【*7-3*】で一区切りです。
今回は、前半はステルクさん視点。後半はクーデリア視点でのお話となります。
「恋は盲目」なんて言葉がありますが、ロロナがちょっとマイス君に意識が傾き気味な傾向が露わになって行きます。
そして、それと同時に作者にスケさんへのある種の罪悪感が……いやまあ、書いている自分が言うのも変かもしれませんがマイロロも大好きなんですよ? でも、原作のステロロも好きですし……。
ただでさえ、書く時間が限られているのに「『IF』の番外編でステロロ書きたいなぁ~」なんて考えている、そんな小実でした。
***職人通り***
「…………」
様々な店が立ち並ぶ『職人通り』。その脇を流れる水路へ転落防止のために設けられた柵に片手を置き、陽の光を反射しきらめく水面を私はなんとなく見つめていた。
後悔……とはまた違う、どちらかというと自身の情けなさを痛感するようなネガティブな感情が自分自身の内から湧いてきていることを理解していた。
しかし、そもそも『
だというのに、何故、最近ではこんな感情を抱くようになってしまったのか……。
私自身の気持ちの持ちようそのものが変わったから…………正確には、
いや、好意自体は以前から見え隠れしていたようにも思えるので、「感情の変化」というよりも「自覚からくる行動・態度の変化」と表現したほうが適切かもしれない。
まぁ、昔から
だが……
「理解することはできても、何故か納得はでき……
何故、自分自身がそんな風に思うようになっているのかは、恥ずかしながら一応はおおよその見当がついている。しかし、そうやって冷静に自己分析が出来ている反面、その結果を
理屈だけでは語れない。
「……私は一体何をしているのやら」
私は短くため息をつき、再び顔を正面の水路のほうを向く。
第一に、だ。
そして、それは
「そういう意味では、何かしでかさないか心配な顔がいくつか浮かぶな……」
前に「もし仮に」と付くが、今
あの二人は何かと顔は広く、本人たちに自覚があるかはわからないが少なからず
しかし、下手に行動力と実力を持つ人間が何かしそうではある。
例えば、
だが、年が経つにつれ先輩のその手の話へのあたりの強さは年々増しているように感じるのだ。実のところは何かするかしないかはどちらとも言えないので、未知数と言ったほうが正しいもするが……なんとなくだが、何かするような確立のほうが高い予感がするのは、気のせいだろうか?
そして、絶対と言っていいほど何かするであろう人物は、あのアストリッドだ。
何のためかは知らないが、今はまるで逃げているかのようにことごとく姿を隠しているアストリッドだが、少しばかり歪んでいる気もするが弟子である
しかも、
「だが、そもそも何故私は
しかし、
……それがわからないほど、私も頭が回らないわけではない。
ならば、何故私は……?
「ハァ。
「弱み、ってもしかして例の首の……?」
「いや、そういう弱さではなくてだな。もっと言えば、首ではなく君の……」
……待て。
「ふぇ? 私?」
ハッとし、水路方向へと向けていた顔を身体ごと
つい漏れ出してしまった独り言を
「ンンッ……!?」
「ステルクさん、どうかしました?」
「い、いや。なんでもない」
私の様子にすぐに違和感を覚えたのだろう、相変わらず察しのいい
慌ててなんとか取り繕ったが……何かおかしいという印象は払拭しきることができなかったようで、
「あっ、そういえば……」
それ比べ、
「なんだかボーっとしてたみたいでしたけど……ステルクさんは、こんなところでどうしたんですか? 何か悩み事だったり?」
前言撤回。私が触れてほしくないところを的確に踏み抜いてきた。もちろん、彼女の事だからわざとではないだろうが……それでも何とも言えない気持ちになってしまうものだ。
「
と、とにかく、今は話をそらしておくのが正解だろう。……偶然にも、ちょうど気になる事もあるのでな。
「そういう君たちこそ、どこかへ行こうとしていたようだが何かあったのか?」
