マイスのファーム~アーランドの農夫~【公開再開】   作:小実

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1年目:マイス「今日もノンビリ、お仕事 こなしつつ」

***マイスの家の前・畑***

 

 

「ふっ……ってぇーい!!」

 

 ザッザッザッ!

 

 力を溜めて『クワ』を振るうことで、広範囲の土を(たがや)す。一見(いっけん) 粗いようにも見えるこの行動だけど、ちゃんと 十分に耕せているので何の問題も無い

 

 

 今日は たくさん育てていた大根が収穫をむかえ、大根が()わっていた場所に新たな作物を育てることができるようになったから、改めて 畑を耕しているのだ

 力を溜めて一振り、もう一度 力を溜めて一振り……それを数回繰り返し、新たな作物を育てるスペースを全部耕し終えた…ちょうどその時。畑の外から誰かが僕を見てきていることに気がつき、そっちへと目を向けた

 

 

 

「やあ、朝早くから精が出るねぇ」

 

 そこにいたのは、何かが詰め込まれた大きなリュックサックを背負ったモジャモジャ頭の眼鏡の人…マーク・マクブラインさんだった。えっと……「異能の天才 プロフェッサー・マクブライン」と自称(じしょう)したりする人だけど、機械類に関する知識は 実際にすごいひとだ

 

「おはようございます!…えっと、偶然『埋もれた遺跡』で会った時以来ですかね?」

 

「そんな事もあったねぇ。あの時は有難(ありがと)う、おかげで あの遺跡の奥の方まで調べることが出来(でき)たよ。色々と有益(ゆうえき)なモノも見つける事が出来てね……まったく、あんなモノを遺跡に残してるだなんて、ウチの国の『自称:科学者』たちの無能さがよくわかるよ」

 

 ゆっくりとした動作で頭を下げて(れい)をしてきたかと思えば、顔をあげたときには心底嬉しそうな笑顔に、そして 次の瞬間には「ヤレヤレ」と呆れた顔になっていた

 

 そう深い付き合いではないけど、この人は 自分の思ったことや感情を基本的に隠そうとはしないタイプだと僕は考えている。…誰とは言わないけど、少し見習ってほしいものだ

 

「あの時一緒にいたお嬢さん達は元気かい?まあ 今のキミの様子を見れば、何の問題も無かったのだろうっていうのは分かるんだけどね…………っと、いけない いけない、わざわざ世間話をするために来たんじゃなかった」

 

 

 背負ったリュックサックをおろし、そのわきのポケットから何かを取り出そうとしているようだった

 マークさんがリュックサックを(あさ)っている間に、僕は畑の中をそばまで歩み寄った

 

「あったあった!ほら、コレなんだけどね…」

 

 そう言いながら、リュックサックのポケットから取り出した 2枚重ねて三つ折りにされている紙を開いて 僕に見せてきた

 ……これは 何かの機械の設計図だろうか?全体像の他に、細部まで描かれている部分もある。そして 2枚目には 3種類の歯車と外装らしきパーツが描かれていた

 

「実はね、その機械をつくるために色々と細かな部品が必要になるんだ。…で、その2枚目のほうに描いてあるのが その必要な部品なんだけど……()() 今回も頼めるかな?」

 

「うーんと……」

 

 2枚目の紙に描かれている内容の細部にまで 目を通す。よくよく見てみると、部品の図のわきには それぞれのサイズの詳細や必要な個数が書かれていた

 そして、一通り見たところ 特別複雑だったりはしないので、そう難しそうでは無く、とりあえずは うけおっても大丈夫そうだった

 

「はい大丈夫です!作れそうですけど……素材に何か要望はあったりしますか?」

 

「いや、無いよ。まだ試作段階だからね、(こま)かいところは試作を製造してから 実際に運用してみて考えるさ。…あっ、機械の部位によっては それなりの熱を()びることになるから、耐熱性は重視したものにしてほしい」

 

 …ということは、流石に『木』じゃダメってことだね。加工しやすいけど 耐熱性はいまいちだし……。でもまあ、機械っていったら やっぱり金属製なイメージだから当然と言えば当然かも

 

 

 

「それで、いつ頃には出来そうかな?」

 

「ええっと……うん!今日中になんとか作れそうなんで、明日には渡せますよ!」

 

「いや、僕としては 早いのはとても()(がた)いんだけど……けっこうな種類と数を要求してるけど、本当に大丈夫なのかい?」

 

「はい!素材として必要そうな鉱石なんかもコンテナに十分にありますから!」

 

 歯車やパーツの形に加工していくのも『鍛冶』や『装飾』の技術を応用すれば問題無いことは、以前 実際に作ったことがあるので心配はいらない。あとは 僕の気力しだいだから…まあ大丈夫だと思う

 

 …と、僕の言葉を聞いたマークさんは 少し驚いたような反応を示した後、小さなため息をついて肩をすくめていた

 

「へぇ、そうなのか……こういう仕事に関しては 本当に信用できるいい人なんだけどなぁ、どうしてかねぇ…(ボソリ」

 

「……?どうかしましたか?」

 

「いやぁ 何でもないよ、コッチの話だから。 それじゃあ、明日の昼前に また来るから。報酬は……まあ、この前と同じ感じでいいかな?」

 

「はい、かまいませんよ」

 

 僕がそう言うと「じゃあ そういうことでヨロシク」と言いながら軽く手をあげた後、マークさんは村の外…街方向へと続く道を歩きだした

 

 

 

「……さて、頼まれた仕事をこなすためにも、種を()いて 畑仕事を終わらせないと!」

 

