基本マイス君視点ですが、途中に第三者視点がところどころに挟まっています。ご了承ください。
※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、句読点、行間……
***サンライズ食堂***
「手伝ってほしいと言われて来たのだが……いったいコレはどういうことだ?」
「ええっと……」
いつもより眉間にシワを寄せて不機嫌そうにしているステルクさん。そして、そんなステルクさんに睨まれてたじろいでいるロロナ。
僕たちが今いるのは『サンライズ食堂』といってもお客さんは一人もおらず、今店内にいるのは 先に言った2人とクーデリアとイクセルさん、そして僕だ。
僕とイクセルさんがカウンターの内側…厨房に並んで立っていて、そのちょうど外側のあたりでステルクさんとロロナが話していて、クーデリアは少し離れたカウンターの角の席に座っている。
不機嫌そうなまま、カウンター席に座るステルクさんに、僕はカウンター越しに話しかける。
「ステルクさん、ごめんなさい。巻き込んでしまって……」
「キミが謝ることではない。それに、どちらかといえばキミも巻き込まれた側だろう。ハァ……」
「いやぁまあ……そうとも言えなくもないですけど」
そもそもの始まりはロロナに呼び出されたこと、そしてそこにはイクセルさんもいて、いきなり「料理対決」を申し込んできたのだ。
なんでも、前に錬金術で料理を作ったロロナに対してイクセルさんが勝負を仕掛けたことがあったらしく、その時は発案者がアストリッドさんでホムちゃんが審判をしてロロナの勝利で幕を引いたらしい。
そして、その敗北からイクセルさんがもう一度腕を磨きリベンジマッチを企んでいたそうで、もう一度ロロナに挑もうとしたらしい。だけど、ロロナとしてはそう何度も受ける気にはなれなくて……で――
「料理といえば、この前マイス君の家で食べさせてもらった『おこのみやき』おいしかったなぁ……お昼のおすそわけに持ってきてくれる『パイ』とか『ちゅうかまん』も……」
その言葉で、イクセルさんの標的がロロナから僕へと移ったわけだ。
ロロナ本人は「思い出して つい言っちゃっただけなの!」って言ってたけど、これってほぼ間違いなく「身代わり」だよね……? 悪気があるわけじゃなさそうだから強非難し辛く、結局勝負を受けることになった。
で、僕が食材等の準備をしてくる間にロロナが「公平に審判をする人」としてステルクさんを連れてきた。
なお、クーデリアはステルクさんに会いに行く途中で会ったらしく「審判はしないけど、勝負自体はちょっと気になるから」と言ってロロナについてきたそうだ。
「こほん、えー……それでは『イクセくんvsマイス君』の料理対決を始めます!」
似合わない司会進行をロロナがし始めた。
「へへっ、手加減はしねぇよ! マイスも全力できな!!」
「あははは……」
イクセルさんはやる気十分、背後にメラメラと炎が見えてきそうなほどだ。
「それじゃぁ、調理! 開始!!」
ロロナの合図でイクセルさんが素早く調理を始める。僕も、持ってきた食材と調理器具を確認、不備が無く 作る予定のものがちゃんと作れそうなので 調理を始めた。
―――――――――
「……料理ができるまでの間、ちょっとヒマだね」
クーデリアの座っているカウンター席の隣の席に座るロロナ。
「ロロナは司会なんだから、二人が作ってるところを見て何か言ったりすれば?」
「うーん? でも、最近『錬金術』でしか料理しなくなったから、普通の調理のことが良くわからなくなってきて……」
「あんたねぇ……」
クーデリアは呆れたようにため息をついた。
「ん……?」
「どうかしましたか、ステルクさん?」
ロロナは、少し離れたカウンター席に座っているステルクが疑問符をあげたことに気がつき声をかける。
「いや、先程彼が取り出したモノなんだが……。アレはいったい何に使うのかと思ってな」
ステルクが目を向けるのは、マイスが取り出した物。円い枠、その底にカゴのように何かを編んだ底がついている。
「アレは『蒸し器』ですよ」
「ああ、そういえばこないだマイスの家のキッチン見せてもらった時にあったわね」
以前見たロロナとクーデリアがそれについて答えるが、ステルクの疑問が増えた。
「肉を蒸し焼きにしたりするとは聞いたことがありはするが、いったい何を……。それに、あまり料理については知らないのだが、蒸すという調理にはあんなに段数が必要なのか?」
