マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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※2019年工事内容※
 途中…………


クーデリア「お人好しなあいつ」

 どうしてこんなことになってしまったんだろう

 

 

 私はロロナとケンカをしてしまった

 きっかけは、私がよかれと思って出していた依頼。アトリエ運営のためには必要不可欠なお金が、ロロナの手に渡って 助けになってくれれば……だけどロロナは「気持ちは嬉しいけど、こんなやり方は良くない」って…

 

 話の引き合いに 私がポケットから出したのは 宝石のように輝く青緑色の石、以前 「調合でたまたま出来たんだぁ」と言ってロロナがプレゼントをしてくれたものだ

 なんで厚意に対して厚意を返してはいけないのか。プレゼントや日ごろの想いを 返してあげてはいけないのか……

 

 そして偶然にも その時、私の手の上にあった青緑色の石が真っ二つに割れてしまった

 

 

 それからのことは あんまり憶えてない。気がつくと 家の自分の部屋にいた

 でも、私の手の中にある 割れてしまった青緑色の石がロロナとのケンカが現実だとものがたっていた……

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 あれから数日たった 今、私はロロナのアトリエの外で 隠れるようにして様子を見ていた

 

「それじゃ、行ってきます。はぁ…」

 

 そう言いながらアトリエから出てきたのはロロナ。こころなしか背中が曲がっていて、足取りも重そうな気がする

 

 声をかけたい気持ちもある。けど、かけたくない気持ちも同じくらいある。……こういう時 どうすればいいのか、どう謝るのがいいのか…全くわからない

 

 

 

「おい、もう入ってきて大丈夫だぞ」

 

 いきなり耳に飛び込んできた声に 私はビクリと驚いてしまう。…正直、逃げ出したくも思ったけど、私は声の主に用があったので おとなしくアトリエに入ることにした

 

 

――――――

***ロロナのアトリエ***

 

 

 アトリエで私を出迎えたのは、いちおうロロナの師匠のアストリッド・ゼクセスだった

 

「……いつから気づいてたのよ?」

 

「昨日の夜から。 ロロナの寝顔を覗きこもうと窓にへばりついていただろう?」

 

「そんなことするわけないでしょ!あんたじゃあるまいし!二、三時間前よ、あたしが来たのは!」

 

「ほぅ、そんな前からいたのか」

 

「うっ…!」

 

 つい 勢いで口から出てしまった言葉に アストリッドがニヤニヤ笑いながらこっちを見てきた

 

「いやはや、あんなにわがままだったくーちゃんがそんなに辛抱強くなったものだ。いったいどんな心境の変化があったのやら」

 

「余計なお世話よ!あと、くーちゃんって言うな!」

 

 ああっもう!こいつはいつもこうなんだ。人を小馬鹿にしたような態度で……いけないいけない、こいつのペースに飲まれたらだめじゃない!ちゃんと目的を思い出すのよ!!

 

 

 

「…今日はあんたに、仕事を頼みにきたの」

 

「ロロナではなく私をご指名か。いったい何をご所望かな?」

 

「これを、直してほしいの。あんたなら直せるでしょ?ね?」

 

「……前にロロナが作った石か」

 

 あたしが差し出した手の上の物を見て アストリッドがそう言った

 そう、あの時割れてしまった石。ロロナからのプレゼントを元通りにしておかないと、あたしは前にはすすめそうにはなかった

 

「見事に真っ二つだな。まるで 誰かさん達の友情を表しているようじゃないか」

 

「あんたねぇ!言っていいことと悪いことが…!!」

 

 あたしが声を荒げるが、アストリッドは両手を前に出し「まあまあ」とあたしを制止する

 

「少し冗談が過ぎたな。だが、怒鳴る元気がある分、うちの馬鹿弟子よりはマシなようだ」

 

「…そんなに元気ないんだ ロロナ…」

 

 さっき、アトリエから出ていったロロナを見た時にも少なからず感じ取れたけど、こいつもこう言っているのだから よっぽど元気なないんだろう…

 

 

 

「でだ、結論から先に言わせてもらうが、これは直せんな」

 

 唐突にアストリッドから告げられたことに、あたしの頭は一瞬真っ白になった 

 

「……は?な、なんでよ!お金ならちゃんと払うわよ?」

 

「銭金の問題ではない。この物質を完全に結合する方法は存在しないんだ。 無理矢理くっつけても、傷やヒビは残ってしまうだろうな」

 

 アストリッド曰く、あの石はロロナの調合で偶然出来たもので、この世に二つと無い物質らしい。前例も無く、誰も知らない物質…だから何もわかっておらず、元通りに直す手段なんてもってのほかだそうだ

