咎孕みし堕天使への狂歌   作:空箱一揆

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お久しぶりです。
気付けば一年近く放置状態の作品、せめて一年過ぎる前に更新するぞと、無駄なあがきをしております。
作者ですら微妙に内容を忘れかけてる作品ですが、こんな所で終わりたくないので更新します。


008 合流

 ラグーン商会のボス場合

 

 やれやれ、やっと退院できたと思えば、こんな大口案件が待っているとは思わなかった。

 腹を掻っ捌かれ、生死の境を彷徨った挙句、地獄の門から叩きだされてみれば、ロアナプラの四大支配者が直接やって来るとは、運が良いのか、悪いのか分かりゃしねぇ。

 濃い目のコーヒーを入れて振り返ると、黒いスーツと、高そうなサングラスを身に付けた四大勢力の一角は、深くソファーに座りながら軽口を叩いてくる。

 背後には、子飼いの男達が、そしてどこで縁があったのか知らないが、銀髪の道化師が周囲を警戒するように黙って俺達を観察している。

 さらに、その足元には、金髪の餓鬼が何が楽しいのか、周囲を見回しながらちょろちょろと動き回っている。

 

「さっきから、ずっと待ってるんだが、コーヒーの一杯も出ないのか、ダッチ? サービス悪いぞ」

「ほう、知らなかったぜ。ウチが喫茶店だったとは。どうしてウチが魚雷艇を持ってるか知ってるか、張さん知ってるか?」

 

 三合会タイ支部のボスに対してこの口調。

 俺自身も第三者から見れば、かなり図太い神経に見れるだろう。

 最近では自分自身でラグーン商会まで足を運ぶことが少なくなったはずの張さんが、自ら出向いてくるとは、一体どんな劇薬を運んできたのやら。

 例えどんな爆薬を持ちこんだとしても、俺達はそれを指定の場所まで運ぶだけだがな。

 濃い目に入れたコーヒーを街の支配者に指し出して、俺自身も張さんの前に座る。

 コーヒー豆は安物だが、それは豆が引き立てということで勘弁してもらおう。

 

「冷たい言葉だなダッチ。まぁ、それはいいとしてだ。レヴィが居ないっていうのは、あの噂、もしや本当なのか?」

「噂? 張さん何を言ってるのかわからないな。レヴィなら酒の飲みすぎでベッドの上だろうよう。ロックが大至急起こしに行ったんでもうすぐ来るはずだぜ」

「そうか、単なるデマならいいんだ。何せ、この街では、子共の戯言ですら間に受ける阿保がいるくらいだからな」

 

 張さんの物言いになんとなく嫌な予感が感じ取るが、まさか張さんが直接足を運んだ理由が、その噂ではないだろう。

 

「この街の連中で頭のネジが緩んでない連中が何人いるかね。――張さんが、ロットンと一緒に居るのも今回の依頼に関係あるのか?」

「なぁに、ツーハンドが使い物にならないようならと思って連れてきた保険だよ。あんたらとは、妙に縁があるらしいしな」

 

 『使い物にならない』という言葉に、俺は噂の内容をだいたい察することが出来た。先日ロアナプラに現れた戦闘民族とのいざこざだが、その時の結末が、あちこちで一人歩きしているようだ。

 できれば、張さんぐらいのレベルで噂を止めておきたいが、それはまず不可能だろう。

 だがまあ、今回の依頼を無事終えることができれば、噂の方も多少は納まりを見せるだろう。

 

「そうかい。ロットン、登場時のポージングとネーミングセンス以外は、頼りにしてるぜ」

 

 軽く皮肉を言ってみるが、ロットンは無駄に大げさな動作で、サングラスを掛け直し頷くだけであった。

 足元の金髪の餓鬼は、退屈してきたのか、窓の外に上半身を乗り出しながら足をぶらぶらさせている。

 とりあえず商談に入ろうかと話を促そうとした矢先、ドアを乱暴にノックし、ラグーン商会の用心棒と水夫が姿を現した。

 

「やぁ、ツーハンド。思ったより元気そうだな」

「だいぶ私は聞きそびれたかい」

 

