マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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遅くなってしまい、大変申し訳ありません!


ロロナ【*10-2*】

【*10-2*】

 

 

―――――――――

 

***ロロナのアトリエ***

 

 

 

 色々とあって、フィリーさんとリオネラさんが大変なことになったお茶会だったけど、なんとか――本当になんとか――始めることが出来た。

 

 美味しい『ベリーパイ』。良い香りがする『香茶』。……このちょっと変な空気のせいか正直、今の私にはどっちもよくわかってなかった。食べ終えたには食べ終えたんだけど、味が全然思い出せそうもない。あえて言うなら、甘かった……のかなぁ?

 

 

「ちむー!」

「ちむみゅ……」

「ちむしゃ、ちむしゃ」

「……zzZ」

 

 

 私の足元に来て甘える子。ゆっくりだったり、一心不乱にだったりして『パイ』を食べる子たち。床で大の字で寝ちゃってる子……。

 もう、ちむちゃんたちだけが『ロロナのアトリエ(ここ)』の「癒し」だと思う。

 

 ロロナ先生? 先生自体は癒し系かもしれないけど、無自覚で色々しでかしちゃうから……。

 特に今回は、マイスさんと一緒になって天然でやらかしてる。本人(先生)たちとしては、至っていつも通りで、誰にでも優しいお人好しお節介焼きないつも通りの二人なんだけど……それがかえって互い(お相手)への態度の変化が浮き彫りにしているし、他に変化が無いってことは「他所への配慮」もほぼゼロのまま。一般常識的なモラルが最低限あるかないかくらいで、周りなんて特別気にせずイチャイチャしだす始末。

 ……これで本人(先生)たちに悪気でもあれば嫌えるんだろうけど……ね?

 

 

 

 そんな風に何とも言えない――でも、ロロナ先生とマイスさんは凄く楽しそうな――お茶会が刻一刻と過ぎていってた。

 

 そんな中、マイスさんとソファーに並んで座ってたロロナ先生がいきなり「はっ!?」とした顔をしたかと思ったら、その両手で口元を押さえて立ち上がった。

 

「ああ~っ! そ、そういえば……!」

 

「ロロナ? いきなりどうしたの?」

 

 隣にいたマイスさんが、ロロナ先生のいきなりの行動に驚きながらもそのまま先生に問いかけた。

 

 先生はといえば、ちょっとバツの悪そうな顔をして……

 ……って、んん? 先生ってば、マイスさんの方じゃなくてなんでか私のほうを見てる気が……?

 

 

「えっと、そのね? 『冒険者ギルド』に行った時にくーちゃんに言われてたんだけど……「ちょっと用事があるから、今日中に、できれば早めにギルドに来て」って感じの事をトトリちゃんに伝えといてって言われてたの、すっかり忘れてちゃった」

 

 クーデリアさんが、私に? 一体何だろう?

 ううーん? 急ぎの用のように見えて、実はそうでもなさそうだったり……色々とアバウトすぎる気がする。まるで、本当は用なんか何にも無いような……? でも、私なんかを意味も無く呼び出すなんてこと、有り得るかなぁ?

 

 ……あれ?

 もしかしたらフィリーさん達の好意(こと)は知ってて、先生から誘われたお茶会がとんでもないことになりかねないって気付いて、先を見越して私に助け舟を用意してくれてた……とか?

 

 その予想があっているかどうかということはひとまず置いといて……とりあえず間違い無いのは「この異様な空間から抜け出せる」という事実。

 本音を言うと、スッゴイ助かります、クーデリアさん……!

 

「それっ、早く言ってくださいよ!」

 

「ふえっ!? そ、そんなに怒らなくっても……」

 

「怒ってません!!」

 

「うぅ。トトリちゃん、絶対怒ってる……グスンッ」

 

 力無くうなだれる先生。

 

 それは、怒りたくもなりますよっ!

 だって、フィリーさん達に気を配ったりとか、必死に空気を読んでたのに……実は最初から逃げ道が用意されてたなんて知ったら、色々と言いたくもありますから!! 

