原作で絡みの少なかった人同士やマイス君の口調に悩まさせている今日この頃。
※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、句読点、行間……
病院に運び込まれた後に誰かが着せ替えてくれたんだろう簡易的な服から、着慣れた自分の服へ着替え身支度を終え僕。診察してくれたらしいお医者さんにお礼を言って病院を出た後、今僕は、誘われたままに知らない街を歩いている。
見たことのない高さの建物がたくさんあり、靴ごしに感じる地面の感触はあまりなじみのない石畳の硬さ、すれちがった道行く人の服知っているものと似ているようで似ていないものばかり。
歩きながら見知らぬ景色を泳いでいた視線を前に戻したら……すぐ前を歩いていたはずのエスティさんがいなくなっていた。
出会って数十分の関係だけど、今の僕にとっては唯一の知り合いだからその存在は大きなものだ。
今まさに右も左もわからない、どうしようもない状況になろうとしている。
ポンポンと肩をたたかれ反射的にそちらを向くと……今度は
ほおに指がささった。その指の主は――さっきぼくが見失ってしまってたエスティさん。
「なーにしてるのかなぁ?」
「ご、ごめんなさい……」
頬を指でぐりぐりされながらジトリとした目で言われたら、非のある僕が言えることは限られた……うん、謝らないとね。
僕から指を離し、エスティさんは短くため息をついてた。
「色々と心配ねぇ、マイス君は」
「ははは……」
「ほらこっちよ。道、通り過ぎちゃってるから」
そう言ってエスティさんは僕の手を捕まえ歩き出した。
僕も引かれる手に合わせて歩いてく……。
――――――――――――
***サンライズ食堂***
カランッ カランッ
『サンライズ食堂』と書かれた看板のさがっていた建物。
その扉をエスティさんが開けたとき、後ろにいた僕は知っている空気に近い空気に包まれた。
ほのかに香るスパイスや油の焼けた匂い。それらに交じってわずかながらお茶の匂いもしている。
飲食店の空気っていうのは、こういうものなんだろう。なんというか、少し落ち着く。
「いらっしゃい!」
カウンターの奥から元気の良い声が聞こえた。
声の主は赤毛の少年だった。しかも、彼以外に従業員は見当たらないことから、彼一人でこの店を取り仕切っているらしい。
あの若さで一人で店を……すごいなぁ。
「って、あれ? エスティさん? 今日午後から休みなんですか?」
「んー、別段休みってわけじゃないんだけどね。うんうん、遅めのランチだからすいてるわね」
彼とは知り合いなのだろうエスティさんは、彼からほど近い位置のカウンター席に座る。
そして僕に手招きをしながら隣の席を指し、座るよう勧めてくれた。
「エスティさんの連れだったんですか?」
エスティさんの隣に座る僕を見た赤毛の少年が少し驚きつつ疑問を口にした。
「うん。マイス君っていってね、一応うちで保護って形なの」
「「保護?」」
赤毛の少年と声が重なってしまった。
そちらに目を向けると、こちらを見る彼の顔は「自分のことなのに知らなかったのか」と言ってるように思える。
「街の外に、ほぼその身一つで倒れてたところをウチの後輩くんたちが連れて帰ってきたのよ。で、目が覚めたからってこんな子供をほっぽり出すわけにもいかないだろうから、事情を聞いてから措置が決まるまで保護することに昨日のうちに決められたの」
エスティさんの話から僕が知らなかったことを知れたんだけど、「僕はどのくらい寝ていたのか」という疑問がわいてきた。
だが、その疑問を口にする前に赤毛の少年が「そういえば」と何かを思い出したようにポツリと呟いた。
「ロロナのやつが、
「そうそう、マイス君を連れてきた人たちの内の一人がロロナちゃんだったの」
「エスティさんが言ってた「後輩」ってのはステルクさんだったのか」
赤毛の少年はひとり納得すると、こちらのほうに向きなおった。
「んじゃ、あらためて。俺はイクセル。見ての通りここでコックをやってるんだ、よろしくな」
「僕はマイスっていいます。こちらこそよろしくお願いします、イクセルさん」
「そんなに固くならなくていいぜ、マイス」
ニカリッと笑みを浮かべるイクセルさん。その軽快さにつられるようにいつの間にか僕も自然と笑ってた。
視界の端では、そんな僕たちの様子を見ていたんだろうエスティさんが一人満足げに頷いてた。
「ん! よくできました。マイス君がちゃんと挨拶できたところで料理を注文しちゃおうか! マイス君は久しぶりのごはんだろうから適当な軽めなやつを、私はいつものでよろしく」
「あいよ!」
元気の良い返事をしたイクセルさんは調理場につき、慣れた様子で手際よく調理を始めた。
料理をするその横顔を見ると、喋っていた先ほどまでとは違う真剣な職人の顔をしていた。
――――――
「そういや、マイスはこれからどうするんだ?」
イクセルさんが用意してくれた料理を食べ、これまたイクセルさんが用意してくれた『黒の香茶』というものを飲んで一服していると、そんなことを聞かれた。
「街道使ってたってことは、街に何か用があったりするんだろ?」
「えっと、実は……」
隣に座っているエスティさんも、こころなしかこちらを興味ありげに見ている気がする。
一応保護という立場をとっているわけだから、知る必要もあるからだろう。これまで聞いてこなかったのは、気を遣ってくれていたのかもしれない。
さて、「用は無い」のだが、どう説明したら良いものか……。
「その、自分の家で寝てから病院で起きるまでのことが記憶になくて……。この町のことも僕が倒れていたっていう街道のことも全然わからなくて、どうしたらいいのか……」
「なんだそりゃ? 寝ているうちに
「いやぁ……どうなんでしょう?」
さすがにそれは無いとは思うけど、何もわからない以上否定できないんだけど……やっぱりないと思う。
そんなことを考えていると、残りの香茶を飲みほしたエスティさんが「まあ」と一言、会話に入ってきた。
「とりあえず、マイス君は当分はウチで仕事することになると思うわ」
「ええっと……?」
「帰るにしても、帰るための十分な路銀が必要になってくるでしょう?」
「それは、たしかに」
なぜかはわからないが『リターン』の魔法が使えない今、帰り道を探したうえで何とかして帰らなければならないわけだ。それにはお金は必要となってくるだろう。
「仕事って、受付で扱ってる依頼の?」
「そうそう。それなら私もマイス君の行動を把握できるから、都合がいいのよ」
「危なくないか? 大丈夫なのか、マイス?」
心配そうな目でこちらを見てくるイクセルさん。
正直なところ、大丈夫かどうかは話についていけていないのでわからないのだが。
「大丈夫よ。そこそこ腕が立つみたいだし」
そう言いながらエスティさんは席を立つ。
「ご馳走様。それじゃ、支払い済ませるからマイス君は先に出て店前で待ってて」
僕は立ち上がり、イクセルさんにお辞儀をする。
「ご馳走様でした、とてもおいしかったです!」
「おう! また来いよ! それに、なんか困ったことがあったら相談に来ていいぜ」
「はい! ありがとうございます」
そう言い僕は店を出た。