 酒を飲みすぎたような表情で、ツーハンドことレヴィが手を上げて軽く会釈する。

 視線は気だるげだが、しっかりと張の旦那を見据えていた。

 これで巷に散らばる好ましくない噂、“ラグーン商会のレヴィは視力を失った”という噂に歯止めがかかればいいのだが。

 この手の噂はトラブルの元になる。

 この街の掟は、法よりも武に依存している。

 その力の根源に不安があるとすれば、足元を攫おうという連中は、掃いて捨てるほどいるだろう。

 今回の依頼は、そういった不安を払拭するためにも必要だ。

 そして、張さんが俺達の目の前に黒塗りの重厚なアタッシュケースを見せつけた。

 どんな厄ネタが入って居るのかと訝し気にそれを見つめていると、張さんは改めてタバコに火をつけて話を続ける。

 

「この町じゃ、ヨランダの婆以外に許してない事、何か知ってるよなダッチ?」

「暴力教会の? と、なると武器か」

「ああ、こいつを差し出したブルガリア人の馬鹿は、ホットシュリンプを露店で売る気軽さで銃を売っていた。俺は最初に警告したんだぜ」

 

 つまりは、銃を売りさばいていたブルガリア人は、特殊な職を持って居た。なかなか使える奴だから、見逃しておいたのだが、奴は張さんの忠告を冗談か何かだと穿違えていたらしい。

 

「そのブルガリア人が、俺の忠告を冗談でないと理解できたのは、金玉をナッツのように割られる段階になってからだ。奴がナッツの代わりに指し出したもの、それが文書だ。そいつには、愉快な仲間達のハイキング予定が書かれていてな、お前達も朝からテレビで何度も見てるはずだ」

「――、テレビって……、アメリカ大使館っ!?」

 

 どうやらロックも何かを察したらしい。

 この街で最もホワイトカラーが似合い、この街に最も似合わない男だが、察しの良さだけは買っている所だ。

 さすがは日本の営業人だな。

 

「この世界には、アンクルサムが消えてほしい奴らが五万といる。 俺はそんな中の一つにこいつを持って行ったんだがな。連中は文書の値段を聞くと、『ケツをローストされる前に失せろ』てな具合でな」

 

 面白そうに話を途中で止めて、煙草をふかす張さんだが、この後の展開は容易く想像がついた。

 

「交渉は決裂して、張さんの事務所はローストされちまったっていう訳か」

「その通りだ。話が早くて助かるよダッチ」

 

 話も何も、それ以外に解釈しようのない展開だったわけだが、今回の依頼の内容はおよそ察することが出来た。

 

「俺は、『じゃあ他を当たるよ』そう言ってやった。その結果、俺の事務所はヨルダン辺りまで吹っ飛び、今に至るッて云う訳だ」

 

 改めて、ケースを意識させられながら、話の続きを待つ。

 

「本題はここからだ、お宅らにはこのケースを運んでもらう。五チームが同時にロアナプラを出発し、それぞれの目的地へ運んでもらう。お宅らの到着地点はバシラン島の地元軍基地だ。リミット二日、それを過ぎるとカンパニーの係官はバシランを去る」

 

 今回の依頼内容が一通り聞き終わり、できることなら関わりたくもない案件だが、この街で生きていくにはどうやっても避けることはできない依頼である。

 もはやできることは、いかに良い条件で契約できるかというだけであった。

 

「リミット二日とか相変わらず無茶な注文だな。手つけは持ってきてるか? 経費は別途計算だ」

「分かってるさ」

 

 俺の問はすでに予想していたようで、張さんは軽くそう答えて見せた。

 全く持って、厄介で面倒な依頼だ。

 たまには命のかからない仕事がしたいものだと思ってしまう。

 契約がなったのならば、後は素早く動くだけ。おそらく上手く逃げ出した張さんを追って、此処にも追手がやって来るだろう。

 できればそいつらが此処に着く前に、動きだしたい所だが、

 

「ロットンッ!? 人間がいっぱい来たッ!!」

 

 楽しそうな餓鬼の声に、ロットン、そしてレヴィが窓から外を覗き込む、

 

「伏せろッ!「RPGッ!?」」

 

