※2019年工事内容※
誤字脱字修正、細かい描写の追加、句読点、行間……
✳︎✳︎✳︎王宮受付✳︎✳︎✳︎
「さぁて、何も言わずに昨日一日どこに行ってたのかしら? 元気なのは良いことだけど、いちおう保護してるこっちにも立場っていうのが……」
掃除・草刈りに没頭してしまい夜になって、街に帰り着いたのが丸一日遅くなった僕は、エスティさんからお叱りを受けてる真っ最中。
場所はいつもの王宮受付だけど、状況は普段とはちょっと違う。エスティさんの他にも眉間にシワを寄せたステルクさんとぷんすか怒ってるロロナさん、それと初めて見る眼鏡をかけた女性がロロナさんのすぐそばにいるんだ。
ロロナさんには「どこいってたの! 心配したんだよ!!」と真っ先に怒られている。そもそもここに来たのは、帰ってすぐ街でロロナさんに会い、そのまま腕を引っ張られ連れてこられたからである。
王宮につくと、エスティさん、ステルクさん、そして眼鏡の女性の三人が何やら話していたようだが、僕に気づいたエスティさんがその話を切り上げ……そして今にいたる。
お叱りを受けて、思った以上に心配や迷惑を多々かけてしまったことはわかった。……そろそろ、慣れない正座をしている足がきついんですけど。
「聞いてる?」
「……はい」
「ならいいんだけど……とにかく「外に出るときは必ず依頼を受けろ」とは言わないけど、日数がかかる外出の時は少なくとも私に言いにきなさい」
「わかりま「ヌウゥゥゥワッッ?!」
突如、聞いたことの無い奇声が王宮受付に響いた。
声のしたほうを見ると、片手で首の後ろを抑えるステルクさんがいた。
「ちょっとステルク君! うるさいわよ!!」
「いや?! これは、コイツが…!」
そう言いながらステルクさんが目を向けているのは、眼鏡の女性だった。
当の眼鏡の女性は「はて、なんのことやら?」といった様子、だが微妙にだが笑っているようにも見える。
なお、ロロナさんは「え?! 今の声、ステルクさんが出した!?」と物凄く驚いている。
「まあこれ以上説教に時間が費やさせるのはどうかと思ってな。少しばかり横槍を入れさせてもらった」
「師匠……それなら普通に言えばいいんじゃ……」
「それじゃあ面白く無いだろう?」
「やっぱり……そんな気はしてたけど」
ロロナさんに「師匠」と呼ばれた眼鏡の女性。となると、この眼鏡の女性がロロナさんの「錬金術の師匠」であり「アトリエの先代店主」のアストリッド・ゼクセスなのだろう。
ロロナさん以外からも話を聞いたことはあるが、「半ば強引にアトリエを継がせた」「アトリエ営業許可取り下げの話があがったのはこの人が真面目に仕事をしなかったから」等々、それ以外も大抵人(主にロロナ)を困らせることばかりだった。
とは言っても、人から聞いた話で全て判断するつもりは無い……が、今さっきのことも考えると、おおよそではあるがどういう人なのかわかった気もする。
「本人も反省しているようだし説教はここまでにして、別の話をしようじゃないか」
「別の話?」
「まあ、全く関係が無いわけではないがな」
怪訝そうに聞くエスティさんに対し、アストリッドさんはあくまで飄々とした雰囲気だ。
「いやなに、この行き倒れ君が 何処で何をしていたのかが気になってな。」
「師匠、行き倒れ君じゃなくてマイス君です!? ……でも確かに気になるかも」
「そういえば私が色々言ってただけで聞いてなかったわね」
女性三人の視線が僕に集まる……。ステルクさんは何か言いたげにアストリッドさんを睨み続けていたが、最後には諦めたようにため息をついていた。
まあ、そもそもあの家のことはエスティさんに聞こうと思っていたので、話すことには別に何の問題も無いのだけど。
「街から『近くの森』へつづく街道の途中、わきにそれた先の林に家があって、それを少し調べたりしてたんです。特に荒れてたり壊れていたりしてないのに誰も使ってないのが不思議で……」
「『近くの森』への道の途中に家? そんなところあったかしら?」
「うーん」とエスティさんはうなり考え込む。
見ればロロナさんやステルクさんもおぼえがないようで、二人そろって首をかしげている。
「ほう? おそらく そこは『反骨爺の隠れ家』だろうな。まだちゃんと残っていたとは」
ただひとり、僕の話を聞いた時点で既に何か心当たりがあったような振る舞いをしていたアストリッドさんがそういった。
「はんこつじい…ってなんですか師匠?」
「その名のとおり、機械を利用し豊かな生活をすることに疑問を抱き街を出て一人暮らしをしていた爺さんだ。何年も生活していたらしいが、遠くへ行かずほど近いところで生活していたから、繋がりを断ち切れない中途半端なイメージだったな」
アストリッドさんの言う話を聞いているうちに、エスティさんも思い出したようで、話に入っていった。
「そういえばいたわね。けっこう昔にココの病院で亡くなられたんだったかしら。」
「確か、私が10になるかならないかぐらいだったはず。彼の親族も仕事か何かの関係でよその国へと行ったから、それなりの時間放置されていたはずだが……家としての原型をとどめていたのか?」
「窓ガラスが割れていたりしませんでしたし、戸なんかもしっかりしてて……椅子や机といった家具も全然使えそうでしたよ。ホコリはものすごく積もってましたけど」
「ほう、それはまた運が良いものだな」
たしかに、何年も放置されているのにあの状態ならば凄いことだとは思う。
モンスターには運良く近づかれなかったのかもしれないが、少なくとも雨風といったものにはさらされ続けていたのだから、もっと痛んでいても不思議ではない。
あごに指を当て「フム」と呟いたアストリッドさんは、僕をジッと見ながら驚きの言葉を口にする。
「それで…キミはそこに住みたいと?」
「「「「!?」」」」
僕を含むアストリッドさん以外の4人は驚いた。もちろん僕だけは驚きの意味合いが違う。
「どうして……!?」
「やはりか。ロロナほどではないが、キミは少しばかり考えが顔に出やすいようだな。」
そうなのかな? 本当にそうなのであれば、ふとした時に『ハーフ』であることがすぐにバレてしまうんじゃないだろうか?
