マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、細かい描写の追加、特殊タグ追加、句読点、行間……



マイス「夏の日の街」

***職人通り***

 

 

 

 日に日に暑くなっているここ最近。今僕が歩いているこの石の敷き詰められた道は少なからず熱を帯びている。

 

 まさに「夏、真っ盛り」だ。

 

 

「すっかり忘れてたけど、『王宮受付』最近行ってなかったんだよね……」

 

 正直なところ、いつ以来なのかは覚えていない。

 『離れ』と『モンスター小屋』を建てはじめてからは、それらに熱中しすぎていて……朝起きて、畑仕事して、建築して……といったサイクルの生活になってしまっていた。

 それ以外には、時折こなーをホムちゃんのところに連れていったり、雑貨屋さんに種を買いに行ったり、家にお客さんが来たらおもてなししていたことが少々あった程度だ。『職人通り』よりも街の奥には行っていなかった。

 

 

 その建築もおおよそのかたちは完成していて、あとは内装や細かい場所のみってところまで出来ている。

 

 一区切りがついたということで、今日はちょっと気分転換に街に繰り出したんだけど……そこで『王宮受付』のことを思い出したのだ。

 

「フィリーさんは家に来てくれたりしてるから会ってるけど、エスティさんと会うのは久しぶりだな……」

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

***王宮受付***

 

 

「こんにちは!エスティさん! ……って、どうしたんですか?なんだか元気が無いですけど……?」

 

「あー、マイス君 おひさしー……」

 

 「ぶり」のたった二音を言わずにグデンと受付カウンターに突っ伏しているエスティさん。ほぼ完全に脱力している。

 

 

「……何かあったんですか?」

 

「あったっていうか、あってるというか……」

 

 エスティさんは、顔をあげたかと思えば、カウンターに指で「の」の字を書きながら唇を尖らせた

 

「一昨日からアストリッドさんの発案で、ロロナちゃんを中心とした女の子メンバーで『ネーベル湖畔』に水遊びに行っちゃってるのよ」

 

「『ネーベル湖畔』ですか……?」

 

 確か『アーランドの街』から、おおよそ北東方向にある大きな湖だったかな? 実際には行ったことは無いけど、以前入手した地図や図鑑等でその名前を目にした覚えがある。

 

「私にもお誘いがきたんだけど……見ての通り、仕事があって行けなかったの。はぁー……」

 

 「仕事時間の半分くらいはこうしてボーっとしてるだけで暇なのに……」と本当に残念そうにぼやくエスティさんの周囲は、こころなしか他よりも薄暗く見える……

 

 

 

「そうそう。王宮に入れてもらってた茶葉なんだけど、あともう少ししたらきれそうだからまた用意してもらえるかしら? 結構好評なのよ、あのお茶」

 

「気に入ってもらえてるなら嬉しいです! それじゃあ、明日にでも持ってきますね」

 

「大丈夫? 早いのはこっちとしては嬉しいんだけど、マイス君 何だか色々建てたりしてるんでしょ? ……お願いした私が言うのもなんだけど、無理しちゃダメよ?」

 

 そう心配そうに言ってくれるが、実際のところ建築は僕も作業をしたりはするけど 僕無しでもアクティブシードたちに大体の作業はしてもらえる。それに、そもそも建築自体に何か期限があるわけでもないので、建築作業を後回しにしても そんなに問題は無い。

 

「大丈夫ですよ。時間も十分にありますし、材料もちゃんと保管してますから」

 

「そう……うん、ならよろしくお願いね!」

 

「はい!」

 

 

---------

 

 久しぶりの会話や依頼等をすませて『王宮受付』を後にするマイス。

 その後ろ姿を見送るエスティは、少し前にもこうしてマイスを見送ったことを思い出していた。あの時とはマイスの後ろ姿から見て取れる活気も、エスティ自身の感情も、まるで違っていたが――

 

「フィリーやティファナから聞いてはいたけど、マイス君、元気になってて本当に良かった」

 

 安心したように 軽く息をついたエスティは、肩を回して……

 

「それはそれでよかったけど……はぁ、私もロロナちゃんたちと水遊び行きたかったな~」

 

 今度は退屈そうにため息をついた。彼女にとって とても退屈な受付仕事が再び始まった

 

---------

 

 

 『王宮受付』を後にし家へと帰るために街中を行っていると、見知った人が歩いてくるのが見えた。

 

「ステルクさん、こんにちは!」

 

「むっ、君か。元気そうで何よりだ」

 

