マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 Twitterのほうでつぶやきましたが……お酒はダメですね。さめるまでの頭のまわらなさが危険。


 【*7-3*】で一区切りです。
 今回は、前半はステルクさん視点。後半はクーデリア視点でのお話となります。

 「恋は盲目」なんて言葉がありますが、ロロナがちょっとマイス君に意識が傾き気味な傾向が露わになって行きます。
 そして、それと同時に作者にスケさんへのある種の罪悪感が……いやまあ、書いている自分が言うのも変かもしれませんがマイロロも大好きなんですよ? でも、原作のステロロも好きですし……。

 ただでさえ、書く時間が限られているのに「『IF』の番外編でステロロ書きたいなぁ~」なんて考えている、そんな小実でした。



ロロナ【*7-3*】

 

***職人通り***

 

 

 

「…………」

 

 様々な店が立ち並ぶ『職人通り』。その脇を流れる水路へ転落防止のために設けられた柵に片手を置き、陽の光を反射しきらめく水面を私はなんとなく見つめていた。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 後悔……とはまた違う、どちらかというと自身の情けなさを痛感するようなネガティブな感情が自分自身の内から湧いてきていることを理解していた。

 

 

 しかし、そもそも『職人通り(ここ)』をなんとなく散策したりすることは、以前からよくあったことだ。

 だというのに、何故、最近ではこんな感情を抱くようになってしまったのか……。

 

 私自身の気持ちの持ちようそのものが変わったから…………正確には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 いや、好意自体は以前から見え隠れしていたようにも思えるので、「感情の変化」というよりも「自覚からくる行動・態度の変化」と表現したほうが適切かもしれない。

 

 まぁ、昔からロロナ(彼女)マイス()のことを何かと気にかけ、逆に気にかけられたりしていたし、多少方向性(タイプ)の違いはあれど底無しのお人好しでどこか抜けていたりお騒がせな部分がありながらも憎めない人柄なあたり、何かと波長が合っている節はあった。故に、二人が親密交友関係になることは(はた)から見て至極当然のことに思えるため、そこに疑問を持つことは無い。

 だが……

 

「理解することはできても、何故か納得はでき……()()()()()、か」

 

 何故、自分自身がそんな風に思うようになっているのかは、恥ずかしながら一応はおおよその見当がついている。しかし、そうやって冷静に自己分析が出来ている反面、その結果を(かたく)なに認めようとしない自分がいるのもわかっていた。

 理屈だけでは語れない。()()()()というものはそういうものなのだろう。……そしてそれは、向かう対象が違えどロロナ(彼女)も抱いている感情のはずだ。

 

 マイス()の結婚の噂やお見合いの話を聞いてからというもの、『サンライズ食堂』に酒を飲みに入り浸ったりしていたロロナ(彼女)だが、その健康面で不安になる生活はつい先日改善された。……が、そのかわりに、急に放心したり一人で悶えたりするようになり…………あれはあれで、私としては見てられないものだ。

 

 

「……私は一体何をしているのやら」

 

 ロロナ(彼女)のことを考えていると、気付けば知らぬ間にこの通りの途中に見える彼女のアトリエの方へと視線を向けてしまっていた自分に少しばかり情けなさを感じてしまっていた。

 私は短くため息をつき、再び顔を正面の水路のほうを向く。

 

 

 第一に、だ。()()()()()()()は周りがとやかく言うものではないだろう。

 

 ロロナ(彼女)が誰が好きであろうとソレが彼女の意思であるのだから、その背中を押すならまだしも、禁止したり他の選択肢を強要するのは人としてあるまじき行為だ。

 そして、それはマイス()()同じ。マイス()にだって、好意を向けられた場合に答えを選択する権利はある。もちろん、相手の好意に対して真摯(しんし)な態度で向き合うのであれば、であるが。相手の好意を利用してやろうなどと考える(やから)には周りから何かしらの手を加えなければならない。……まぁ、マイス()であれば万が一にも無いと思うが……。

 

「そういう意味では、何かしでかさないか心配な顔がいくつか浮かぶな……」

 

 前に「もし仮に」と付くが、今ロロナ(彼女)が抱いている想いが叶えられそうになったとしよう。 

 あの二人は何かと顔は広く、本人たちに自覚があるかはわからないが少なからず()()()()()()()も複数人から向けられているような節がある。その好意を持っていた人々が少々騒いだりするだろう……が、おそらくは大事にはならないとは思う。

