低評価ばっちこい()。
諸事情により、第三者視点となっています。
***ロロナのアトリエ***
『属性結晶』が集まり、『ゲート発生装置』の改善策が示された翌日……
「「で、できたー!」」
そう元気良く声をあげたのは、このアトリエの主人であるロロナとその弟子トトリ。
マイスを『はじまりの森』から救出するという目的のためこうして共に調合しているが、一緒に「ぐーるぐーる」とはかき混ぜてはいない。……いつかのように調合したものがなんでも『パイ』なってしまうかもしれないからだ。今回そんなことになったら大問題になってしまうため、役割分担をして交代で調合に手を加えるようにしてた。
結果――無事『ルーン式原動機関』を『ゲート発生装置』に組み込むことに成功した。
「『はじまりの森』へ行くための『
原動機関を組み込んだことによって多少大きくなってしまった装置を二人で何とか取り出したんだけど、そしたらロロナがそんなことを言い出したのだ。
つまりは、『ゲート』を発生させ、反転させて『はじまりの森』に行くわけだから、「ゲート」とそれを反転させた「トーゲ」……そして、それらを合わせて『ゲートーゲ』というネーミングにしたのだろう。
愚直というか半端で締まらない感じもするけれど、過去の『ほむちゃんホイホイ』と比べれば……比べても、どっちもどっちである。つまりは、ある意味ではロロナらしい命名だろう。
そんなネーミングセンスをこれでもかと見せつけられたトトリは――まぁ彼女も彼女でロロナ以上の独特なネーミングセンスを持っているのだが――感心したのか、はたまた唖然とさせられたのか、ポカンとしていた。……が、ふいに「あれ?」と首をかしげた。
「先生? これそのものには反転させる機能はついてませんから、反転してる部分を名前に付けるのは、ちょっと違うんじゃ……?」
「……『新生・げーとくん』!」
「新生ってことはそもそもが『
「ま、まあ、それはともかく、これで『はじまりの森』に――マイスさんを助けに行けますね!」
「そうだね! どれだけ効率が良くなったかは実際に使ってみないとわかんないけど、確実に良くはなってるはず。それに加えて、『属性結晶』をみんながたくさん集めてきてくれたからバッチリ問題無しだよっ!」
『
だがしかし、二人には
そうと決まれば――――
「それじゃあトトリちゃん、みんなを集めて出発だよ!」
「はいっ! ちむちゃんたち、連絡お願いね! 集合場所はマイスさんの家の前だからね」
「「「「ちむー!」」」」
元気の良い返事と共にアトリエの外へと飛び出して行くちむちゃんずを見送ったトトリは「さてと」と一言呟いてからロロナへと向き直った。
「先生、私たちも早く準備を。確か、
「うん。ほむちゃんがくまさんやコオル君たちと一緒に、私たちの冒険中ゲートの維持管理をするための「かせつほんぶ」?っていうのを作るって言ってたよ。だから、あとは……こないだ作っておいた冒険用のやつと、臨時の『秘密バッグ』のほうを確認すればいいかな?」
「わかりました! パパッと終わらせちゃいましょう!」
「「おー!」」
―――――――――
***マイスの家・裏手***
マイスの家の裏口、『倉庫』と『モンスター小屋』、そしてそれらを結ぶ渡り廊下がある幅約十数メートルほどの家の裏手。
その一角に、おおよそ半球状に大小数か所地面が
芝生がほどよくしげり、春や夏には一帯が緑の絨毯のようになるはずなのだが、抉れたそこは青々しさなどカケラも感じさせない土色になっている。いや――――
――――なって
