ゼロの使い魔~逝ッテイーヨされた天才科学者~   作:ゴルドドライブ様

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※お読みになっている作品は『ゼロの使い魔~逝ッテイーヨされた天才科学者~』で間違いありません。作者の頭も正常です。



時系列等各種の矛盾を修正しました。


Sのこころ/侵略される世界

 バリバリと音を立てて剥がされる屋根。フーケ捜索隊の一行は天井があった場所を見上げる。そこにはすっかり風通しのよくなった小屋を覗き込む、土製ゴーレムの肩に乗った全身ローブの人物。振り上げられるゴーレムの拳、そして口の端を吊り上げたローブ姿の怪人。それを認識したとき、誰かが叫んだ。「逃げろ!」と。

 

 一行は慌てて小屋から逃げ出す。桃髪の少女――ルイズだけは『破壊の杖』を収めたケースをその手に持ち、僅かに遅れて。

 

 直後、破砕音。ゴーレムがその拳を振り下ろしたのだ、つい先程まで彼女たちがいた小屋に。

 

 

 土埃で衣服を汚しながらも、ゴーレムから一定の距離を取った彼女たちは、今こそ反撃のチャンスとばかりに呪文を唱える。

 

「――錬金!――錬金!――錬金!」

 

 ルイズが唱えた錬金呪文は彼女の予想通りに失敗、ゴーレムの胸部で爆発を起こし、その体の一部を抉り取る。

 

「――フレイム・ボール!」

 

 キュルケの呪文で生み出された巨大な火球はゴーレムの片脚を燃やし、その体積を減らす。

 

 残るもう一人のメイジ、タバサは未だ呪文を唱えていた。一節唱える度に体内から溢れ出る魔力を制御し、自身の望む形に収束してゆく。

 

 まず微風が起こり、ゴーレムを中心とした円を描く。ゴーレムは損傷を無視し歩む。次いで急速に冷やされた水蒸気が氷の結晶となり、魔法の風に煽られて宙を舞う。それは決して自然現象で起こりえない、実に幻想的な風景。徐々に強まる風。ゴーレムの間合いまであと数歩。しかしまだ魔法は完成していない。

 

 ゴーレムが迫る中、タバサは最後の一小節を謳い上げた。

 

「ラグーズ・ウォータル・デル・ウィンデ。……アイス・ストーム」

 

 爆発的に強まる風が竜巻となりゴーレムの姿を覆い隠す。風と共に巻き上げられる氷の結晶が光り輝き、外から見る者を圧倒する。これこそがトライアングルスペル『アイス・ストーム』。竜巻を発生させ、内部を真空の刃と氷の粒でズタズタに引き裂く魔法である。

 

 竜巻でゴーレムが見えなくなってから一〇秒、二〇秒と経つ……。そろそろ頃合いかと、タバサが魔法を解く。竜巻が晴れるとそこには全身を削られ一回り小さくなったゴーレムと、ローブを引き裂かれながらもゴーレムの肩に立つ人物。

 

「うそ……」

 

 呟いたのはタバサ。ルイズやキュルケ、才人の三人はゴーレムがまだ立っていることに驚いていたが、タバサは違う。無表情の仮面を僅かに崩し、驚愕の表情を浮かべていた。それは、肩の上の人物に傷ついた様子が見受けられなかったから。

 

 尚も事態は悪化する。ゴーレムが徐々に巨大化、再生を始めていたのだ。接地している脚部から土を取り込み自らの肉体とする。土は金属とは比べ物にならないほどに脆い。どれだけ押し固めても限界がある。しかし金属と違い土はそこらじゅうに存在する。フーケはそこに目を付けた。「脆くとも、材料はそこらじゅうにある」と開き直った。

 

 その結果がこの全高三〇メートルを超えるゴーレムと、それに備わった自動再生機能。もっとも再生には本人の魔力が僅かながらに必要なのだがそれは置いておく。

 

 閑話休題。

 