 

 しかし、下手に行動力と実力を持つ人間が何かしそうではある。

 

 例えば、結婚の騒動(例の騒動)で最近街に戻ってきたエスティ先輩。

 ロロナ(彼女)がアトリエを継いで王国課題をこなしていたころの先輩であれば、「ちぇー、羨ましいなー」などと少々(ねた)ましそうにしながらも何だかんだ最後には祝福していただろう。

 だが、年が経つにつれ先輩のその手の話へのあたりの強さは年々増しているように感じるのだ。実のところは何かするかしないかはどちらとも言えないので、未知数と言ったほうが正しいもするが……なんとなくだが、何かするような確立のほうが高い予感がするのは、気のせいだろうか?

 

 そして、絶対と言っていいほど何かするであろう人物は、あのアストリッドだ。

 何のためかは知らないが、今はまるで逃げているかのようにことごとく姿を隠しているアストリッドだが、少しばかり歪んでいる気もするが弟子であるロロナ(彼女)への溺愛っぷりは相当なものである。その弟子が誰かと結ばれるなどという話になれば、何もしない方がおかしいくらいだ。翌日、槍が降っても私は驚かないだろう。

 しかも、性質(たち)が悪いことに、アストリッド()なら大抵のことはできてしまいそうなので、言葉通り「何をしてもおかしくはない」のだ。

 

 

 

「だが、そもそも何故私は()()()()()()よりも、彼女の周りの事に気を遣わなければならないんだ? それはまぁ、何者かがロロナ(彼女)の邪魔をするというのであれば私はその(たくら)みを阻止すべきだと思うが……」

 

 しかし、ロロナ(彼女)の行く手を誰も(はば)まず、彼女が抱くその思いが()げられる――それは()()()()()()()()()()()

 ……それがわからないほど、私も頭が回らないわけではない。

 

 ならば、何故私は……?

 

 

「ハァ。()()()()()、と言うやつか……」

 

 

 

 

「弱み、ってもしかして例の首の……?」

 

「いや、そういう弱さではなくてだな。もっと言えば、首ではなく君の……」

 

 

 ……待て。()()()()を知っている……それ以前に、この声は……!?

 

 

「ふぇ? 私?」

 

 ハッとし、水路方向へと向けていた顔を身体ごと左手方向(アトリエのあるほう)へと向けると……覚えが無いといった様子で小首をかしげているロロナ(思った通り)の顔が目に入った。

 つい漏れ出してしまった独り言を何処(どこ)まで聞かれたのか焦り、そのせいで思考が停止しかけたのだが……ロロナ(彼女)の隣にマイス(例の彼)がいることに気付き、別の意味で思考がガチリと固まってしまう。

 

「ンンッ……!?」

 

「ステルクさん、どうかしました?」

 

「い、いや。なんでもない」

 

 私の様子にすぐに違和感を覚えたのだろう、相変わらず察しのいいマイス()が問いかけてきた。

 慌ててなんとか取り繕ったが……何かおかしいという印象は払拭しきることができなかったようで、マイス()の表情は心配そうに歪んだまま。だが、人が良過ぎるが(ゆえ)マイス()は「わかりました……」と言い、それ以上は追及してはこなかった。

 

「あっ、そういえば……」

 

 それ比べ、ロロナ(彼女)のほうは私の焦りには気づいていないようで……まぁ、直前にあった私の「君」発言のほうに気を取られていたようだったし、今回に関しては、彼女たちに気付く前に考えていたことが考えていた事だけにあまり突っ込んで聞いて来てほしくはなかったので、良かったのは良かったんだが……。

 

「なんだかボーっとしてたみたいでしたけど……ステルクさんは、こんなところでどうしたんですか? 何か悩み事だったり?」

 

 前言撤回。私が触れてほしくないところを的確に踏み抜いてきた。もちろん、彼女の事だからわざとではないだろうが……それでも何とも言えない気持ちになってしまうものだ。

 「他人(ひと)の恋愛事情に振り回されそうだと考えていた」などと言うわけにも、ましてや「君(の好意)のことを考えていた」などと歯の浮くような小恥ずかしいこと(セリフ)など言えるわけも無い。すぐそばにマイス()がいるのだからなおさらだ。仮にいなかったとしても……

