マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 今回はマイス君視点の『ロロナ』ルートのお話。



 『リディー&スールのアトリエ』をプレイしてて思ったこと。
・スール=スーちゃん≠スーくん=ステルクさん
・ルーシャ=ルーちゃん≠ルーくん=ルーフェス
 ……きっと、『メルルのアトリエ』プレイしたことある人は同じようなことを感じていたに違いない……と勝手に思っています。



ロロナ【*8-1*】

【*8-1*】

 

 

 

***青の農村・マイスの家***

 

 

 

「へぇ。それじゃあ例の「新種のモンスター」は、やっぱりあんたのところのモンスターだったのね」

 

 日は落ち切り星々が夜空を埋め尽くしたころ、僕のした説明を聞いた上でクーデリアは納得したように頷きながらそう言っていた。

 

 

 僕がどこにいるのかといえば家のキッチンスペース、そこの台所で晩ゴハンを作っている。

 クーデリアはといえば、キッチンのはじ、ちょうどリビングダイニングと繋がっている通路の手前(さかいめ)あたりでイスに腰かけていた。普段、僕の家(ウチ)に来た時はリビングダイニングのソファーが定位置にはなっているんだけど「顔も見えないし、声も届きにくいから」といって、話すためにわざわざイスを動かしてこっちまで来たのだ。

 

 そんな状態で僕らは最近のこと……主に、この前『冒険者ギルド』に言って見せてもらった報告書、その内容である「新種のモンスター」についての話していた。

 

 まぁ、そもそも今日こうしてクーデリアが(うち)に来ているのは、報告書を見に行った時(その時)に「それの話()あるし、今度あんたの(ところ)に行くから」って話が発端だったりするんだけどね……

 

 

「ってことは、やっぱり例の『ゲート』から出てきてるのかしら? 一応色々聞きはしたけど……調査してたころってちょっと前のことだし、しっかりとは憶えてないんだけど、そういうことなんでしょ?」

 

 「それこそ、ギルドの資料庫を漁れば報告書も見つかると思うわ」とクーデリアが付け足して言っているのを聞きながら、僕は『アーランド』近郊で見られるようになった『ゲート』について調べていた当時の事を思い返していた。

 そもそもはクーデリアの別の調査で、護衛というかお手伝いをしていた際に採取地で『ゲート』を発見したのが、本当はもっと前から在ったのかもしれないけど()()()()()始まりだった。それから、情報を集めてみたら他にも目撃者や発生地が複数件あることが判明し、個人的にも気になったため僕が調査に乗り出したんだ。

 

「でも、あの時周った『ゲート』の目撃情報があった採取地じゃあ、今「新種のモンスター」って言われてる『シアレンス(あっち)』のモンスターには全然会ってないんだよね」

 

 それがどうしてかわからず、フライパンのほうを見たままつい眉をひそめてしまった僕がそう言うと、クーデリアは普段とはちょっと違う声色で――きっと、顔を見れてたら意外そうに目を少し見開いてたりしてたのかな?――「あら?」と言ったのを皮切りに喋りだした。

 

「それってどういうことなのかしら? 『ゲート』が向こうと繋がってるなら、その頃から遭遇しててもおかしくないはずだもの。考えられるのは、本当にたまたま確率的にも奇跡的に出会わなかったのか……もしくは、そのころにはまだそのモンスターたちはコッチに来てなかったか……」

 

「あとは、『()()()』とは別の方法でこっちに来た……くらいかな?」

 

「有り得る? っていうか、もしかして見当がついてたりするの?」

 

 残念ながら見当はついていない。けど、()()()や「新種のモンスター」の一度の発見頭数などを考えると、可能性は十分にあり得ると思う。

 

「見当はついてないけど、可能性としては十分にあるんじゃないかな? だって……ほらっ」

 

 調理の中の一工程を終えて一区切りついた僕は、クーデリアのほうを見て()()()()()()()()()()

 僕の仕草の意図を理解できず「はぁ?」という顔をしたクーデリアだったけど、ほんの数秒間をあけてから「ん?」と首をかしげてから何か思い当たったのか納得したように頷いてきた。

 

「あぁ、考えてみればあんたがコッチに来たのも訳わかんないままだったわね。当然だけど、あのころに『ゲート』なんてもの無かったから……確かに()()()()の可能性って言うのも十分にあり得る、か……」

 

「とはいっても、じゃあ何なのかって言われると、答えは出てこないんだけどねー」

 

 苦笑を漏らしながらそう言い、その一方で僕は次の調理工程に移るために用意していた数個の卵を割っていく。

 

 

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

 短い呼びかけに、ボウルに入れた卵をかき混ぜながら何気なしに顔をそっちへ向けると、イスに座ったままジトーっとコッチを見てくるクーデリアの姿が。

 

 ……あれ? 気付かないうちに何か気に障ることでもしちゃった?

