※2019年工事内容※
途中…………
「…っと。この調合方法なら『エリ草』が上手く液体に馴染んで効力を発揮するみたいかな? あとは、どれくらい効率良く精製できるようになるかだね…」
試した調合方法とその結果を白紙だった本に書き込み、まとめる
これまで『薬学台』での調合は 既存のレシピでしかやったことがなかったので、いちから考えるのは思った以上に困難だった。ただ、最近になってやっと成果が表れ始めた
「この調合って錬金術でも出来るのかな…?釜よりも薬学台のほうが慣れてるから、わざわざしなくてもいいんだけど……少し気になるな」
今度、今つくってるレシピじゃなくてもいいから、簡単な『回復のポット』あたりで試してみようかな……
コンコンッ
「はーい、ちょっと待ってくださーい!」
家の玄関の扉がノックされる音が聞こえた
僕は返事をした後、『薬学台』の上の作業を中断させて、作業場から 玄関のある玄関のある部屋へと移動し 扉を開ける
「お待たせしました!あっ、リオネラさん、それにホロホロとアラーニャも いらっしゃい!」
「こ、こんにちは マイスくん」
「おうおう、おじゃますっぜ」
「ごめんなさいね、忙しかったかしら?」
リオネラさんたち、よく家に遊びに来るようになったなぁ。最初は僕が半ば無理矢理連れてきちゃったんだけど、いつの間にか たびたび来るようになって、最近はフィリーさんと一緒に来ることも多くなった
「香茶を用意するから ちょっと待ってて……」
そう言いながらキッチンへ行こうとしたら、リオネラさんから呼び止められた
「あのっ!あのね、今日は大事な話があって…それで来たの」
「大事な話…?」
「……うん」
いったい何なんだろう?全然見当がつかなくて首をかしげてしまう
「この前のことだけど……私がロロナちゃんと飛んでたの…見た、よね……?」
「……ああっ!」
何のことだろう?と考えてしまったが、ほんの数日前に『旅人の街道』に用があって行っていた際に、うっすらとだけど 何か人のようなものが飛んでいってたのを思い出した
「あれって、リオネラさんたちだったんだ…」
そう僕が言うと、ホロホロとアラーニャが「やれやれ」といった様子で首を振った
「ほらな。言ったじゃねぇか、きっとわかってないから 言いに行かなくてもいいって」
「でも ここまで言っちゃったんだから、もう引き返せないわよ…良かったの?」
「うん、いいの…。ロロナちゃんと同じくらい大切な友達のマイスくんには、ちゃんと言っておきたいの。それに……」
そう言いながらリオネラさんは自分の手をギュっと握りしめた。……でも、話の流れがわからない僕は置いてけぼりだ。いったい何でこんな重い空気になってるんだろう……?
「で、なんで マイスは何のリアクションもねえんだ?」
「えっ?なんでって言われても……」
ホロホロに言われて 僕は首をかしげながら疑問を口にした
「…大事な話って、結局 何なんだろうな、って」
「えっ」
何やらリオネラさんが口を手で隠すようなポーズになった。目を真ん丸にしているし、とても驚いているように見える…………けど、そんなにおかしなことを言っただろうか?
「おいおい……こいつ、ロロナのやつより天然じゃねぇか」
「『天然』で済ませていいのかわかんないけど……ねえ、ロロナとリオネラが飛んでたのよ。不思議には思わないの?」
「……いつも浮かんでるホロホロとアラーニャが ふたりを掴んで飛んだ、とか?」
「開いた口がふさがんねぇよ……」
「もうこれ単刀直入に言った方がよさそうね……」
……?違ったのだろうか?
そもそも、ホロホロとアラーニャがいつも浮かんでるし、最近 お店を創めたパメラさんなんて 空も飛ぶし 物をすり抜けるし、人が空を飛んだくらいで……あれ?僕の感覚がおかしくなってるのかな?