 

 

 と、とにかく、今は話をそらしておくのが正解だろう。……偶然にも、ちょうど気になる事もあるのでな。

 

「そういう君たちこそ、どこかへ行こうとしていたようだが何かあったのか?」

 

 質問に対して質問を返すという、あまり褒められたことではない対応をした。……が、ロロナ(彼女)マイス()も別段気にした様子も無く、「「それは……」」と口をそろえて話し出すのだった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「……なるほど、例の「新種のモンスター」たちについての情報か」

 

 

 聞かされた話によれば、今、マイス()が村長を務める『青の農村』に「新種のモンスター」がいるそうだ。そのモンスターを保護したマイス()には何やら思うところがあったようで、これまでに集められた「新種のモンスター」について調べることにしたらしい。

 

 ……というか、これまでマイス()は「新種のモンスター」との接触が無かったのか?

 いや、まあ確かによっぽど「会ってみたい」などと思って普段人が入り込まないような奥地に突っ込んだりしない限り、ただ単に冒険をすれば絶対会えるというわけでもなかったのは事実だ。現に、何かと街の外を移動することも多い私でも、数えるほどしか遭遇出来ていない……()()()。行き慣れた採取地ならまだしも、あまり言った事のない場所、ましてや前人未踏の地などになれば、一見で新種か否かなど判断できんがな。

 

「とりあえず、事情は理解した。それで、『冒険者ギルド』へと向かっていたと」

 

「はい。ロロナに(すす)められるまで『冒険者ギルド』に行くっていうのをうっかり失念してて……」

 

「あっ、そうだ! ステルクさんは何か知ってたりしませんか?」

 

 ポンと手を叩いた後こちらへと飛んできたロロナ(彼女)の問いかけに、私は軽く首を振ってから答える。

 

()()()以外にも遭遇したことはあるにはあるが、ほんの2,3回だ。その上新種のモンスター(彼ら)はすぐに逃げ出してしまってな。故に、私もロロナ()と同じくらいの情報しか持ち合わせていないな」

 

「……? …………ああっ!」

 

 私の言葉に数秒間()をあけてから大袈裟とも取れる反応を示すロロナ(彼女)。そのそばにいるマイス()はいきなりの事にビクリッと体を震わせて驚いているようだ。

 ……だが私は、私の言葉に対するロロナ(彼女)の表情の変化を見て、大方何がどうしたのかということの見当はついていた。

 

「私に「何か知らないか」と聞いた時点でなんとなくそんな気はしたが……新種のモンスターの調査は君と私が引き受けた依頼だっただろう?」

 

「あ、あはははー……っ、えっと、忘れてたとかそういうのじゃなくてですね~? アトリエから出る時、何かあったんだけどなーって思ってはいたんですけど……」

 

「それを「忘れていた」と言うんだろう」

 

 忘れてたことに後ろめたさが流石に感じられたのか……しかし、なんとかその場を乗り切ろうとしての判断か、明後日のほうを見て笑いながら本当に誤魔化す気があるのか分からないことを言っていた。

 当然そんなもので誤魔化しきれるはずも無く、私の言葉に「うぐぅっ!?」と言葉を詰まらせたが。

 

 

 ……と、その視線に気づいたようで「いや、そのちょっと……」と少し遠慮気味に口を開いた。

 

「ふと、その調査にどうして僕は呼ばれなかったのかなーと思って……」

 

「ん? それは……」

 

 調査にマイス()が呼ばれなかった理由を、彼自身が知らなかったことに一瞬驚いたが、根は馬鹿がつくほど真面目で責任感もある彼の性格を考えると知らされてない事にも納得し……しかし、疑問を持っても知らないままというのもどうかと思ったので教えようとしたのだが……。

 私よりも先にロロナ(彼女)が言ったのだ。それも()()()()()()()()

 

「あれ? なんでだっけ? マイス君がいた方が調査がはかどりそうなのに」

 

「……君()()が言い出したことだったんだがな」

 

 昔から変わらない……どころか、年々酷くなってるのではないかと思えてくるロロナ(彼女)の抜けっぷりに頭を抱えつつ、私はひとつため息をついてから改めて話を再開する。

 