 その後何度も攻撃を繰り返すも、即座に修復されてしまう。遠距離攻撃の「武器を投げる」以外に持たない才人は迂闊に攻撃することもできず逃げるほかない。対するゴーレムは拳を振り下ろし、彼女たちをペチャンコにせんとする。

 

 一方的な展開が数分続き、そして業を煮やしたか、ルイズはケースから『破壊の杖』を取り出しゴーレムに向き直る。

 

「何をする気だ!?」

 

「ヴァリエール!?」

 

 才人とキュルケの制止する声を余所に、彼女はその手に抱えた『破壊の杖』を振った。

 

「え?うそ、なんで何も起きないのよ!?…………あ」

 

 しかし何も起こらない。何度も振るが結果は同じ。ルイズの表情が段々絶望に染まってゆく。そしてズンズンと歩くゴーレムの間合いに入ってしまう。キュルケとタバサはゴーレムの注意を引き付けようと魔法を放つもまるで相手にされていない。

 

 ついにその巨腕が振り上げられ、ルイズ目掛けて振り下ろされる。目前にまで迫る拳を見つめるルイズ、その表情は虚無。彼女はこんな時に浮かべる表情を知らなかった。悲しめばいいのか怒ればいいのか分からない。今まで散々魔法が使えないと馬鹿にされてきた時は怒りも悲しみも抑え込んで、誤魔化したような笑みを浮かべることが出来た。だけど今はどうだ。目に見える「死」を目前に何をする。そうだ、今までと同じように自分も騙して笑おう。にっこりと、ルイズは全てを諦めたような引き攣った笑みを浮かべると目を閉じ、その時を待つ。

 

 しかし突如浮遊感、次いで風を感じたルイズは恐る恐る目を開ける。

 

 目の前には大地へと叩きつけられた巨大な腕とその持ち主であるゴーレム。

 

 ゴーレムから遠ざかっていることに気付いたルイズは、自分がいま誰かに担がれていることを理解する。

 

 その誰か――右肩にルイズを担いだ才人ははゴーレムには目もくれずに距離を取ろうとひたすらに走る。

 

「ったく、なんであんな無茶を」

 

「……………………よ」

 

 心配と呆れを乗せた声で才人がかけた声に、ルイズが小さく呟いた。才人は聞こえなかったのか聞き返す。

 

「わたしは……!魔法を使えないし、サイトみたいに強くもない!でも、わたしは貴族なのよ。『ゼロのルイズ』と嘲笑混じりに言われてもひたすらに耐えてきたの。なんでか分かる?それはヴァリエール公爵家の三女っていう誇り()があったから。エレオノール姉さまやちい姉さま、お父様にお母様はわたしなんかとは比べ物にならないくらい優秀なの。だからわたしは誰よりも貴族らしくあろうとしたわ。そう、『家』に相応しい貴族にならなくちゃいけないの!だから離して。フーケはわたしが捕まえなきゃいけないの。他の誰でもないこのわたしが!!」

 

 堰を切ったように話すルイズ。本人も知らず知らずに涙を流しながら感情を爆発させる。今まで誰にも話したことのない本音を盛大にぶちまけた。

 

「ルイズ……」

 

「どうせアンタだって内心じゃわたしのことを見下してるんでしょ。分かってるわよ、やろうとしていることが無謀だってことくらい。けどね……誇りは守らなくちゃいけないの。なにがあっても!例え私が死んだとしても!」

 

「ふざけんな!死んだら……、死んだらそれで終わりじゃないか!!」

 

 後ろを振り向きゴーレムと十分に離れていると判断すると立ち止まり、ルイズを地面に投げ降ろす。

 

 顔を俯かせたルイズであったが、パァン!という音と一緒に走る頬の痛みに顔を上げ才人を見上げる。見上げた彼の顔は、痛みでも堪えるかのように苦しげに歪んでいた。

 

「一人で抱え込まないでくれ。俺は君の使い魔だ。だからまずは……あの土塊を潰してくる」

 