そう。『蒸し器』は円い枠のものが4段あり、それの下に底の浅い鍋のようなものと最上部にフタがついていて、かなりの大きさになり存在感があるのだ。
「えっと……使ってるところは見たことなくって、よくわからないです」
「でも確か『ちゅうかまん』とかいうのはアレで作ったって言ってたわよね?」
「そうそう! ってことは今日も『ちゅうかまん』なのかな?」
今日作るものが何なのか予想しだすロロナとクーデリア。途中からステルクさんは置いてけぼりである。
「ほう……?」
ステルクはマイスの調理を見ていたが、予想を裏切られてばかりで驚いていた。
小麦粉をこねていたのでパンを作っているのかと思えば、その生地を小さく千切り 棒で薄く伸ばしはじめた。
半ば不本意に請け負った審判だが、これはこれで良いものなのかもしれない、とステルクは少し今の立場を楽しみだしていた。
―――――――――
「あと少しかな…?」
僕の調理は最終段階まできていて、あとは蒸しあがるのを待つだけになっていた。
「できたぜ!!」
おっと、イクセルさんに先を越されてしまったみたいだ。とはいっても、焦ってもいいものはできないので蒸しあがりを待つ。
「それでは、先にこちらの料理を食べたら良いのか?」
「そうですね。僕のができるまではまだ少し時間がかかりますから、冷めないうちにどうぞ!」
僕がそう言うとイクセルさんが「まってました!」といわんばかりにステルクさんの前に料理を出した。
「おまちどうさん!『イクセルプレート・改』だ」
良い色に焼かれた肉に 添え物の野菜、ソースはお好みでかけられるようにメインの皿とは別の容器に入れてあった。
その出てきた料理を見て ロロナが呟く。
「あれ? 私のときと同じ…?」
「肉の焼き方やソースに改良を加えたんだ! あの時とは違うぜ」
自信満々に言うイクセルさんに「へぇ~」とよくわかってなさそうなロロナ。クーデリアは頬杖をついて眺めている。
ステルクさんが一度咳払いをし、ナイフとフォークを手に取りかまえる。
「では、いただこう」
みんな――特にイクセルさん――の視線を集めながら、ステルクさんは食べ進めていき……そうかからずに完食した。
「ふむ……肉が硬くならないように注意した上で中まで火はしっかりと通してある。そして、ソースにくどさは無く食べ飽きることもなかった」
「す、ステルクさんが それらしいこと言ってる……!?」
「引き受けた頼みだ、しっかりこなすに決まっているだろう」
驚ロロナ。イクセルさんは感想に良い感触を感じたのだろう、ガッツポーズをしている。
「それで、マイスのほうももうできたんだから遠慮しないで、冷めないうちに出しちゃいなさいよ」
そうクーデリアが言うと、みんなの視線が僕に向いた。ステルクさんが食べている間に良い頃合いになり『蒸し器』から一人静かに取り出していたのだ。
「むっ……。すまない、待たせてしまったようだな」
「いえ、丁度いいくらいの熱さになったくらいです。それでこれが僕の作った――」
ステルクさんの前に料理を出す。
「『しゅうまい』です」
「「「「しゅうまい?」」」」
まあ、そういう反応になるとは思ったけど……
皿に盛られているのは円柱形の白い六つの塊、その一つ一つの上に緑色のマメが乗っている。
みんなが「なんだこりゃ」といった様子で『しゅうまい』を見る中、最初にステルクさんが声を出す。
「すまない、
「そうですね、スプーンですくえなくもないですけど難しいですし……」
「そうか。では……いただこう」
ステルクさんはそう言って『しゅうまい』のひとつを上手く取り、口へと運んだ。
モグモグと動かす口をみんなが見つめる中、ステルクさんは 十分に噛んだ後それを飲み込んだ。そしてその瞬間に合わせたように「待ちきれない」といった感じでロロナが聞く。
「どう、ですか……!?」
「……ソース等がついていないから味が少し心配だったのだが、素材の味と香草の味が上手く合わさって良い味わいになっている……。様々な食材を混ぜたものを 薄く伸ばした生地で包んでいたが、混ぜた食材だけでここまでの味が出せるものなのだな」
調理の様子をずっと見ていたっていうこともあるのだろうけど、結構しっかりとしたコメントが言えてて実際すごいと思う……。っと、いちおう自分で説明をしたほうがいいのかな?