 

「な…何よ何よ!いつも私は天才だーなんて威張り散らしてるくせに! 肝心な時で役に立たないで…それじゃ、どうしたら…」

 

「こらこら、泣くんじゃない。そんな顔をされては、くーちゃんが可愛く思えてしまうじゃないか」

 

「泣いてない!あと、くーちゃんて言うな!ぐずっ…」

 

 そう言って突っぱねるけど、自分の目から熱いものがこぼれ出してきていた。口で強がりを必死に吐いても、こぼれ出てくるものは止まりそうになかった

 

 

 

「…もういい、あんたなんかに頼ったあたしが馬鹿だったわ」

 

 アトリエを出ようとドアへと足を向けようとした背中に 声をかけられた

 

「待て待て。直すのは無理だが 全く考えがないわけでもない」

 

「…何よ。早く言いなさいよ。一応聞くだけ聞いてあげるから」

 

 そう言って振り返ると、これまで見せていたニヤニヤした笑みとは別の笑みをうかべたアストリッドがいた…………なんだか似合わないくらい優しい顔だった

 

「いつものクーデリア嬢らしさが戻ってきたな。まあ、なんだ。いささか少女趣味なアイデアで、気恥ずかしくもあるのだが…」

 

 

――――――

 

 

「……つまり、この二つに割れた石を使ったペンダントを 二つ作るのね」

 

「ああ。割れた面を隠すように作れば 見た目に問題は無いだろう。それに、わかれた二つをペアにして二人でそれぞれ身に着けるというのは 良いだろう?」

 

 ペアのペンダント、たしかに、すごく素敵だと思う…。でも、手作りでなんて……

 

 

「ペンダント作りの教えを乞うのであれば、ここの隣の『男の武具屋』のハゲル氏あたりでも良いのだが……」

 

コンコンコンッ

 

 アストリッドが何やら考えている時に、アトリエの玄関がノックされた

 最初はロロナが帰ってきたのかのと驚き慌てたんだけど、よくよく考えると ロロナがノックをするはずはない。となると、思い当たるのは……

 

 あたしが思い当たる前に、アストリッドが声を出した

 

「入れっ!」

 

 

 ガチャリと扉を開いて入ってきたのは……

 

「こんにちは、アストリッドさん。ロロナは出かけてるんですか?…って、あれ?クーデリア?」

 

「あら?マイスじゃない。どうしてここに?」

 

「これ。ロロナにおすそわけのアップルパイを…」

 

 マイスがカゴから『アップルパイ』を取り出したんだけど……それをアストリッドが素早く取り上げた

 

「アストリッドさん!?ちゃんとアストリッドさんとホムちゃんの分もありますから、そんなふうにとらなくても大丈夫ですよ!!」

 

「ならそれも私が預かってやろう。大丈夫だ、しっかりと二人にわたすぞ」

 

 そう言ってマイスのカゴから勝手に漁って『パイ』を取り出したアストリッド。マイスもされるがままだった

 

 

 

「というわけで、クーデリア嬢のことはまかせたぞ!」

 

「「えっ」」

 

 あたしとマイスの声が重なった。そして、お互いの顔を見た後に 二人そろってアストリッドのほうを見た

 

 

「ちょ、どういうことよ!」

 

「マイスにペンダントの作り方を教えてもらうといい。ハゲル氏のところでは買い物に来たロロナとばったり会ってしまうかもしれんだろう?」

 

「それはマイスのところでも同じでしょう?」

 

 ロロナが マイスが育ててるものの中から錬金術に使うものを貰いに行ったりしていることを あたしは知っているのだ

 だけど、アストリッドは首を振って否定してきた

 

「あの家にいるウォルフ、あいつに外に出てもらっておいて ロロナが来たら鳴くなり何なりしてもらえばいいだろう?部屋も複数あるし『離れ』もある、隠れる場所が十分あるじゃないか」

 

「な、なるほど…」

 

 

「じゃあ よろしく頼むぞ、マイス」

 

「えっと、それで結局何もわかってないんだけど……まぁ いっか!」

 

 マイスは一人取り残されていたんだけど、困った顔をしたのは一瞬だけで すぐにいつもの笑顔になった

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

***マイスの家・作業場***

 

 

 

「で、なんでこうなったのよ…」

 

「えっ?どうかした?」

 

 『炉』のそばの台にむかっているあたしの呟きに 首をかしげて心配そうに聞いてくるマイス。けど、今回はそれがやけにあたしをイライラさせた

 