 一転、優しげな表情を浮かべる才人。小さく頷いたルイズから差し出されたのは大きな武器。

 

 持ち手と引き金がある巨大な銃を思わせる造形、しかし違うのはサイズだけではない。上部に取り付けられた橙色の刃に左側面の円盤、その横にある何かを嵌め込むような窪みのある武器――『破壊の杖』を受け取ると才人の頭に名前や使い方が流れ込んでくる。

 

「これ『火縄大橙DJ銃』って言うのか。……使用にはロックシードのエネルギーが必要。…………ロックシードってなんだ?」

 

 少しばかり考え込む才人だったが、「今は『火縄大橙DJ銃』が使えない」ということ結論に達すると、ルイズに再び『破壊の杖』改め『火縄大橙DJ銃』を渡し、キュルケから貰った剣を抜きゴーレムへと駆ける。

 

「おらぁっ!」

 

 脚に狙いをつけ、剣を薙ぐ。剣は僅かにめり込み、そして……根元からポッキリ折れた。

 

「また折れたァ!?……ってヤバッ!!」

 

 柄だけになった剣を持ったまま横っ飛び。直前までいた場所に拳が突き刺さっていた。

 

 冷や汗をかきながら、柄だけの剣を投げ捨てると今度はデルフリンガーを抜く。相も変わらず錆びだらけだが、投げナイフを使うことを考えると数倍はマシだ。

 

『やっと俺の出番か、相棒』

 

「待たせて悪かった……な、っと!」

 

 言いながら切りつけるも、まるで効いていない。その傷も土が盛り上がり即座に修復される。

 

「あぁもう……蛮野さん!」

 

『分かっている、変身だね』

 

「いくぜ!変――――」

 

 デルフリンガーを左手だけで持ち、右手でバンノドライバー(蛮野)の右上部にあるイグニッションキーを捻ろうとした時、彼の目の前に奇妙なものが落ちてきた。変身を中断してそれを拾い、まじまじと見つめる。

 

 見た目はドングリの絵が描かれた錠前。刻まれた文字は『L.S.-03』。解錠されたそれが今、才人の手の中にあった。

 

 見るからに才人は隙だらけなのだがゴーレムいや、ゴーレムの肩の上の人物は自身が投げ捨てた『怪物の種』がどのような効果を発揮するのかつぶさに観察していた。

 

「そうか、これが『怪物の種』。いや……ロックシード」

 

 才人の背後でファスナーを開閉させた時のような音。振り返ると空間の裂け目、中から覗くのは見覚えのある(・・・・・・)植物が生い茂る世界。空間の裂け目から這い出してくるのは、灰色の体色でずんぐりむっくりとした体型の怪物。

 

 それらを目にした才人は手の中のものを取り落とし、その場にへたり込んだ。心臓は早鐘を打ち、短く浅い呼吸を繰り返す。明らかな恐慌状態に才人は陥っていた。

 

「……うそだ……なんで…………」

 

 うわ言のように繰り返し、立ち上がれないのかへたり込んだまま後ずさる。

 

 この怪物の総称はインベス。その中でもこの個体は取り分け数が多く個体ごとの命名はされていない。その目的は「『森』の『種』を運ぶ」ただそれだけであり、一度『種』が発芽してしまえばネズミ算以上の速度で繁殖する『植物』が在来種を駆逐、『森』と同質の存在にしていくのだ。

 

 才人に迫る怪物――インベスの頭部がパックリ裂け、鋭い歯がびっしりと生え揃った巨大な口が姿を現す。

 

「ひぃっ!?……来るな…………来るなぁ…………おれが…………だからゆるし……う、ぅおぇぇえええ」

 

 インベスに対し異常なまでに怯え、瞳孔が開いた瞳から涙を流し、食べたものを戻しながら許しを請う。

 

 これは彼だけではなく、多くの人が抱える心の病。人的被害だけでも、数えるのが馬鹿らしくなるほどの数が行方不明(・・・・)になった世界規模の侵略行為。

 

