マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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※2019年工事内容※
 途中…………


マイス「ロロナの集大成」

***ロロナのアトリエ***

 

 街の昼下がり。僕が用意している香茶と『アップルパイ』の匂いが アトリエにうっすらと漂っている中、ロロナが口を開いた

 

「はぁ…大丈夫かな、明日の結果発表…」

 

「マスター、いまさら不安になっても意味がありません。 なぜなら、新しく提出する品を 今から調合しようとしても間に合いませんから」

 

 ロロナの弱音に ホムちゃんがビシッと指摘する……なお もはや当然のことだけど、ホムちゃんの膝の上では なーが丸くなっていて、そのなーをホムちゃんは優しくなでている

 

 

 「でも~…」と未だに不安そうにするロロナの前のテーブルに、()れた香茶と切り分けて小皿に取り分けた『アップルパイ』を置きながら、僕はロロナに問いかけた

 

「まぁ、今回の王国依頼の結果次第で アトリエの存続が決まるんだから、緊張したりするのはわかるんだけど……そんなに難しい依頼だったの?」

 

 一瞬 首を横に振ろうとしたロロナだったけど、その動きをピタリッと止めて 難しい顔をして首をひねってうなりだした

 

「難しいというか……最後の王国依頼、『これまでの錬金術の集大成を納品する』っていうのだったんだけど、これまでと違って漠然としてたから 納品しても「本当にこれでいいのかなぁ?」て一回思ったら 中々頭から離れなくなって……」

 

「ああ…なるほど」

 

 それは もう結果発表まで悶々(もんもん)とするしかないだろう。そもそも 判定の基準がわからないわけだから、それこそ王国側の人しかわからない事だ

 

 

 

「そういえば、ロロナは結局 何を提出したの?」

 

 仮にも僕は『錬金術』を少し(かじ)っているのだ。その僕が 提出した物のことを 客観的にどう思うか考えれば、気休めではあるが 何か言ってあげられるかもしれない

 って、思ったんだけど……

 

「そ、それは…」

 

「…………。」

 

「えっ、何その反応!?いったい何を…」

 

「な~…?」

 

 ロロナは何故か言い辛そうにしてるし、ホムちゃんは そんなロロナのことをジットリと…というか呆れたような残念なものを見るかのような目を向けている。 これには僕もなーも 驚きと戸惑いが隠せない

 

「その…私は最高のものだと思ってたんだけど、後で後悔したし ほむちゃんからの反応が ちょっといまいちで……」

 

「…そうなの?」

 

 僕はホムちゃんに聞いてみたが、ホムちゃんはといえば 何とも困った顔をして 肩をすくめた

 

「ホムが あまり良い反応をしていないというのは事実ですが、それは品質の良し悪しや調合の難易度を考えてではなくて、その……ホムたちには理解が追いつかないというか…」

 

「ええぇ…それって、ちゃんとした『モノ』なんだよね?『勇気』とか『愛』とかみたいな目に見えないものじゃなくて」

 

「はい。いちおうは…」

 

 本当に何なんだ、そのロロナが提出した物っていうのは……

 

 

 

「…それじゃあ 改めて聞くけど、何を提出したの?」

 

「え、えっとね…『(きん)パイ』」

 

 ……ん? (きん)パイ?

 僕は耳を疑った。いや、疑うしかなかった

 

「…もう一回聞くけど―――」

 

「おにいちゃん、聞き直さなくても 今 想像したもので合っています。パイ生地の間に (あふ)れんばかりの金が入っているものです」

 

「うそだぁ…」

 

 ホムちゃんに言われたけど、信じられない……いや、『金』は食べることができなくはない とは聞いたことはあったけど、丸々つっこんだパイだなんて…

 

「見た目は少し成金(なりきん)っぽいですが、味自体はかなりのものです。 ですが、なんというか……」

 

「うん、もう アレだよね。「なんでパイにした」って感じだよ」

 

 僕の言葉に ホムちゃんも「ウンウン」と頷いていた

 ロロナはといえば、少し涙目になっていた

 

「私も 作ってるときは「凄い物作ってる!!」って思ってたんだけど、その、出来上がってから 凄く後悔して…」

 

「なら、何でそれを提出したの?」

 

「えうぅ…それは、こう…見た目から凄そうなもののほうが良い評価がもらえそうな気がして……」

 

 正直なところ、パイにせずに『金』のままで提出したほうが良いような気がするんだけど…

 

 今頃、審査する人は困惑してるんじゃないだろうか

 

 

「食べ物で武器を作ろうとする おにいちゃんも、たいがいだと思いますが」

 

「そうかな?」

 

 疑問に思い 首をかしげてみせたけど、「間違いありません」とホムちゃんに断言されてしまった……

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

***職人通り***

 

 

 

 それは 陽が傾いてきたので『ロロナのアトリエ』から家に帰るときのこと。アトリエを出て 少しのところにある階段を降りきったあたりだった

 

「ほう、奇遇だな」

 

 そう声をかけられたので、ソッチに顔を向けてみた

 

 階段を降りて最初にあるのは、ティファナさんの雑貨屋『ロウとティファの雑貨店』なのだけど、それよりも手前に 井戸と少し開けたスペースがある

 そして、そのスペースに置かれている木箱のひとつに アストリッドさんが腰かけているのが見えた

 