 ポーチから 種の入った袋を取り出し、それが何の種なのか確認してから袋を開ける。さて……おおよそ27×27の広さに種を蒔いて、そして『ジョウロ』で水やり…ササッと終わらせてしまおう

 

 

 

 

―――――――――――――――

***マイスの家・作業場***

 

 

 カンッ カンッ カンッ

  コッコッ コッコッ

 

 

 ううん……こういう細かいパーツを全部設計図通りに均一に作っていくのは、やっぱり気力を使うなぁ…。さすがに 午前中だけでは終わりそうにはないか

 

 用意した素材は『グラビ石』という鉱石を主原料にした『シュテルメタル』と呼ばれるインゴット。最上級や上級のインゴットではないものの 耐久性は申し分無い代物だ

 ついでと言ってはなんだけど、「軽量化された」という特性を付与しておいたインゴットなので、見た目のわりに 軽くなっている。……機械には詳しくないけど、それぞれのパーツは軽いに()したことはないと思うからね

 

 

「…っと、これで全体の半分かな?そろそろいい時間だし、お昼ゴハンを用意しよう」

 

 作った歯車を種類ごとにまとめて それぞれ別の麻袋に入れる。これで受け渡しの時に 色々と楽になるだろう

 

 そして、僕は ついてしまった汚れを簡単に落とし、キッチンのある部屋のほうへとむかう…

 

 

 

――――――――――――

***マイスの家***

 

 

 それは、キッチンで昼ゴハンを作っている途中のこと

 ふと部屋から誰かの気配を感じたので、調理の途中だったけど 部屋のほうへと顔を出してみた。すると、さっきまで誰もいなかったはずの部屋に ある人がいた

 

「……あれ?いつの間に 来てたの?」

 

「ついさっきです。お邪魔しています ()()()()()()

 

 そう言ってペコリと頭を下げたのは ホムンクルスのホムちゃん。僕のことを「おにいちゃん」と呼んでくるのは あいかわらずだ

 

「とりあえずソファーにでも座ってて。今 お昼ゴハン作ってるから」

 

「はい、わかりました」

 

 僕はキッチンに戻り、新たに一人前分の食材を用意し、調理を再開した

 

 

―――――――――

 

 

「…ということは、もう なーたちには会ってきたんだね」

 

「はい。この村に来てから まず最初に集会場にいきましたから。なーは立派に看板ネコをしていました」

 

 そう言い終わると同時に、ホムちゃんは ナイフとフォークを使って ひと(くち)(だい)に切った『ホットケーキ』を口へ運び、モグモグしだした

 

 

 ホムちゃんの言う「集会場」というのは この『青の農村』で最も大きな建物のことで、この村の情報なんかは全部そこに集められるようになっている、実質の村の中心だ

 

 前までウチで暮らしていた猫の「なー」は、『青の農村』が正式にできた際に 諸事情で集会場で暮らすようになった。…とは言っても、基本的にはあまり変わらず 自由気ままに過ごしている。村の中をあちこち行ったり来たり、日向ぼっこしたり、モンスターの上で昼寝したり……

 余談だけど、この数年で なーには数匹の子供ができたりもした

 

 

 

 

「ふぅ…ごちそうさまでした」

 

 用意した料理を全部食べ終えたホムちゃんが 息をついて軽く頭を下げた

 

「とてもおいしかったです」

 

「それは良かった!…ん?ちょっと食べカスが付いてるよ」

 

 オシボリで ホムちゃんの左(ほお)に付いていた それを(ぬぐ)ってあげる

 

「あっ、…ありがとうございます」

 

「どういたしまして!……それで、今日はどうしたんだい?」

 

 

ホムちゃんは アストリッドさんに連れられて、どこぞへと行っていたはずだ。今、アストリッドさんとは一緒にいないが、何か用があってここにきたのだろう

 

「実は、グランドマスターにおつかいを頼まれて……これがそのリストです」

 

 そう言って ホムちゃんはポケットから取り出したメモ書きを僕に手渡してきた

 

 

 内容は「ああ、錬金術に使うんだろうなー」と思えるものばかり。そのほとんどが ウチで育ててるものだったり 貯蔵の中にあるものだったので、ホムちゃんにあげることができるだろう

 ただ……

 

「ねぇ、この一番下って……」

 

「はい…。ホムもソレには困り果ててしまっています」

 

 そう、メモ書きの一番下…そこに書かれているのは……「()()()()()()()()()」。これはセンスが問われる…というか、あのアストリッドさんが「面白い」と思うものって何なんだろう…?

 

 

「というか、アストリッドさんって 最近 何してるの?」

 

「グランドマスターはあいかわらずです。思いついたことを試してみたり、一日中寝たり……自由きままで、猫のようでもあります」

 

「……うん、確かに あいかわらずだね」

 

 アストリッドさんらしいといえばらしい。……これは 探し回ったりしなくても、そのうち「ヒマになった」とか言ってヒョッコリ 街に帰ってくるんじゃないだろうか?

 なんというか 探し回ってるロロナが少しかわいそうに思えてきた

 

 

 

「まぁとりあえず メモに書かれてるものを 取り出してくるよ」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 それにしても「面白そうなもの」か……あっそうだ!『アレ』なんかいいんじゃないかな?

 植木鉢(うえきばち)とかじゃなくて、庭とかに植えるように注意書きが必要だけど、きっと『アレ』ならアストリッドさんも驚くだろう……「面白い」と思ってくれるかはわからないけどね…





 『アレ』とは一体何なのか…
 いちおう、これまでにちょっとだけ顔を見せているものなのですが……そんなに重要なものではありません…たぶん

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