ハイスクールD×D 人間は現代兵器と戦法で勝る 作:BroBro
学園からの帰り道、晴心は私服姿のα小隊と共に市場へと繰り出していた。夕食とその後の食料を買うためである。
親は一日中仕事の為、帰って家にいるのは例外の1名を除いてα、β小隊しかいない。小隊の面々はホムンクルスの様な物なので飯は必要無いが、晴心は食べなければ死んでしまう。
知らない内にクッキングスキルが身に付いた晴心は今日のメニューを考えながら市場を物色していた。
「今日は魚がメインでいいか」
キョロキョロと歩きながら周りを見ていた晴心は1つの店の前で歩を止めた。『魚一番!』と看板に大々的に書かれた店である。
「お、晴心の兄ちゃんじゃねぇか!久方ぶりだねぇ!」
「相変わらず元気だな、大将」
「おうよ!まだまだ若ぇ者には目けねぇぜ!」
店の前で立ち止まっている晴心を見て鉢巻をした70代の男が大きな声で晴心を呼ぶ。それに苦笑いしながらも商品を選んで行く。
「ふむ……コレと、コイツを頼む。袋は分けてくれよ。氷は少し入れてくれればいい」
「あいよ!いやぁー、相変わらずいい買い物するねぇ」
「当たり前だ。鮮度を見極めずして料理は出来ん」
「おぉ、いっちょ前に言うじゃねえか! さて……」
大将と呼ばれた男が晴心の目の前に大量の魚を置き、机に膝を付ける。それに合わせ、晴心もニヤリと微笑みながら近くの椅子を引っ張った。
2人の間でバチバチと火花が散る。その2人の圧力、にα小隊と店の人間は見守る事しか出来なくなった。
「やるかい?」
「当たぼうよ。勝つ気でなきゃわざわざ資金ギリギリで来たりはしない!」
「ふははは!今回は譲らねぇぞ!」
「受けて立つ!最大まで値切らせて貰おう!」
激戦が今始まる。
激しい攻防。晴心がストレートを繰り出せば大将が見事に受け流す。
細かいジャブまでは避けられず直撃を受けるが、それでも晴心は決定打を打てれない。
戦闘開始から10分後。
大将が顔をしかめた。
「だぁー!負けた負けた!持ってけドロボウ!」
「ははははは!今回も俺の勝ちだな大将!有り難く値切り分、5600円安くしてもらうぜ」
「チクキョー!オラァ押しに弱いなぁ」
値切り対決は今回も晴心の勝利で幕を閉じた。今回はなかなかの長期戦、だがそれをするだけの価値(17600円→12000円)が得られた。
悔しさに大声を上げる大将。その声にはどこか楽しさが含まれていた。
次の勝利宣言を最後に残し、晴心は『魚一番!』を後にする。
「凄い戦いでしたね、中佐」
「いつもと変わらんよ。今回は随分とおヤッさんが粘ってきたがな。焦ったぜ」
「俺もそんな激戦を楽しみてぇなぁ。こう、血の滾る激戦を……」
「お前はまず人参と激戦しろ」
「嫌いな物は嫌いなんだよ!」
「哀れな……人参ごときで己が醜態を晒すとは笑止千万---」
「お前ピーマンな」
「あんな爆弾誰が食すか!」
「つーかお前ら食わなくてもいいんじゃないの?家の食費考えた事ある?」
「味覚はあるので飯は食いたいです。それに中佐はアメリカに火器を売ってるんですから資金は大量にあるでしょう?」
「増加料より消費料の方が少なかったら文句は言わないんだよ。全く、自重しろ食料焼却炉共め」
と、この様な会話をしながら晴心達は商店街を歩いた。魚だけではあまりにも寂しいため、八百屋や肉屋等にも寄って食料を貯めていく。
その間も、晴心の名を呼ぶ店の人達の声は止まなかった。
◇
「すっかり陽が落ちちまったなぁ」
商店街を抜けて数キロの場所、そこで俺はボソッと声を漏らした。
α小隊は既にβ小隊と共に周囲の堕天使やはぐれ悪魔の搜索を開始しており、今俺は1人で紅い空の下を歩いている。
両側に民家が並ぶ一本道。何事も無く自らの帰り道を進んで行く。もうすぐ家だ。さっさと帰って飯を作らないと誰かさんが五月蝿くなる。そんな面倒だけは避けなければ……。
だが
「せーいーしーんー!」
「ぐはぁ!」
いきなり俺の背中に黒い物体が電柱の影から突撃してきた。いきなりの事に腹から空気の塊を吐き出す。