というのも、一番大きく抉られている地面からマイスが消えた『
そのすぐそばには、数本の支柱とそれに支えられた屋根――場所が場所なら所謂テントと呼ばれるものに近い――があり、その下には何なに書類と小型の機材を乗せた机。
そしてそこには、一人黙々と機材をイジるマークと、手伝いをしてくれている『青の農村』の住民に淡々と指示をとばしているホムちゃんがいた。
「……こんなところでしょうか。そちらはどうですか?」
「こっちも問題無いよ。キミが教えてくれた計測器の動作もバッチリだ」
そう言うマークの視線先には、以前――マイスがいなくなった時にアストリッドがホムくんに持ってこさせていた、『ゲート』のエネルギーの方向性を
「そうですか。しかし、驚きました。まさかこの短時間で本当に作ってしまうとは……」
「まっ、規模自体小さかったし、それに『ルーン式原動機関』を開発した僕にはそう難しくはないのさ。というか、この手のものは原理を――その根本的な部分を理解さえすれば、他でもそう変わらないから応用が聞きやすいんだよ」
「しかし、まいったね。ボクとしても
「そうですね。協力者と呼べる面々の中では、作るのに関わった
そこまで言ったホムちゃんとマークが顔を見合わせて、一度、短くため息をついた。
「あんなやる気満々の彼女らに「残って」っていうのは……ねぇ?」
「はい。
ふたり揃って小さく首を振る。
「そういうキミこそ、本当は行きたいじゃないかい?」
「……否定はしません。ですが、客観的に見てホムはこちらでサポートにまわった方がおにいちゃんのためになるという結論に至りました」
「なので、こちらで最善を尽くします」と言うホムちゃんにマークは「そうかい」と簡素な相槌を打った――が、その後、何故かいつものヘラッとした笑みを浮かべた。
「何故だろう?」と首をかしげるホムちゃんの頭に、髪越しの感触が伝わった。
「まっ、そのあたりはアタシたちに任せときなさい」
「あなたは……」
その人物をホムちゃんは当然知っていた。ロロナが「メルちゃん」と呼び、トトリが「メルおねえちゃん」と呼ぶ「メルヴィア」という冒険者だということを。
……とはいっても、本人同士はそこまで深い仲でもない。せいぜい、『アランヤ村』の『豊漁祭』や、『青の農村』で時折顔を会せた程度。メルヴィアからしても「元・ロロナさんのお手伝い、現・マイスのお手伝い」という微妙に間違えた認識だったりする。
「ツェツィとピアニャちゃんにも散々お願いされちゃってるし、もう一人分の想いくらいならアタシが背負ってあげるわよ。それに、あなたみたいなカワイイ子のお願いならなおのことね。ほーら、うりうり~!」
「髪が乱れるので、やめてください」
髪をワシャワシャとやや乱暴に撫でまわすメルヴィアに、わずかにだが確かに眉を顰めながら拒絶するホムちゃん。だが、ならばと今度は頬をフニフニと撫でまわされてしまうだけだった。
その様子を笑いながら見ているだけのマークさんが、どこか頼もしそうに――いや、むしろ一周回って呆れさえ顔を覗かせそうなくらいの雰囲気で視線を移した。
「しっかし、『はじまりの森』の情報が少なく危険度が未知数とはいえ――あの救出メンバーなら心配しようがないんじゃないかな? よっぽどの想定外でもない限りさ」
その視線の先には、集まるように声がかけられたであろうメンバーが、各々話をしたり、軽く体を動かしていたりしていた。
王国時代には騎士として……その後も実力者として知られているステルクにエスティ。もう十分ベテランの域に脚を踏み入れているミミとジーノ。そして、まだここにはいない、稀代の錬金術士のロロナとその弟子であり冒険者としても一流であるトトリ。