「はい! 香草と細かく刻んだ『キャベツ』と『タマネギ』を川で釣って下ごしらえをした『エビ』の身と混ぜ合わせて、それを皮で包んで蒸しました!」
「知らない味は『エビ』か……下ごしらえをしっかりすれば こんな味がするのか」
そう言うと、もう一つ『しゅうまい』を口に入れた。
どうやら、あまりエビは食べることが無いようだ。もしかしたら海のほうでは違うのかもしれないけど、今は確かめる手段は無いので とりあえずおいておこう。
「そ、それで! 俺のとどっちがうまいんだ!?」
イクセルさんの問いかけを聞き、ロロナが「あっ、そういえばこれって料理対決だった」って顔をし、それを見ていたクーデリアがため息をついた。まあロロナがうっかりするのはいつものことなんだろうから、慣れたものだろう。
「……こちらだろう」
ステルクさんはそう言いながら僕の方へと手をむけた。
「えっ、すっごいマイス君!! イクセくんに勝っちゃった!」
「まぁ、でしょうね」
驚くロロナとは対照的に、クーデリアはさも当然のような反応をした。
そしてイクセルさんはというと……
「なんでだ!? 俺の渾身の料理がっ!」
頭を悩ませもだえていた。
それを見ていたステルクさんが僕を見てきた。
「……確か、私にだした数よりも随分作っていたはずだな? 彼にも食べさせてやってくれ、そうすれば差もわかるだろう」
これに真っ先に反応したのは まさかのロロナ。
「あ、はい! 私も食べてみたい!」
「はははっ、大丈夫だよ。最初からみんなの分作ってあるから」
新たな『しゅうまい』を取り出し、ロロナ、クーデリア、イクセルさんの前に置く。……イクセルさんは『しゅうまい』をもの凄く睨みつけていた。
「「「いただきます」」」
「ふわぁ……! なにこれ!?」
「すっごくおいしいね! くーちゃん!!」
2人にも気に入ってもらえたようで、ロロナのほうなんかは凄い早さで食べ進められている。イクセルさんは……ステルクさんと何か話しているみたいだ。
――――――
「知らねぇ料理だから新鮮に思えるとかじゃなくて、ただ単にうまいじゃねぇか……何から何までランクが違うぜ」
「まあ、当然だろう。キミと彼ではスタート地点が違ったと言っても過言では無いからな」
「……? それって、どういう?」
「キミは知らないようだが、彼は自分で畑を作り、そこで野菜などを育てながら生活をしている」
「…………。」
「この街に来てからまだ1年ほどだが、その前からずっとそういった生活をしているそうだ。……良い野菜に育てるために試行錯誤や色々と努力もしてきたのだろう。その努力の結晶である野菜を料理に使ったわけだ」
「それじゃあ……」
「料理の技術はキミの方が幾分上だろう。それは人並み以上の料理の腕を持つ彼であっても、キミの方が勝っていた……。しかし、彼は自分の領域である『食材』の部分でキミの料理の上を行った。結果、料理の美味しさの勝負で彼は勝ったのだ」
「料理人としての腕は良いって言われても……やっぱ悔しいな」
「……まあ、騎士と同じだ。いくら『強い剣』があっても『未熟な者』が使い手であれば、まだ上が存在する。逆も然りだ」
「料理も『良い料理の腕』と『良い食材』があって究極の一品に近づくってわけか……」
「実際はもっと複雑なのだろうがな」
「…………よし!」
――――――
この日の後、イクセルさんが僕の畑の見学に来たり、野菜の取引を頼まれたりするようになった。