マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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1年目:マイス「冒険の そのまえに」

***マイスの家・作業場***

 

 

 

 日はとっくに沈み、家々の(あか)りも ほとんどが消えてしまっている時間だ

 けれど僕は すべきことがあったため、この作業場で一人 釜をかき混ぜていた

 

 

 今日は色々と驚かされた

 トトリちゃんとジーノくんが家に来たことから始まり、二人が冒険者になったこと、そして ギゼラさんのこと……

 

 

 二人と話をした後、今日はうちに泊まっていくことになったので、今 二人は家にいる。村には宿屋はあるけど、「せっかくだから」と泊まらないか 僕が提案したのだ

 急な提案だったけど、二人とも 夜ゴハンを美味しそうに食べてくれていたし、きっと 満足してくれてると思う…

 

 そんな二人は夢の中。それぞれ二階と『離れ』で寝てもらってる

 

 

 

「トトリちゃんとジーノくんが冒険者に……それに、ギゼラさんか…」

 

 思い出されるのは、最後に会った時の会話

 当時の日記を読み返して日付まで確認した その日のことを……

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

―ある日のこと―

 

 

「ふう…これで当分 マイスの料理は食べられないねぇ」

 

 そう言ったのは、ついさっき 僕が用意した食事を食べ終え ソファーにドカリと腰を下ろしているギゼラさんだった

 

「どうしたんですか?いきなり」

 

「大した事じゃないんだけど、今度の冒険は ちょっと遠くまで行く予定なのさ。しかも、あたしがこれまで闘ってきた奴等よりも強いのと闘えるのさ!」

 

 まるで新しいオモチャを与えられた子供のように笑顔ではしゃぐギゼラさんだったけど、僕はあることを思い出して 少し苦笑いが漏れてしまった

 

「そういえば、2,3回前の冒険前にもそんなこと言ってませんでしたか?で、その次に来た時に「拍子抜けだったー!」って愚痴(ぐち)ってましてよね?」

 

「うっ……あ、あれは ちょっと(うわさ)に踊らされただけだっての!」

 

 少しきまりが悪そうにしたギゼラさん。しかし、その顔もすぐに自信満々といった雰囲気になり 「けど!」と言葉を続けた

 

「今度のは信憑性は抜群さ。なんせ あたしが昔から知ってる相手だからね」

 

「情報元は自分自身ってことですか」

 

「まあ、会ったことは無いんだけどね。だけど 絶対間違いないさ!!」

 

 ギゼラさんがそこまで言うなら きっとそうなのだろう。これは次の時には良い土産話が期待できそうだ

 

 

 

「……ある意味ちょうど良かったんじゃないかい?あたしが前回の冒険終わりに立ち寄った頃から、マイス忙しそうじゃない。最近はずっとこんな感じなのかい?」

 

 窓の外をチラリと見ながら ギゼラさんがそう聞いてきた

 

「それはまあ 忙しいですね。なにせ、慣れないことばかりですから…」

 

「あっはっはっは!人にものを教える立場になってたら、 いつの間にか その集団が村になって、そして 何故か村の代表になったって!あたしも聞いた時には アゴが外れるかと思ったよ!」

 

「僕としては あんまり笑えないというか……王宮の知人から「併合で大変って時に、なに新しい村作っちゃってるのよ!」って散々怒られて…」

 

「まあ 良いことじゃないか。あんたの持ってる技術や知識が こんだけの人数に認められたってことはさ」

 

 ギゼラさんがニカリと軽快に笑いかけてきた

 僕も それに微笑み返し、頷いてみせた

 

「…はい!僕は今、すっごく充実してます!」

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 あの後、家から『アランヤ村』へ出発する際に ギゼラさんが僕の頭を撫でながら「んじゃ、行ってくるわ」って言って、僕が「お気をつけてー!」と返したのが、最後に交わした言葉だろう

 

 

「……それにしても、あのギゼラさんが 何年も連絡無しの行方不明だなんて」

 

 にわかに信じがたいけど、トトリちゃんが嘘を言っているようには思えなかったから きっと事実なんだろう

 

 正直なところ、冒険者が行方不明になるのは 偶にだけどある。……ただ、その大半は未熟な冒険者で 数日後とかに先輩冒険者に救助される

 そんな中、熟練冒険者が行方不明になることは珍しい。少なくとも 僕には覚えが無い

 

 

 ……僕の頭の中には 少しだけ疑問が浮かんでいた。それは、何処へ向かったかわからない点だ

 子供だったトトリちゃんはまだしも、ギゼラさんの旦那さん…グイードさんが ギゼラさんから行先を全く聞いていないはずが無い。…つまり、その行先自体 大変危ないところで、安否の確認のしようがないということなのだろうか?それとも、別に何か理由が…?