質問に対して質問を返すという、あまり褒められたことではない対応をした。……が、
―――――――――
「……なるほど、例の「新種のモンスター」たちについての情報か」
聞かされた話によれば、今、
……というか、これまで
いや、まあ確かによっぽど「会ってみたい」などと思って普段人が入り込まないような奥地に突っ込んだりしない限り、ただ単に冒険をすれば絶対会えるというわけでもなかったのは事実だ。現に、何かと街の外を移動することも多い私でも、数えるほどしか遭遇出来ていない……
「とりあえず、事情は理解した。それで、『冒険者ギルド』へと向かっていたと」
「はい。ロロナに
「あっ、そうだ! ステルクさんは何か知ってたりしませんか?」
ポンと手を叩いた後こちらへと飛んできた
「
「……? …………ああっ!」
私の言葉に数秒間
……だが私は、私の言葉に対する
「私に「何か知らないか」と聞いた時点でなんとなくそんな気はしたが……新種のモンスターの調査は君と私が引き受けた依頼だっただろう?」
「あ、あはははー……っ、えっと、忘れてたとかそういうのじゃなくてですね~? アトリエから出る時、何かあったんだけどなーって思ってはいたんですけど……」
「それを「忘れていた」と言うんだろう」
忘れてたことに後ろめたさが流石に感じられたのか……しかし、なんとかその場を乗り切ろうとしての判断か、明後日のほうを見て笑いながら本当に誤魔化す気があるのか分からないことを言っていた。
当然そんなもので誤魔化しきれるはずも無く、私の言葉に「うぐぅっ!?」と言葉を詰まらせたが。
……と、その視線に気づいたようで「いや、そのちょっと……」と少し遠慮気味に口を開いた。
「ふと、その調査にどうして僕は呼ばれなかったのかなーと思って……」
「ん? それは……」
調査に
私よりも先に
「あれ? なんでだっけ? マイス君がいた方が調査がはかどりそうなのに」
「……君
昔から変わらない……どころか、年々酷くなってるのではないかと思えてくる
「『冒険者ギルド』に報告書を見に行くのだろう? その時に、理由についても受付嬢の彼女に聞いてみればいい」
―――――――――
「受付嬢……もしかして、くーちゃんが?」と呟きつつも、名前は出てきてもまだ「どうしてその人物がでてくるのか」がピンときていない様子の
そんな二人の後ろ姿を、何とも言えない気持ちで見送っていたのだが……
「……?」
不意に
そして――後ろ姿なので正確に確認できるわけではないが――両手で握り拳を作り、まるで「……よしっ!」と気合を入れるかのような仕草をしたかと思えば……
「……!?」
ソーッと
その先には歩調に合わせて揺れる
触れるか、触れないか。そんなギリギリまで近づいたかと思えば、
二人してピタリッと手も歩みを止め固まってしまった。
時間は……長く感じられたが、実のところはほんの数秒だったかもしれない。
「はて?」といった様子で首をかしげた
対して、固まってしまっていた
…………………………………………。
………………………………。
……………………。
「…………グハッ!?」
気づけば、私の視界には石畳しか映っていなくなっていた。
本人たちの問題だとか、むしろ周りに気を付けなければなどと考えていたが……
「目の前で見ると……思いの外、ダメージを…………受ける、もの……だな…………」
駆け寄ってくる足音と「ステルクさん!? どうしたんですか!?」という
――――――――――――
***冒険者ギルド***
ギルド全体が静かながらも確かにざわめき……あたしから見て右手のほうから、「けけ、けっ結婚、報……告……!?」とかいう声と共に
見てみれば、予想通り依頼関係の受付についていたフィリーが直立体勢でそのまま綺麗に真後ろへと倒れてた。
特筆すべきは……その感情の振れ幅が激しい感があるフィリーにしては珍しく「目は点、口は横一線」という真顔であることと、顔色と言うか全身が真っ白になってしまっているように見える気さえするほど生気が感じられないこと……かしら?
原因?