 ステルクさんは立ち止まって僕の挨拶に応えてくれる。

 

 そして、そのとき気がついたんだけど、ステルクさんの後ろには ステルクさんと同じ騎士の制服を身にまとった人が3人ついてきていた。

 騎士を連れて歩いているのを見るのは初めてで少し驚いたが、僕は後ろの人たちにもお辞儀をして挨拶をする。3人はお辞儀を返してくれたんだけど、皆なんとなくヨロヨロとしていて元気が無さそうだった。

 

 

 「どうかしたのかな?」と思ったけど、それを問いかける前にステルクさんが後ろの3人に、振り返りながら口を開いた。

 

「少しばかり話すことがあるから、君たちは先に王宮に戻り普段通りの仕事に戻っておいてくれ」

 

 ステルクさんの言葉に3人は返事をし、王宮のほうへと去っていった……

 

 

「あの3人、疲れているみたいでしたけど……何かあったんですか?」

 

 今はちょうど何かの仕事を終えた帰りだったのかな?

もしかしたら、ステルクさんを入れた騎士4人で街の外に現れた凶悪なモンスターを討伐したりでもしたとか……?

 

 あまり知らない騎士の仕事に 想像を膨らませたが、ステルクさんの口から漏れたのはため息だった。

 

「アレはただの夏バテだ」

 

「えっ」

 

「ここ最近の暑さでダラけてしまっている騎士が多くてな……物によりかかりながら事務にあたったり、背筋を伸ばして立たない気の緩んだ騎士がいるのだ」

 

 なるほど、それであんなに疲れていそうだったんだ。

 そう僕は納得しかけたが……

 

「だから、そういった者たちをつい先ほど演習場まで連れて行き鍛錬をしていたのだ。気の緩みを叩き直すにはそれが一番良いからな」

 

 ……暑さからきた部分もあっただろうけど、ステルクさん指導の下の鍛錬が追い討ちをかけてきて、あの疲れようなのだとわかった。気の緩みが直りしっかりする前に、鍛錬による疲れから立ったまま眠ってしまったりしてないか心配だ。

 

 

「って、あれ?」

 

 騎士の人たちにステルクさんが「普段通りの仕事」と言っていたから、特別な仕事があったのだろうと思ったのだけど、そうではなかったようだ……となると、王宮からは4人の騎士が仕事から抜けていたことになる。……()()で王宮の運営に何も問題は無いんだろうか?

 でも、問題があったなら、僕が行ってた『王宮受付』で何かさわぎでもあるだろう――けど、別段いつもと変わったところは無かったし……んん?

 

「もしかして、騎士って意外と暇なのかな……?」

 

「グッ……!?」

 

 あっ、ついうっかり口に出してしまっていたみたいだ。

 ただ、ステルクさんの表情を見ると 何とも難しそうな顔をしているので、もしかしたらステルクさん自身も感じていたのかもしれない。

 

「……確かにこれといった目立つ仕事は無いが、王宮の警備などの仕事が……」

 

「でもこの街、街中でも何か事件があったりすることも無いくらい平和なんですけど…?」

 

「非常時には何があるかはわからないが……王も「キミ達に仕事が少ないのは平和なことでいいじゃないか」とおっしゃられて……というか、王宮から抜け出した王を探し回るのが一番大きな仕事な気が

 

 段々とステルクさんのまとう空気が重くなって来てしまった。この空気を変えるために何か別の話題を出さないと……!

 

 

「そうだ! 仕事の忙しい時期といえば『王国祭』ですけど、今年はもう催し物とかの案は出ていたりするんですか?」

 

「むっ……いや、案はいくらか出ていたりはするそうだが……」

 

 ステルクさんが新しい話題に上手くのってくれた!

 

「去年行われた『キャベツ祭』などもそうなのだが、エスティ先輩たちが中心になって案をまとめ上げた後 決定するまで私は内容はわからなくてな……」

 

 「大抵は準備するギリギリまで教えてもらえないのだ。何故だろうか」と、不思議そうにステルクさんは言った。

 僕の印象ではあるが、結構騎士の中でも上の方だと思われるステルクさんにギリギリまで内容が伝わらないのは果たして大丈夫なんだろうか? ……一応これまで問題無く毎年開催できているみたいだけど。

 

 

「そういえばこの前、先輩に「今年はステルク君に盛り上げてもらうわよ!」と言われたのだが、もしかしたら『王国祭』の催し物のことだったのかもしれないな」

 

「へぇ! それは気になりますし、楽しみですね」


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