 

「でも、それだと トトリちゃんが何も知らないっぽいのは、ちょっとおかしいような…?」

 

 うーん……情報が少なすぎて、わからないことだらけだ

 

 

ポフンッ

 

 

 そう音をたてたのは 無意識の中でもかき混ぜ続けていた釜だった

 

 調合中だったことを すっかり忘れていた。…爆発しなくてよかった……

 

 

久々(ひさびさ)()()()()()()『錬金術』だけど……うん!上手く出来てるね」

 

 釜の中の調合品の品質を確認して、ひとり頷く

 

「…さて、遠出も久々なわけだし、もうちょっと 多めに用意しとくかな」

 

 また 釜の中に材料を入れて、再び『錬金術』による調合を行う

 

 

 準備が全て終わったのは、日が顔を出しはじめた頃だった

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 準備を終えた後、朝一番の畑仕事にとりかかり、それを終えたら朝ゴハンを完成一歩手前までつくっておいてから、村の集会所に立ち寄って 少し遠出をすることを村の人に伝えた

 

 そして、家に戻って 少ししたあたりで 二階からトトリちゃんが、その少し後に『離れ』からジーノくんが起きてきた

 

 寝ぼけ(まなこ)の二人に顔を洗わせたのちに ソファーに座らせ、朝ゴハンを出して食べさせる

 ジーノくんの方は反応が良く、ゴハンの匂いで目をパッチリと覚ましてした。対して トトリちゃんは半分寝たような状態で食べていたため 口周りなどが随分と汚れてしまったりと ちょっと大変だった

 

 

 

 …っと、そんな感じで色々とあったんだけど、その後 僕の方から 話をきり出した

 

「昨日言ってた トトリちゃんが一人前の冒険者になるための活動を手伝うって話、手助けをさせてほしいんだ。もちろん、年中ずっととかは厳しいんだけど、出来る限りは…ね?」

 

 こっちから申し出る形にしておきながら、ちょっと勝手かもしれないけど 僕はそう言った。畑のことは 任せる相手が一応いるからいいけど、長い間 村を()けておくのは 他の住人に迷惑をかけてしまうので、そのあたりには目をつむってほしいのだ

 

 トトリちゃんはといえば、嬉しそうに笑顔で

 

「わぁ!ありがとうございます!」

 

 と、喜んでくれていた

 

 

 

「それで、たしか今日から探索に出かけるんだよね?」

 

「はい。アーランドの街とアランヤ村の間の地図を埋めようと思って。だから、これから 一度『冒険者ギルド』に寄ってから『アランヤ村』まで 馬車じゃなくて徒歩で行こうと思ってるんですけど……その…ついてきてもらえますか?」

 

 申し訳なさそうに言うトトリちゃんに、僕は笑顔で頷く

 

「もちろん、そのつもりだよ!村の人たちには 家を空けることを伝えてあるし、冒険の用意もできてるよ」

 

 

 それを聞いて嬉しそうにするトトリちゃんだったんだけど、その隣にいるジーノくんは ちょっと首をかしげていた

 トトリちゃんもそれに気づいたようで、ジーノくんの顔を覗きこみながら問いかけていた

 

「ジーノくん、どうしたの?」

 

「いやさ、にーちゃん オレよりちっさいけど、ちゃんと戦えるのかって思って」

 

「あっ、確かに…」

 

 ジーノくんの言葉に トトリちゃんが間髪入れずに同意した

 …実際のところ、僕もちょっとだけ不安があったりはする。なんたって、冒険なんて久々だ。特にここ最近は 村や畑のことで大変だったのだから

 

「まあ、ふたりの心配も もっともだよ。実際のところ、ブランクがあるからね。…それでも二人の足を引っ張らないように 頑張らせてもらうよ!」

 

「そっか!なら、にーちゃんに何かあったらオレが助けてやるよ!」

 

「ええっ……ジーノくんが助けるって、それはそれで ちょっと心配かも…」

 

 心配そうにしているトトリちゃんをよそに、ジーノくんは意気揚々としている。…うん!元気なことは良いことだと思う

 

 

「それじゃあ、街の『冒険者ギルド』に行こうか」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

***冒険者ギルド***

 

 

 ほんの2,3時間歩いてアーランドの街に付いた僕たちは、そのまま『冒険者ギルド』へと一直線だった

 

