マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

232 / 239

昨日に引き続き「超マイルド」のつづき。
昨日投稿した分よりもだいぶ短いです。というよりも、話のくぎり的に仕方ないとはいえ前回が長すぎました。
③まで続きます


そして、今回もトトリ視点でのお話しとなっています。


『終わりのもの』②

 

***街道のはずれ***

 

 

 

 

「…………んん?」

 

 マイスさんを助け出すための、『ゲート』を発生させ「反転」する実験。その実験の失敗(?)のせいか、はたまたロロナ先生が『ゲート』に『ベリーパイ』を投げ込んだせいか、突如現れた黒い靄を纏った(ヒト)に似た『終わりのもの(ナニカ)』。

 そのナニカとの戦いがついに始まろうとした……

 

 

 ……んだけど、私としては今、こっちにむかってきたナニカが上げた奇声(叫び)がなんだかひっかかった。

 今、あの『終わりのもの(ナニカ)』が何か言ってたような……?

 

 

『――――――!!』

 

 

 ……うん、気のせいだよね。言葉にもなっていないような叫びをあげて、こっちに突進してきてるだけで……

 

 私たちめがけて来ているナニカは、文字通り飛んでくるかのように……じゃなくって、まるで地面のスレスレを滑るかのように移動してて――

 

 ――意外と速い!?

 

『――――!』

 

()けっ……いや、ガードッ……というか、コワイ!?」

 

 もの凄い表情(かお)して睨んできてるのに、直立不動で滑ってる……! しかも、地味に速い!

 とっさに杖を前に突き出すように構えてガードの体勢をとるけど、こんな予想以上に速い勢いのまま攻撃されたら不味い……とまではいかなくても、けっこう痛そう……!!

 

 そんな痛みを想像してしまって、反射的にギュッと身体が強張ってしまった。

 

 

 ナニカは勢い良く私の横を()()()()()――――って、あれ? なんにもしてこな――

 

「っ! トトリちゃん、あぶない!!」

 

「えっ、きゃぁっ!?」

 

 通り過ぎた『終わりのもの(ナニカ)』を目で追っていた私に横からドンッと衝撃が……ううん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いきなりの事に、先生にどうかしたのか聞こうと――――あと、文句を一言二言言おうとして……見上げた(前を見た)私の目に写ったのは、音を立てるほどもの凄いスピードで一直線に飛んでいく数個の『闇の球』。

 ソレラがまるでタイミングを、そして高さを微妙にずらして一点を狙うように飛び交ってて…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?

 

 あのまま通り過ぎたナニカを呆然と見つめていたらと考えると、ゾゾゾッと足先からずずーっと背中を通って頭のてっぺんまで駆け上がってきた鳥肌。

 

「せ先生っ、ありがとうございます」

 

「あはは……ほぼ真正面からだったら見えなかったかもしれないけど、アレの後ろのほうからボールみたいなのがピョンピョン出てきてたのが気になって……。それで、なんか動いたって思った時とっさに――――ふえっ?」

 

 なるほど……きっと、あのナニカが通り過ぎた後にあの黒い球たちが飛んでくる時間差攻撃だったんだ。危ない所だった……。

 

 

 で、先生が何か変だけど、いったいどうしたんだろ……ん? なんだかちょっと(かげ)ってる?

 あのナニカが突進してくる前に黒い(もや)が薄く広がったからそのせいで……? でもそれならもっと前から陰ってることに気付いても……

 

 そうしてた仕上がりながら辺りを確認しようとして――――偶然か何なのか、私が最初に目をやったのはナニカがいる方で――――そして()()。大きな影を私たちに落す存在を。

 

 

 

「ド……(ドラゴン)……!?」

 

 

 体格はアーランドで見かける『ドラゴン系』とは異なり二足歩行で前足が翼と一体化したような見た目をしているけど、他人を丸のみに出来そうな大きな口、その口から覗く牙、頭から伸びる角、体を覆う鱗、大きな翼……それ等の特徴は間違い無くドラゴンだ。

 長い首も気にはなるけど、それ以上に特徴的なのはその翼が骨格部分以外はまるで羽毛のようでなおかつ色鮮やか()()()こと。ただし、その鮮やかな色もナニカと同じようにほとんどが黒い靄でおおわれていてしっかりと見ることが出来ない。

 

 

――まずい……!!

 

 

 そう思った時にはもう遅かった。

 雄たけびを上げるように首を、頭を、口を動かしたその竜が大きく羽ばたいたかと思えば、その竜の前に――つまりは竜と私たちとの間に――それこそ竜と大差のない大きさの『竜巻』が発生し、あろうことかこっちに向かって来た!

