マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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 《後》は第三者視点で書かれています

 設定としては《前》の話から飛んで、本編『ロロナのアトリエ編』のエピローグ後の時間軸となっています


ホム編《後》

 

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 ロロナが3年間『王国依頼』を達成し終え、マイスが旅行を終えて 他の人たちに農業を教え始めてから、少し経たったころ

 

 

街の人たちから信頼を得たこともあって、依頼が舞い込んでくるようになった『ロロナのアトリエ』。時には依頼が多く集まり過ぎてロロナたちは時間に追われることもあり、誰かに手伝って貰うことも

 

 そんな日々の中であっても、ときどき依頼の数・期限に余裕があり、休暇を取る事が出来る日もあった

 

 これはそんな日のできごと……

 

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***マイスの家***

 

 普段は部屋の中央のあたりに置かれているテーブル。それが今日は玄関のあるほうの壁の窓の方へと寄っていた。ソファーは定位置から移動していないものの、2()()のイスはテーブルと共に窓際に寄っている

 

 そのテーブルの上にあるのは、ティーポット、ティーカップ2()()、そして食べ途中の『パイ』が2つだった

 

 

「む~……」

 

「…もう、さっきからどうしたのよ」

 

 イスに腰かけて窓から見える外…マイスから農業を学びに来た人たちのために新たに(ひら)かれた畑のほうをじーっと見つめ続けているロロナに、対面する位置のイスに座っていたクーデリアが声をかける

 

「せっかく『パイ』を作って遊びに来たのに、マイス君……」

 

「約束も無しに来たら、こうもなる可能性も十分に考えられたことでしょ。あいつだって忙しくなってるんだから。諦めて、こっちはこっちでゆっくり食べましょう」

 

 そう。ロロナはホムと一緒に『パイ』を作り、マイスの家へと出かけたのだ。その際にたまたまアトリエを訪れたクーデリアも一緒に行くこととなったのだが……

 着いてみれば、マイスは農業を教えている人たちに対し、本格的な指導に入りだしたところだった。さらに間の悪い事に、指導を終えた後の軽食のために人数分の『クッキー』をすでに用意しているとのことで、ロロナとしては残念な状況となってしまったのだ

 

 

「あっ、そろそろ作業が終わりそう?」

 

「でも、あいつはこっちに来ないと思うわよ? 性格からして、教え子たちに外で『クッキー』を食べさせておいて、自分だけ『パイ』を食べに家に戻るってことはしそうにないでしょ?」

 

「うー……」

 

 ……なら、帰らないのか?

 何故、わざわざマイスの家でふたりで『パイ』を食べているのか?

 

 それには色々と理由があるのだが……

 その中の一つが、ちょうど作業を終えて『クワ』や『ジョウロ』といった農具を一か所に片付け終えた見習いの人たちが行く、手などを洗うための水場のある井戸近くに待機している、真新しいタオルを人数分用意して待っているホムだった

 

 ロロナたちと一緒に来たホムだったが、忙しそうに指導をしているマイスを見てすぐに「ホムもお手伝いします」と自ら買って出たのだ

 

 

 農作業での汚れを粗方流し終えた見習いの人たちにタオルを渡し終えたホムは、畑と農具の最終確認のために少し遅れて来たマイスに最後のタオルを渡す

 

「あっ!」

 

「っ!? ど、どうしたのよ、いきなり」

 

「マイス君、またほむちゃんに「おにいちゃん」って言われてた。うぅ…やっぱり、ちょっとズルい……」

 

「ずるいって、かなり前からずっとそう呼んでたじゃない。何を今さらいってるのよ」

 

 そう言いながらティーカップを傾けお茶に口をつけるクーデリア。そして、のどを(うるお)した後、再び口を開いた

 

 

「それに、あんたも「おねえちゃん」って呼ばせればいいじゃない」

 

「師匠がほむちゃんに禁止って言ってて、師匠が旅に出てからお願いしても呼んでくれないの……」

 

 実に……実に残念そうにするロロナ

 そんなロロナを見て苦笑いをしてしまうクーデリアだったが、何を思ったのかふと首をひねり、ロロナに問いかけた

 

「でも、それってマイスのことは「おにいちゃん」って呼んでもいいってことなの? アストリッド(あいつ)がこの事を知らないとは思えないんだけど…?」

 

「ああっ、それはー……ちょっと前に色々あったみたいで。師匠がほむちゃんに「何で「おにいちゃん」と呼ぶのか、考えてこい」って言った事があったみたいで……そこで、許可が出たみたいだよ」

 