「あのね、マイスくん……。ホロホロとアラーニャが浮いているのも、ロロナちゃんと私が飛んでたのも…………全部、私の『力』なの」
「リオネラさんの……?」
「どうしてかは分からないんだけど、私、生まれた時から 物を触らずに動かしたりとか 宙に浮かしたりとかできたの……」
「へぇ、そんな『力』が……あれ?でも、なんで今そんな話に…?」
「ふぇっ?」
なんでだろう。リオネラさんが随分と気の抜けた声を出した
そして、少しうるんだ目で僕の方をじっと見てきた
「怖く…ないの?…私、こんなへんな『力』持ってるんだよ……?」
「へんな力って……あっ!」
何をそんなに と思っていたけど、あることを思い出し、つい声をあげてしまった
そんな僕を見てリオネラさんは目から大粒の涙をあふれさせはじめた
「や…やっぱり、怖いよね……私が他人と違うって………」
「あっ、いや、さっきのは そういう意味じゃなくて――――――そういえば そうだったな、ってことで」
「そういえば…そう、だった?」
どう説明したものだろうか……。いや、今はそのことよりも…
「とにかく、僕はリオネラさんのことは 全然怖くないよ」
「でも、「魔法だ」「魔女だ」って 周りの人に怖がられて………お父さんやお母さんも…!」
「ちゃんとリオネラさんのことを見てればわかるよ」
…もしかしたら、僕の言葉は全然足りないかもしれない。だけど、僕には 思っていること以上の言葉なんて見つけられないし……きっと「大丈夫だよ」って気持ちを伝えるはずだと信じている
「リオネラさんが とっても優しい人だって、どんな『力』を持ってても 怖がる必要なんてないって……きっと、ロロナやクーデリア、フィリーさんも リオネラさんのことを「怖い」だなんて思わないよ」
僕が言葉を全部言い終わった後、少しの静寂が続いた。そして、それを破ったのは……
「……ふふっ」
リオネラさんの微笑みだった
「実は…今日 ここに来る前に 私、ロロナちゃんにも自分のこと話したの……それで言われたの「師匠もくーちゃんも、この街の人はみんな怖がらないよ。絶対に」って」
「あははは……似たようなこと言ってたみたいだね…」
「うん……ロロナちゃんの言葉も、マイスくんの言葉も…どっちも温かかった……」
「…そっか」
「そういえばよ」
ふと何かを思い出したかのようにホロホロが呟いた
「マイスが途中で「そういやそうだったー」みてーなこと言ってたけどよ。アレ、結局何だったんだ?」
「たしかに気になるわね」
アラーニャもそれに肯定した
「うーん、どう言えばいいのかなぁ?……実際見せた方が早いかな」
色々と不安要素もあるけど、一から説明するよりもいいとは思う
「それじゃあ、ちょっとついてきて」
「え、うん…?」
僕が作業場へと歩き、その後ろをリオネラさんたちがついて来てくれた
そして、そのまま裏口の方へと行き そこから外に出た
「ここに何かあるの?」
アラーニャの言葉に僕は首を振る。裏口から見えるのは、井戸と この家を取り囲む林だけだ
「ここに来たのは、ここが一番手っ取り早いかなって思ったからなんだ。みんな、手を繋いで」
「……こう?」
訳も分からず といった様子だけど、リオネラさんの両隣にホロホロとアラーニャが、そして ホロホロの隣に僕が立ち、手を握る
「…………『リターン』!」
――――――――――――
僕の目の前に広がった 淡い光が消えたとき、目の前には畑が見えた。無事、家の玄関前に移動出来たようで、隣には先程と同じようにリオネラさんたちがいる。ただし、先程とは違ってリオネラさんは口をパクパクさせて目は点になっていた
「へぅ、あ、えっ……?」
……うん、思ってた以上に驚かせてしまったようだ
「えーっと、リオネラさん?」
「ふぇ!?」
「おいおいおい!どうなってんだよ、ココって家の正面だよな?」
「これって、もしかして……」
リオネラさんの復活と共に ホロホロとアラーニャも動き出した。……アラーニャは真っ先にどういう状況なのか理解したみたいだ
「まず最初に言っておかなきゃいけないのは、僕が元々いた町のことなんだけど……」
「……実は 前にクーデリアさんから一回だけ「こういう名前の町なんだけど、知らない?」って聞かれたことがあって…『シアレンス』って町で、それと……その前にいた場所もあるんだけど、その…記憶が無いって」
「そうだったんだ、それなら説明が楽になるよ。……で、その『シアレンス』は『アーランド』とは別の世界で、色々な部分が異なってて 本来は交わるはずが無いって」
「それってどういう…?」
「うーん…あえて例えるとすれば、『シアレンス』から見て『アーランド』は絵本の中の世界で、『アーランド』から見て『シアレンス』は絵本の中の世界ってこと…かな?」