 

 

 

 そのフィリーさんとリオネラさん達はというと…………

 

 

「ふとした瞬間、手と手が触れて目と目が合って、そのまま二人の顔と顔が近づいて……ぶはぁっ!?」

 

 ロロナ先生とマイスさんがいるソファーの方を見たまま何かを呟きだし……そうかと思えば、いきなり鼻血を出すフィリーさん。

 

 

「二人の子供……ちっちゃくって、ホワホワしてて、すっごくカワイイんだろうなぁ……ふふふっ」

 

 窓から見える空をみたまま、静かに笑うリオネラさん。

 

 

「……ねぇ。あれから回復してこれ、なのよね? 大丈夫なの? なんだか悪化してる気がするんだけど……」

「知ったこっちゃねぇよ。けどまあ、オレらがこうしていられるってことは、いちおうリオネラん中に余裕が出来てるってことだろうよ」

 

 そんなリオネラさんのそばに浮いて、二人の事を心配しながら話している黒猫と虎猫の人形――ホロホロとアラーニャ。

 ……? リオネラさんに余裕が出来るのと、ホロホロとアラーニャ(ふたり)に何か関係があるのかな? よくわかんないや。

 

 

 

「けどねぇ? 本人達をよそに、勝手に先走り過ぎじゃない?」

「普通引くぜ。コイツみてぇにさ」

 

 そう言ったホロホロがその腕をチョイチョイと動かして私のほうを指し示した。……って、ええ!?

 

「うぇっ!? べ、別に引いてなんか、ない……わけでもないですけど……。あのー……結構こじらせちゃってます?」

 

 最初こそ必死に誤魔化そうとしたんだけど、なんだか全然誤魔化せる気がしなくって、そのまま少しだけ遠慮気味に質問してみたり。

 そうしたら、フワフワ浮いているふたりがそのまま頷いたり身振り手振りをしながら、私の質問に答えてくれはじめた。

 

「否定できねぇな。仕方ない気もしなくはねぇんだがよ、そんだけ後悔するなら時間はいくらでもあったんだし、幾らか行動を起こしたらよかったんじゃ……まあ、オレらが言えたことじゃないけどさ」

「そうよねぇ……それに、リオネラはマイスもそうだけどロロナのことも大好きだから、なんだかんだ言って二人の事は祝福してるとは思うわ。すぐに立ち直れるかどうかは、話が別だけどね?」

 

「は、はあ……?」

 

 とりあえずは「大丈夫」ってことなのかな? でもやっぱり、すごく心配な状況としかいいようが無いのも事実。

 うーん? 

 

 

「まあ、リオネラたちの独り言を偶然か何なのか、スルーできちまってるアイツらもアイツらだけどよ」

 

「え?」

 

 ホロホロの言葉に釣られて視線を移動させると……そこにいたのは先生とマイスさんだった。

 うーん……確かにすごく勝手な妄想をされているっていうのに、その声に反応らしき反応をしてないみたい。大声じゃなくって、ブツブツ呟いてるってくらいの声量だけど、普通は聞こえると思うんだけど……?

 

 「どうしてそうなってるのか?」っていう理由は、なんとなくだけどすぐに察することはできた。だって、()()()()()()()()()()()()()()()()んだもん。

 

 先生とマイスさんは、ソファーに「真っ直ぐ正面を向いて」座ってなかった。

 互いに相手のほうを向くように座り、角度を微妙にズラして斜めに座り……お互いの顔を見ながら話せる体制に、いつの間にかなっていた。

 

 

 ロロナ先生は泣き顔になっているし、マイスさんはちょっとだけ怒ってるような感じがするんだけど……いったい何をしてるんだろう?