そのことを深く考えてしまいそうになるが、その前に周りの人たちが騒がしくなった。
「ダメだ! 詳しい場所までは知らんが 『近くの森』が目と鼻の先なら、いつモンスターに襲われるかわからん!!危険だ!」
「そうだよ!? マイス君みたいなちっちゃくてかわいい子をぱくって食べちゃうようなモンスターもいるかもしれないよ! ううん! きっといるから絶対あぶないよ!!」
「ていうか、そもそもどうして? ……まさか紹介した宿、何か悪いところあった!? よし! 今から店主を問い詰めに…!」
「えぇ!? ちょ、まっっ!」
「とりあえず全員落ち着け」
アストリッドさんは手近にいたロロナさんの耳にフゥッっと息を吹きかけ、おとなしくさせた……いや、あれは驚いて飛びのくリアクションを楽しみたかっただけかもしれない。
「ロロナはともかく、他の二人も思いのほか過保護気味だな。この少年は十分腕が立つと聞いたが、それは知っているのだろう?」
「話に聞きはした。だが、危険がつきまとうことには変わりはない。良いとは思えん」
「そりゃあ心配よ。戦闘が出来るからって、そんないつモンスターが出るかわからないところに居続けたらどうなるか……。マイス君、わざわざ街の外に住みたいだなんて」
ステルクさんとエスティさんの言葉を聞いたアストリッドさんはため息をつき、だんだんと面倒くさそうになりながら言った。
「まず安全性については、過去に住んでいた人間がいたことと数年放置されていても全くと言っていいほど荒れていなかったことから問題無いとわかるだろう。そして、街の外に住みたい理由なんて、この少年の事情をロロナから聞いた話でしか知らない私でも見当がつくぞ?」
「えぇ!?」
みんなアストリッドさんの考え付いた理由が気になるのか、当事者である僕よりもアストリッドさんに注目している。
そのアストリッドさんはといえば、僕をチラリと見てきた。……読心術でも使えたりするのかな? 正直、この人に見られる嫌な汗をかいてしまい落ち着けなくなってしまったのだが。
「ただ単純に、この街の空気というか雰囲気が合わないだけだろう」
「空気……? それはどういうことだ?」
「わからないのか?」と言わんばかりに肩をすくめるアストリッドさんに ステルクさんの目つきがいっそうけわしくなるが、それを軽く受け流して言葉を続ける。
「聞けば、ずいぶんゆとりのある田舎に住んでいたらしいではないか。それも街全体が石で舗装されていることや、そこらへんの建築物に驚くくらいの。そんな奴がこんな建物のひしめく街で心から落ち着けるはずがなかろう? 街はずれの木に囲まれた家に住みたいと思うのはごく自然だ」
「ム……」
「それは……」
「たしかに……」
いや、確かにあんまり落ち着かないのは事実だけど、あの家に住みたい理由は違うんだけど……。
でも本当に理由を知られたら知られたで、『ルーン』のことや『魔法』のことなんかも言わなきゃいけなくなって大変なことになりそうだから、アストリッドさんの言う理由でいくのが妥当なのかもしれない。
――――――――――――
そんなこんなで、所有者がいなくなり長年放置されていたあの家を使うことへの許可をおろしてもらうことができた。当然いくつかの条件がついたが。
それにしても、初対面だったアストリッドさんがあんなにも僕のほうに肩を持つようなことを言ってくれたことには驚いた。あれが無ければもっと時間がかかるか、もしくはあの家には住めなかっただろう。
「どうして、と言いたげだな」
一人暮らしするのに何が必要か話し合っているエスティさんとロロナさん、そしてそれに「実際に行ってみて安全確認をしたい」と言ったステルクさんが加わり、計画を立てているのだが、そこからはずれてきたアストリッドさんがいつの間にか隣に立っていた。
「えっと、また顔に出ていましたか?」
アストリッドさんは「そんなところだ」と答えながら腕を組んで柱にもたれかかった。
「なんとなくだが、キミに貸しを作っておいたほうがいいと思ってな。ふむ、三倍ほどで返してほしいものだな」
「えぇ……。僕に借りを返せるようなことがあるんでしょうか?」
「さあな。まあ期待しておくとするか」
気のせいだろうか、とんでもない人に借りを作ってしまったような気がする…。たぶん気のせいじゃない。
「ふゎぁ……、そろそろ昼寝に帰るとするか。ではな」
そう言って王宮の出口へと歩いていくアストリッドさん。
が、途中でこちらを振り向きながら気だるそうに片手を軽くあげてきた。
「キミがあそこに住みたい本当の理由は……まあ気が向いたときに聞くとしよう」
アストリッドさんには今日会ったばかりだが、僕に十分すぎるほどの苦手意識を植えつけていったのだった。
……この時期にアストリッドさんが王宮受付に居たり、そこにステルクさんもいるという原作では無い状況ですが、話の流れを作るために必要なのでこうなってしまいました。