 その上、『竜巻』からは時折、マイスさんが使っていた風の魔法『ソニックウィンド』みたいな風の(かたまり)がまるで『竜巻』の中で荒れ狂う風がはぐれて出てきたかのように飛び出してきている。

 

 なにより、ただ単純に風の大きな流れであることも確かで……あの『終わりのもの(ナニカ)』が現れた時に発生した「黒い風」よりもよっぽど強い風だから、なんとか踏ん張ろうとしても、身体が浮きあがりそうになって…………!

 

「ちむ~!?」

「ちー!」

「…………」(気絶)

「ちっむ! ちっむ! ちっ…………ちむ~」

 

「わー!? またちむちゃんたちが、飛んでってるー!?」

 

 必死に地面の草にしがみついてる子もいたけど結局はみんな竜巻に飲み込まれて、さっきよりも高く遠くに飛ばされていって…………あっ。

 

 ふわりと浮かぶ人影。そのまま『竜巻』に吸い寄せられそうになったのは、踏ん張っていた残りの三人のうち一番体格が小さいホムちゃん。

 

「あっ」

 

「あぶない!」

「ほむちゃん!」

 

 私が何とか手を伸ばしホムちゃんの右手を捕まえたのとほぼ同時に、ロロナ先生も手を伸ばしてホムちゃんの反対の手(ひだりて)を捕まえたのが見えた。

 よく見てみると、ホムちゃんの手を捕まえたのとは反対の手で持つ杖を地面に突き刺して風に耐えてるのがわかった。「なるほど!」って感心した私も先生に(なら)って最小限の動きで持ってる杖を地面に突き刺してみると、先程までとは比べ物にならないほど楽になり耐えることが出来そうだった。

 

 ……ただ、飛ばされそうになってるホムちゃんを握ってる方の手は、やっぱりキツイ。でも何とか耐えて……!

 

 

 ガギンッ!

 

 

 そんな音が聞こえて、反射的にソッチに目がいった。

 見るとそこには……「あっ」って顔をしてフワッと地面から浮いてるロロナ先生と、何故か末端のほうが折れてしまってる先生が持つ杖と、浮かんだ先生の下を通過する風の(かたまり)…………。

 

 察した(わかった)。風の刃が杖をポキンッと折ってしまったんだろう。

 察してしまった(わかってしまった)からこそ言いたかった。「なんでそんなピンポイントに?」って。

 

 そして、こっちはちゃんと声に出して言わないといけなかった。

 

 

「せんせ~! か、片手で二人は……色々と無理ですー!!」

 

「だよねー……でも、なるべくなら離さないでー!?」

 

 地面(地上)のほうから「私→ホムちゃん→先生」と連なって『竜巻』に巻き上げられそうになっている私たち。先生のお願いに「ごめんなさい」と返すよりも先に、ホムちゃんの手を捕まえている私の手の限界……とほぼ同時に浅くしか刺せてなかった杖が地面の土を少し抉りながらズポッと抜けて、私の身体も……!

 

 

「あ……あれ?」

 

「あいたっ!?」

「…………」

 

 ついに私も浮いて『竜巻』にのみ込まれてしまうのかと思ったら、浮遊感(そんなこと)はなかった。といいうか、『竜巻』も無くなっていた。

 代わりに「どすんっ」と「すたっ」という着地音が聞こえ、先生が尻餅をついてホムちゃんが足先からキレイに着地をしてた。どうやら、私だけじゃなくってホムちゃんと先生の間でも手が離れてしまってたみたいで、幸か不幸か先生の着地失敗の道連れにはならなかったみたい。

 

 

 でも、どうしていきなり……?

 そう思ってあの竜のいた方を見てみると、竜はどこにもいなくて『終わりのもの(あのナニカ)』だけが見えた。……さっきまでどこにいってたんだろう?

 

 何はともあれ、あの竜が消えたからか、ただ単に『竜巻』が自然消滅したかでとりあえず私たちは助かっ――――――

 

 

「気を抜き過ぎです」

 

 ホムちゃんの声にハッとすると、いつの間にか視線の先にいたはずのナニカがいなくなっていて……私から見て右手の方向で、ホムちゃんが両手を前に突き出して何かを防いでいた。

 それは一番最初に渡しを狙って打ち出された「闇の球」とは真逆の「光の球」で、4つがクルクルと回るように連なってホムちゃんを襲っている。防いでも防いでも代わる代わるグルグルとぶつかってくる「光の球」にホムちゃんがじりじりと押されているのがわかる。

 

「……くぅ!?」

 

 私や先生が何かするよりも先に、ホムちゃんが(はじ)かれるようにして倒れ込む。私たちもとっさに避け、4つの「光の球」はクルクル回りながら通り過ぎていった。

 

「大丈夫!? 怪我は……!」

 

 ポーチに手をつっこみ手探りで薬を探しながら、私は起き上がるホムちゃんに駆け寄る。

 

「ご心配なく。ホムはつくられた段階で「ロロナ(マスター)以上の身体能力と錬金術知識」という設計にされていましたので。さすがにマスターも成長しましたし今でも勝てると豪語はできませんが、この程度は大したことはありません」

