コツ、コツ、コツ。地下に繋がる階段はひどく狭い。丁度大人の男の肩幅程度だろうか。その狭い階段を、子気味のいい音を刻みながら、下りる。下りるにつれて少しずつ上階の明かりが細くなり、やがて消える。
コツ、コツ、コツ。足元も見えない、完全な暗闇。しかし何度も通ったその道は、例え目を閉じて至って容易に下まで下りることができるだろう。
コツ、コツ……コツン。足を止める、扉の前についたようだ。辛うじて、その漆黒の扉を扉と認識できたのは足元の隙間から漏れた部屋の明かりがあったからだ。
はぁ、とため息を吐く。これからこの扉を開ける、ただそれだけのことなのに、どうしようもなく気分が重い。どうしても、ドアノブに手をかけることすら躊躇ってしまう。しかし、こうなった責任の一端は自分にもある。やがて意を決したかのように、僕は扉を開いた。
キィィー…
古家独特の木が軋む音をたて、ゆっくりと扉を開く。
ああ、何度見ても気が重い。ゴシック調に整えられた部屋の模様、家具。どれも黒、ダークブラウンといった暗い色で染められている。
だが部屋の真ん中に居座る、部屋の唯一の異物。ソレが不協和音を奏でていた。ゴシックには変わりない、だが部屋とは対照的に明るい色で纏められたソレ。
やがてギギギ、という錆びた鉄のような音がなりそうな、そんな人形のような動きをしながらソレはこちらを向く。そして"彼女"は漂わせている雰囲気とは真逆な、不自然なほどに明るい声で僕に言った。
「遅いですよ、誘拐犯さん」
僕は今果てしなくに後悔していた。彼女を誘拐したことを、ではない。彼女に関わったことを、だ。僕の一生における過去から未来まで、彼女に関わった歴史を消し去りたい。本気でそう思った。しかしやはりそんなことはどうやっても叶わないのだろう。
「どうしたの?早く今日の『話』を聞かせてください」
所詮、野を駈ける自由な兎にはなれないのだ。日向で微睡む猫になどなれないのだ。隣人との出会い感謝する卵にも、この上なく紳士な小人にもなれないのだ。
「ふむ、それで?その時なにが?」
彼女は奴隷、僕はーーーー。
「わかりました。それではこう伝えて下さい」
「謎は解けました、と」
そうだな、せいぜい名探偵の助手兼主人ってところかな。
彼女の名前は高河原といった。それはかつて日本を震撼させた首都高速倒壊事件の犯人、高火張の名前を文字ったもの。そして父親から貰った唯一無二のものでもある。
青年の名前はーーーーといった。それは首都高速倒壊事件の被害者の、無数にいる中の一人。その遺族の名前を文字ったものだった。しかし青年には何の価値もないものだった。
彼女はあの事件が、決して自分の父親によって引き起こされたものではないと、信じていた。
青年は犯人が彼女の父親だと確信していたわけではなかった。やはり、そんなことはどうだっていいのだ。
彼女は心に決めた、自分が真犯人を見つけ出す、と。
青年は自身に誓った、自分の生涯をもって彼女を苦しめる、と。
それは探偵と助手という一つのカタチとなった。彼女は情報を集める目的で、青年はそれを挫折させる目的で。
今日も青年は階段を下りる、安楽椅子探偵の元へ、事件を提げて。
稚拙な文でしたが楽しんでいただければ幸いです。完結まで頑張りたいのでお目汚しですがよろしくお願いいたします。