※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、特殊タグ追加、句読点、行間……
***職人通り***
「さて、っと……どうしたものかな」
大臣である親父に言われてアトリエの店主に近づいてから それなりの時間が経った。
とは言っても、ロロナに出会ったのは親父に言われる前なので、なにも 本気でアトリエを潰すために近づいたわけではない。
まあ、色々と悩みながらも気の向くままに行動していたのだけど、つい先日、親父に呼び出された。
アトリエを潰すための工作行為の催促かと思ってたんだけど、その予想は良くか悪くか裏切られることになった。
「アトリエと交友関係にある奴らの中に『マイス』という少年がいるはずだ。そいつについて調べてこい」
その言葉を聞いたとき、正直 僕は驚いた。正確には「表情を見て」って言うべきかもしれないけどね。
アトリエのことを話す時のようにイライラして眉間にシワを寄せているわけでもなければ、何か悪だくみを思いついた嫌な笑みでもない。苦虫を噛み潰した……いや、ただ単純にバツが悪そうにしていたんだ。似合わないことこの上なかったね。
まあ『マイス』って人については少しは知っていた。
僕だって いちおうはロロナの手伝いをしたりしているのだから、話には聞いたりはしている。未だに会ったことはないんだけどね。
「小さな少年」、「街の外に住んでいる」、「畑で色々育ててる」、「アトリエにおすそわけを度々持ってくる」、「けっこう戦える」……僕が現段階で聞いたことのある情報はこのくらい。
さて、もっと詳しく知ろうとするとなれば、本人に会ってみるっていう手もあるにはあるけど、ここは無難にロロナあたりから話を聞いてみるほうが気乗りがする。
というわけで、今現在 僕はアトリエの前にいる。
……できれば、先代店主である彼女がいないとやりやすいんだけどね。
―――――――――
***ロロナのアトリエ***
「あっ、タントさん いらっしゃい!」
そう言って出迎えてくれたのは店主のロロナ。そのそばには フリルが沢山ついた服を着ている少女……確かホムンクルスのホムちゃん、だったかな? それと―――
「そういえば、マイス君は初めましてだったよね? 前に話したことあると思うけど、この人はタントリスさんっていってね、色々助けてくれてるの! それと楽器の演奏が凄く上手なんだよ」
「はじめまして !僕はマイスっていいます。よろしくお願いします!」
……なんで、ご本人がいるんだろうね? たまたまタイミングが重なっちゃったのかな。
「キミがマイス君か。噂はときどき耳にしてたけど、思った以上の人みたいだね」
特に口に出したりはしないけど、本当に思った以上だったことは確かだ。
正直なところ 確かに分類するなら『少年』にあてはまるだろうけど、子供っぽさが抜けてない……というか ほぼ子供と言って差し支えない。畑を耕すよりも街の広場で遊んでいたほうがしっくりきそうだ。
「えへへっ。ですよねー、マイス君ってホントにすごいんですよー!」
「なぜマスターが偉そうにしているのですか?」
「なー……」
僕の言葉に反応したのは どうしてかロロナだった。
どういう風に思ったのかはわからないけど、ニコニコ笑って誇らしげに胸を張っていた。聞いてのとおりホムンクルスのホムちゃんとその足元にいる子ネコにまでツッコまれているけど……。
「タントさん、今からみんなでお昼を食べるところなんですけど……一緒にどうですか?」
「……ん、それじゃあ お呼ばれされちゃおうかな。本当はロロナと2人っきりで楽しみたいところだけど、ね?」
「あはは。もう、タントさんったら いつもそんな冗談ばっかり言ってー」
半分、いや それ以上に本気なんだけどなぁ……。
「マイス、こなーのゴハンも準備してください」
「あっ、でもせっかくだからホムちゃんも一緒にやって覚えてみない?」
「…アリですね。それではやりましょう」
むこうはむこうでコッチの会話は気にせず、か……。
――――――――――
「ごちそうさまー! あぁ……おいしかったー」