 

「そ、そうなの?」

 

 思いの外、元気そうなホムちゃんに少し驚きながらも安心しひと息つく。

 けど、今度はホムちゃんの声ではなく先生の声が私の注意を引いた。

 

 

「気を付けて! また何かくるみたい!」

 

 目を向けてみれば、ちょうど『終わりのもの(ナニカ)』が右手を開きながら、前に突き出すような行動(こと)をしているところだった。

 「闇の球」か「光の球」を撃ち出してくるのかと思って身構えた……んだけど、開かれた手のひらから何かが出てくる様子は無くて、私は首をかしげてしまいそうになった。

 

 

 小さく、でも確かに、足元のから音がしたような気がし――

 

ズガガガガガッン!!

 

「きゃっ!!」

「うわぁっ!?」

「…………!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 運良く誰にも直撃はしなかったけど、腕や足に少なからずかすってしまい傷を作ってしまう。かすっただけでもわかるけど、かなりいたい。直撃したら空に打ち上げられる……だけで、すめばまだマシかもしれない。

 

 

 そして、コレに私は覚えがあった。

 

「これって、マイスさんが『塔の悪魔(あのとき)』に使ってた『アーススパイク』……?」

 

「発生する数が大きく異なりますが、同種の『魔法』かと」

 

「そっ、それじゃあもしかして、マイス君の魔法と同じで他にも『火』とか『水』とか……まだまだいっぱいあるの!?」

 

 先生が口にした言葉に、私は頷くことも首を振ることもできない。だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 でも、ただでさえ押され気味というか押されてばかりなのに、コレがまだ序の口だなんてわかってしまったら……気が滅入るなんてものじゃない、けど、それだけ強く恐ろしい相手ならばなおさら逃げるわけにもいかない。

 それに、あの突然現れた(ドラゴン)のこともいまいちわからないし……不安要素ばっかりだ。

 

 

 

 

 そして……こうしている間にも『終わりのもの(ナニカ)』は、高速で移動を続け……きっと間違い無く次の攻撃を撃とうとして来ているに違いなく、私たちも反撃をしないとラチがあかないことは一目瞭然だった。

 

「先生。私がとりあえず『フラム』をばらまいて相手(アレ)の動きを抑えてみますから、大きくて強いの一つお願いしますっ」

 

「うんっ、わかったよ!」

 

 

 先生の返事を聞くと同時に、私は何個(いくつ)もの爆弾(フラム)を取り出して、放り投げる――――――動作に入ったところで、『終わりのもの(ナニカ)』が何度目かの急接近をしてきた!

 

 ぶつかってくるような勢いで……でも、脇を通り過ぎるコースで私たちのそばを高速移動したナニカ。その通り過ぎた後には、ナニカからしみ出すように発生した十数個の「闇の球」。それがふわふわと浮かんでいた。

 

 それを見た瞬間、『フラム』を投げるのを完全に止めて、数歩下がる。

 最初(さっき)みたいに私を狙ってくるんだったらもっと動いた方がとは思う。でも、もしも私以外の先生やホムちゃん狙いだとしたら、下手に動いた方が危ないかもしれないから。

 それを判断するためにも、飛んでくる「闇の球(アレ)」の動きを初動をしっかり見て素早く避けないと……!

 

 

――――えっ?

 

 

 「闇の球」は音を立てて高速で飛ぶ――――()()()()、《《静かにその場で消滅した》。

 

 

「これって、どういう……!?」

 

 

 困惑する最中、顔が、陽の光とは別のなにかに照らされた気がした。

 

 ハッとして目を向けた先には、私たちのそばを通り過ぎた『終わりのもの(ナニカ)』がいつの間にか手を開いて突き出している姿が。

 その手のひらの先には――――――私たちの方へと向かってくる「(ヒカリ)」。連なる「光の球」とは大きく異なる……点滅しながら発光し、フワフワとゆっくりそよ風に乗っているような他より断然ゆっくりとした速度で進む人の頭に満たないほどの大きさの「光」。

 

 

 気づいてからほんの2,3秒後。その「光」と私たちとの距離が5メートルになろうかというあたり。

 点滅していた「光」が()()()()

 

 「人の頭ほど」の大きさが一気に「家一軒分」ほどに。

 草を吹き飛ばしながら、土を抉りながら、空気を焼きながらまだまだ膨張を続け……あっという間も無く私たちの眼前に迫るまでの巨大な光球となって私たちを飲み込もうとし―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ぁ」

 

 

――――――()()()()()()()()()()()()()()()()()




※なお、「超マイルド」以前はここらでホムちゃんが、その前までは三人全員、最初期では町や村にも被害が……くらいのレベルでいろいろハードでした。詳しくはまたの機会、何かの機会にでも……。


明日は『IF』&たまった感想返信の予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。