 

 そんなことを気にしながら、私はジッと息をひそめ、静かにしておいて……先生とマイスさんの声に集中するこ事にした。

 

 

――――――

 

 

「もう、ロロナったら。そういった連絡はちゃんとしておかないとダメじゃない! トトリちゃんが怒るのも当然だよ」

 

「だってー、こうやってお茶会するのって久しぶりで嬉しかったから、ついうっかり……。そ、それに、マイス君とアトリエでのんびりお話するのも……ああっ!? お仕事のことが嫌いとかそう言うわけじゃないし、このないだのお泊まりの時のお喋りが退屈だったとか、そういうことじゃないよ!? ホントだよ!?」

 

「ううーん、そう言って貰えるのは嬉しいんだけど、ソレはソレ、コレはコレだと思うよ? それに、これからの事を考えると連絡とかもっと細かいこととかも、しっかりやっていけるようにしないと絶対苦労することになっちゃうと思うんだ」

 

「「これからの事」……? はぅわぁ!? っそそそ、それはその、大事だよ? でもでもっ! 今はそういう話は関係無いんじゃないかなーって! ああっ、けど、そういう話が別に嬉しくないってわけじゃなくって、むしろ、その……う、嬉しいけど……」

 

「「関係無い」って、そんなこと無いと思うよ? やっぱり、そういった細かいところから気を付けていかないと。ほらっ、『学校』の授業も連絡や報告をしないと他の教科との連携も上手くいかないだろうし、『学校』全体の運営にも影響が出ちゃって大変なことになりかねないからさ」

 

 

「そ、それは……あれ?」

 

「……ん? どうかした?」

 

 

「あ、ああー! 「これからの事」って、『学校』のことかっ!」

 

「うん、そうだけど……ロロナは一体、何だと思ってたの?」

 

「あはははっ……私、てっきり、『結婚』の事だとばかり思っちゃってたー……」

 

 

「えっ」

 

「あっ」

 

 

「「…………」」

 

 

――――――

 

 

 見つめ合う先生とマイスさん。

 身体ごと完全に向き合う……なんてことこそなかったけど、それでも鼻先同士が10cmほどしか開いていない状態で目と目を合わせているらしい、とのこと。見ているコッチが恥ずかしくなってきそうだ。

 

 ……というか、フィリーさんやリオネラさんの妄想を聞いて「先走り過ぎ」なんて思ってたけど、今の会話を聞いてると案外遠い未来じゃない気がしてきた。

 

 

「とりあえず、その『フラム』は仕舞いなさい?」

 

「ああっ! ご、ごめんなさい、つい」

 

 アラーニャに言われて、自分がいつの間にか爆弾である『フラム』を取り出してる事に気付いて、驚いてワタワタしてしまいながらもソレをポーチの中にしまった。

 そんな様子にホロホロが呆れた様子で「ヤレヤレ」と首を振ってた。

 

「「つい」で爆弾爆発させられたら、たまったもんじゃねぇけどな……」

 

 そう言われても……。

 

 本当に、自分でも気付かない内に手に『フラム』を持ってしまってて……。

 でも、なんでかな? なんだか、間違った事をした気はしてないんだよねぇ……?

 

 

 

 それにしても……

 

 二人の空間を作っちゃっているロロナ先生とマイスさん。

 それぞれ勝手に妄想に浸り始めてしまったフィリーさんとリオネラさん。

 何にも理解してないのか、それとも見てみぬふりなのか、いつも通り自由気ままなちむちゃんたち。

 

 ……「お茶会」というのも名ばかりの、よくわからない状況になっちゃってるアトリエ。

 

「……もうギルドに行っちゃっていいかな?」

 

「いいと思うぜ? こんな状態だし、黙って出てっても誰も文句は言わねぇよ」

 

 私の呟きに反応してくれたのはホロホロだけで、他の人たちは…………うん、聞いてないね……。

 私はついついため息を吐いてしまいつつ、静かにアトリエから出ていった。

 

 

―――――――――

 

***冒険者ギルド***

 

 

 逃げるようにアトリエから出ていった私の行先は、当然『冒険者ギルド』。

 私の予想だと、もしかしたらクーデリアさんからの用事っていうのは何にもないのかもしれないんけど……。でも本当に何か用事かあったらいけないし、他に何か用があるってわけでもなかったから、行ってみることにした。

 

 