 危険を察知した本能は、無意識に身体を床へ、ある者は物陰に滑り込ませる。

 レヴィは、窓から離れるように駆けだし、ロットンは金髪の餓鬼を引きずり倒すようにして床へと伏せる。

 その行為が終るか、終わらないかの境目に、ラグーン商会の事務所は、爆撃と燃え盛る炎に包まれた。

 耳を塞ぎながらも、完全に防ぎきることのできない爆撃音。

 卓上のカップやらは、破片となって降り注ぎ、周囲へは火の粉が瞬く間に広がっていく。

 一通りの災害が通りすぎた後、この場所で重傷者が出なかったことはまさに奇跡であっただろう。

 砕けたテーブルをどかしながら起き上がり悪態をつく。

 

「やれやれもう来たのか」

「情報がダダ漏れだぜ張さん、この話はキャンセルだ」

 

 此処まで、巻き込まれた以上キャンセルなどできないことは百も承知だ。だが、理屈では分かって居たとしても、このような状況になってしまえば、どうしても一言、口に出してしまうものだ。

 それにここで仕事をキャンセルできたとしても、事務所の修理は自腹になってしまう。

 どちらにしても最悪の展開にしかならないものだ。

 

「降りるか? 降りたら事務所の修理は自腹になるぞ。せめて道中そこまで見送ろう」

 

 降りることができないことは分かって居る。ならばもう、どんな災害が来ようとも、最後まで命をチップに、生き残りに賭けるしかない。

 

「ねぇ、ロットン。あれは食べてもいい人間?」

 

 場違いな子共の楽しそうな声が妙に響く。

 状況を理解しているのか、いないのか、この状況に泣き叫ばないだけましだと思い、ロックにケースを持たし自分も愛用のリボルバーを手にする。

 

「おい、餓鬼の相手なんぞしてる余裕なんかねぇぞッ! 非常口はこっちだ、てめぇも手伝えッ!」

 

 どうも餓鬼に対して良い感情を持って居ないのか、レヴィがロットンに突っかかる。

 だが、この状況かで無駄に反発してくれないでいるロットンの様子は、とりあえず、ありがたかった。

 

「さて、お手並み拝見と行くぞ子連れの魔術師」

 

 その言葉に何か言いたそうなロットンであったが、その姿は非常口をけ破ったレヴィに連れられて、銃弾飛び交う戦場の中へと消えていった。

 

「馬鹿、こんな所でそんなものを出すなッ!?」

 

 怒鳴り声が聞こえるということは生きているということだ、それだけの余裕があるのならば何の問題もない。

 

 「よし二人が道を切り開いた行くぞ。それとなダッチ、逃がし屋との合言葉だが――」

 

 銃声がひしめく最中、その言葉を受け取ると同時に俺達も部屋を飛び出る。

 続いてベニーボーイと、ロックが必死に後をついてくる。

 全く、退院したばかりだというのに最悪の気分だ。

 だが最悪の気分というのは、いまだ生きているという証拠だ。生きているなら、死ぬ時まであがくしかないだろう。

 リボルバーから飛び出した弾丸は、兵士の胸を貫く。血で汚れた事務所の修理費を考えながら、俺達は裏口に停めていた車へと急ぎ乗り込んだのだった。

 

 

 

雇われた子連れ魔術師の場合

 

 大海に掻き分けて突き進む小型艇の上で、潮の香りにさらされる我は、羨むべき太陽の光にさらされながら、東へと進む。

 暗黒街の首魁に雇われた我は、奇妙な縁を得て、何度となく敵味方に分かれ相対することになったラグーン商会の面々を護衛することになった。

 まさしく奇妙な縁であった。

 一度目の出会いは偶然に共闘することになり。

 二度目は麗しき女中の身体を守るために敵となり、そして女中の尊厳を守るために味方となった。

 三度目の邂逅、我は彼らを守護する定めを請け負った。

 希少なるこの縁が我らを結びつける。

 この邂逅の先で待ち受ける運命は、我に何を望むのだろう?

 例えそれがどのような道であったとしても、今は旅路の終わりまで、願わくば彼らとの道を別つことが無いことを祈ろう。

 この苦難の先に、我が贖罪を禊ぐ機会が待ち受けているのだろうか?

