名前で呼び合いそうにはないからなぁ…
***冒険者ギルド***
「…ふぅ、これで コッチの案件は終わりっと」
必要なことを記入し終えた用紙をまとめ、その紙束をカウンター下の棚の 所定の位置へと入れる。そして、まだ目を通して無い案件の紙束を 新たに取り出し、処理をしていく
冒険者ギルドの受付嬢も楽なものじゃない。あたしが
それらの仕事を『冒険者ギルド』内にあるカウンターでこなしていくのだが、基本的に立ちっぱなしなのが この仕事のキツさに拍車をかけてしまっている
正直なところ、あたしも『冒険者ギルドの受付嬢』なんて仕事、頼まれたとしても あんまりしたくはない仕事だ……が、ジオ様に「君になら任せられる」なんて言われたのだから 断る理由なんてあるわけがない
…それに、
まあ…
「それにしても…」
また ひとつの案件を処理しをし終えたところで、カウンター上にある書類から意識を離し、少し考え
『
『青の農村』の運営よりも『冒険者ギルド』のほうが舞い込んでくる仕事の量が多いから っていうのもあるだろうけど、それだけじゃなさそうな気がする
この前 マイスが『冒険者ギルド』の手伝いに連れてきた人達だって 初めてのヤツは不慣れさが見て取れたが、それでも以前 街のそこらへんにいるヤツを手伝わせた時よりも2,3倍仕事ができていた
もちろん、マイスも 書類仕事の得意な人を中心に『青の農村』から連れてきてくれたのだとは思うから、『青の農村』の人たち全員が このレベルだとは思っていないけど……
「今度、話す機会があったら聞いてみようかしらね…」
このあいだ 飲みに行った帰りに家まで送ってもらった時、「あんた 村まで帰れるの?」と聞いたら「大丈夫ー」と言って 一瞬で消えたことといい、マイスには聞いてみたいことが色々とあるのだ
まあ、今 ひとりで考えても あまり意味が無いということで、あたしは再び カウンター上の書類へ目をやり、仕事を再開した
――――――――――――
黙々と仕事を処理していたところに、あたしのいるカウンターへと歩み寄ってくる人影が 視界の端のほうに見え、あたしは作業の手を止めてソッチへと目をやる
……書類の山の処理なんかよりも、ある意味 面倒ね…。そう思ってしまった理由は もちろん カウンターへと歩いてきている人物のせいだ
長い黒髪を右サイドにまとめ、上半身を隠すような 装飾が付けられた赤いマントを身に
『ミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラング』。『貴族』出身の新米冒険者で、冒険者登録の際に色々とあって トトリと縁が出来た子ではあるけど、あたしから見れば ただの冒険者だ 。……一言で表すなら「高飛車で礼儀のなっていない子」だけど
あたしとしては、家は違うとはいえ 同じ『貴族』として……というか、社会で仕事をしていく ひとりの人間として最低限の礼儀くらいは身に着けてほしいとは思っているが…
…さて、この子がココに来る理由といえば、間違いなく『冒険者免許』の更新だろう
「ちょっと」
「…何の用かしら」
そう あたしが
「冒険者ポイントは十分にたまっているはずよ。私の免許を更新なさい」
……色々と言いたいことはあるけど、ここで変に時間を食って 他の仕事に遅れが出たら面倒だから、適当にスルーしてしまうことにした
冒険者ギルドの受付嬢として 何人もの『冒険者』と接してきた中で学習したものだ。それに、こいつはあたしが何か言ったところで
必要な手続きをチョチョイと済ませていき、『冒険者免許』のランクアップを完了させる
冒険者ランク3「BRONZE」ねぇ……免許取得からまだ1年
でも、これはこれで心配でもある。
その冒険者の実力…ランクに合った難易度の探索範囲をギルドが教えるのだが、今回ランク3になったことで広がった採取地の中には
「はい、ランクアップしたわよ」