自分の中での解釈だから かなり違うかもしれない。…アストリッドさんなら上手く説明とかできそうなんだけど……今はいないのだから仕方ない
「それで……端的に言うけど、『シアレンス』には『魔法』があるんだ。火とか水とかの攻撃魔法、他にも 傷を癒す魔法や さっきの『リターン』の魔法とかね。……だから、正直なところ リオネラさんが『力』のことを明かしてくれた時、そんなに思い悩むことだって気がつかなかったんだ…」
「それじゃあ…「そういえば そうだった」っていうのは」
「そういえば魔法が無い世界だったんだ、ってこと。…ゴメンね、すごく勇気のいる話だったのに、最初 あんな受け答えしちゃって……」
「う、ううん、いいのっ!むしろ、あれで肩の力が いい感じに抜けて……それに、マイスくんは 怖くないってちゃんと言ってくれたから…」
――――――――――――
あれから 再び家の中に入り、それぞれソファーとイスに腰をかけた
リオネラさんは なんだか朝よりもスッキリしたような顔になっていて、自分の力のことをどれだけ気にしていたかが よくわかった
「けっきょく、リオネラが一人でくよくよ悩んじまってた ってだけの話だったな」
「…まあ結果的にはそうだったけど」
ホロホロとアラーニャがそう言うが、僕にとってはとても大事な出来事だった
「そんなことないよ。リオネラさんは 僕に勇気を分けてくれたよ」
「ん?何のことだ?」
ホロホロがそう言い、リオネラさんも首をかしげた
「記憶を無くしてた僕を受け入れてくれた『シアレンス』の町なんだけど、町長さんはモンスターのことを嫌ってた」
モンスターは絶対悪ではないけれど、人に被害が出ることがあるのも事実であった。それで嫌っている人もいたけど、あの人には別の意味もあったんだと思う
「それと……実は、僕のことを受け入れてくれた場所がもう一つあったんだ」
「もう一つ…?」
「町の近くの砂漠地帯に『モンスターの集落』があったんだ。そこの長は『有角人』っていう種族で、角が生えている以外の見た目は人間と変わりがないんだけど……そのひとは人間のことを嫌っていて、集落の近くに来る人間は追い払ってたんだ」
「あれ?それって……」
「なんか おかしくねぇか?」
アラーニャとホロホロが疑問を持つけど、それは当然のことだろう。でも僕は止まらずに自分の言葉を口に出した
「『シアレンス』で暮らしている内に 少しだけだけど記憶を取り戻していってた……でも、誰にも話せなかったんだ。……本当の自分のことを知られて、嫌われるのが…すごく怖くて……!でも…」
「マイスくん…?」
自然とリオネラさんへと目がいっていた。不安で胸が苦しかったけど、やめる気は無かった
自分自身のことと一生懸命向き合っているリオネラさんを見て、無性に僕自身が情けなく思えた。ずっと騙し続けてしまうのは何か違うと、強く感じた
だから、『シアレンス』でも誰に明かさなかった 僕の秘密を…
僕は立ち上がり、少し横に移動する。僕が変身する姿が テーブルで隠れてしまわないように、と
キュピーン!
ジャンプしながら回転し、『変身ベルト』を発動させる。僕は光に包まれ、光が消えたときの僕の姿は――――――
「えっ…もこ、ちゃん……?」
浮かんでいたホロホロとアラーニャは パタリと落ちて倒れてしまっていた。浮かす力が正常に働かないくらいリオネラさんが驚いてしまっているのだろう
「…僕は 人間とモンスターの両親を持つ『ハーフ』なんだ。それで、人間とモンスター、両方の姿になれるんだ……どっちが本当の、姿 なのか…は、わから――――――」
ふと気づくと、すぐ目の前にリオネラさんが見えた。モコモコの姿の身長に合わせるように床に膝をついて……そして、苦しいくらいに抱き締められた
「大丈夫だよ」
その言葉は とても力強くて…優しかった
「私も、怖くなんて無いよ……」
いつの間にか、浮かんでいたホロホロとアラーニャが ソファーから飛んできた
「驚いたけどよ。なんつうか こう、しっくりきたっていうか、納得してスッキリしたな」
「「モンスターと仲良しな人」と「人を助けるモンスター」だもの。むしろ深い繋がりが無い方が不思議だったもの」
そう言って リオネラさんとは反対側から 僕に抱きつくようにくっついてくれた
そして、それに合わせるようにリオネラさんの片手が 僕の頭をなではじめた
「だからね……泣かなくていいんだよ」
「おいおい、自分が泣きながら言うもんじゃねえだろ…」
「しっ、こういう時くらい空気読みなさいよ…!」
……詰め込み過ぎた気もするけど、そう何回にも分けて消化するものどうかと思い、こんな形になりました
やはり、前回みたいな空気の話のほうが個人的に好きですね…