 いつか来るその結末。それはまだ、天空を舞い踊る白き御使いにさえも知ることはないのだろう。

 ふと隣を見てみれば、幸せそうに菓子が入った鞄を握り占めたルーミアが幸せそうに眠っている。

 そのあどけない眠り顔に、我が心に巣くう闇さえも、消えてしまいそうな幻想を感じてしまう。

 それがどれだけ尊き幻想だとしても、今この一刻だけは心を安らぐ瞬間であろう。

 これから向かうバシラン島では、おそらく我らを待ち構える、敵が卑劣なる罠を張り巡らしていることだろう。

 そして、夕闇に紛れバシラン島への潜入を思いはせていた俺は、

 

「ロットン、これ昼飯だけど」

「ああ感謝する」

 

 食欲を誘う、スープの香りに、思考を中断させられた。

 カップの保存食を受け取った我は、いつの間にか置きあがってこちらを見ていたルーミアと目が合った。

 おもむろにそれを差し出す。

 

「? おお? いただきますっ!」

 

 それは文明の叡智が生みだした保存食であった。 

 人が、紅き原罪の実を食してから、随分と永い刻が過ぎたのだ。

 これを見ると、人が叡智の実を食したことすら必然であったのではないかと思われる。

 そして我もまた、人の身である限り空腹に抗らうことはできない。

 我は新しい食事をロックから貰い、食す。

 

「感謝する」

 

 隣でおいしそうに麺を啜るルーミアの姿は、まるで絵画のように、微笑ましい光景で、ロックも軽く笑みを浮かべ、懐から煙草を取りだし、俺の横に腰を掛けた。

 

「君とはロアナプラに来た頃から顔見知りだったのに、こうやって話すのはあまりなかったな」

「そうだな、だが本来こうして話すどころか、出会うことさえもまた稀有なことだ」

 

 ロックと我とは、本来出会うことすらなかった運命であろう。

 生まれた人種、思想、生き方すら事なる中で、邂逅したこの奇跡に我はまさに奇妙な縁を感じずにはいられなかった。

 

「……、前に似たことを聞いたんだが、どうして君は今も、ルーミアちゃんと一緒にいるんだい?」

 

 第三者から見ると、我とルーミアとの関係は非常に奇妙なものに見えるのだろう。これまでははっきりとそれを聞かれたことはなかったが、改めて我とルーミアの関係を言葉にするのも悪くはないだろう。

 

「俺は、言わば亡霊というべきものであった。空虚な生の中、ただ辿りつかぬ理想の果てを目指し罪を冒した。彷徨うべき先に、理想郷は存在せず。夢の為れの果てに手を伸ばしては、つかめぬ幻想に打ちひしがれる毎日だった……」

 

 そして、言葉を止めると。我が此処に在る意味となったルーミアの存在を目に入れる。

 ルーミアこそが、我が今を生きる証である。

 ルーミアこそが、零れ堕ちた幻想の一端である。

 

「道はずれた暗がりの中、血の海で狂ったように笑う少女に俺は……」

 

 その姿に魅了されていた。

 現世に不釣り合いなほど、幻想に満ちた幻影の天使に、これまでの生すべてがこの場に到ためのものであったのではないかと感じてしまったのだ。

 

「苦しそうで、辛そうで、今にも消えてしまいそうなそんな姿に……」

 

 天界より堕ちたその姿に……、

 

「息をすることすらできずに、気付けば相棒を抜いていた」

 

 “Rumia”と名を受けた愛銃。取りだした鉄の重さと冷たさを感じながら、我はその時に思いを馳せる。

 

「その顔を曇らせることなかれ。それこそが俺がルーミアに捧げた誓いだ。この運命……、いや俺が定めた道だ。薄汚れた裏切者である俺だが、俺が俺である限り、俺は彼女の生を肯定し続ける」

「……」

 

 何故か無言になったロックの方を見ると、ロックはタバコを取り落としながらも、はっきりとこちらの顔を見据えていた。

 

「次は……」

 

 サングラスを掛け直しながら、こちらもロックに話かける。

 