そう言って あたしはランクアップを完了した『冒険者免許』を差し出す。で、こいつはそれを「…どうも」と小さな声で受け取って すぐに踵を返そうとする
「ちょっと待ちなさい」
「何よ!まだ何か用があるの!?」
声を
……あたしも、こいつと長々と話す気はないから、必要最低限で済ませるべく 話す内容を頭の中でまとめ、口に出す
「街から東南東方向…そこに『灼熱の荒野』って呼ばれる採取地があるわ」
「ここね」と地図上を指で
「それが何なのよ」
「ここは名前の通り 年中もの凄く暑い地域なの。ちゃんとした対策をしてないと歩き回ってるだけでブッ倒れるわよ。その上 これまでの採取地にいるモンスターとは比べ物にならない凶悪なモンスターいるわ」
「そんじょそこらのモンスターに 私がおくれを取るとでもいいたいのかしら?……まあ、暑さの情報には感謝するわ」
相変わらずな上から目線のセリフには わざわざ突っかかる気も起きない
だが、「飲み水は多めに確保しとくとして…」なんて独り言を小さな声でもらしてるのを見て 少々心配になる
あたしは実際に行ったことはないのだが、『灼熱の荒野』の暑さは本当に半端ないらしく、冒険者の遭難件数が最も多い場所でもあるのだ。生半可な準備では ダメなのだろう
『錬金術』で作られるものの中には そういった暑さ対策のアイテムもあるそうなのだが……残念ながら 今 街に『錬金術士』はひとりもいない状況だ。「暑さ対策のアイテムが欲しい!」と言ったところで 無い物ねだりだ
「あっ…でもマイスなら暑さ無効化するアイテム 作れるんじゃないかしら」
あたしは思ったことをそのままポロっと口に出してしまっていたようで、高飛車娘も カウンターから離れていこうとしていた足を止め 目を丸くしてコッチを見てきていた
マイスに
この子はマイスのことを知っているだろうか?
この子とトトリに繋がりはあるけど、この前 トトリとマイスが一緒に『アランヤ村』まで冒険してくるって言いに来た時は、トトリの幼馴染の男の子はいたが この子はいなかった。もしかしたら、あの時 マイスに会ってないんじゃないかしら?
この街出身なら 少なくともマイスの名前ぐらいは知っているだろうけど……もし一度も会っていないなら、アイテムを作ってもらいに行くのは 少しハードルが高いかもしれない
「まあ、マイスのほうは 見ず知らずの相手でも気にしないんだろうけど…」なんて思っていたら、目を丸くして固まっていた高飛車娘が 口をパクパクしだし、そして……
「な、ななな!?なんでマイスに手助けしてもらいに行かなきゃなんないのよ!! ふん!私はアイツなんかに また借りを作らなくても 自分の力でちゃんとやっていけるんだから!!」
そう言って『冒険者ギルド』の外へと走り去っていってしまった……
「……ん?どういうこと?」
残されたあたしは、さっき 高飛車娘が言ってたことを思い返して ひとり首をひねった
あたしがトトリにマイスのことを教えて 少し
なのに「
一緒に冒険しに行かなかっただけで、『青の農村』へはトトリと一緒に行って マイスと会っていた…?でも、1回 顔を合わせた程度の付き合いでは「貸し」も「借り」もあったもんじゃない
だとすると……もしかして、もっと前からマイスとは面識があった?
…あっ、そういえば 昔、広場でマイスが『貴族』の子供たちと遊んでいたのに でくわした事があったっけ?もしかして、あの時 遊んでた子の中にあの高飛車娘がいたとか?
記憶している範囲だけではあるけど、それらしき子はいなかったと思う…………それに、遊んでもらうことが「借り」などとは子供は考えたりはしないだろうし…
「……これも ひとりで考えても意味が無さそうね」
カウンター
…今度あいつに聞いてみたいことが増えた。忘れないうちに 聞く機会があればいいんだけど……
またちょっと登場したミミちゃん。マイス君との直接的な絡みは何時になることやら……