 「その場にわたしはいなかったんだけど、後からほむちゃんから聞いたの」と付け加えるロロナ

 その時には話が回ってこなかったため知らなかったため、そのことを知らなかったクーデリアはというと、「へぇー」と興味があるのか無いのかわかり辛い返事を返していた

 

 

「ええっとね。ほむちゃんはわたしとかと話した後に、すっごく考えた上で答えたらしいんだけど……その、「呼びたいと思ったから呼んでいる」って師匠に言ったらしいの」

 

「……それ、答えになってるの?」

 

「わ、わからない……けど、師匠からはOKがもらえたってホムちゃんは言ってたよ。……あっ、あと、師匠に「もし、呼んではいけないのであれば、おにいちゃんにグランドマスターのことを「お姉さま」と呼ぶように頼みますので、どうか呼ばせてください」って言ったら「私にそんな趣味は無い!」って返された…とも言ってたよ」

 

「……どこからツッコめばいいのかしらね、それは…?」

 

 眉間にシワを寄せ、おでこのあたりに手を当ててため息をつくクーデリア

 

 

「ま…まぁ、師匠の感性とか基準がよくわからないのは、今に始まったことじゃないし…………」

 

 そう言いながら、ロロナは窓の外を改めて見て……ピタリッとその動きを止めた

 それを見てクーデリアは「今度はどうしたのか…」と、クーデリア自身も外を見た

 

 そこには、手などを洗い終え、畑のそばの草原に腰をおろした見習いの人たち。その人たちに一人分づつに分けた『クッキー』を配っているマイスと……その後ろをついて行き『お茶』を配っているホムの姿

 

 特に驚く光景でも無かったがなんとなくではあるものの、クーデリアはロロナが何を考えているのかを察した

 

 

「……ああして後ろを付いてまわってるのを見ると、仲が良い兄妹にも見えなくはないわよね、あの二人」

 

「わ、わたしとほむちゃんでも、きっとそう見えるよ!?」

 

「あんたとってなると……一緒に調合作業してる印象があって、「仕事仲間」とか「部下と上司」っていう感じが強い気がするわ……」

 

「……うん。ごめんね、わたしも最初のことからそんな気はしてた…………」

 

 

 

――――――――――――

 

***マイスの家・前***

 

 

 ロロナとクーデリアがそんな会話をしている中、『クッキー』と『お茶』をそれぞれ配り終え2人分だけ手元に残ったマイスとホムは、お互いに『クッキー』と『お茶』を1人分受け渡した

 そして、マイスが草原に腰をおろし、そのそばにホムも座った

 

「それじゃあ、僕らも食べよっか」

 

「はい」

 

 そう言ったふたりのそばに……正確には座っているホムの膝の上に、何処からか現れたネコ・なーが飛び乗った

 

 

「……なーも『クッキー(これ)』が欲しいのですか?」

 

「な~」

 

「そうですか。では」

 

 ホムは手元の『クッキー』の一枚をなーが半分に割り、その片割れを手に平に置いて膝の上のなーの顔の前へと差し出した

 跳びついたりすることもなく、なーは行儀よくゆっくりと食べ始める

 

 

「ほむちゃん」

 

「……おにいちゃん? どうか…ハムッ」

 

 名前を呼ばれて、なーから目を離し、顔だけマイスのほうを向いたホムだったが、その口に何かが入れられた

 

「モフ……モフ……んっ。……どういうことでしょう?」

 

「あははっ、なーに食べさせてあげている間はホムちゃんは食べ難そうだなって思って。あと、なーにあげた分、ホムちゃんの『クッキー』が減っちゃったから僕のを分けてあげたくってね」

 

「そう、ですか。……ありがとうごさいます」

 

「どういたしまして」

 

 

 そう言って、マイスは次の一枚を自分の口に運んだ……のだが、ホムの視線が未だにマイス(自分)へ向いていることに気付き、首をかしげた

 

「……?もしかして、顔に『クッキー』のかけらか何かがついちゃってる?」

 

「いえ、そうではなく……ただ、おにいちゃんもホムの事を何か別の呼び方をすればいいのでは?…と思っただけです」

 

「別の呼び方……?」

 

「「妹」、「お前」、もしくはあだ名…………いえ、やっぱりホムのことは「ホムちゃん」のままでいいです」

 

 少し考え込んだホムだったが、自分で言ってみてしっくりこなかったのか、すぐに前言撤回した…………が、

 

 

 

「わかったよ。…………い、(いもうと)ちゃん?」

 

「……ですから、「ホムちゃん」のままでいいと……」

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

「わたしも、師匠みたいに禁止令出してみるべきかな…?」

 

「やめてあげなさいよ。いちおう、あんたが二人のお姉さんなんでしょ?」

 

「うう……でもー」


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