 

「どうかしたも何も! なんであたしは こんな腕輪ばっかり作らされてるのよ!!あたしが作りたいのはペンダントなの!」

 

「それは装飾品作りの基本は その腕輪作りだからだよ。ほら、ドンドン作っていかないと!」

 

「あーもう!やればいいんでしょ!やれば!!」

 

「あっ、そこはもっと繊細に加工しないと見栄えが悪くなるよ!もっと 装飾を入れる時は……」

 

 時折 マイスに指導を受けながらもどんどん『腕輪』を作っていく。そして……

 

 

――――――

 

 

「ふぅー終わったー!やっと素材分 全部作ったわー!!」

 

「それじゃあ次は こっちの素材で『指輪』作りを…」

 

 そう言ってマイスが『鉱石』と『宝石』がゴロゴロ入った木箱を あたしのそばに置いた

 

 

「はぁ!?……もう…休ませて……」

 

「えっと…なら手を洗って いつもの部屋のソファーで休んでて。僕は晩ご飯を作ってくるから」

 

 言われて気がついたけど、窓の外は もう暗くなっていて星が輝きだしていた

 

 

「……もしかして、これ、泊まり込みなの…?」

 

 これから、あたしの長く険しい装飾品作りの修行が続くと思うと、気が滅入ってしまった

 

 

――――――

―翌日―

 

「……おかしい」

 

「えっ?どうかした?」

 

 『炉』のそばの台にむかっているあたしの呟きに 首をかしげて心配そうに聞いてくるマイス。……て、こんな状況が昨日もあった気がする

 

 

「『指輪』を20個くらい半日かけて作り終えて、やっと『ペンダント』作りを教えてもらったら、何の失敗も無く ものの数分で二つ作れてしまってた……絶対おかしいでしょ…」

 

「言ったよね?『腕輪』は装飾品作りの基本って」

 

「それだけで こうもあっさりできるものなのかしら…?」

 

 上手くいって嬉しいはずなのに、なんだかしっくりこない……

 

「あとは、クーデリアが 今 作った『シルバーペンダント』、それをベースに使って石をはめ込んでいく加工をしていけばいいんだよ」

 

「わかったわ。…それじゃ 最後の最後、しっかり締めていくわよ!」

 

 

――――――

 

 

 結局、失敗すること無く完成した 青緑色の石をはめ込んだペンダントは、金属の装飾の部分にちょっとぎこちなさが見えるものの 中々の出来栄えだった

 ただ、二つとも完成した時には また日が沈みはじめていて、今日もあたしはマイスの家の『離れ』に寝泊まりすることとなった

 

 

 そして、今は晩ご飯。今朝採れたであろう野菜が入った『シチュー』と『デニッシュ』が主なメニューだった

 

「ねぇ、マイス」

 

 ソファーに座るあたしの、テーブルを挟んで反対側のイスに座って『シチュー』を食べてるマイスに話しかけてみた。マイスはスプーンを持つ手を止めて「どうかした?」とこたえてきた

 

「ごめんなさい、結局 たいした説明も無しに あたしの『ペンダント』作りを手伝わせちゃって……」

 

「ううん、いいよ。僕も時間に追われてるわけじゃないから余裕はあるし。それに…」

 

 マイスはニッコリと笑いながら言葉を続けてきた

 

「今みたいな感じで ロロナともお話ししてくれるようになれたら、僕としては嬉しいからね。……ロロナは「くーちゃんに謝りたい」って言ってたよ」

 

「……別に、あのこが謝る必要なんてないわよ…」

 

 そうだ、あたしが出した あの依頼を受けたロロナが、周りからどういう目で見られるかなんてことを一度も考えずにいた あたしが悪かった、それが今ではよくわかっているつもりだ

 

 

「きっとロロナも、クーデリアと同じなんだと思う」

 

「えっ…?」

 

「相手が自分のことを考えてくれてる気持ちはわかる、でも、自分にも考えが…想う気持ちがあるってことを伝えたかった。……結果、相手の想いを否定してしまったままケンカ別れしてしまった。だから ちゃんと謝って、またお話ししたいって思ってるんだと思うよ」

 

そう言うとマイスは またスプーンを動かしだし『シチュー』を口に運びだした。つられて私も一口 口にした

 

 

 

―――――――――

 

 作ったペンダントを、ちゃんとロロナにプレゼントできるだろうか。前のように 一緒に話したり、お出かけしたり、ご飯を食べたり……そんな関係に戻れるだろうか

 

 不安もたくさんあるけど、なんだか早くロロナに会いたくなってきていた


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