マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 諸事情により第三者視点です

 独自解釈、ご都合主義、原作改変あります。大会の方式あたりとか…
 あと、名無しのモブさんが出たりします

※誤字・脱字報告をしてくださった方々、本当にありがとうございます!修正させていただきました






※2019年工事内容※
 途中…………


二年目 王国祭『武闘大会・1』

 『模擬戦用 演習場』、おおよそ半径10mほどの円形のフィールドを取り囲むような形で すり鉢状の観客席が設けられているこの施設は、国勤めの騎士が極稀に使用する程度の施設である

 

 

 しかし、この日は違った

 観客席には多くの人が詰めかけていて、あたりは普段の静けさが嘘であるかのように 賑やかであった

 

 そう、今日ここは 今年の『王国祭』の目玉イベント『武闘大会』の会場となっているのだ

 

 

 

 そんな会場の観客席の一角、とある最前列の席……

 

「ううっ……人が多くて ちょっと怖いよぅ…」

 

「フィリーちゃん、大丈夫?」

 

 少し怯えたように 不安そうな顔をするフィリー。そのフィリーの隣に座り 顔を心配そうに覗き込むリオネラは、フィリーの手をとり 優しく握った

 

「……ありがとね、リオネラちゃん。その…もう少し握ってもらってていい?」

 

「うんっ。いいよ」

 

 

 

「にしてもよ、人混みが怖いなら、無理して来なくてもよかったんじゃねぇか?」

 

 リオネラのそばにたたずんでいる黒猫の人形・ホロホロが、フィリーに向かって言った

 しかし、それに対してフィリーは首を振った

 

「だって、マイス君が出場するんだもん。私だって応援したいし……不安で…し、心配だし…」

 

「つい このあいだは「マイス君が勝つー」なんてこと話してたのに、やっぱり心配なのね」

 

 「あらあら」といった感じに虎猫の人形・アラーニャが言う

 

 

 

 そこへ、ひとりの少女が通りかかった

 

「あら、あんたたちも来てたの。……ということは、マイスは結局出場するのね」

 

「あっ!クーデリアさん、こんにちは。……?あの…ロロナちゃんは 一緒じゃないんですか…?」

 

 リオネラの問いに少女―――クーデリアは「隣、じゃまするわよ」と言いリオネラの隣に座ると、ひとつ ため息をついて答えた

 

「一緒だったわよ、ついさっきまでね。 でも、どっかの誰かさんの姉に連れてかれたのよ」

 

 クーデリアがフィリーにジロリと目を向けながら放った その言葉に「ビクゥ!?」と反応したフィリー。……実のところ、「自分の姉が何かやらかした」ということに反応したわけではなく、ただ単にクーデリアに対して苦手意識があったので 反応してしまっただけなのだが…

 

「そういや、去年もそんなことなかったか?」

「あの受付さんに引っ張られていくロロナを見かけたわね」

 

 ホロホロとアラーニャが思い出したように言うと、クーデリアは軽く頷いた

 

「そうよ。去年も連れていかれて 参加して…で、優勝して『キャベツ娘』に……」

 

「『キャベツ娘』…?」

 

 去年はずっと家にこもっていてお祭りを見ていなかったフィリーが疑問符を浮かべる。が、知っているリオネラは「はははっ……」と少し困ったような笑みをこぼした

 

 

「もしかしたら、ロロナちゃん いい線行くかもしれないよ」

 

「最近は採取地での戦闘も結構様になってきてたし、ありえなくはないんじゃないかしら?」

「まあ、へっぴり腰なのは あんま変わってねぇけどよ」

 

 リオネラとアラーニャ・ホロホロの言葉に、ロロナに会ったことが無く 話でしか知らないフィリーは「へぇー、そうなんだー」と反応をしめし、対してクーデリアは…

 

「勝ち負けじゃなくて、私としては ロロナがケガさえしなきゃなんだっていいわ」

 

 

 そう言った直後、どこからかラッパのような音が鳴り響いた

 

 

 観客席の最前列よりも少しせり出すように設けられた『司会席』で、ひとりの女性が『マイク』と呼ばれる機械を手に 声をあげた

 

『皆さま、大変長らくお待たせしました!』

 

 その女性―――受付嬢・エスティの声は『マイク』の作用により何倍にも響き渡り、会場全体に行き届いた

 

