※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、特殊タグ追加、句読点、行間……
***マイスの家***
……あれから何日経ったのかな?
とても長くも感じるし、短くも感じる。
『シアレンス』へと帰る手立てが無くなった。それだけで。周りの環境は変わっていないはずなのに、何か全く別のもののように感じられてしまうようになっていた。
気付けば外はもう日が沈みきってしまっていた。
お腹は……そういえば、さっきこなーと『ウォルフ』のゴハンを用意した後に、僕もパンを食べたんだっけ。
戸締りなどを確認しながら、今日の日記に何を書くか内容を考える。……これも、習慣になったなぁ。
日記を書いた後は……前は『鍛冶台』や『薬学台』で なにかしら作ったりしてたけど、今はどうにもやる気がおきない。
「もう何もすることはないし、寝ようか……」
こなーたちもいつも自分たちで寝床で寝てくれるから特に心配することも無い。二階に上がって寝よう……。
コンッ コンッ コンッ!
こんな時間に誰か来るなんて珍しい……けど、特に何も気にせずいつもの癖で返事をしてた。
「はーい、ちょっと待ってください」
玄関までいき扉を開けてみると、機能性を重視したであろう服装の所々が土か何かで汚れてしまった女性が立っていた。
「ちょっといいかい……って、ボウヤしかいないのかい? 親はどうしたんだい?」
「いえ、僕はひとりで暮らしてるんで」
「そうなのかい。まあ、いいか!」
そう言うと女性はニカリと笑った
「腹が減っててさ、何か食べ物ない?」
―――――――――
「美味い!」
水やタオルを貸して、身体を拭いたり服の汚れを落としてもらっていた間に僕が作った料理。それをを豪快にガツガツ食べる女性が嬉しそうに声をあげた。
追加分を持ってきたんだけど、まだ必要そうだ……食材の備蓄には余裕はあるのだが、正直驚いている。
「っはー!! まともな食事が久々ってことを差し引いても、凄いわコレは!」
なんだか随分と大変そうなことを言ってる気もするが、特に気にしないことにして……もう少し追加を作ろう。
―――――――――
「ふぅ! 食べた食べたー」
女性が満足気に言うのを見て僕は一安心した。
本当によく食べる人だった。まあ、本当においしそうに食べてくれるのだから、
「それにしても、困ったところだったんだ。コッチのほうに冒険に来るのは久しぶりでさ、色々忘れるわ 道を見失うわで大変だったんだよ~! ここに家が無かったらもっと大変だったろうね」
「まあモンスターをネコと一緒に飼ってるのは驚きだけどね」と付け加えた女性は、愉快そうに笑ってる。
旅路を思い返したんだろうか? ときどき苦虫を噛み潰したような顔をしていたりはしたが、すぐにニカリと白い歯を見せる笑顔になり楽しそうに話していた。
「大丈夫だったと思いますよ? ここから少し行ったことろに『アーランドの街』がありますから。そこの人たちはみんな親切な人たちですからね」
「あぁ、ここは『アーランド』のすぐそばだったのかい。予想より随分とずれてたみたいだね……勘が鈍ったかな?」
「たはははっ」と少し困ったように笑う女性。その顔は本当に困ったというよりも、面白くて笑っているように見えた。
「でも、それなら なんでボウヤはこんなところに住んでるんだい?」
女性の表情は特に何も変わっていないはずだった。だが、なぜか僕には全く別のもののように感じられた。
たぶん、本当に女性の表情は変わっていない。
変わったのは話題。今の僕があまり話したくない話題になったからだ。
「別に話したくないことなら言ってくれなくてかまわないけどね。なんとなくだけど、ボウヤがさっきから時々死んだ魚の目みたいな目をしてるのに何か関係があるんじゃないかなーって思っちゃって」
……僕はそんな目をしていたんだろうか?