「『冒険者ギルド』に報告書を見に行くのだろう? その時に、理由についても受付嬢の彼女に聞いてみればいい」

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 「受付嬢……もしかして、くーちゃんが?」と呟きつつも、名前は出てきてもまだ「どうしてその人物がでてくるのか」がピンときていない様子のロロナ(彼女)と、そもそもの理由の方を知らないためピンときようがないマイス()は、疑問を抱えたまま『冒険者ギルド』へと向かって行くのだった。

 

 

 そんな二人の後ろ姿を、何とも言えない気持ちで見送っていたのだが……

 

「……?」

 

 不意にロロナ(彼女)の横顔がわずかながら見えた。どうやら左隣を歩くマイス()のほうをチラリと見たようだ。

 そして――後ろ姿なので正確に確認できるわけではないが――両手で握り拳を作り、まるで「……よしっ!」と気合を入れるかのような仕草をしたかと思えば……

 

「……!?」

 

 ソーッとロロナ(彼女)の左手が伸びる。

 その先には歩調に合わせて揺れるマイス()の右手。

 触れるか、触れないか。そんなギリギリまで近づいたかと思えば、ロロナ(彼女)のほうから寸前で手を引き…………しかし、先程よりもマイス()の腕の振りがわずかに大きかったのか、()()()()()()()()

 

 

 二人してピタリッと手も歩みを止め固まってしまった。

 

 時間は……長く感じられたが、実のところはほんの数秒だったかもしれない。

 

 「はて?」といった様子で首をかしげたマイス()が、固まったままのロロナ(彼女)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 対して、固まってしまっていたロロナ(彼女)のほうは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………

 

 

 …………………………………………。

 

 ………………………………。

 

 ……………………。

 

 

「…………グハッ!?」

 

 気づけば、私の視界には石畳しか映っていなくなっていた。

 

 

 本人たちの問題だとか、むしろ周りに気を付けなければなどと考えていたが……

 

「目の前で見ると……思いの外、ダメージを…………受ける、もの……だな…………」

 

 ()()()、私の思っている以上に、()の中で()()()という存在が大きいということだろうか……?

 

 駆け寄ってくる足音と「ステルクさん!? どうしたんですか!?」というトトリ(彼女の弟子)の声を遠くに聞きつつ、私の意識は闇に飲まれるのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

***冒険者ギルド***

 

 

 ギルド全体が静かながらも確かにざわめき……あたしから見て右手のほうから、「けけ、けっ結婚、報……告……!?」とかいう声と共に()()が倒れるような音が聞こえてくる。

 

 見てみれば、予想通り依頼関係の受付についていたフィリーが直立体勢でそのまま綺麗に真後ろへと倒れてた。

 特筆すべきは……その感情の振れ幅が激しい感があるフィリーにしては珍しく「目は点、口は横一線」という真顔であることと、顔色と言うか全身が真っ白になってしまっているように見える気さえするほど生気が感じられないこと……かしら?

 

 

 原因?

 そんなの視線を正面に戻せば原因(それ)は嫌でもわかる。

 

 

「…………!」

 

 幸い(?)フィリーの声は届いていなかったようで、いつものにこやかな表情で「おーい!」といった感じに左手を振ってコッチに歩いてくるマイスと……

 

「えへへ~」

 

 こっちはそもそも周りの声が聞こえているのか怪しい、親友としては何ともコメントし辛いデレッデレの表情をして、歩くマイスの右手を自身の左手でしっかりと握って連れそっているロロナ。

 

 

 そりゃ、ギルドにいた全員がざわつきもするし、フィリー(あの子)がぶっ倒れるのも納得できる。

 フィリー自身、マイスに()()()()()()()があったのはもちろんのこと、その立ち位置的に運が無かったのかリオネラとトリスタン(おサボり大臣)に挟まれることがここ最近多いようで心労が絶えない様子だった。

 

 その上で目の前の光景(こんなもの)見せられたら……ねぇ? 「あの二人なら……まあ、いいんじゃないかしら?」と思っていたあたしですら、今のは少し動揺しちゃったわけだし。

 

 

 そんな二人が手を繋いだまま、ついにあたしがいる受付カウンターの前まで来た。

 

「こんにちは、クーデリア。お仕事の調子はどう?」

 

「まあ、ボチボチってところかしら。誰かさんの影響(せい)で雑務が増えたりもしたけどもう落ち着いたし……マイス()、いつも通りみたいね(爆発しろ)

 