 そうしてたどりついた『冒険者ギルド』なんだけど、入ってすぐに見えるクーデリアさんがいるはずの受付カウンターに見たことがある人が居ることに気付く。

 それは、ついこの前会ったばっかりの人だった。

 

「あれって……トリスタンさん?」

 

 トリスタンさんって確か、この国の大臣さんだったよね? そんな印象全然無いけど。

 

 『冒険者ギルド』って国営してるらしいから、もしかしたらそう言う運営関係で何かあったのかな? ……もしかして、クーデリアさんが言ってたっていう用事っていうのも、それ関連で? って、そんな重要そうな話、私じゃなくってロロナ先生のほうに持って行くよね。

 じゃあ、どうしたんだろう?

 

 

 私がそんなことを考えながらも歩いていくと、トリスタンさんの背中で隠れてて見えなかった受付にいたクーデリアさんが、私に気がついたみたいでヒョッコリと横にズレて顔を出し、コッチに小さく手を振りながら安心したような顔をした。

 

「ああ、来たのね。ちょうどいいところに……って言いたいところだけど、あんたからしてみれば、一難去ってまた一難かもしれないわね」

 

「「一難」って、やっぱりお茶会のこと分かってて……でも、「また一難」っていうのはどういう……?」

 

 トリスタンさんの隣――とは言ってもこの間の事もあるから2mくらい離れてすぐには手が届かないようにして――に私が立ち、疑問が口に出てしまいながら首をかしげると……視界のはじでトリスタンさんがコッチに向きなおって行くのが見えた。

 

 ……こ、公衆の面前だし、私は先生とは違ってトリスタンさんとはそんなに交友があるわけじゃないから()()()()()はないはずだけど……どうしても、ちょっと身構えてしまう。

 

 

 視線の先、柔和な笑みを浮かべるトリスタンさんが、その口を開いた

 

 

「やぁ、子猫ちゃん。キミのその長く美しい髪が、今日は一段と輝いて見えるよ」

 

 

「はぁ……どうも?」

 

 ……?

 

「あの、クーデリアさん」

 

「あー、コイツの言葉は本気にしないほうが良いわよ。特に、今日はいつもに増しておかしいから」

 

「え? いつも通りじゃないんですか?」

 

「なるほど。ロロナのそばに居たあんたの中ではこういうイメージなのね、コイツは」

 

 だって、先生にこういうことよく言ってるし……。

 それに、以前に先生から聞いた話じゃあ、トリスタンさんは昔から先生が恥ずかしくなるような歯の浮くセリフをポンポン言ってまわってたらしいから、今くらいのは普通なんだと思うけど?

 

 ……でも、あの時先生は「冗談で、からかってきてー!」なんて言ってたけど、今思えばそれってトリスタンさんは冗談じゃなくって本気だったんじゃ……?

 あれ? なら、なんで今私はトリスタンさんにあんなこと言われたんだろう

 まさか、先生から私に鞍替えとか!?

 

 

「とにかく、おかしいのよ。ついさっきまでココに一緒にいた前大臣なんて頭抱えてたくらいで……」

 

「んー……なんとなくわかった気はしますけど、そんなにですか? 他にも何か……?」

 

「無断欠席・遅刻が無いどころか誰よりも早く仕事はじめてて、今日の分どころか溜まりに溜まってた仕事まですでに全部終わらせて来たらしいのよ」

 

「それが普通なんじゃ……というか、普段どれだけサボってるんですか?」

 

 大臣さんがどういう仕事なのかっていうのは私もよくは知らないけど、それでも全体で見たらかなり偉くって重要な役職だとなんじゃ……?

 

 まてよ? 村長なんていう村で一番偉い役職についているはずのマイスさんが、お祭り以外の街の運営にはほとんど関わってなかったりするように、大臣さんっていうのも実はそんなに対して仕事が無かったりするのかな?