「こんにちは……って、奇遇も何も こんなところでどうしたんですか?」

 

 アトリエは目と鼻の先だ。わざわざ ここでのんびりする必要はないだろう

 

「んー、それは まあ なんとなくだ」

 

「……なんだか らしくない感じですね。いつもなら もっとこう…」

 

「私はいたっていつも通りだが? ほれ、この袋に入っているのは つい先ほどキミの家から頂戴(ちょうだい)してきたものだ」

 

 腰かけている木箱の脇に置いてあった麻袋を示しながら いつものようにニタニタと笑うアストリッドさんを、僕は呆れもしたけど 少し安心もした

 

「アストリッドさんの中でも そういうことをするのが「いつもの自分」なんですね…」

 

「まあな……()ったことを怒りはしないのか」

 

「何をいまさら。第一 本当に持っていかれたくないものには 細工をしてますし…それに何だかんだ言ってアストリッドさんなら 持っていったものを最大限 何かに活かしてくれると思ってますから」

 

「…………根拠も無しに、よく言えたものだ」

 

 

 アストリッドさんは 困ったように「やれやれ」といった様子で首をすくめたが、なんというか やっぱり何か違和感を感じる気がした

 

 だけど、本人は「いつも通りだ」と言っているから、とりあえず ソレは置いといて……次に気になったのは 麻袋の大きさだった

 あの中には 僕の家にあった薬等が入っているはずなんだけど、普段 家から無くなるものの倍近くの量のものが入っているように見えた

 

 僕がそんなことを思いながら見ているのがわかったのか、アストリッドさんが立ち上がり、自分が座っていた木箱の上に麻袋を持ち上げ乗せながら 驚くべきことを口にしてきた

 

「明日にはこの街を出て 旅をするつもりだからな。旅先で(ひま)をしない程度には持ち出させてもらったぞ。―――この事は ロロナには秘密だからな」

 

「ロロナには秘密って…えっ!?」

 

 僕の家からものを持ち出したこと…じゃなくて、街を出ることをロロナに言っちゃダメってことで……そもそも なんで旅に…

 いや、きっとアストリッドさんのことだ、いきなりなようで 色々考えて準備してきた結果なのかもしれない

 

「僕には よくわからないですけど、ロロナには ちゃんと言ったほうが…」

 

「言うとも。出る直前、ロロナが三年間の王国依頼をやり終えたことを確認した後にな。でないと 変に湿っぽくなって()(にく)くなってしまうからな」

 

 どこか寂しそうな… でも 何だか優しい笑みを浮かべながら言うアストリッドさんを見て、僕は アストリッドさんが旅に出る理由なんかは 何だかどうでもいいような気がしていた

 

 

 

 

「そういえば、エスティ嬢から聞いたぞ。キミも旅…というか旅行に出かける、と。それも ()()と」

 

 いつの間にか いつもの調子に戻ったアストリッドさんが、ニヤニヤしながらこちらを見てきた

 

「はい……まぁ 最初は僕一人で行くつもりだったんですけど…」

 

「ああ、聞いてるとも!二人の少女に涙を流させた 修羅場だったらしいじゃないか」

 

 やけにイキイキとしているアストリッドさんの勢いに ちょっと引きながらも僕は説明をつけくわえた

 

 

「修羅場って……何処で知ったのかはわからないですけど、リオネラさんとフィリーさんが、ただの旅行を「アーランドから出ていく」って勘違いして 大泣きだったってだけで、説明をしたら ちゃんとわかってくれましたよ?」

 

 一から全部話すと長くなるけど、突如 僕の家に突入してきた二人が いきなり大泣きしだして、何が何だかわからない状態で泣き付かれて……で、何があったのか聞こうとしたら、逆に「どうしてなの!?」って聞かれて…

 いやまあ、大変ではあったなぁ……

 

「それから リオネラさんが「久しぶりに他の場所で大道芸をしたい」ってことで ついてくることになって、フィリーさんも「引きこもり・人見知り脱却のため」って言って……あれ?どうかしたんですか、アストリッドさん?」

 

 気がつけば、アストリッドさんがコメカミを抑えていたので少し心配になり 問いかけてみたのだが、顔をあげたアストリッドさんは苦笑いを浮かべていて…口元がヒクついていた

 

「あーいやー、エスティ嬢から聞いていた話と食い違いが有ったものだからな。少し驚いてしまったぞー    …まあ、ロロナや私に 実害はきそうにないから別にいいか(ボソッ」

 

 

 ……?なんというか アストリッドさんの言葉が 抑揚が少ない気が…それに、最後に何か言っていたような…?

 まあ、気にするほどのことじゃないだろう…たぶん




 棒読みアストリッドさん


 と、いきなり今回 最終日手前の話に飛んだので 察してくださる方もいらっしゃると思いますが、次回『ロロナのアトリエ』編 ED…というかエピローグです。……なんとも、盛り上がりの無い終わりに…

 「飛ばした部分、どうなってるんだよ」等 あるとは思いますが、色々と考えがあってのことなので ご了承ください


 そのあたりのことを含め、ED後の更新については活動報告に書いておりますので、ご確認していただければ幸いです

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