 全然心当たりが無いんだけど……でも、ムスッとした感じで機嫌が良くなさそうなのは間違い無い。だから、やっぱり僕が何かしちゃったんじゃ……コオルとかからも「無自覚で色々やらかす」とか言われたりするし。

 でも、今してるのって料理だしなぁ? ……って、あっ!? もしかして……

 

「えっと、記憶に無いけど、クーデリアって卵が苦手だったりしたっけ?」

 

「何よ、いきなり。別にそんなことないけど? ……って、そうじゃなくって、()()()()()()よ」

 

「ロロナの?」

 

 晩ゴハンのメニューを急遽変更する必要がないことにとりあえず安心しつつ、どうしてここでロロナの名前が出てくるのか不思議に思い、つい首をかしげながら聞き返してしまった。

 

「さっきの話の流れで、ってわけじゃなくて最初からするつもりで今日は『冒険者ギルド(ギルド)』とか『サンライズ食堂()』じゃなくて『マイスの家(ここ)』にしたんだけど……あんた、まだロロナに()()()話してないんでしょ?」

 

()()()……?」

 

「あんた自身のこととか、あんたがいた場所(ところ)の話よ。昔、あんたが「言うタイミングが無くって」って言ったしロロナが知らないっていうのはわかってたんだけど……ちょっと前からロロナも他の奴に触発されて何かありそうって気にしてたわよ?」

 

 「何か聞かれたりしなかったの?」と聞かれたけど…………一通り思い返してみても心当たりは無かったから、僕は首を横に振った。

 

「まっ、そんな気はしてたけど。黙ってるならまだしも、聞かれたことをウソで返すなんてことができるとは思えないくらい、マイスって馬鹿正直だし」

 

「それは褒めてるの? (けな)してるの?」

 

「時と場合によるわ。今回は……呆れてる?」

 

 言ってる本人(クーデリア)がなんで疑問符を浮かべているんだろう?

 というか、「呆れてる」って……どうして!?

 

 

 

 ソッチをチラチラと見る程度にはクーデリアの言ってることに少し気を取られつつも、かき混ぜた卵をフライパンでほどよい固さになるように慎重に熱していく。……ここの火の入れ加減が最終的な料理の出来栄えに繋がるから、本当は集中すべきなんだけどね……。

 

 そんな僕の様子はあんまり気にしていないのか――最初から、調理中に話しかけてきてたんだから、当然と言えば当然かな?――クーデリアは短くため息を吐いてから、洗食べて僕のほうへと口を開いた。

 

「あたしとかが勝手に教えるのは流石にどうかと思うけど……とにかく、そんな親しくない相手ならまだしも、いつまでも黙ってるのも可哀想じゃない。それに、もう遅いかもしんないけど、黙ってる期間が長くなればなるほど言い辛くなるだけよ」

 

「それは……そう、かもしれれないけど……でも……」

 

「なに? ロロナに言うのは嫌? 受け入れてくれないんじゃ、って心配なの?」

 

「ううん、ロロナならきっと……って、思ってるよ」

 

 (さと)すように言ってくれてるクーデリアに、僕はそう返した。すると当然クーデリアからは「じゃあ、なんで?」という疑問が、口ではなくて視線で返ってきた。

 僕は……少し悩みつつ――良い感じに火が通った卵をフライパンから、先に用意していた味付きゴハンの上に乗せてから――いい言葉(表現)が思いつかず、とりあえず思ったままの言葉で伝えてみることにした。

 

「でも、もしも万が一ロロナに嫌われたら……そんなの絶対嫌だし、考えるだけでも怖くって……気づいたらいつの間にか、そう思ったら他の事を考えちゃってて。…………クーデリアにも、リオネラさんやフィリーさん、ホムちゃんやメルヴィアにだって受け入れて貰ったっていうのに、さ」

 

 ましてや、自信の秘密を心の内を話してくれたリオネラさんに対しては「誰も「怖い」だなんて思わないよ」って、みんなが受け入れてくれるって、言ってたのに……言ってる(当の)本人である僕自身は自分の存在(秘密)が受け入れてもらえるかどうかビクビクしてるだなんて。知られたら怒られる……いや、「無責任なことを行ったんだ」みたいなことを言って軽蔑されるかな?