「無事そうで良かったにゃん♪結構心配したんだよ?」
「分かったから抱きつくな!離せ!くっつくな!」
肩から回された腕を解こうと体をグルグルと回す。それでも離れない背中の物体。
渾身の力で体を捻り、何とか黒い物体からの拘束を解き、俺はそれに向き直った。
「気配を消して飛びつくなとあれほど言っただろう、黒歌!」
俺の言葉を意にも解さぬ様にニコニコと笑う黒色の着物を着た女、黒歌。腰まで伸びた黒い髪に長く伸びた爪。そして何故か柔肌が晒される着物の着方。一番の特徴とも言える頭に生えた黒い猫耳。この人間の雰囲気とかけ離れている少女は、俺が良く知っている女であり、家のもう1人の同居人だ。
「私の方が歳上なんだからお姉ちゃんって呼んでもいいのにな〜」
「黒歌を助けたのは俺なんだからそんな事を言う訳ないだろ」
「つれないな〜、少し甘えてもいいのよ♪」
「もう勘弁してくれない?」
古い付き合いだが、まだコイツに完全に慣れない。会話を俺のペースに持っていける時もあればこっちが持ってかれる時もある。今回は後者だ。この場合俺から話を折るしか話を収められない。
一先ず何故家から出てこんな所に居るのか聞いてみる。
「あー、それに関係ある話なんだけど、君が頼んだ『橘花』だっけ?あれが出来たみたいだよ」
「おぉ、遂に完成したのか!」
とある奴に頼んだとある物。俺達人間の戦法と勝率を大きく上げる物が完成したらしい。聞けば分かる人間もいるだろうが、これらの紹介は後後説明するとして、今度は何故俺に飛び付くのかと聞いてみた。
「う〜ん…何となく?」
ふざけんなよおい……。そんな理由で薄暗い街中で背中から抱きつかれる何て心身共に身が持たないぞ。
こんな事を考えている時、俺の事をじっと見てきた黒歌がニヤリと笑みを作り出す。やな予感しかしねぇ……。
「あ〜、そう言えば君、お化け嫌いなんだっけ?」
「なッ!!そ、そんな訳無いだろ!こ、この俺がお化けが怖いだなんて……」
「怖いだなんて言ってないけど?」
「え!?いや、えーと……」
まずい……何時知ったのか知らないがあの情報が奴の中で確定されると厄介だ。どうにかし無ければ……。
瞬間
「あああああああああああぁぁぁぁ!!」
俺の肩を誰かが掴む!気配は無い!と言う事は恐らく……!!
「あははははは!やっぱり面白い…ふ、ふふはははははは!!」
黒歌が腹を抱えて笑うと同時に俺の肩から手の感覚が消えた。
しまった。どうやら仙術を使われたらしい。
紹介が遅れたがコイツは勿論人間ではない。妖怪の猫又、いや、コイツの場合は猫魈(ねこしょう)と言う神獣レベルの妖怪である。
コイツと俺の出会いはまた追追説明するとして、コイツは主に仙術と呼ばれる魔法の様な物を攻撃方法として用いる。この仙術と言うのは日本の妖怪しか使う事が出来ないらしく、その妖怪の中でも黒歌は段違いの仙術を使え、更に妖術なるものと合成して攻撃できる……と自称している。
日本人の見解では猫又は化け猫の進化系である。化け猫は猫が10年生きたらなれるらしく、それを更に10年生きたのが猫又に慣れるのだ。黒歌は俺の見解では20そこそこ。猫魈は30まで生きたらなれるらしいのだが、黒歌は猫魈並の仙術があるのだとか。そしてコイツは生まれながらの猫又らしい。その手の妖怪は仙術や妖術が使える。生き物の『気』と言うものを操作する仙術がどれほど凄いのか分からないが、いくら何でもコイツは自分を棚に上げ過ぎな気がするな。
まぁとにかく、コイツには1発御見舞いしておこう。
「に"ゃ!」
額にベシっと掌ではたく。面白い声を上げながら額を抑える黒歌。
「何時までも笑ってないで帰るぞ」
「あっ!女の子を叩いておいて酷い!」
「実年齢を教えてくれたら女の子と認めてやろう」
「絶対イヤ」
「俺の実年齢は教えたのに何故頑なに教えないのさ……」
「女の子にとって年齢は秘匿義務があるの」
「……もう面倒臭いわ」
今まで以上に大きなため息を吐く。コイツに早く慣れなければ……。夕食に出す魚コイツのだけ抜こうかな……?