 それは約一年半前に遡る……。

 

 

 

 

 

 二〇一四年三月一七日。日本、茨城県風都市。

 

 風都。街にはランドマークである巨大建造物の風車『風都タワー』があり街のシンボルとなっており、街のあちこちにも風車があり電力供給もこの風車から行なっているエコロジー都市、エコの街である。

 今月の十四日に風花第一中学を卒業し暇を持て余している当時十五歳の少年――平賀才人。バレンタインのお返しをするのを忘れたため、明日は幼馴染の少女の買い物に付き合う約束をしているのだ。ぶらぶらと「よさげな店」を探し街を歩く。これを世間一般ではデートというのだろうが、生憎彼は気づいていない。

 治安は決して良いとは言えないが、才人はこの街が好きだと自信を持って言える。約四年前、『風都史上最悪の犯罪者』によって破壊された街のシンボルである『風都タワー』も再建はとうに終わっており、街の住人達も日常を謳歌していた。

 そんな時だ、日常の崩壊を告げる声が聞こえたのは。

 電波をジャックでもされたのか、街中から中性的な声が流れ始める。街頭のテレビジョンに映し出されたのは赤い目をした緑の怪物。

「全世界の人間達に告ぐ。私は、フェムシンムの将・レデュエ。お前たち猿どもの新しいご主人様だ。もっと早くに挨拶しようと思ってたけど地球にある全ての言語を理解するのに手間取ってね。統一言語を使いなよ。せっかくの情報処理能力も宝の持ち腐れ。

 我々はヘルヘイムの植物を自在に操る力がある。これから世界中のクラックを活性化させて一年以内に地球全域をヘルヘイムに変える。

 抵抗は無駄だ。 降伏してよ。そうすればお前たち人類の未来は保証する。私の玩具としての未来だけどね。ウフフフ……アハハハハハ!」

 その怪物曰く、挨拶。しかしそれは実質的な世界への宣戦布告。

 電波ジャックが終わり緑の怪物が画面上から消えると、緊急ニュースのテロップが流れる。

 なんと発信源である沢芽市を目標にアメリカから戦略ミサイルが大量に発射されたらしいのだ。先日『プロジェクト・アーク』の存在が全世界にリークされたばかりであるため、恐らくはタイミングを見計らっていたのだろう。これらが着弾すれば日本は未曽有の大被害を受けることになる。しかし、待てども待てどもミサイルが着弾したというニュースが流れない。ために街頭モニターの前に集まっていた風都市民たちも「誤報か」と思いながら離れ、日常へと戻っていった。

 先ほどの世界征服宣言にしても、質の悪い冗談としか日本人は思わなかった。一九九九年からほぼ毎年続く異常に、悪い意味で慣れてしまっていたのだ。

 だが一般人たちの反応がそうでも、世界の平和を守るため、各国に散っている仮面の戦士たちも動きを見せる。

 そしてついに運命の日が訪れる。

 

 

 

 二〇一四年三月一八日。

 

 その日は雲一つ無い晴天。これ以上ないほどの良い天気なのだが、街の住人達の心は雨模様。前日に緑の怪物が行なった宣戦布告がやはりどこか心に引っ掛かっているのか少しばかり活気がないように思える。

 

 その時平賀才人とその幼馴染の少女――高凪春奈は、風都市内にあるショッピングモールのアクセサリーショップで買い物をしていた。まだ二人とも学生ゆえにあまり高価なものは買えないが、春奈は才人と二人っきりで買い物というシチュエーションを楽しんでいた。

 ヘアピンなどといった小物を購入し店から出た出た時、それは起こった。

 突如、空に空間の裂け目が現れると、中から溢れ出すのは見たこともない植物に怪物。植物は爆発的な勢いで繁殖すると建物にまでその蔓を伸ばし、怪物は手当たり次第に目に見える動物を襲った。