 

 そんな事を思いながらも、やっぱり「怖い」という気持ちは、どうしても変わりそうには無かった。

 

 

 

「……まぁ、親友としてあたしは一応は色々と理解してるつもりよ。けど、あたしはあんたじゃないから、あんたの抱えてる不安を本当の意味で知ることなんて出来ないし、あたしはロロナじゃないから「絶対」なんて言えないわ」

 

 僕の言葉を聞いてからいくらか間を開けた後、ゆっくりと話しだした。口調こそいつも通りだけど……ジッとコッチを見つめてきている目は真剣そのものの鋭さ。ギルドで冒険者に忠告をする時くらい……いや、それ以上でこの真剣さはもしかしたら、初めて見るかもしれない。

 

「けどね、これだけは言わせてもら――――」

 

 イスから立ち上がったクーデリアが、僕の事をビシッと指差し何かを言おうとし――――そこで、わずかにだけど確かに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 

 もし、まだフライパンで調理を続けていたら、その時に出る音で聞こえてなかったかもしれない。もし、クーデリアが真剣な眼差しと声のトーンで喋っておらず、声をはりあげていたら聞こえてなかったかもしれない。

 ……それくらいの音だったけど、僕の耳にもクーデリアの耳にも確かに聞こえ僕らは顔を見合わせる。……喋ってる途中だったクーデリアの顔は、何とも言えない表情になっていた。

 

 

 

 まあ、話を中断させてしまってクーデリアには悪いけど、流石に無視するわけにもいかないし、来客を無視する気は元からさらさら無いから僕は「はーい!」とノックに少し遅めの返事を返して玄関のほうへと向かって行く。

 

「おまたせしましたー……って、あれ?」

 

 玄関戸を開け……家から漏れた光で照らされた玄関先にいたのは――

 

 

 

 

 

()()()?」

 

「あははっ……き、来ちゃった?」

 

 何故か、はにかみながら小首をかしげてそんなことを言ってきたのは、ロロナ。

 日が暮れてしまってから(こんな時間)(ウチ)に来るなんて珍しい……ことでもないかもしれない。ひと昔前には探索帰りに寄ってきたりもしたし、()()()()()()夜にロロナが訪ねて来たこともある。

 

 だから僕は気にせず、ロロナが何の用事で来たかは知らないけど「玄関で立ち話もなんだし」ってことで(ウチ)に入ってもらうことに決めた。もし、晩ゴハンを食べてないなら、一人分を急いで追加で用意して一緒に食べてもいいかもしれない。

 というわけで……

 

「とりあえず、いらっしゃい! 今、晩ゴハン作ってたところだから、よかったら食べていってよ!」

 

「えっ、本当!? でもいきなりだったし、準備大変なんじゃ……」

 

 口では遠慮してるけど、嬉しそうに笑ってくれるロロナ。時間的には微妙なところだったけど、この様子だと言ってるのは「建前」ってやつで、実は晩ゴハンを食べたくって僕の家(ウチ)に来たんだったりするのかな? それはそれで嬉しいので全然OKなんだけど。

 

「大丈夫だよ。二人でも三人でもあんまり変わりないし、食材はいっぱいあるから!」

 

「あっ、でも私も『パイ』をちょっと持ってきてるからっ! …………えっ? ふたり?」

 

 「えへへ~」って感じに笑いながら持ってたカゴを胸の前に持ってきて見せてくれたロロナだったけど、いきなりピタッと止まって「はて?」と知った様子で思案顔をした後、玄関から家の中(こっち)に顔をのぞかせてキョロキョロと中を見渡し……

 

 

「「あっ」」

 

 

 「どうしたのかしら?」とキッチンのほうからコッチの様子をうかがっていたクーデリアと目が合ったかと思えば、二人揃って気の抜けたような声を漏らした。

 

「……くーちゃん?」

 

「えー……っと、ね(間が良いのか悪いのか)……」

 

 それにしても、どうしたんだろう?

 ロロナと目を合わせたクーデリアは()()()「あっちゃー……」って顔をして、額に手を当てて頭を抱えちゃってるんけど……?

 

 わけもわからずロロナとクーデリアの二人を交互に見てたんだけど……しだいに()()()()がわかってきた気がした。

 というのも……

 

 

「ぷぅ……っ!」

 

 

 ポケーッとしてたロロナの(ほお)が段々と膨らんでいき……最終的に、海で獲れる『バクダンウオ』のようにプクーッと膨れて、眉も吊り上がって……()()()というか、ロロナにしては珍しく()()()()っぽかった。

 

 だから合点がいった。

 クーデリアが頭を抱えたのは、怒ったロロナをなだめないといけないのが事前にわかったからなんだろう。

 

 そして、その予想通りだったんだろうけど、それから僕とクーデリアは怒っちゃって帰ろうとするロロナを引き止め、お機嫌取りをすることになる。

 

 

 

 

 

 でも…………なんでロロナは怒ったんだろう?

 




ロロナ「このドロボーネコ!!」

クーデリア「違うってば! むしろ……」

マイス「……?」

 ……みたいな?


 今回は、イチャイチャというよりも「マイス君の心情&ロロナの態度を見てニヤニヤタイム」って感じでした。
シリアスの中に唐突にぶち込まれるロロナ(癒し)

 次回、今回の続きで、「何でロロナが家に来たのか?」と+α。むしろ「+α」のほうが本編かもしれません。……クーデリアに砂糖を吐かせたい(願望)。

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