『ただいまより、今年の『王国祭』メインイベント『武闘大会』を開催します!!』

 

 開催の言葉に会場が湧き立ち 歓声があげられた

 

『今大会は、8名によるトーナメントによって行われます!参加者全員粒ぞろいです! なお、ルールは良識の範囲で何でもあり!止めが入ったらおとなしく従うこと!以上っ!!』

 

 とてもアバウトなルール説明を終えたところで、ふたりの参加者が それぞれ東と西方向にある 控室につながるゲートから 中央の円形のフィールドへと入場し、エスティに紹介されると武器を持った腕を挙げるなどして応えた

 

 

『さあっ!第一回戦・第一試合、開始です!!』

 

ッカーン!

 

 開始の合図のゴングが鳴り響いた

 

 

――――――――――――

 

 

 第一試合では 貴族のボディーガードを勤めるスーツの男が勝利した

 

 

 第二試合は 行商人の護衛等を請け負う力自慢の男と、錬金術士・ロロナ こと ロロライナ・フリクセルだった

 

 その勝敗はあっさりとついた

 開始の合図直後、力自慢の男がロロナに近づく前に―――

 

「うーっ!…もうこうなったら……えーいっ!!」

 

 不本意な出場からか涙目になっていたロロナが 気の抜ける掛け声で投げたのは『フラム』、初歩的な爆弾だった

 結果、火傷や大きな傷は負っていないものの、力自慢の男は すすで黒く汚れ、髪の毛がクルクルに爆発しアフロとなって 目を回し、ロロナが勝者となった

 

――――――

 

 そして第三試合は……

 

 

カンカンカーン!

 

『勝ったのは 王国最強の騎士・ステルケンブルク・クラナッハ!対戦相手の攻撃を全ていなした上での強烈な一撃っ!その余裕な表情も相まって 実力の差を見せつけた対戦となりました!!』

 

 試合終了のゴングの後の 勝者を告げるエスティの声と共に、拍手と歓声が盛大に巻き起こる

 

――――――

 

 

『さあ、続いては第四試合!この戦いの勝者が準決勝へと進む最後の人物となります! …では、紹介しましょう!東のゲートから出てくるのは…オレの剣捌きに見惚れるな!グリフォンだって倒してやるぜ―――』

 

 名前を呼ばれて出てきた 鼻の高い男は、細身の剣を抜いて素早く数回振るった後、剣先を天へと向けた。太陽の光を反射する銀色の鉄の刀身は鋭い輝きを放っていた

 

 

『続きまして!』

 

 鼻の高い男への歓声が一通り収まったところで、エスティが 次の参加者の紹介へと移る

 

『花や野菜の栽培、薬の調合もお任せ!知る人ぞ知る職人! 農業少年・マイスっ!!』

 

 西のゲートから出てきたのは、アーランドの街の人たちとは様式が異なった服を身に纏った少年―――マイスだった

 盛り上がっている観客たちは、参加者が知っている人でも知らない人でも歓声を上げるものなのだが……マイスの登場の際に上がった歓声は、次第にざわめきへと変わっていった

 

『…?どうかしたのかし……はぁ!?ちょ、ちょっとストップ!ストッープ!!』

 

 最初はざわめきを不思議そうにしていたエスティだったが、ざわめきの原因に気がついて 司会席から身を乗り出すようにしながら一旦進行を止めた

 

 

 ざわめきの原因はマイスが両手に持つ武器だった

 それはエスティの記憶にある マイスが持っていた一対の短剣ではなかった。ソレは、太陽に照らされ 銀色に輝きながらも鋭さなどまるで感じられず、柄から伸びている部分は剣にしては細く薄く、その先端は尖ってなどおらず 半球に近い形に加工された薄い鉄板が取り付けられていた

 

 そう、マイスが両手に一本ずつ持っていた物は―――料理で使われる『おたま』だった

 

 

 そんなものを持って出てきたら、それは誰だって驚き困惑するだろう。現に、マイスの対戦相手はもちろん、大勢の観客たちも「これはどういうことだろう」と疑問符を浮かべている

 そして、彼女たちも……

 

「おいおい、マイスのやつ大丈夫かよ」

「これはフィリーの不安が的中しちゃったかしら…」

 

「えぅっ!?わ、わわ 私のせい!?」

 

「そんなことないよっ……うーん、マイスくん、どうしちゃったのかな…?」

 