 ……いや、マイスさんを基準に考えるのも何かおかしい気がするけど。

 

「それにしたってよ。言動だって、一時期からそんな使わなくなった口説き文句みたいな軽口も、誰彼構わず言ってるってレベルなってるし……こんなこと言ってても、特に気にしないで無反応だから、不気味というか気持ち悪いというか」

 

「う……それは確かにいつも以上に変なのかも」

 

 ああ、やっぱりアレってやっぱり、基本ロロナ先生だけに言ってたんだ。それを冗談扱いされてたって……さすがにちょっとトリスタンさんに同情しちゃいそうかも……。

 

 

 

 それにしても、トリスタンさんがおかしくなったのって……昨日の今日だし、間違い無く()()()()だよね……?

 

 

「もしかして……ロロナ先生に振られたから、おかしくなったんじゃあ?」

 

「振られた!? え? ロロナがマイスに告白しただけじゃなくて、トリスタン(コイツ)がロロナに告白してたの? だったらこんな風になっても……いや、ロロナの気持ちについては前から知ってたはずだし、それならもっと前からなっててもいいはず……って、あら?」

 

 最初こそ驚いてたクーデリアさんだったけど、思い当たること自体はあるみたいで納得したみたいに頷いたりしてた……んだけど、その途中にトリスタンさんの様子に変化があって、私とクーデリアさんはソッチに目がいった。

 

 

「ううっ!? ろ……ロロナ? こく、はく、マイス……っ!? うっ……!!」

 

 まるで頭が痛いかのように頭を抱えたトリスタンさん。そして数秒間痛みに悶えるように動いた後、ハッと顔を上げて目を見開いた。

 

「そうだっ! あの時、ロロナを……それで……()()()が……!!」

 

 その時、トリスタンさんに電流走る!

 

 

「ぅぱぁうらぁっ!?」

 

 

 比喩とかじゃなくって、本当にビリビリバリバリと。

 青白い光と火花が散るような音がしながらトリスタンさんがビリビリしびれ……おさまったと同時にその場に倒れて……!?

 

 

「クーデリアさんっ!? 今、首に何かが着いてて、そこから雷が……!」

 

「あたしは何も見てないわ」

 

 なんで、そんな遠い目をして明後日のほうを見ちゃってるんですか!?

 

 床に転がって時折ビクンッビクンッと跳ねてるトリスタンさんの首には、やっぱり何かが……首輪? ううん、たぶんおしゃれな「チョーカー」ってヤツだよね? さっきのは私の見間違いで、「電流が流れる首輪」なんていう創作物に出てきそうな拷問器具じゃないよね?

 

 

 と、不安を無理矢理奥底に閉じ込めようとしている最中、ふと難しい顔をしたクーデリアさんが小さな声で呟くのが、偶然にも私の耳にすっと入った。

 

「こんな変なことできるのって()()()くらいじゃ……?」

 

「あいつ?」

 

「……。世の中、関わらずに済むなら、それに越したことのない奴もいるのよ。詳しいことはわかんないままだけど、今のコイツに関わるのは止めといた方がいいわよ、本当に」

 

 やっぱりどこか遠い目をしているクーデリアさんが、下手をすれば私のお母さんの行先の事を話してくれた時と負けず劣らずな真剣さで言ってきた。

 

 何かわかったみたいだけど……クーデリアさんの言う通り、私は知らないほうが良いのかなぁ? そこはかとなく危険な香りがするし……。

 

 

 

――――――

 

 

 なんだか納得しきれていない様子のトトリが『冒険者ギルド』を出て行った後。

 クーデリアは、カウンター越しの床に倒れているトリスタンを見下ろしながら独り言を漏らしていた。

 

「そうすると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……? だとしても……」

 

 

「め、眼鏡を、かけた……素敵な、お……ねえさ…………ん」

 

 

「アイツがコイツに……というか、男に好かれたいなんて思うわけ無いと思うんだけど……何でこんなことになってるのかしら?」

 

 

 

―――――――――

 

***職人通り***

 

 

 

「はぁ……どうしよう。抜け出す言い訳にはなったけど、結局はギルドの方からも追い出されちゃった」

 

 気を抜いていたら、どうしてもため息が出てしまうくらい憂鬱とした気持ちになってた。

 このままアトリエに戻る……なんて選択肢は無いわけじゃないけど、できるなら取りたくない。

 