 一瞬さっきのフィリーの発言「何の報告かしら?」と言いそうになったけど、よくよく見てみれば()()()マイスはいつも通りの調子で、変なのはロロナのほうだけだってことに気付いてその言葉は飲み込んだ。

 その辺りの探りをいれるためにちょっと含みを持たせて言ってみちゃったけど、当のマイスはさほど気にしていない感じ。この調子じゃあ、あくまでロロナからの一方通行だっていう状態からは進展してはいなさそうね。

 

「で? 今日はどうしたのよ? あんたたちってことは冒険者免許のこととか冒険者(コッチ)方面の話じゃないんでしょ?」

 

「えっと、実は「新種のモンスター」のことで聞きたいっていうか、報告の確認をしたいんだけど……」

 

 マイスが新種のモンスターについて知らない様子なことに少し驚いたけど、冒険する頻度は昔より格段に減り『青の農村』内での活動が多くなっている今のマイスが新種のモンスターを知るには、会いに行ったり、逆に来たりしない限りはそうそう無いだろう……って事に気がついて、ひとまずは納得する。

 

 じゃあ、なんで今の今までノータッチだったのに、今回そんなことを聞きに来たのかって話になるんだけど……その疑問をあたしが投げかける前に、あることに気付いた。

 何やらマイスが「あれ? あれ?」といった感じにキョロキョロしているのだ。一体どうしたのかしら……?

 

「えっとフィリーさんが見当たらないけど、今日はお休み?」

 

「ああ、そういう……ほら。「結婚報告」がどうとか言って、あそこに倒れてるわ」

 

 あたしが軽くあごでクイッと指し示すと、マイスは覗きこむように少し受付カウンターに身を乗り出し……「わっ!?」と声をあげた。

 倒れてるフィリーをみるやいなや、マイスは握っていたロロナの手を離し……そして握ってきていたロロナの手からもそのままスルリと容易く抜け出して、ピョンとカウンターを飛び越えてフィリーのもとへと駆け寄っていった。

 

「大丈夫ですか!? いったい何が……フィリーさんが気絶するといえば、ステルクさん? でもさっき会ったステルクさんにはそんな様子は無かった気がするんだけど……というか「結婚報告」って誰の? エスティさん……じゃないよね?」

 

 ……マイスが何か呟いてるのが聞こえたけど、気にしないことにしましょう。

 特に最後のはいろんな意味で危ない気がするんだけど……まぁ、そこで自分の事だったとは夢にも思ってないのが、マイスらしいっちゃらしいわね。

 

 

 

 そんなマイスのことはひとまず置いておくとして……とりあえず、あたしの前に残っているロロナへと意識を向ける。

 

 ロロナはといえば、ついさっきまでマイスに握られていた左手を自身の右手で大事そうに()でながら、デレデレと笑みを漏らしていた。

 ……そこまでデレッデレにとろけている様子を見せられると、直前にあたしのなかで否定したばかりの「二人の関係(なか)が進展したのではないか」という考えが再びわき上がって来てしまう。

 

 あたしは冗談半分で、からかうように少しニヤニヤしながらロロナへとカウンター越しに顔を寄せる。

 

「何? もしかして、今日はデートだった?」

 

「ふえぅっ!? で、でででーと!?」

 

「あら、違ったの? てっきり、ロロナのほうから告白して付き合いだしたんじゃないかって思ったんだけど」

 

「やっやだ~何言ってるの、くーちゃん! 付き合うだなんて、そんな…………って、あれ?」

 

 そこまで言って、ようやく変だと感じたんでしょうね。

 首をかしげて固まったかと思えば、ギギギッと(きし)むような音が聞こえてきそうなゆっくりとした動きで傾いていた顔を真っ直ぐに戻し、表情を固めたまま目を白黒させた。ついでに汗がダラダラ流れている気もする。

 「目は口程に物を言う」なんて言葉があるけど、今のロロナの表情は「な、なんで……!?」と驚愕しているのがまるわかりだ。おそらくは「ロロナ(自分)(から)マイスへの好意」にあたしが気付いていることに驚いでいるんでしょうね。

 

 

 あたしは、流石に好意の事(それ)をロロナ自身の口から語らせるのはどうかと思うところがあったため、軽く首をすくめてみせた後、こっちから話を切り出した。

 

「言っとくけど、バレバレよ? ……まぁ、肝心のマイスはサッパリみたいだけど」

 