 

 トトリちゃんたちが依頼の受付カウンターで モンスター討伐系依頼を吟味(ぎんみ)している間にクーデリアと、依頼を受け終わってクーデリアに挨拶しに行ったトトリちゃんたちと入れ変わるように フィリーさんと、話しをした

 

 とはいっても、ふたりとは 毎日とまではいかないけど 少なくとも2,3日に一回は会っているので、別段 長話になったしするわけでもないのだけど……僕がフィリーさんと話している時のこと

 

 

―――――――――

 

「…本当に憶えてなかったんだね、トトリちゃんたちのこと」

 

「そ、そんなに残念そうな目で見ないでよぅ!? だって、あの時が初めての遠出だったし、周りが知らない人ばっかりで怖かったんだからー!」

 

 ちょっと言葉に詰まりつつも 慌て気味に言葉を返すフィリーさん。こういった ちょっとした意地悪を言っても、涙目になっているわけでもなく 微笑みまじりに言っているあたり、あの頃と比べて 結構進歩したんじゃないだろうか?

 ……まあ、普段の 冒険者への対応を見ていないから、一概にはいえないんだけどね

 

 と、そんなふうにフィリーさんと話していたら、クーデリアと話し終えたのであろうトトリちゃんたちが いつの間にかそばまで来ていて、不思議そうにこちらを見ているのに気がついた

 

 

 

「あっ、ごめんね トトリちゃん。もう出発するかな?」

 

 僕がそう言うと、トトリちゃんは「いえ、そんな急ぐわけじゃないから、いいんですけど…」と言いながら、やっぱり不思議そうに小首をかしげていた

 

「あの…フィリーさん。ジーノくんなんかに対しても怯えてたのに、なんでマイスさんは大丈夫なんですか?」

 

「えっ、なんでって…それは……」

 

 ああ、やっぱり まだ受付の仕事でも怯えたりしてるんだなーなんて考えながら、僕は二人の会話に耳をかたむける

 

 トトリちゃんの斜め後ろにいるジーノくんと僕を チラチラと何度か見比べるようにしていたフィリーさんだったけど、それを止めてトトリちゃんへと向きなおり 口を開いた

 

「えっと、なんていうか……こう?男の人ーっていう感じじゃなくて、マイス君はマイス君ーって感じだから…?」

 

「…? どういうことですか?」

 

「あー、ううん……自分でもよくわかんないかなぁ?あははは…」

 

 困ったように苦笑いするフィリーさん

 もちろんトトリちゃんは 未だにわからないことに少し頭を悩ませているようだったけど すぐに切り替えたようで、僕に出発することを伝えてきた

 

 

「それじゃあ、行ってきます!」

 

 そう僕は フィリーさんとクーデリアに対して告げ、軽く手を振ってから、トトリちゃんたちと共に『冒険者ギルド』をあとにした

 

 

 

 

============

 

 

 マイスたちが去った後の『冒険者ギルド』にて…

 

 

「あう~…絶対 マイス君に嫌われた…」

 

「えっ?そういうふうには見えなかったけど、何かあったの?」

 

 涙目で泣き(ごと)を言うフィリーを「いつものことだ」と流そうと思っていたクーデリアだったが、フィリーの言葉の内容を聞いて つい聞き返してしまった

 

 

「私、「マイス君は男の人な感じがしないー」みたいなこと言っちゃったんです!!」

 

「はぁ…?」

 

「きっとマイス君「僕、男としての魅力が無いんだ…」って思って、そして私のこと……」

 

「いや、待て。どうしてそうなるのよ」

 

 

 ため息をついて 呆れたように首を振るクーデリア

 

「あいつに男としての魅力があるかどうかは一旦置いといて、そもそも 異性からの目を気にするような奴じゃないでしょ。気にするような奴なら とっくに誰かと くっついてるわよ」

 

「ええっ!?ま、マイス君、もう誰かと…!?」

 

「「なら」って言ったでしょ!たとえ話よ!!馬鹿なこと言ってないで、さっさと仕事に戻りなさい!」

 

「は、はーい…」

 

 依頼の受付カウンターのほうへ戻って、依頼書の束の整理をしはじめるフィリー

 その様子を確認した後「心配して損した…」と小声でもらし、クーデリア自身も 自分の仕事を再開した





 フィリーは 原作ほど腐りませんでしたが妄想癖は強化されたようです。……どっちかというと『メルルのアトリエ』のフィリーに近いイメージになりました


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