「君がロアナプラで彼女らと居る理由を話してもらえるか?」

「あっ、ああそうだな――」

 

 追ってからの追跡を逃れている最中だというのに、そこには平穏な日常を現す光景があった。

 笑い声と、少女の笑顔と、それは、炎獄の銃使いがロックを探しに来るまで続いた。

 我を氷河と表わすのならば、ラグーンの用心棒であるレヴィは、対極である炎獄と表すことがふさわしい。

 我が罪深き両手と同じく、二丁の殺戮を手にする者。

 その生き様は、荒々しく苛烈。

 多くの罪悪を矮小な人の身に引きつけながら、その身を焦がし続ける様は、天空よりラッパの音色が響く時まで、変わる事はないだろう。

 炎獄の銃使い、レヴィ――。

 

「(炎獄と相対するならば、氷河よりも、零度、いや氷獄か……、)」

 

 しばし、炎獄の銃使いの顔を見つめつつ、考えごとをしていたららしい。

 突如訪れた頬の痛みに意識を戻され、その後の予定について話し合う。

 我らは暗闇に紛れて海を渡る。

 そのときルーミアを置いて行くことを告げられ、どうしようかと考えていたが、ルーミアがあっさりと承諾したことでその話は終わってしまった。

 

 そして、夜は深まる……。

 それすなわち、我らが行動を開始する時刻である。

 そこで我は気付いた、ルーミアの姿は見えないことに……。

 どこかに隠れているのだろうか?

 だがそれを探す時間はなかった。

 後ろ髪を引かつつも我は、ロックに促されて黒塗りのゴムボートに乗り込み、上陸地点を目指す。

 思ったよりも酷い揺れに戸惑いながらも、我らは上陸地点を目指して波間を彷徨うことになった。

 

 

 そして数時間が経過する。

 上陸地点を探して、予定よりも時間を有してしまったが、無事沿岸の港町へとたどり着くことが出来た。

 だがそこは、すでに街と呼ぶには躊躇うべき場所であった。

 

「この町はすでに死んでいる」

 

 街の中を進むが、誰一人生活する気配すは感じられない。

 人がかつて存在したことだけを示す町。

 閑散としたこの場所には、すでに生きる人間は居らず、打ち捨てられた証だけが存在していた。

 

「ああ、この町は二年前から戒厳令が敷かれている。昼夜問わずゲリラ軍と、正規軍が鉛球をぶち込みあってるんだ。そんな街に住みたい者好きなんていやしねぇんだろ」

 

 主義主張の押し付け合いの末、この場所はすでに死街と化している。

 ロアナプラは魔窟であれど、いまだ人の営みがなせる場所であったが、此処にはもはや何もない。

 ただ、無慈悲に忘れられ、消え去るだけの場所であるのだ。

 そんな死者の街中を歩くこと数分。この街に似つかわしくない、文明の音色がまっすぐにこちらに向かってくる。

 それは果たして、敵なのか? それとも味方であるのだろうか?

 我は炎獄の銃使いと並び立ち、それぞれの相棒を両手に待機させる。

 “elegy”、我が敵に悲しみと憐れみの挽歌を奏でたまえ。

 “Rumia”、宵闇の使徒から受け取りし加護を受け、我が前に立ちふさがりし者の罪を計りたまえ。

 近づいてくる鉄の獣が目の前でドリフトするように急停車する。

 炎獄の銃使いは、銃口をまっすぐとそれを操る人物に向けながら、近づいて行く。

 我も“Rumia”も同じように向け、鉄の獣の奏者を計る。

 

「よう、ラグーンの連中だな。数は6人って聞いてたけど?」

 

 敵……、ではないのか?