 なお、ひとりだけ反応が違ったのがクーデリア

 

「『フライパン』で戦うやつもいるんだから『おたま』も……いや、アリ・ナシの前に、細くて頼りないかしら…」

 

 『フライパン』でモンスターを叩きのめす とあるコックと何度も探索を共にした彼女の感覚は、すでに周りとは少しズレてしまっていた

 

 

 

 ここで困ったのは司会進行をしているエスティ。てっきりいつも持っていた短剣を持って来ているんだとばかり思っていて、参加の受付をした際も あまりマイスの心配をしていなかったのだが……一気に心配になってしまった

 

『ちょっと ちょっと!?色々と大丈夫なの!?』

 

 そう言うエスティに対し、マイスの反応はというと――――――『おたま』を持ったまま両手を上に上げ ひじを曲げる……つまり 腕を使って「(まる)」を示したのだ

 

『マイス君…本当にそれでやる気なのね……』

 

 エスティの言葉は もう司会者としての言葉ではなく、普段の調子の言葉でのものだった

 なお マイスはといえば、小首をかしげていたが のちに大きく頷いて肯定した

 

 

『あーもうっ、どーにでもなっちゃえ!それじゃあこれで試合開始するわよ!両者、かまえて!!』

 

 やけになり気味のエスティがそう言うと、会場が再び湧き立つ。歓声の中には「『おたま』ーっ!がんばれー!!」や「『おたま』に負けんなよー!」などといったものも混ざっていた

 

 マイスは両手の『おたま』を構え、対戦相手の鼻の高い男は 呆れたような笑みをしながらも剣を構えた。身長が頭一つほど違う両者の視線が重なった…

 ゴングを鳴らす用意は整った……

 

 

『それじゃあ、第一回戦・第四試合……』

 

 

 

 

 

『開始っ!!』

 

ッカーン!

パ(パ)ーンッ!!

 

 ゴングが鳴った直後、金属が()()ぶつかる音が ほぼ()()のように聞こえた

 

「えっ」

 

 その声が誰のものだったのかは、誰にもわからなかったが……おそらく、その光景を見た人の誰があげた声でもおかしくなかっただろう。なぜなら、観客たちの視線が集まっている円形のフィールドでは……

 

 開始の合図の時と同じ体勢の 鼻の高い男と、 そのすぐ前まで詰め寄り、男の首に片方の『おたま』を突きつけているマイス。そして―――

 

ガシャ ン!

 

 開始の合図の時には男が両手で持って構えていたはずの剣が、上空から落下してきて 男の数歩後ろのあたりのフィールドの石畳に叩きつけられた

 

 

 背後から聞こえる 自分の剣が落ちてきた音に、男は振り返らなかった。いや、振り返ることもできなかったのだ

 自分の首に突きつけられているのは『おたま』だとはわかっている。だが、刃がついているわけでも、尖ってるわけでもないにも関わらず 動くことが出来なかった。剣を握っていたはずの手は どこも怪我をした様子はないが、鈍い痛みが続いている

 

 男は思った。「オレは剣を打たれたのか、手を打たれたのか」……ギリギリでマイスの動きを目で追えた程度の彼には、それすら理解できなかった

 

 

 

カンカンカーン!

 

 試合終了のゴングが会場の時間を再び動かした

 

『うそっ……あっ!?…そ、そこまでー!勝者は農業少年・マイス!!なんという早業でしょうか!』

 

 勝者が告げられ、マイスは突きつけていた『おたま』を下ろし 一歩下がった。それとほぼ同時に、対戦相手の男が 足から力が抜けたように崩れ落ち 尻餅をついた

 

『ゴングが鳴ると同時に距離を詰め、片方の『おたま』で剣の刀身を思い切り叩いて怯ませ、ほぼ同時に もう片方の『おたま』で下から剣の柄ごと かち上げて剣を空高くへと吹き飛ばす!怯んだその瞬間に武器を弾き飛ばされてしまっては さすがに打つ手は無かったか!?』

 

 

 エスティによる解説を耳にしながらも、『おたま』を腰のベルトにかけて固定したマイスは 尻餅をついたままの対戦相手の男に近づいた

 

「大丈夫ですか?」

 

 差し伸べられた手に 男は一瞬目を見開き驚いたが、フッっと笑みを浮かべるとマイスの手を取った


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