『サンドウィッチ』を食べ終え 幸せそうな顔をしているロロナ。ホムちゃんは膝の上に満腹状態の子ネコを乗せて気の趣くままに なでたり じゃらしたりしていた。そしてマイス君は『サンドウィッチ』が盛られていたお皿をまとめ上げはじめていた。
「確かに、とてもおいしかったね。でも、今度はぜひロロナの手料理を食べてみたいな…」
『サンドウィッチ』はマイス君が用意してきたものらしく、「マイスを調べる」一環にはなったけど、個人的にはロロナの料理を食べてみたかったというのは本音だ。
「うぇ……やめてくださいよー、マイス君の料理と比べられると……」
うーん、思ったような返答は中々貰えないな……。そこは「また今度!」って誘ってほしいところなんだけど。
「そんなことないと思うよ。だってロロナの作った『パイ』とかすっごく美味しいから、僕 大好きだよ?」
マイス君がロロナにそう言った。そしたらホムちゃんのほうもそれに続くように言った
「はい。マスターは『パイ』に関してだけは特筆すべきところがあると思います」
「ほむちゃん、それ、フォローになってないよぉ……うわーん! どーせ私は『パイ』だけなんだー!!」
……本当に仲が良いな、この子たちは。
「それじゃあ、ちょっとお皿片付けてくるから 奥の流し借りるよ」
そう言いながらマイス君が重ねたお皿を持ち上げた。
「それなら私が――」
「ホムもできます」
「ううん。せっかくタントリスさんが遊びに来てくれてるんだから、ロロナはゆっくりお話ししてていいよ。ホムちゃんも、今立ったら気持ちよさそうに寝ているこなーが起きちゃってかわいそうだからさ」
「それも……そうかな?」
「……わかりました」
2人の返事を確認したマイス君は、奥の部屋へと姿を消した。
うん、このタイミングがちょうどいいかもしれないね。
マイス君がやってる事や人柄なんかは昼食中に聞けたから、僕が個人的に気になったことを聞いてみるとしよう。
「ねぇロロナ、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ…」
「はい? なんですか?」
「ロロナとマイス君はどういう関係なんだい?」
「友達ですよ?」
「…………。」
「…………。」
即答か。
いや、僕としては嬉しいんだけど、ここまで即答されると 逆に気になっちゃうな……。
「あっ、でも」
何か思いたったかのようにロロナがハッとし顔をあげたかと思えば、わずかにだけど頬を赤くしていて。ってことは、もしかして……。
「マイス君には秘密なんですけど……」
「なんだけど?」
「ほんとうの弟みたいに思ってるんです!!」
「えっ!?」
なら、なんで頬を赤くしたんだい!?
「ということはホムからすると「兄」ということですか」
「どういうことだい!?」
いや、本当に意味がわからないんだけど!?
「実はね、師匠に「弟と妹、いるならどっちがいい」って聞かれた時、マイス君っていう「弟」がいたから「妹」って答えたんだ~。あっ、師匠には内緒にしてね」
「わかりました。グランドマスターには秘密にしておきます」
「もう完全に僕は置いてけぼりなんだけど……」
「なうー?」
僕が呟くと、いつの間にか目を覚ましていた子ネコがこちらを向いて首をかしげていた。なんだろうね、この虚しさは……。
―――――――――
ほどなくお茶を持ってマイス君が戻ってきたんだけど、その時 僕は会話に入れておらず、ロロナとホムちゃんがふたりで話していた。
「食後のお茶を入れてきました! 何のお話ししてたんですか?」
「えっとね、マイス君はしっかりしてるけどどこか抜けてて可愛いよねーって」
「はい、おにいちゃんはマスターほどではないですけど「ドジっこ」だという話をしていました」
「えっ……」
「あーっ! マイス君、ほむちゃんに「おにいちゃん」って呼ばれてズルーい! 私なんて「おねえちゃん」って呼んでもらうの師匠に禁止されてるのに~」
ササッと2人にお茶を渡し、僕にお茶を渡してくれた後困った顔をしながら……、
「あのタントリスさん、何があったんですか……?」
「僕にもわからないよ、あれは……」
ハァ、親父にも どう報告すべきかな……?