 どっしりとした体格。恰幅の良い男は、ふてぶてしい笑みをうっすらと浮かべながら、ひょうひょうと問い掛ける。

 この男が味方であるのならば、闇の調停者から授かりし、禁断の暗号を持って居るはず。

 炎獄の銃使に対して、その男は自らの運命を決定させる言葉を口にした。

 そして我は、炎も刻として、凍てつくほどに変わるということを知ることになった。

 

「泰山夫君、祖は我なり。泰山夫君てのは死と厳罰の神の名前だが、現世に置いて、てめぇみたいな間抜けを捌くのは、アタシらの仕事って訳だ。張の旦那はあほでも、間抜けでもねぇ、何処からか情報が洩れてるのを知って、直前に合言葉を変えてたのさ」

「―――」

 

「下がれロックッ!!」

 

 奏者と炎獄が互いに銃声を解き放つ。

 互いの距離が開かれるその瞬間を狙い、我も両手に眠りし魔弾を解き放つ。

 

「二人とも行けッ!」

 

 事態は何時であっても急を有する。

 現れた逃がし屋の正体をいち早く見抜いた炎獄の銃使いが、銃撃戦を開始する。

 そして、この場において、我の役割は決まっている。

 我は汝ら二人を守護する必要がある。

 それこそが、我に与えられた、闇の調停者からの命令である。

 炎獄の銃使いと、追手を遮るように、我が右手は沈黙を続けていた“elegy”を解き放つ。

 当たれば躊躇なき無慈悲を持って、敵を地獄の支配者の元へいざなう、殺戮の魔弾。

 一時的に精密性を捨て、連射性を生みだし、鉄の弾幕となって両者の間を別つ。

 両者は、弾けるように距離を取って動きだす。

 鉄の獣の奏者は、先にこちらを片付けるつもりなのか、鉛の雨従えながら、我を轢き殺さんと向かってくる。

 この先を通すわけにはいかない。

 我には、この命令を守る使命があるのだから。

 爆風に揺れるコートの裏に隠し持った、とっておきを取りだして目の前へ放り投げる。

 

「虚空『フォールン・エンジェル・ヴェッ!??』」

 

 我が言霊をモノともせず、鉄の獣の奏者が無秩序に放った鉛の魔弾は、虚空に投げ出された閃光を秘めた管に触れるとともに、視界を覆う閃光と衝撃を生みだした。

 その光景を背にしながら、サングラスがずれないようしっかりと抑え。 

 そして、身を翻して先に逃げ出した二人の背を追い掛ける

 

「これは、袋のネズミか」

 

 僅かに先を走る二人を遮るように一台の車両が進路をふさいだ。

 炎獄の銃使いは立ちふさがりし敵を撃ち抜くため、名も無き愛銃を敵へと向ける。

 その横で、ロックもまた敵からアタッシュケースを守るようにしっかりと身体で抱え込む。

 

「ちっ!?」

 

 炎獄の銃使いが、非常なる弾丸を放つ――。

 ――、その距離はおよそ彼女が弾を外す距離ではなかった……。

 

「この女ッ!」

 

 肩を撃ち抜かれてなお、敵の戦意は衰えない。

 突如左腕で額を抑え込む彼女は、何故か全ての弾丸を外すように、撃ち尽くした。

 

「レヴィッ!?」

「逃げろロックッ!!」

 

 炎獄の銃使いの異常な状態に、何か感づいたのか、ロックが彼女の名を叫んだ。

 その瞬間、我もまた、二人の背に追い付くことができたのだが、両者の距離が近すぎて魔弾を放つことができない。

 そんな二人に対して、アタッシュケースを奪いに掛かる敵と、様子の可笑しい炎獄の銃使いに敵は容赦のない追撃を放つ。

 向けられた銃口を遮るため、ロックが無意識にアタッシュケースを盾にする。

 敵の追撃を逃れる事には成功したが、当たりどこが悪かったのか、

 ケースの鍵がはじけ飛ぶ。

 それは、そのままロックの手を離れて地面へ転がる。 

 

「あっ!?」

「何ッ!?」

 

 それはあっけないほどに簡単にその中身をさらした。

 空虚な中身を……、何も入って居ない。

 一瞬あっけにとられたロックだが、空のケースを盾にしながら、すぐさま状況を把握しこちらへ逃げだす。

 その行動に、我もロックを援護するように右手の愛銃“Rumia”を放とつ。

 だが、

 

「レヴィッ!!」

 

