良いお年を。
※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、句読点、行間……
***職人通り***
「なー うなー」
「……どうしたらいいのでしょう」
わたしの腕の中で鳴くこなーを見ながら、ひとり呟いていました。
ホムはマスターに頼まれたおつかいの途中、ホムの足元にスリ寄ってくる1匹の子ネコに出会いました。その子ネコに『こなー』という名前をつけてアトリエに連れて帰りました。
アトリエで育てることはできないか聞きましたがグランドマスターに反対され元の場所に捨ててくるよう命令を受けました。
こなーが元いた場所の周りを見てまわりましたが、やはり親ネコらしき姿は見当たりません。こんな小さな子ネコを1匹で放置するのは危ないと判断します。
「……なぜでしょう? ホムは命令よりも、こなーを捨てない理由を探すことを優先してます」
ホムンクルスのホムにとって、創造主であるグランドマスターの命令は絶対的なものです……でも、ホムはこなーを捨てることができずにいます。
「なー?」
「どうしたらよいのでしょう……」
「こんにちは、ホムちゃん」
ホムに呼びかける声に気づき、おとしてしまっていた視線を上げると、黄色っぽい金髪の少年がいました
ホムはこの少年とは面識があります。たしか、名前は――
「マイス……でしたか?」
「憶えててくれてたんだね! よかったー…」
名前を言うと、何故かわかりませんがマイスは喜んでいるようでした。
そういえば、グランドマスターが言っていましたがマイスはマスターとはまた違った天然だそうです。説明はホムには理解できませんでしたが、とにかく変わり者だそうです。
「ホムに何か御用ですか?」
「えっと……用っていうほどじゃないんだけどね。なんだかホムちゃんが悲しそうな顔していたから、どうしたのかなーって思って」
「ホムがですか……?」
ホムには覚えがありません。困っていたりはしていたかもしれませんが、悲しんでいたりはしていないと思います……おそらく。
「なー」
そんなことを考えていると、ホムが抱き抱えていたこなーが鳴き声をあげました。マイスはそれでやっとこなーの存在に気がついたようです。
「うわー! 可愛いネコちゃんだね」
「ネコではなく、この子はこなーです」
「そうなんだー。こんにちは、こなー」
ホムの指摘を素直に受け入れ、訂正をしたマイスはホムが抱いているこなーに手を伸ばしてきました。こなーはその手に驚くことも無く、近づいてきたマイスの指をペロペロと舐めはじめました
「人懐っこくて元気な子だね」
「いえ、触ろうとしたマスターに威嚇をしていました」
「えっそうなの……?」
「この様子を見ると、マスターがネコに嫌われやすいのではないかと」
ホムにもマイスにも問題無く接していることから、そう推測することができました。そうでないなら、ホムとマイスがネコに好かれやすいということでしょうか?
「それで、もしかしてこなーのことで何かあったの?」
こなーをなでていたマイスがこちらを向いて問いかけてきました。
特に隠すこともない……もとい、話しても問題無いと判断できたので、経緯を話してしまいましょう……
―――――――――
「なるほど……アストリッドさんの命令をこなしたい、だけどこなーを捨ててしまいたくない、ってことだよね」
「おおよそ、そのとおりです」
説明を終えると、マイスは腕を組んで首をひねり何か考え始めました。そして、そうたたないうちに「そうだ!」と一言いいながら手をうちました。
「こなーを拾ったのってどこ?」
「この『職人通り』の途中です」
「それじゃあ そこまで案内してくれないかな」
「それは かまいませんが……?」
どういうことかわかりませんが、ホムは頼まれたとおり案内をはじめます。当然こなーを抱っこして、です。
「ここです。ここでホムの足にすり寄ってきました」
「よし、それじゃあここでこなーを離してみようか!」
「……なにを言っているのですか」
「言いたいことはわかるけど、一回地面に降ろしてくれるだけでいいから。お願い!」
ますますわからなくなってきましたが、すごくお願いされましたし、とりあえず言うことを聞いてみることにしましょう。
「うなー?」
こなーを地面に降ろすと、すぐにマイスがヒョイとこなーを抱き上げてホムの方へ近寄ってきた。
「ホムちゃん、こなーをなでてみて」
「言われなくてもなでますが……結局どういうことですか?」
こなーをなでながらホムが疑問を口にすると、マイスはニコニコしながら答えてきました。
「これなら アストリッドさんの命令をこなせて、ホムちゃんはこなーと遊べるかなーって思ってね」
「…………?」
「ホムちゃんのお家であるアトリエではこなーを育てたらいけいないって言われたけど、僕の家ではそんなことはない。そして僕はほぼ毎日街に来るから、こなーを連れて遊びに来れる」
「確かにマイスは街の外に住んでいますが、そう遠くなく、行くのも難しくないでしょう。……あぁ、なるほど」
ホムは自分でそこまで言って気がつきました。アトリエで育てるよりは会い辛いでしょうが、それでも言うほどではありません。
それに、言われたとおり「元の場所」でホムはこなーを地面に降ろし「捨てた」。あくまで今こなーを拾っているのはマイスなので、グランドマスターの命令をちゃんとこなしたと言えなくもないでしょう。
「ありがとうございます。ですが、マイスの家にはモンスターも暮らしていると聞いてますが大丈夫ですか?」
「うん! あの子はとっても優しい子だから、こなーとも仲良くなれるよ!」
とても良い笑顔でマイスは言いますが、正直なところ確証の持てる証拠がありませんので、あまり信用できません。
「本当に大丈夫か確認するために今からマイスの家に行きます。今度はマイスが案内してください」
「あははは……わかったよ」
―――――――――
結論から言うと、マイスの家にいたウォルフとこなーは問題無く、丸まって寝ころがってる『ウォルフ』の上でこなーが寝たりするくらいになりました。
ホムも、こなーが街に来たときやホムが時間が空いた時に会いに行き、遊ぶようになりました。