そんなの視線を正面に戻せば
「…………!」
幸い(?)フィリーの声は届いていなかったようで、いつものにこやかな表情で「おーい!」といった感じに左手を振ってコッチに歩いてくるマイスと……
「えへへ~」
こっちはそもそも周りの声が聞こえているのか怪しい、親友としては何ともコメントし辛いデレッデレの表情をして、歩くマイスの右手を自身の左手でしっかりと握って連れそっているロロナ。
そりゃ、ギルドにいた全員がざわつきもするし、
フィリー自身、マイスに
その上で
そんな二人が手を繋いだまま、ついにあたしがいる受付カウンターの前まで来た。
「こんにちは、クーデリア。お仕事の調子はどう?」
「まあ、ボチボチってところかしら。誰かさんの
一瞬さっきのフィリーの発言「何の報告かしら?」と言いそうになったけど、よくよく見てみれば
その辺りの探りをいれるためにちょっと含みを持たせて言ってみちゃったけど、当のマイスはさほど気にしていない感じ。この調子じゃあ、あくまでロロナからの一方通行だっていう状態からは進展してはいなさそうね。
「で? 今日はどうしたのよ? あんたたちってことは冒険者免許のこととか
「えっと、実は「新種のモンスター」のことで聞きたいっていうか、報告の確認をしたいんだけど……」
マイスが新種のモンスターについて知らない様子なことに少し驚いたけど、冒険する頻度は昔より格段に減り『青の農村』内での活動が多くなっている今のマイスが新種のモンスターを知るには、会いに行ったり、逆に来たりしない限りはそうそう無いだろう……って事に気がついて、ひとまずは納得する。
じゃあ、なんで今の今までノータッチだったのに、今回そんなことを聞きに来たのかって話になるんだけど……その疑問をあたしが投げかける前に、あることに気付いた。
何やらマイスが「あれ? あれ?」といった感じにキョロキョロしているのだ。一体どうしたのかしら……?
「えっとフィリーさんが見当たらないけど、今日はお休み?」
「ああ、そういう……ほら。「結婚報告」がどうとか言って、あそこに倒れてるわ」
あたしが軽くあごでクイッと指し示すと、マイスは覗きこむように少し受付カウンターに身を乗り出し……「わっ!?」と声をあげた。
倒れてるフィリーをみるやいなや、マイスは握っていたロロナの手を離し……そして握ってきていたロロナの手からもそのままスルリと容易く抜け出して、ピョンとカウンターを飛び越えてフィリーのもとへと駆け寄っていった。
「大丈夫ですか!? いったい何が……フィリーさんが気絶するといえば、ステルクさん? でもさっき会ったステルクさんにはそんな様子は無かった気がするんだけど……というか「結婚報告」って誰の? エスティさん……じゃないよね?」
……マイスが何か呟いてるのが聞こえたけど、気にしないことにしましょう。
特に最後のはいろんな意味で危ない気がするんだけど……まぁ、そこで自分の事だったとは夢にも思ってないのが、マイスらしいっちゃらしいわね。
そんなマイスのことはひとまず置いておくとして……とりあえず、あたしの前に残っているロロナへと意識を向ける。
ロロナはといえば、ついさっきまでマイスに握られていた左手を自身の右手で大事そうに
……そこまでデレッデレにとろけている様子を見せられると、直前にあたしのなかで否定したばかりの「二人の
あたしは冗談半分で、からかうように少しニヤニヤしながらロロナへとカウンター越しに顔を寄せる。
「何? もしかして、今日はデートだった?」
「ふえぅっ!? で、でででーと!?」
「あら、違ったの? てっきり、ロロナのほうから告白して付き合いだしたんじゃないかって思ったんだけど」
「やっやだ~何言ってるの、くーちゃん! 付き合うだなんて、そんな…………って、あれ?」
そこまで言って、ようやく変だと感じたんでしょうね。
首をかしげて固まったかと思えば、ギギギッと