それはわからないが、なんとなく無気力感があることとは確かに無関係じゃあないだろう。
「アタシはしがない旅人さ。もう二度と会わないかもしれないような間柄だからこそ、身近な奴には話せないようなことも相談し易いかもんないよ」
そういう女性は相変わらずの笑顔だった。
―――――――――
何処で僕の中の枷〈かせ〉が外れてしまったのかはわからない。
いつの間にか、見ず知らずの人に、誰にも言ったことの無いことを話してしまっていた。
記憶のこと。
シアレンスの町のこと。
シアレンスで記憶を取り戻す生活をしていたこと。
知らないうちにアーランドのそばに倒れていたこと。
シアレンスに帰るための足掛かりとして ここで生活しはじめたこと。
そして……シアレンスに帰る手立てを失ったこと。
―――――――――
いろんなことをいっぺんに話したから、ちゃんと伝わったかなんてことはわからない。ただただ、溜まっていた言葉が溢れ出してきた。
僕が全部話し終えるまで女性は静かに聞いていてくれた。そして僕が話し終わると、少しの間を置いてから女性が口を開いた。
「ゴメン、アタシにはよくわかんないわ!」
「へっ?」
笑いながらそんなことを言う女性に、僕は変な声を出してしまっていた。
女性は少し慌てながら、僕に言ってくる。
「いや、別に話しを聞いてなかったとかじゃなくてさ、えっと……『るーん』とか『魔法』とか知らないこととか信じらんないことばっかり出てきて、理解が追い付かないっていうか」
そう言うと、自分のコメカミに指を当てながら「えっと、つまり……」と女性は考えだしたが、すぐに「あっー!もう!!」と言いながらテーブルをバンッ!!と叩き立ち上がって僕を指差してきた。
「とにかくさっ! アタシは『しあれんす』なんて町は見たことも聞いたことも無いけどあるってわかる! そんでもって、こうやってアンタに会って 話せたことがすっっごく嬉しいってことだよ!! …………ん?なんだい、口に出してみたら案外簡単じゃないか」
うんうん、とひとりで頷いている女性だけど、僕は全く理解できなかった。
「それって、どういう……?」
「アタシはいろんなところを旅して回ったんだけど、野宿以外にもちゃんと村とか町とかで寝泊まりしたこともあるんだよ」
「信じらんないかもしれないけどね」と女性が言うが、寝泊まりするのが普通のことだと思うんだけどなぁ……?
「んで、いろんなところの料理なんかも知ってるんだけど、さっきボウヤが出してくれた料理はアタシが見たことも食べたことも無い料理だったわけ。それはなんでなのか。簡単さ、その『しあれんす』ってところで学んだ料理だったから。つまり、『しあれんす』はある!」
そう言う女性の顔はやけに自信に満ち溢れていた。
「次は……自分勝手で ちょっとボウヤには悪いかもしれないけど、正直に言わせてもらうよ………アンタがこっち来てくれて、アタシは嬉しい」
女性は僕の目をじっと見つめてきた。
「『しあれんす』ってのが物語なんかに出てくる別世界のようなものなのか何なのかは知らないけど、
………そういえば僕も、ここに来た頃は初めて見るもの聞くものに戸惑ったりもしたけど、嬉しさや楽しさも感じていた。
ここで色々知らないものを見つけては「何かに使えないか」って考えながら、自分の知識が活かせないかと試行錯誤していろんなことをしてみてたな……あの時は夢中になってて楽しかった……。
――――――
………『シアレンス』に帰れないことは本当に悲しい。
だけど――――
僕は、少しだけ後ろばかりを見過ぎていたかもしれない。
自分しかあの『シアレンス』の町を知らないのが、切り離されひとり取り残されたようで辛く寂しかった。
でも、自分しか『シアレンス』のことを知らないことが悲しいのであれば、『シアレンス』で得たものをここで活かして、みんなに少しでも『シアレンス』のことを知ってもらえばよかったんだ。
確かに『シアレンス』の人たちに一言もお礼も言えずに別れるのは辛い。
でも、今、僕が立ち止まっていい理由にはならない。
記憶をなくした時もそうだったじゃないか。
何もわからない中で、自分ができることを精一杯頑張って……
そうだ、それでいいんだ。
今、僕にできることは何だろう?
僕がしたいことは何だろう?
考える時間だって、ちゃんとある――――
――――――
「まぁ もっと本音を言うと、ボウヤがいた所みたいなアタシの知らないものが沢山あるところを思いっきり冒険してみたいね!」
また笑顔になって喋っている女性を見て、僕は言う。
「すみません……」
「ん?」
どうしたんだ?と女性は首をかしげた。
「少し、泣いてもいいですか?」
そう僕が言うと少しだけ間を開けて女性は答えてくれた。
「……かまいやしないさ、来なよ」
優しい声だった……気がする。
女性の表情は確認できなかった。もう、僕の視界はふやけてしまっていたから……。
――――――――――――
なんだろう? 髪越しに 何かが通り過ぎていく感じがする。それも 何度も。
風だろうか? ……いや、頬とかには特に何も感じないし、なんだか温かいような……?
重いまぶたをあげるが、まだ ぼやけて周りがよくわからない。
「ん? 悪いね、起こしちまったかい?」
どこかで聞いたことのある声だ。
いや、「どこかで」とかじゃなくて、家に来た女性の……
「あっ!?」
ここで僕の意識は覚醒した。
飛び起きてあたりの状況を確認する。
場所は、僕がいつも寝ている二階のベッドルームのベッド。窓から差し込んでくる光はまだ淡く、おそらく早朝だろう。
僕が今いるのはベッドの上。布団には先程まで僕が寝ていたであろう場所が少し沈んでいて、そのすぐそばで肘をついて腕を頭の支えにするようにして横になっている例の女性が……。
えっと、つまり……?