◇
「ご馳走様でした!」
「お粗末さまでした」
飯を食い終え、皿を片付ける。今日のメニューは簡単な魚料理、黒歌には塩麹で味付けした焼き魚と簡単な野菜を。俺自身にはコロッケと白米、味噌汁と基本的な食事で揃えて見た。なかなかいい出来だった。
「それじゃあ、私はちょっと外に行って来るにゃ」
「あいよ。そんじゃあ俺は先に風呂入ってるからな」
「りょーかいにゃん♪」
終始ニコニコしながらリビングから出ていく。
全く読めない。黒歌の行動の全てが。何故アイツが外に行ったのかも、全て。
何と言っても時刻は8:30だ。α小隊とβ小隊も何事も無く帰還した。今はα小隊は休眠状態、β小隊は待機状態で二階にいる。
「まぁ、なんでもいっか」
どうせ何時ものように明日の朝には帰って来る。しかも無事と言うオマケ付き。気にせずに風呂に入るとしよう。
この時、俺をリビングの外から見ている影に気付かなかった。
少々大きな開き戸をガーッと開ける。暖かい湯気が中から溢れ出し、タオル1枚の体を心地よく湿らせていった。親が良く稼いでくるお陰で結構大きめの風呂に入っている。しかも岩風呂だ。洗いづらいのが一番の欠点だろう。
冷水が出てくる純白のシャワーを数秒飽きるまで出し、観念したかのように出してくる温かいお湯を身体に流す。
嫌でも目に入ってしまう俺自身の身体の傷。胴、腕、足など、身体は全体的にボロボロで、外見では分からないが骨も幾つか人工の物を使っている。風呂で自分を見る度に良くここまで生きて来たなと言う気持ちになる。まだ大戦の時の方が傷が少なかった。
治療額等は大体アメリカに売っている火器等で賄っている。米国は銃刀法違反なんて法は存在しないため、売ろうと思えば簡単に売れる。違法じゃないかって?そのような事あろう筈がございません。
まぁこれだけ身体にアクセサリーが付いているんだ。恐らくこれからも増えるだろうが、これだけ付けられても死んでないという事はまだまだやれると言う事だろう。まだあの神の顔は見たくない。
体を洗い終え、シャワーの水を止める。人それぞれ風呂での洗い順等はあると思うが、俺の場合は身体から頭を洗って顔を洗うと言う順番で洗っている。何故だかは知らない。
と、言うわけで次に洗うのは頭だ。リンス何て面倒臭い。使うのはリンスインシャンプーである。頭洗えるっていいね。
実はシャンプーの泡は個人的にトラウマになっている。目と口に入った時は正直敵に撃たれるよりも地獄を感じた。口を塞いで渾身の力で目をつぶる。言わずもがな、この時の俺は完璧に無防備。泡に意識を奪われ背後の扉なんて気にもしない。
奴はそれを狙っていた。
扉の隙間から、奴の眼光がキラリと光った。
「晴心捕まえたー!」
「ッッ!?!?!?」
背にお湯とは違う暖かさが伝わって来た。突然の事に俺の思考は困惑する。そんなこんなで一番聞き覚えのある声を冷静に分析している暇なんて俺にはある訳が無い。
「えッ!?なに?なに!?何がおきた!?」
最速、俺の頭はパニック状態。首をグルリと回してくる腕に反抗する暇もない。後ろから聞こえる笑い声をBGMに手探りでシャワーを探す。
ガシッと掴む長い物体。間違いない。これがシャワーだ。
「クゥッ……!」
俺が制御しているはずの腕が勝手にお湯を求めた。シャワーのノズルを全開にし、大急ぎで顔だけを洗い流す。
「貴様ぁぁ!!」
「あはははははッ!面白すぎるよ!」
俺の後ろにいたのはご存知の通り、黒歌だった。さっきよりも壮大に爆笑しております。
「外に行ってたんじゃ無かったのかよ!」
「あんなの嘘だよ……ふ、ふははは!」
「嘘!?」
しまった。コイツが結構嘘つく事を忘れてた。まさか大胆不敵にも風呂に入って来るとは普通思わないだろう。
「なんでそんな嘘付くんだよ!一緒に入りたいなら言えばいいだろ!」
「騙すからいいんじゃない♪分かって無いな〜」