 何故か動きの鈍った炎獄の銃使いは、敵の銃身を叩きつけられていた。

 動きの鈍った炎獄の銃使いは、そのまま敵の車両の中へと引き釣りこまれる。

 彼女を救いだそうと手を伸ばすロックだが、炎獄の銃使いの身体はピクリとも動かない。

 

「ロックッ!! 離れろッ!」

 

 我は再び左手の“elegy”の制約を取り外し、とどまることない魔弾の雨を見舞う。

 背を低く駆けよるロックの背を超して、それは敵へと着弾するが。

 鉄の扉に阻まれて、しとめるには至らなかった。

 

「畜生ッ!」

「一度引こう」

 

 我が使命の失敗に心を痛めるが、此処で撃たれれば、この汚名を雪ぐことすらできなくなる。

 相棒を囚われたロックにも言えるが、この場で敵に無常な突撃を行ったとしてもなにもならない。

 近くの建物へ駆けよる。

 砂煙をあげて、周囲から鉛の雨を降らせる敵を掻い潜るには、なるべく追手が入ってこれない狭い道を進むしかない。

 ロックに先導させながら、鉄の獣が入ってこれない道を選び走り抜ける。

 

「黒翼『デス・ザ・フライ』ッ!」

 

 背後からせまる鉄の獣に対して、腰につるしていた閃光の円菅を二つ同時に投げ放つ!

 それは、地に落ちると同時に内蔵されていた、破壊と衝撃をまき散らす。

 砂塵を巻き上げ、近づいていた鉄の獣を吹き飛ばす。

 しかし、それもただ一体を仕留めたに過ぎない。

 それは群れを成しながら、こちらを捕縛する為に距離を詰めてくる。

 狭きわき道が、背後からせまるの危機を僅かに手間取らせてくれる。

 

「あっ!?」

 

 すでに脇道を抜けようとしていたロックが叫び声を上げる。

 出口を塞がれた。

 一瞬でそれを把握した我は目の前に現れた鉄の獣の奏者と、指先に刃を掴んだアジア系の女性に“elegy”、“Rumia”を向ける。

 

「兄ちゃん達、頭下げるよ」

「「あっ!?」」

 

 その言葉を理解できたのか否か、ロックは頭を抱えてしゃがみ込む。

 同時に我は、地面に浮き上がっていたパイプに足を取られてそのまま大地を転がるように二転した。

 頭上を鋭い風切音が通過する。

 投擲された刃は、我らを狙っていた敵の額を一突きに絶命させる。

 

「もしかして、護衛のッ!?」

「死にたくないなら、はよ、乗るとよろしい。でなければ置いてくですだよ」

 

 地面を転がった反動のまま起きあがると、腰まで伸びた長い髪の女性に言われるがままに、俺達は速度を落とした車へと乗り込んだ。

 少なくともこれで機動力で負けることはなくなったが、あの炎獄の銃使いは無事だろうか?

 

「Mr.張からは5人と餓鬼一人だって聞いたが、残りはどうした?」

「ああ、予定が変わって3人になった。もう一人は、敵に捕まった、助けないと」

 

 ハンドルを握る金髪の欧米系の男に対して、断固たる決意を持ってロックが告げるが、金髪の男、そして髪の長い女性は嘲笑を持ってそれを却下する。

 

「お話にならない。仕事はお宅らを基地に運び、金をもらうだけ、他は拒否よ」

「尻なら自分で拭きやがれ。このまま米軍基地に向かうぜ」

 

 我はその答えに対して、結果を覆す言葉を持たない。

 少なくとも、彼女が囚われたのは我が力のなさが故である。

 その言葉にロックは、言葉を詰まらせて空になったケースに視線を落とす。

 しばし無言が支配する中、ロックはおもむろに煙草を取りだして深呼吸するように煙を吸い込んで吐き出し、

 

「書類がない。書類を持って居るのは彼女だ」

 

 はっきりと確信を込めた声色でロックはそう言った。

 

 




此処まで読んでいただいてありがとうございます。
原作の流れを汲みつつ、異なった結果を示すって以外に難しいですね。
今回ルーミアの活躍がほぼ無かった分、次回はルーミア無双で行きたいと構想練っています。
もしよろしければ感想などいただければ幸いです。
次回もよろしく御願いします。
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