状況を整理できないのがわかったのだろうか。女性が悩む僕に助け舟を出してくれた。
「憶えてないかい? 昨日の夜、ボウヤがアタシの胸で泣いたじゃないか。んで、その後 静かになったと思ったら寝ちゃってて、それでベッドを探し当てて寝かしてやろうと思ったらアタシに引っ付いたまま離れなくなっててさ。だから、アタシもそのまま一緒に寝たんだよ」
そして、朝になったと…………すごく恥ずかしいっ!
顔から火が出そうなほど恥ずかしがってしたら、女性が「アッハッハ!」と声を出して笑った。
「そんなに恥ずかしがんなくていいよ! むしろ まだボウヤくらいの歳の子なら もう少し人に甘えるのを覚えたほうがいいさ」
ううぅ……とりあえず、畑仕事をしないと……
―――――――――
日課の水やり等の畑仕事をしていると、いつの間にか家の玄関そばから女性が僕の作業を眺めていたり、 朝ゴハンを作っていると女性がキッチンに入ってきてヒョイっとつまみ食いしていったりと、まあ色々とあった。
そして 朝ゴハンを終え、食後の香茶を出してから少しゆっくりとしていると、いつもの調子で女性が口を開いた。
「さて、色々お世話になっちゃったけど、そろそろ出るとしようかね」
「というと、アーランドの街に行くんですか?」
「あー、いや……ボウヤの寝顔とかを見てたらウチの娘たちの顔が見たくなってきちゃってさ。一回帰ることにしたよ」
「娘さんがいたんですね」
それは初耳だったので、少し驚いた。というか、母親がいなくても大丈夫なのだろうか?もう大きくなって手がかからないとかかな?
女性はとても楽しそうに口を開く。
「ボウヤより少し小さいのと、もっと小さいのがいるんだけどね。それが可愛いすぎてさ!! アタシが帰ったら引っ付いて離れないのなんの、それもまた可愛くて!!」
「それならずっとそばにいたらいいのに」と思わなくもなかったけど、この人はこの人なりに考えはあるだろうと思い、口には出さなかった。
「それなら、少しだけ待ってください! 水と日持ちする食料を色々と用意しますから」
「ありがたいけど、そんなことまでしてもらっちゃっていいのかい?」
「遠慮しないでください。食べ物に関してはかなり余裕がありますから! あっ、でも 変わりと言ってはなんですけど……」
「ん? なんだい?」
「僕の剣技を見て欲しいんです」
―――――――――
「はははっ! 準備運動くらいって思ってたけどっ……思った以上だったっ!!」
少しだけ肩で息をする女性を、家の庭の地面にぶっ倒れた状態から見上げながら僕は思った――――「どうしてこうなった」と。
いや、僕が『シアレンス』で学んだことのひとつである剣技を見てもらいたくて僕が言ったことからはじまったんだけど、何で一対一の勝負になったのか……
まあこの女性がけっこうな戦い好きだったことが原因だろう。
一人旅をしているのだから、モンスターを退けられるくらいに強いと思ってはいたけど…………とんでもなかった。
「わるいわるい、アタシも熱くなりすぎた」
そう言いながら女性は僕の手をとって 立ち上がらせてくれた。
口ではこんなふうに謝っているが、顔はニカニカ笑っていて「楽しかった」と言っているようなものだった。
「いやぁ、強いね! おかげですっごく楽しめた!!」
言ったよこの人。……不思議と悪い気はしないから、特には気にしないけど。
「土産話もできたことだし、アタシは帰るとするよ」
そう言いながら女性は、僕が用意したものを含めた荷物を持って街道の方へと続く小道へと身体を向けた。
「あっ、そうだ」
女性は見送る僕を振り返った。
「名前聞いてなかったね」
「あっ」
そういえばそうだった。さすがにこのままお互いに知らないままなのもおかしなことだろう。
「僕はマイスっていいます!」
「マイス、か……うん、いい名前じゃないか。アタシは
そう言うとギゼラさんは大きく手を振った後、今度こそ街道への小道を歩き出した。
僕はその背中が見えなくなるまで見送り続けた……
畑のこと、鍛冶のこと、薬のこと……それ以外にも 僕がやれることはたくさんある。
このあいだやろうとしていた『モンスター小屋』や『離れ』を全力で建ててみるのもいいかもしれない。
「さて、何をしようかな」
フィリーに続き、「ロロナのアトリエ」には登場していないキャラクターが登場しました
なんとなく 終わりに向かっている雰囲気を感じられますが、まだまだ続きます
今はだいたい原作「ロロナのアトリエ」のストーリーの半分の期間を終えた程度です
これからも、山無く谷無く いつも通りの雰囲気で話が進んでいきます。タグにつけてある「恋愛要素」を少し出していったり、面白おかしくいくつもりです