリギリ歳が一桁で、でも人一倍『農業』に真剣だった。……本当に立派になったものだ。身長なんて、とっくの昔に僕の上を行っている。
そんな農業一筋に思えた彼も、今日、はれてお嫁さんを貰ったわけだ。
お相手は村や街から見て南のほうにある、麦の生産で有名な一帯『黄金平原』と呼ばれる採取地近くで暮らしている農家の娘さん。農業の勉強のために『青の農村』に来て、彼とはそこで出会って交際を始めたらしい。
その事を思い出して、「やっぱり彼は農業繋がりで物事をかんがえるのかなー?」なんて考えてたんだけど……そんな僕をコオルが
「なぁなぁ、気付いてるか? 初期メンバーどころか、今『
「あれ? そうだっけ?」
言われて、村に住んでいる面々を思い出してみて……農作物の生産量の集計や、最近では『冒険者ギルド』で働いたり、学校の設立関係でも手を貸してくれている農家以外の住人の事を思い出してみて…………僕は頷いた。
「ああ、そっか。しっかりしてて大人びてる子もいるけど、まだ十代前半だったね。あはははっ、そっかーみんな幸せそうでよかったよ」
「って、そうじゃなくてだな……」
「ハァ」とため息を吐いて首をふるコオル。
……? 何か間違ってたかな?
「いやな、俺はともかく、
「ああ……」
そう言われて思い返してみる……。結果……
「ここ数年は、結婚式の度に言われてるかな?」
「それでも相変わらずってわけかー……そういう相手も全くいないのかよ、お前は」
「相手かぁ……」
考えてみるが…………うん、やっぱり思い浮かばない。
結婚というものを上手くイメージできないっていうのもあるんだけど、それ以上にそれ以前の問題が多すぎる気がする。
そもそも、身長とか童顔とか、常識が無いと言われやすいこととか……僕の外見的・内面的な部分を考えただけでも好きになってくれる人っていうのは少ない気がする。
その上、「異世界出身」、「人間とモンスターの『ハーフ』」っていう二大問題がその先に待ち構えているわけで……うん、やっぱり結婚は色々と難しい気がする。
……そもそも、僕自身が数歩ひいちゃっているというか……
ここで、僕の中で何かがカチッとはまる音がした気がした。
『だけど…………マイスは
『自分って自分自身がしてることを一番よく知ってるもの』
ああ、メルヴィアと話したことが夢に出るまで何か引っかかっているのは、他でもない自分自身が自分の事を不安に感じているからなんだろう。
メルヴィア以外にもこれまでに僕のことを受け入れてくれた人はいた。それに、それ以外の人も「話も聞かずにつっぱねるようなことはしない」って僕は思っている。
だけど、だ。
周りの人を信じる気持ちよりも、「もしも……もしも、嫌われてしまったら」という不安感が勝ってしまっているからだろう。
そしてそれを、「別に教えなくても……」とか「話すタイミングが無くって……」と言わなくていい理由を言い訳して自分にも隠してしまおうとしている……そんな気がした。
自分のことながら、「なんとなくだけど、そうなんじゃ……?」っていうのが、情けないところだ。
……リオネラさんやフィリーさん、クーデリアやホムちゃんにも受け入れてもらえているのに、「周りの人とは違う」って不安に思ってしまうっていうのは、客観的に見てもよっぽど自分に自信が無いんだと思う。
「結婚」だとか、その相手がとか、そんなことはまずこのことを何とかしてからじゃないとダメだよね。
ああ、でも、きっと何か別の事を始めたら一生懸命になっちゃって、今考えてることとか、結婚のこととか忘れちゃいそうなんだよなぁ。
そう思って、僕は心の中で自分の単純さを自嘲気味に笑うのだった……。
――――――――――――
……マイスがひとりでそんなことを考えているその時。
思考に浸っている彼の周りでは……
「おいおいウソだろ!」
「結婚の話をしても三歩歩けば忘れる村長が……!」
「あんなに考え込んでる!?」
だとか……
「相手がいるかって話でああなったのよねっ?」
「そうだけど……ああっ! もしかして、気になるお相手が!?」
「本当!?」
だとか……
「気になる相手って……もしかして私かしら~!?」
「アンタはもう旦那がいるでしょ」
「村の中で修羅場って……」
だとか……
「村長はウチの娘と……!」
「バカを言うな! それならウチの娘のほうが!」
「わたしの養子になってくれないかしらねぇ……」
だとか、聞き耳を立てていた村の人たちが、本人をよそに騒ぎだしていた。
今日の主役である新郎新婦は……
「そ、村長にやっと春が……!?」
「えっと、そんなに驚くことなの?」
「あの人、昔っから周りに男も女も寄ってくるのに、そんな話はからっきしで……周りからも、もはやマスコット的な扱いだから……」
「ええっ!? ……あっ、でもわかるかも」
他所出身の新婦が、新郎の話を聞いて驚いたりしていた。
そして、マイスの隣にいるコオルはと言えば……
(……まぁ、女を連れ込んでも料理を振るまったりするだけのマイスに、相手も何も無いか)
と、ある意味一番的確なことを考えていた……。
――――――――――――
しかし、こうして騒ぎとして話が広がったように、人とはこういった類の話には目が無い物だ。
そして「人の口には戸が立てられない」そんな言葉が世の中には存在するように…………
あっ……(察し)