 そう言いながらチラリと視線だけ依頼関係の受付の方へと向けてみると、そこでは倒れていたフィリーを手厚く介抱するマイスの姿が。こっちの話なんて聞こえている様子も無ければ、そんな余裕も無さそうだ。

 

「それは、その……あのねっ! そういうことじゃないっていうか、マイス君はマイス君だし……!」

 

「誤魔化そうとするヒマがあるなら、マイスを口説き落とす方法でも考えたら? さっき言ったみたいに、マイスは()()()()()にはトコトン(うと)いんだから、あんたのほうから積極的にいかないとどうしようもないわよ」

 

 「そんなことしてるうちに、他の娘に盗られちゃうんじゃない?」と付け足して言うと、ロロナは「がーん!?」と本当に口で言って大きく目を見開いた後、ガックシと肩を落とした。 

 

「ううっ! そ、そんなこと言われたってー……」

 

 まぁ、中々一歩踏み出せない気持ちを理解できないわけでもないから、ロロナの漏らす弱音にあたしはうんうんと小さくだけど頷いて見せる。

 ……けど、ロロナ(この子)のその奥手さをなんとかするべく、背中を押すなり何か考えたり、実際に動いてあげるべきかしら?

 

 

 

「そ、そんなことよりっ、今は「新種のモンスター」のことだよ!」

 

 自分の恋路を「そんなこと」呼ばわりまでして話題をそらそうとするロロナに愛らしさを感じつつも、その行く末に不安を覚え、ついため息が出てしまったあたしは別に悪くないだろう。

 

「マイス君もあんなに気にしてるんだから、私の事よりコッチのほうが大事なの! 頼ってくれたんだしなんとかしてあげないと!」

 

「気にしてる……ねぇ?」

 

 マイスが「新種のモンスター」に会ったのは今回が初めて。それでいきなり気にし始めるってことは、絶対と言っていいほど何かあるんだとは思うけど……まさか……?

 

 

「まさか「新種のモンスター」って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

「アッチノ? くーちゃん、何か知ってるの?」

 

「知ってるって、そりゃあ……ん?」

 

 確かにあたしは今、直接的な言い方はしなかったけど……それでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()

 「ロロナの天然?」とも思ったんだけど、よくよく思い返してみればロロナ(この子)ってばついこの間もあのミミ(高飛車娘)と一緒でマイスの()()()を知らない様子だったし……。

 

「この子よりも先に、マイスと色々話さないといけないみたいね……」

 

「ふぇ?」

 

 なんにせよ、「新種のモンスター」のこともあるわけで、マイスと話す時間を設ける必要はあるのよね……。内容が内容だし、流石に人の目が多い『冒険者ギルド(ここ)』でじゃあ難しいし。

 

 

 

 それにしても……

 

「そうそうくーちゃん! なんであの調査の時、マイス君は呼ばれなかったの? マイス君ってモンスターたちとお話しもできたりするし、一緒に冒険したかったんだけど……」

 

「あんたねぇ……トトリの船でギゼラ探しに出るって時期と被って「ギゼラさんのこと気になってるだろうし、マイス君にはあっちに行ってもらって、ロロナたちが調査にまわる」って、あんたとここで相談して決めたじゃない」

 

「あっ……!」

 

 ……ロロナの天然って、ここまでひどかったかしら?

 




 今回のまとめ。

 スケさん:マイロロ(本人たち無自覚)の前に一人で勝手に倒れる。
 フィリー:はやとちりによる発言で、ギルド職員間のマイス君の噂を再燃させる。なお、タイミングがズレていれば、マイロロに彼女の発言が直撃し大惨事になっていた模様。
 クーデリア:覚悟完了していたので、思う存分ロロナをからかって愛でることはできた。しかし、肝心の本人たちの距離が詰まったように見えて何にも進展・解決していないことに頭を悩ませる(苦労人)。

 ……あと何十話必要なんでしょうね? 大袈裟に言ってますが、間違い無く他のキャラが結婚相手だった場合の倍近く時間がかかりそうな予感。
 えっ? リオネラとトリスタンはどうしたのかって? ……リオネラには『IF』で幸せになってもらいます。トリスタンさんは……未定です。


 次回、共通のおはなしで箸休め回。とはいっても、大筋のストーリー的には重要な部分が進んで行く大事なお話しなんですけども。

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