 滅多なことでは鳴らされない火事警報装置が本来の役目とはまるで違うが鳴らされ、避難を促す放送が流される。

 依然続く放送が不意に途切れた。途切れる直前、ドタンバタンという争うような音と、唸るような声と悲鳴のようなものがが聞こえたことから察したか、人々はパニックに陥った。

 才人は春奈の手を取ると、ショッピングモールから脱出した。

 ショッピングモールを出たはいいものの、どこに向かえばいいのか分からない。街のそこかしこに植物が根を張り、怪物が跋扈していたからだ。それに避難指定施設には人がごった返していることだろう。だから二人は手を繋ぎ、はぐれないように歩く。勿論怪物に見つからないように気を付けてだ。春奈は顔を赤くしていたのだが才人が気付く様子はない。

 励まし合い、丸一日かけてた辿り着いたのは平賀家。両親は巨大企業で働いており滅多に帰らず、兄は兄で遺跡調査のため長期間家を空けることが多い。なのにかかわらず立派な一軒家を建てた両親は当時何を思ったのか才人には窺い知れない。何に使うのかすら不明な地下室まであるが、今日ばかりは放任主義の滅多に帰らない両親に感謝した。こんな世界の終わりみたいな状況でも、誰かが救助に来てくれるのを待つ余裕ができたから。

 

 

 

 二〇一四年三月二一日。

 

 保存食を食べ、何をするでもなく三日が経過した。風都に救助はまだ来ない。

 テレビはつけても碌な情報が入ってこないため即座に見るのをやめた。世界遺産がズタボロにされる様や各国の被害状況なんて二人の気を滅入らせるだけだから。

「才人くん、外に出よう」

「でも今は外に怪物が……」

「だからだよ。隠れてるみんなを探そう。まだわたし達は生きてるんだから」

「わかった。…………春奈は強いな」

 彼女の熱意に負けた才人は了承の意を伝え席を立つ。

「あれ?才人くんどこ行くの」

「ちょっと武器探してくるよ。街に出るんだから自衛手段は確保しとかないと」

 地下室から出て、家の中を探し回る。一時間ほどかけて見つかったのは、兄の部屋の金属バット。そして両親の部屋からは、嫌な思い出しかないUSBメモリに酷似した存在が見つかった。どうするか数分悩んだ結果、それをポケットに忍ばせることにした。

 

 三日ぶりの外は生憎の曇り空、今にも雨が降り出しそうだ。それはまるで今の世界を表しているようで……。

「行こう、怪物に見つかる前に」

「でも才人くん……アレ」

 春奈が指差した方を見ると、植物に覆われた風都タワーがペッキリと折れ、またしても破壊されている様子が嫌でも目に映る。

「また街のシンボルが……」

「でも、行かなきゃ……だよね」

「そうだった」

 保存食を詰め込んだリュックサックを背負い直し、右手に金属バット、左手で春奈の手を握り無人の風都を歩き出す。またしても顔を赤くする春奈に、相も変わらず気付く様子がない才人。

 二人で風都を歩き回るもやはり人の姿は見えず、見えるのは怪物の姿のみ。その怪物も襲うべきものがいないためか、当てもなく歩いているだけのようだ。だけども一度見つかれば襲われるのは目に見えている。だからコソコソと物陰に隠れながら移動する。

 怪物から視認できない場所に隠れると長く息を吐く。

「はぁ……やっぱり外に出てる人はいないみたいだね」

「……どうする?」

「今日はもう帰ろっか」

「わかった」

 小声で会話を続ける二人は取り敢えず今日はここまでだと立ち上がり、平賀家まで足を向けようとしたその時。

『えぇい!俺様に近寄るんじゃねぇ!?』

 男性のものと思われる悲鳴が聞こえた。

「悲鳴!?助けに行こう」

「あっ、春奈」

 才人は引き留めようと手を伸ばすもその手は宙を掴み、春奈は悲鳴の聞こえた方へ走り去っていく。慌てて才人も春奈を追いかけた。

 