「目は口程に物を言う」なんて言葉があるけど、今のロロナの表情は「な、なんで……!?」と驚愕しているのがまるわかりだ。おそらくは「
あたしは、流石に
「言っとくけど、バレバレよ? ……まぁ、肝心のマイスはサッパリみたいだけど」
そう言いながらチラリと視線だけ依頼関係の受付の方へと向けてみると、そこでは倒れていたフィリーを手厚く介抱するマイスの姿が。こっちの話なんて聞こえている様子も無ければ、そんな余裕も無さそうだ。
「それは、その……あのねっ! そういうことじゃないっていうか、マイス君はマイス君だし……!」
「誤魔化そうとするヒマがあるなら、マイスを口説き落とす方法でも考えたら? さっき言ったみたいに、マイスは
「そんなことしてるうちに、他の娘に盗られちゃうんじゃない?」と付け足して言うと、ロロナは「がーん!?」と本当に口で言って大きく目を見開いた後、ガックシと肩を落とした。
「ううっ! そ、そんなこと言われたってー……」
まぁ、中々一歩踏み出せない気持ちを理解できないわけでもないから、ロロナの漏らす弱音にあたしはうんうんと小さくだけど頷いて見せる。
……けど、
「そ、そんなことよりっ、今は「新種のモンスター」のことだよ!」
自分の恋路を「そんなこと」呼ばわりまでして話題をそらそうとするロロナに愛らしさを感じつつも、その行く末に不安を覚え、ついため息が出てしまったあたしは別に悪くないだろう。
「マイス君もあんなに気にしてるんだから、私の事よりコッチのほうが大事なの! 頼ってくれたんだしなんとかしてあげないと!」
「気にしてる……ねぇ?」
マイスが「新種のモンスター」に会ったのは今回が初めて。それでいきなり気にし始めるってことは、絶対と言っていいほど何かあるんだとは思うけど……まさか……?
「まさか「新種のモンスター」って、
「アッチノ? くーちゃん、何か知ってるの?」
「知ってるって、そりゃあ……ん?」
確かにあたしは今、直接的な言い方はしなかったけど……それでも、
「ロロナの天然?」とも思ったんだけど、よくよく思い返してみれば
「この子よりも先に、マイスと色々話さないといけないみたいね……」
「ふぇ?」
なんにせよ、「新種のモンスター」のこともあるわけで、マイスと話す時間を設ける必要はあるのよね……。内容が内容だし、流石に人の目が多い『
それにしても……
「そうそうくーちゃん! なんであの調査の時、マイス君は呼ばれなかったの? マイス君ってモンスターたちとお話しもできたりするし、一緒に冒険したかったんだけど……」
「あんたねぇ……トトリの船でギゼラ探しに出るって時期と被って「ギゼラさんのこと気になってるだろうし、マイス君にはあっちに行ってもらって、ロロナたちが調査にまわる」って、あんたとここで相談して決めたじゃない」
「あっ……!」
……ロロナの天然って、ここまでひどかったかしら?
今回のまとめ。
スケさん:マイロロ(本人たち無自覚)の前に一人で勝手に倒れる。
フィリー:はやとちりによる発言で、ギルド職員間のマイス君の噂を再燃させる。なお、タイミングがズレていれば、マイロロに彼女の発言が直撃し大惨事になっていた模様。
クーデリア:覚悟完了していたので、思う存分ロロナをからかって愛でることはできた。しかし、肝心の本人たちの距離が詰まったように見えて何にも進展・解決していないことに頭を悩ませる(苦労人)。
……あと何十話必要なんでしょうね? 大袈裟に言ってますが、間違い無く他のキャラが結婚相手だった場合の倍近く時間がかかりそうな予感。
えっ? リオネラとトリスタンはどうしたのかって? ……リオネラには『IF』で幸せになってもらいます。トリスタンさんは……未定です。
次回、共通のおはなしで箸休め回。とはいっても、大筋のストーリー的には重要な部分が進んで行く大事なお話しなんですけども。