マークからしてみれば、その実力を知らないのはクーデリアとリオネラくらいであり――そのふたりに関しても、周りから聞こえる評判は悪くはなかった――今そばに居るメルヴィアを含め、その他に関しては、皆が皆現時点での『アーランド共和国』内で指折りの実力者ばかりであるという評価であった。
足りないとすれば、それこそ行方不明のマイスや、「仮にも国の長なんだから」と『はじまりの森』行きを周りに止められた
「ホント、アタシはいらないんじゃないかなーって思うくらい……でも、結果的に国中をあげて動いてた「『属性結晶』集め」に比べれば大したこと無いでしょ」
「それを言われたら、その通りなんだけどもねぇ」
満足したのかホムちゃんを解放したメルヴィアがケラケラと笑い、マークは同意しながらも肩をすくめる。
「すみませーん! お待たせしましたー」
「おっ!来た来たっ」
そこに聞こえてきたトトリの声に、仮設本部から出たメルヴィアだけでなく、集まっていた救出メンバー、ホムちゃんたちの準備の手伝いをしていた『青の農村』の面々、そして話を聞きつけて激励すべく集まってきた人々……皆が反応した。
「遅いぞートトリー。早く行こーぜ!」
「たっく、あんたはこういう時も相変わらずね。……で、ちゃんと出来たんでしょうね?」
「うんっ! 心配しなくてもいいよ?」
「ふぅん、ならいいんだけど」と言いつつ……その言葉の割には随分と嬉しそうなミミ。
トトリの後には、これまた冒険の準備万端のロロナと、マークが『ルーン式原動機関』を持ってきた時と同じように『
「おーぅい! マー坊、コレはどこに置きゃあいいんだ?」
「発生装置はコッチだよおやじさん。――ああっ、もうちょっと手前……そう、ソコ! あと――」
「ホムちゃん。お願いしてた準備、いっぱい頼んじゃってたけどもう出来てる?」
「ハイ、マスター。『ゲート』の発生・持続のための準備はもちろん、緊急時の対処・連携の確認、万が一の際の救出メンバー救出の段取りも完璧です。あと、『はじまりの森』において『秘密バッグ』とコンテナが正常に繋がるかどうかの確認方法についてなのですが――」
……こうして、本当に最後の最後、最終段階の準備とその確認作業に各々が入っていく。
そう。
―――――――――
それの最終確認を行っていたロロナとトトリが、作業を終え立ち上がり振り返ると、その視線の先――基礎部分から一,二歩さがった周りには、マイス救出メンバーが。そのまた数メートル離れた場所には、様々な面で協力してくれた人々……フィリーやイクセル他『アーランドの街』の人たちや、コオルを中心とした『青の農村』の人とモンスターたち、そして『属性結晶』を持って来てそのまま待っていた『アランヤ村』のツェツィとピアニャが……
その光景、そしてみんなの視線から感じられる期待・不安諸々全てをひっくるめたプレッシャーを、ふたりが感じている中いると――――そこに、気の抜ける間の伸びた声がかけられる。
「お~い、お嬢さんがた。こっちは準備万全だよ」
「計器類およびサポート体制、共に整っています」
それらに答えるように大きく「ありがとっ!」と言ったロロナが、隣に立つトトリの顔を見た。偶然か否か、トトリも同じようにロロナのほうを向いており――ふたりは同時に頷いた。
「それじゃあ……やっちゃおうっ!」
「はい! 先生!!」
ふたりは『
「『ルーン』供給ライン確認っ! セーフティ解除! 開け、『ゲート』!!」
シュフォフォーン!