 じゃあどうするのか? って話なんだけど……

 

「イクセさんのところは……パイ食べた後だし、飲み物だけで居座っちゃうのも悪いよね? ハゲルさんのところは……暑いよね。時間つぶしに入れるような場所じゃないよ」

 

 あとは、雑貨屋さんとか……あそこは、さっきのトリスタンさんとは別の意味で変な男の人達が居るからなぁ……。

 ミミちゃんのお家は……行ったこと無いからどこにあるかわからないし、いきなりお邪魔しちゃってもきっと迷惑だよね?

 

「なら、もういっそのこと『アランヤ村』に帰っちゃおうかな? 別段、コッチでやらなきゃならないことがあるわけでもないし……」

 

 そうと決まれば『トラベルゲート』でひとっ跳び……なんだけど、なんとなくで歩き続けていたせいでいつの間にか『ロロナのアトリエ(先生のアトリエ)』が見えてくる場所まで来てしまってた。

 ……そうなってくると、どうしてもあの後どうなったのかアトリエの中の様子が気になってきちゃって……

 

 

「大丈夫かなぁ? あのまま放置してきちゃったけど……リオネラさんかフィリーさんがマイスさんを刺しちゃったりとか、そんなことになってないよね?」

 

 ……ここまで来ちゃったし『アランヤ村』帰る前に、様子見るだけ見ていってもいいんじゃないかな?

 別に、アトリエの中に入らなくっても窓からソーッと覗くくらいで、わざわざこれ以上頭を突っ込まなくてもいい感じで……

 

 

「そうそうっ。ちょうど、あの人たちみたいに……あれ?」

 

 

 近づいていってると、よくよく見てみればアトリエの窓の脇に男の人と女の人の二人組が張り付いているのに気がついた。

 最初は「ドロボウ?」って思ったけど、中に先生たちがいるはずだし、下見にしては白昼堂々とし過ぎだし。

 

 それに……

 

「あの人たち、どこかで見たことあるような……無いような?」

 

 確か、『青の農村』のお祭りで何度か見たことが……

 

 

「ぐぬぬぬぬっ……! 複数の女性を(はべ)らせるとは、けしからん奴だ! そんなふしだらな男にロロナを渡すなど……! 私は認めん……認めないぞぉ!!」

 

「認めるも何も、最後(けっきょく)は本人たち次第でしょう? それに……「何人もの女の子に好意を寄せられちゃう男性」と「結婚してるのに他所の奥さんにうつつをぬかす男性」、どっちが「ふしだら」かしら……ね?」

 

「……ハイ」

 

「けど、ロロナは苦労してそうねぇ……。邪魔しちゃ悪いって気もするけど、せっかくだからちょっとお邪魔しちゃおうかしら?」

 

 そう言って窓から離れて玄関のほうへと行く女の人と、その後を遅れてついて行く男の人。

 その横顔を見て、私の中のパズルのピースがカチッ! とはまる音がしたような気がした。

 

 

「ああっ! そうだ!! あの二人、確か先生のお父さんとお母さんだ!?」

 

 思い出すのは、お祭りで奮闘する男の人(先生のお父さん)とそれを応援する女の人(先生のお母さん)

 ……そして、前におねえちゃんやメルおねえちゃん、ピアニャちゃんとマイスさんが一緒に雑貨屋さんで買い物をしてた時に、先生とそれを追いかけた私が飛び込んでいって「またティファナさんのところに来てたの、お母さんに言うからね!」と先生に怒られていた男の人(先生のお父さん)

 

 

「……え? 先生の御両親が『ロロナのアトリエ(あの中)』に? ど……どうしよう……!?」

 

 止めるべきか、ついて行くべきか、はたまた見てみぬふりをするか……

 私の頭の中がグルグル回り……お腹がキリキリと鳴ったような気がした……。

 




その昔、とある少女のことを「眼鏡ブス」と言った生意気なクソガキがいたそうな……
イッタイダレナンダー

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