 才人が現場に到着したとき、春奈と悲鳴を上げた男性は仲良く怪物に追いかけられていた。

 それを見た才人は慌ててリュックサックを投げ捨て、金属バットを構え大声を上げた。

「こっちだ化け物!!」

 声を聞き才人へと向き直った怪物は、今まで追っていたものを無視し才人へと突進する。

「才人くん!?」

「春奈とそこの人は隠れてて!……うわっ」

 いつの間にか目前にまで迫っていた怪物が振るった爪をすんでのところで躱す。

「おぉぉ、らぁっ!」

 怪物の後ろに回り込んだ才人は金属バットを振り上げ、怪物の頭めがけて……勢いよく振り下ろす!

 甲高い音が響き、金属バットが折れ曲がってしまう。

「は?え?うそぉ」

 才人は信じられないのか、手の中の金属バットと目の前で倒れ伏した怪物を見比べるも、結果が変わるはずもなく……。

「弱っ!!」

 と思わず叫んでしまって無理はないだろう。

「おー……才人くんしゅごい」

「えぇー……逃げてた俺が馬鹿じゃねーか」

 物陰から見守っていた春奈と男性もどんな顔をすればいいのか分からない。リュックサックを再度背負った才人が二人の元に早足でやってくる。

「だいぶ大きな音立てたから早くここから逃げよう」

「そうだね。おじさんはどうするの?」

「おじ……!おにいさん(・・・・・)は、日本のどこかにいる馬鹿に届ける物があるからな」

 おじさん呼びは嫌なのか自分でお兄さんと言い直す男性。

「そっか……またねおじさん(・・・・)

「えぇ……と、お気を付けて。彼女に悪気はないんです」

 才人は男性に頭を下げ春奈の言動をフォローすると、先に歩いて行った彼女を追いかける。

 「ちゅーか、お前らも気を付けるんだぞー」という男性の声を背に受けながら。

 

 才人と春奈、男性が去った数分後。彼らのいた場所を搭乗者のいない赤いバイク(・・・・・・・・・・・・)が走り抜けた。

 

 

 

 夜が深くなる前に平賀家に戻ることが出来た才人と春奈の二人。

 肉体・精神ともに疲れ切っている筈なのだが、春奈は非常に元気だ。対する才人はうつらうつら、非常に眠そうだ。そんな二人はソファに隣同士で座り、今後のことを話していた。

「――ねぇ、才人くん……話聞いてる?」

「えぁ?えっと…………ライダー伝説の話だっけ」

「全然違うよ!次はいつ外に出るの?って話だよ」

 説明せねばならない。ライダー伝説いや、都市伝説「仮面ライダー」とは、町の危機を救う仮面のヒーローのことだ。この風都には複数の仮面ライダーが存在する。一人は「W」のベルトを持つ仮面ライダー、名をダブル。一人は赤を基調としたボディの仮面ライダー、アクセル。彼らは日夜、町を泣かせる悪と戦っているのである。

「うぅん……疲れを抜かなきゃ駄目だし、曲がった金属バットも何とかしないといけないから……三日後?」

「わかった。三日後だね!おやすみ才人くん」

「……んぅ…………おやすみぃ」

 言うが早いか、そのままぱったりと春奈に寄り掛かり眠りに落ちる才人。

「え、ちょっと!?じょ冗談きついよ才人くん。起きてるんでしょ?ねぇ」

 軽く揺するも、規則正しい寝息を立てる才人は起きる気配を微塵も見せない。

「……もう、仕方ないんだから」

 台詞とは裏腹に慈しむような表情を浮かべると、愛おしい彼の寝顔を見ながら彼女もそのまま眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 平賀才人はまだ知らない。自身を待ち受ける過酷な運命を…………。




感想・評価はお気軽にどうぞ。

話が膨らむ膨らむ……。けど元々プロットに含まれている書きたい内容だったから後悔はないです。
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