トトリが装置のレバーを下ろしボタンを押し込めた後、高らかに宣言するかのような発言に反応して装置が起動し……ほんの数拍置いた後に、『
「計測値、ベクトル
仮設本部から聞こえてきた声からも、その見た目からもわかるように、発生させた『ゲート』は採取地で見かける自然発生の『ゲート』と遜色の無いものだった。
『ゲート』が維持できていることを確認し――今度はロロナが自分で調合した
「「反転」してっ! ていやーっ!!」
が、光はあくまで光なので、よくよく見ても「あれ? 変わったかな?」程度にしか見えないため、見た目はさることながらその性質が
しかし――――
「計測値
ホムちゃんからの報告によると、ロロナたちの思惑通り『ゲート』の「反転」に成功したようである。それも、以前の実験のようにほんの数分で徐々に小さくなり消滅してしまう様なこともない状態らしい。
その報告を聞いたロロナとトトリはハッと顔を見合わせ――笑う。
「先生っ、ついに!」
「うんっ! ついに行けるよ、マイス君を助けに!!」
ふたりのその言葉を聞いた周囲の人々は皆顔をほころばせる。
街や村の人たちは歓声や激励の言葉をあげた。救出メンバーたちは、己の武器の柄を確かめるように握りしめたり、胸の前で自分の手に拳を打ち付け小気味の良い音をたてたり、声援に答えたり……仕草、表情様々だが、皆一様にチカラ漲る良い目をしてしていた。
――――が、
「あ~、気合十分なところ悪いんだが……ちょっといいかな?」
「? じおさん、どうかしましたか? ……あっ! 行きたいって言ってもダメですからね!? 王様じゃなくなってもじおさんは――」
しかしロロナの発言を遮るように、「いや、そうではなくてだな……」と目を細めながらジオは言葉を続けた。
「何やら、『ゲート』の中央付近がパチパチと弾けているように見えるのだが……これは私の寄る年波が原因の目の錯覚なのだろうか?」
「「えっ」」
つられるようにロロナとトトリが――それだけでなく、周囲の誰もが視線を『ゲート』へと向け、目を凝らした。
……確かに、小さくだが薄桃色の光と別色の、黒に近い紫色の光が小さく爆ぜているように見え……いや、暗い光はその爆ぜる規模を段々と……そこそこの速さで大きくしている。
平たく言えば、誰から見ても「何かあってる」とわかる状況だ。
「ほむちゃんっ? もしかして、また段々とちいさくなっていったりしそうなの?」
「
「ま、マークさん!? どういうことですかぁ~!?」
「どうと言われてねぇ、
「沢山真剣に考えてくれてるところ悪いんだけど、どうこう考えてる状況じゃなくなるくらいドンドン大きくなってるわよ!? ほらっ、ツェツィはピアニャちゃん連れて
「断言はできないでしょうけど、いちおう『
「はいぃっ! 実力者も沢山いて、もしも本当に敵が出てきても大丈夫だから、慌てずに落ち着いて退避してくださ~い! ついてきてくださ~い!」
「んにしても、できりゃあココで暴れてほしくはないんだけどなぁ?」
「そうね。マイスの家のすぐそばだし……『
「で、でも、わたしたちが守らなくちゃっ! マイス君の帰る場所を!」
「おっしゃー! どんとこーい!! 今度こそ俺も戦ってやる!!」
「フムッ。『はじまりの森』へと行ってはいけないと言われはしたが」
「どうして皆さん、そんなにマークさんの推測通りだと思って……!! いや、でも確かに最悪はそれだろうから何とかできるようにしとかなくちゃ……って、『ゲート』を逆流して来れるって、いったいどんなモンスターなんですか!?」
頭を抱えるトトリ。しかし、そう都合よく異変が止まってくれるわけも無い。
そして、その場にいる全員が感じられたわけではないが……暗い光を放ちだした『ゲート』の奥から、確かに強いプレッシャーが発せられだした。その時点で、何かが逆流してきていることに確信を持った人物もいた。
「来るぞっ!!」
そうステルクが声を上げたのとほぼ同時に、『ゲート』が一層強い光を放ちだし……破裂音と軽い衝撃波、それによる風があたりを駆け巡る。
物質的な損壊は無いが、瞬間的な風に『
「――あたたた~っ! なんか途中から変だったねぇ」
時間と共に舞い上がっていた砂埃がおさまっていき……影が――――
「んでもってここは……あらぁ? この建物、どっかで見たような……?」
――――人影が、段々と露わになって――――
「って、
「――えっ」
「ん? 人が多いけどまさか何か祭でも――って、あら?」
その人物とトトリの視線が合い――――
「おかあさん!?」
ある意味原作よりもひどい帰還。
どれもこれも『シアレンスの冒険者』が10話くらいおくれてるせいなんだ(自業自得)