マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 前回の前書きに書いていたように、サブタイトルに出ている人の視点となっていて、今回はエスティさん。

 この小説、詳しく原作の時間軸を考えていないのですが、一応1年目の前半の予定です。





※2019年工事内容※
 誤字脱字修正、細かい描写の追加、特殊タグ追加、句読点、行間……


エスティ「少年は異なる環境に驚くばかり」

***サンライズ食堂***

 

 

 マイス君を先に店の外に待たせ、私は会計を済ませる。

 

 先に出させたのにはふたつほど理由がある。

 ひとつ目は、お金のことを変に意識させないためだ。マイス君は突然見ず知らずの場所に放り込まれたのだ。おそらく不安で大きな圧迫感があるだろう。故に大きな金額でなくとも具体的な金額を聞かせたりして変に貸し借りを意識させないようにしたかった。

 

 

 とはいっても本命の理由はふたつ目、それは―――

 

「そういえばさ……『シアレンス』って聞いたことある?」

 

「『シアレンス』? いや、聞いたことないですけど……なんすかそれ?」

 

 半分予想していたイクセル君の答えだったけど、「やっぱりか」と少しばかり落胆してしまう。

 

「詳しくは聞けてないんだけどね、そこがマイス君がいたところぽいのよ」

 

 マイス君に関することと知ってか先程より少しばかり真面目な顔つきになったイクセル君。その様子を見れば、彼の人の良さがよくわかる。

 

「俺に聞いたってことは」

 

「そ、私も知らないのよ。話が流れてこないほど遠くなのか、はたまたアーランドからそう離れてないけど小さな村だったり辺境だったりするのか……」

 

 それとも、どちらでもなく……存在しないから知りえないのか。

 それはマイス君が嘘を言っているようには思えなかったので、あまり考えられないのだが。

 

「とりあえず、店に来た行商人や旅人とかにその『シアレンス』のこと聞いてみたりしますよ」

 

「ありがと、こっちでもアーランドの外に詳しそうな人に聞いてみるから」

 

 そう言って私は店を出た。

 

 

 

―――――――――

 

***職人通り***

 

 

 

「おまたせ……って、なにしてるの?」

 

 店の外で待っていたマイス君は、この職人通りにそって流れている川を見ていた。それも、背中をチョンっと押すだけで落ちてしまいそうなくらい近づいて。

 そんな、覗きこむようにしてまで見るものは無いと思うけど……?

 

「すごいなぁと思って……」

 

「こんな川がそんな珍しいの?」

 

「えっと、この大きさの川が街の中を流れてることと、それと川に沿った地面がこんなに石できっちり水の中まで固められてることに驚いて…」

 

「へぇ、私はそんな気にしたことはなかったけど」

 

 当たり前のことなので気にしてこともなかった舗装技術。彼はそこに驚いていたようだ。

 

 舗装について知らないわけではないだろうから、おそらく規模に驚いているのだろう。

 ……まさか本当に辺境出身で、何も知らないなんてことはないとは思う。

 

 

「それじゃあ、ちょっと寄りたいところがあるんだけど、いいかしら?」

 

「はい、もちろんです!」

 

 良い返事だ、素直でよろしい。どこぞの頭の固い後輩騎士とは大違いね。

 

 

 私たちが歩き出そうとしたその時。

 

 

ボッカーン!!

 

 

 そう遠くない場所から爆発音が響いた。

 

 数か月前から時折鳴り響くようになったその音を聞いて私は「またか」と思う。

 通りにいた2,3人の街の住人も一瞬「何事か」と音のしたほうへ目を向けたが、煙の出ている建物を確認すると興味が失せたかのようにまた歩きはじめた。

 

 爆発音に意識を向け続けていたのはマイス君だけ。

 というか、彼は爆発音がしたとたんそちらへ走りだそうとしていたのだ。が、チラリとこちらを見るとピタリと動きを止め、困惑の表情をこちらへ向けて固まってしまっていた。

 

 いきなり固まってどうしたのかしら?

 

「あのー」

 

「んー?」

 

「今の爆発は……?」

 

 「いいんですか?」と言いたげな顔をしているマイス君。

 あぁもしかして先ほど固まったのは、今の彼のように、私の顔に「またか」といった(あき)れ半分の感情が表情に思い切り出ていて、彼から緊張感が抜けてしまったからだったりするのかしら?

 何にせよあの爆発は特に何の問題も無いのだからそんなに警戒しなくていいのに。

 

「あんまり気にしなくていいわよ。最近結構あることだから」

 

「そうなんですか?」

 

「うん、まあ見てみれば問題無いってわかるわ」

 

「え? 行くんですか?」

 

 私はよっぽどの呆れ顔をしていたのだろうか、様子を見に行くことを驚かれてしまった。

 

 それに、元から行くつもりだったのよね。

 なにせ私が言っていた「寄りたいところ」というのは、この爆発の発生もとであるアトリエだったのだから。

 

 

 

 アトリエの手前まで来ると、このアトリエの現店主が、扉や窓を大きく開けて煙を逃がすと共に黒いすすを払っていた。

 

「今日も派手にやったわねー」

 

「ケホッ、今日も、って毎日爆発させてるみたいに言わないでください!! あ、あれ? エスティさん!?」

 

「こんにちは、ロロナちゃん」

 

 普段そうアトリエに訪れない私の訪問にワタワタ慌てるロロナちゃん。

 

「えっ、もしかして爆発の苦情がたくさん来てて、即刻営業許可取り下げになっちゃったりとか!? それとも……!!」

 

「そういう話じゃないから安心して。ほらほら、深呼吸 深呼吸」

 

「すぅ……はぁ……はい! それで、今日は……?」

 

 やっと落ち着きを取り戻したロロナちゃんは私に向きなおり、そこで「あれ?」っといった様子で私の斜め後ろにいるマイス君にようやく気づいたみたい。

 でも……

 

 

「色々話したいことはあるんだけど……とりあえず、アトリエの掃除を手伝おうかしら?」

 

「……お願いします」


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