「なんだ…これ」
仰いだ空の、宝石の煌めきに負けない青さに、喘ぐように言葉を吐き出す。
そのあまりに美しい空を茫洋と眺めていると、次いで鼻腔を抜ける草花の青臭い匂いに気付き、思わず手甲で覆われた自身の手で口元を覆う。
「…手甲?」
なんらおかしいことはない。DMMO-RPGで自身が操るアバターである男性体竜人が身に着けている「蒼天」シリーズの、今仰ぎ見た空色を写し取ったような青い手甲だ。そう、その装備でこの身体を固めたのはほかでもない自分自身だ。なんらおかしいことはない。
そのゲームが、今まさにサービスを終了したゲームでなければ…。
西暦2138年。サイバー技術とナノテクノロジーの粋を集結した脳内ナノコンピューター網…ニューロンナノインターフェイスと専用コンソールとを集結し仮想世界で現実にいるかのごとく遊べる体験型ゲーム機のことを、この時代DMMO-RPGと呼んだ。数多開発されたそんあDMMO-RPGの中に、燦然と輝く1つのタイトルがある。
YGGDRASIL-ユグドラシル-
娯楽に悪い意味で慣れ切った人類を虜にしたそのタイトルは、爆発的にプレイヤー人口を増やし、日本国内においてDMMO-RPGといえば、ユグドラシルを指すものだという評価を得るまでに至った。
ソージの祖父も、そんなユグドラシルのトップギルドのメンバーであった。
いつも誇らしげに面子やギルドの自慢をする祖父に憧れて、ユグドラシル絶頂期と呼ばれる時期にプレイヤー登録を行った。
祖父の参加しているギルドの特徴は、ギルドメンバーが全員「社会人であること」と「異形種」であること。当時は学生であったし、異形種狩り、所謂PK(プレイヤーキラー)が横行していた時期でもあったので、異形種ではあるが、初見でそうとは見破ることのできない種族:竜人を選択し、人間種のような格好でプレイを楽しんでいた。そんな条件ではいくら身内がいるとはいえ祖父のギルドに参加することはできない。残念そうに肩を落とす祖父の誘いをことわり、しかしどこかのギルドに加入して祖父と対立することもできずソロプレイヤーとしてユグドラシルを楽しんでいた。
そのうちそれなりに有名になったが、数の暴力には勝てず、頻繁にPKに出会うようになったため賢い選択と言い聞かせて逃げ足…つまり速度を重点的に弄ったキャラメイクを行った。
おかげで、一撃必殺の紙装甲である。
選択した職業はスピードと物理重視の「サムライ」。
ストレージにいくつもの日本刀や短槍を忍ばせて、今日も元気にぼっちプレイ。泣いてなんかいない。
しかし、それも一昔前の話――――。
YGGDRASIL-ユグドラシル-は、本日0:00をもってサービスを終了する。時代の流れには勝てない。
「残念だなぁ…楽しかったのに。タイミングを逃して、結局一度もじーさんのギルドに足を踏み入れることもなかったし。行ってみたかったなぁ、ユグドラシル史上最凶のDQNギルドの本拠地」
コンソールの横に表示されるタイマーをぼんやりと眺める。
ソロプレイヤーに本拠地などない。
ないので、ぼっちはぼっちらしく、運営によるプレイヤーへの最後の手向けである美しくも儚い打ち上げ花火を見上げながら、最後の時を迎える。
23:59:48
デジタルが残酷に刻まれていく。
「明日からまた…クレーム処理かあ」
現実では、仮想のようにのびのびと野を駆け山を越え海を渡ることなどできない。憂鬱で無慈悲なリアルが待っている。
23:59:59
「おやすみ、さようならソージ」
0:00:00
ゆっくりと視界は暗転し―――。
彼は、この仮想から喪失する。
「ふぇあ」
ソージは自身に起きた奇想天外荒唐無稽な現象を、直前までプレイしていたゲームのアバターのままの姿もあって、最初はゲーム終了の延期を疑い、五感の向上はアップデートだと自身に言い聞かせた。しかし、そんな希望はものの数分で瓦解する。
「ひ、一昔まえに流行った小説じゃあるまいしぃ…」
膝から崩れ落ち、地面に両手をついて頭を垂れる。
掌から伝わるすこし冷たい土の感触。一粒一粒手に取ってみなくてもわかる、仮想では決して再現できない精緻さが、これは現実なのだと真実をソージに突きつける。
「どうするんだよぉ…」
見渡す限りの平野で、ソージは涙ぐんで情けない声を上げた。その声に応えるものはない。
まあ、続いたら最初はずーっと主人公のターンしかないわけですが。おそらくこのあと放浪→帝国入り→冒険者登録→手加減がわからずNOT縛りプレイ→何かの依頼でナザリック調査→「とある突然でてきた墳墓の調査」といわれナザリックと気付かず調査して一階層で警護していたデミさんの親衛隊と交戦→「あれ、こいつ強くね?」→守護者出陣→交戦かーらーの「とある孫」につながりナザリック勢のSAN値チェックにつながります。
じーさんと孫とDONギルドでじじいの正体はわかるかとw