「お前の常識外れな趣味なぞ誰が分かるか!それと人に飛びつく前に体を洗え体を!スッポンポンで飛びつくな!」
「はいは〜い」
仕方なしに俺はシャワーの前からどく。コイツが風呂場に足を踏み入れた時点でコイツは確実に出ていかない。全く迷惑な話だ。まぁ慣れたからいいんだけど。
洗顔はまた明日にしよう。畜生、なんで俺がこんな目にあってんだ……妹の白音は大変だったんだろうな。
虚しい気持ちで湯船に浸かる。体が温まり、苛立ちが何処かへと消えていった。だが言いたい事は言わせてもらう。
「お前、そうやって誰かに飛びついてないよな?頼むから変人と思われる奇行は家だけにしてくれよ」
「私は私の好きな時に好きな事をやるの。そっちの方が楽しいしね」
「迷惑千万だな、本当に」
いくら言っても無駄な事は分かってる。だが言わざるを得ない。抱きつかれた人は可哀想で仕方がない。
数分後、全身を洗い終えた黒歌が風呂に入ってきた。ふぅ〜っと妙に艶かしい声が隣から聞こえた。
何故俺の隣に座る。
こんなに広いのに何故だ。
注意、と言うか叱ろうと構える。だが、黒歌が先に口を開いた。
「そう言えばこうやって君と一緒に湯に浸かるのって久し振りなんだよね」
「……何年ぶりだろうな」
最古で10年くらい前、最近では1、2年くらい前か。それくらいの長い付き合いと言う事だ。これだけ一緒に居れば、女の裸なぞ珍しくもなんとも無い。悲しい身体になったものだ。
仙術が使えるようになってからはマッサージとかしてくれる様になったり、何故か風呂の中で仙術の自慢をしたりと様々な事がこの風呂であった。
この風呂も何代目かすら分からない。一体幾つの風呂がコイツの仙術の犠牲になったか……。
「……考えてみればお前と風呂入っていい思い出って少ないな」
ボソッと呟いて見る。
俺の呟きはどうやら聞こえていた様で、黒歌が不気味な笑みで俺を見てきた。
俺の手に手を重ねる。
顔がずいっと近付き、耳元で黒歌が静かに言葉を発した。
「じゃあ……いい思い出、作ってみる?」
「断る」
「即答!?」
当たり前だ。絶対にろくなことが無い。この至近距離まで近づいてきているのがその証拠である。コイツの好きにさせてたまるものか。
今回は俺のターンだ。
「大体、お前に何かやらせていい事なんてあまり無かったぞ。新しい技の実験に使われたりもした。唯一頼もしいと思ったのは戦闘時ぐらいだ」
「うっ……」
俺の言葉に少々たじろぐ黒歌。一気に攻め込むチャンスだ。
「確かに戦闘ではとても頼もしい。悟空の若僧を凌ぐサポート力だ。だがお前、日常で何か検診的な事したか?」
「いや……え〜と……」
「してないだろ?買い物に行かせたらお釣りを使って好きな物を買ってきた。釣りは還せって言ったろ?俺が飯作り当番の日はダラダラし始めるし、和服の襟は何時も乱れてるし、それなのに俺に飛びつくし。上げればキリがないぞ」
「うぅ……」
言い返せないと言わんばかりにシュンとする黒歌。勝った。今回は勝ったぞ。
「そこまで言わなくてもいいじゃん!」
流石に腹立ったのか、講義の声を上げる黒歌。
そんなの知らん。黒歌の声をガン無視して俺はいそいそと脱衣場に向かった。
「あ、勝ち逃げ!」
「お前には勝ち逃げでもしなきゃ終わらないからな」
黒猫がぷぅっと頬を膨らます。うむ、悪くない。なかなか清々しい気持ちだ。とっとと脱衣場へと向かって祝福の白い牛水を腰に手を当てながら飲むとしよう。
だが
「ん?立ちくらみか?」
一瞬だけ頭がクラっとした。一瞬だったから良かったものの、長く続いてたら倒れてたな、あれは。
何故か、自然な感覚で俺は鏡を見てしまった。
「な……」
そこには、黒いボロボロの布を掛けた骸骨が俺の背中に張り付いていた。
その日、何回目かの俺の悲鳴と、それに続いた少し乾いた音が女の笑い声をシャットアウトした。
夕飯作りってなんか楽しいですよね。使える物には塩麹を使うのが自分の定番です。まぁ、全く関係ない話何ですけどね。