シャッターの音が響く。かしゃり、というか、ぱしゃり、というか、ともかくそんな音だ。
カメラのレンズを回し、ピントを調節。
もう一度構えて、彼女は「被写体」をぱしゃりと撮影した。
「……よし」
デジタルカメラの液晶に写ったそれを見て、彼女は意味もなく、満足げに頷く。
立ち上がり、とことことその物体に向かって彼女は近づいて行った。
背は低い。圧倒的に低い。体の起伏もそれに従ってほとんどなく、見た目だけなら小学校高学年前後だと判断されるだろう。ゆらゆらゆれる適当に切られたショートカットに、くりくりとしたお目目は童顔も相まって、小動物のようでさえある。
まとっている服装が、高等学校の制服であることが、むしろ違和感すら引き立てていた。
「――やあ、掘。何を撮ってるんだい?」
そんな彼女に背後から声をかけてくる男子生徒。あどけなさこそ残るが既に著しいほどの美形の少年である。身長は彼女と比較すれば、大人と子供ほどの差があるといえよう。
「こんにゃく」
そんな彼に振り向きもせず、彼女はそれだけ答えた。
What's that? と頭を傾げる彼。
「知らない? 月山君。へいっ」
ぺち、と彼の顔面が、ひらべったいこんにゃくで叩かれる。
軽い音に弱い威力。だがその分、接触した時の独特のぬめりや感触が、ダイレクトに彼の肌に伝わった。
英語だかフランス語だか何語だかわからない悲鳴を上げる少年、月山習。
そんな彼を見ながら無言でぱしゃりと、彼女、掘ちえは普通に撮影した。
「おお、学習したのか今回は不細工じゃない」
「ふ、ふふふふ、掘よ。僕とて日々進化しているのさ! そう、それはまるで
「ていっ」
「beuuuuuuuuuuuuh!!?」
得意げな顔でポージングを決めようと動いた彼の首に、咄嗟にこんにゃくを這わせる掘。
げげぇ!? と言わんばかりのリアクションをとる月山を見て、今度は彼女が頭を傾げた。
「あんまり面白くなかったよ、月山君。やっぱり似たようなのって、新鮮味がないね」
「人に色々やらせといて、随分な物言いじゃないかげっ歯類……。
そんな君は、こうだ! Vas-yyyyyyyyyy!」
数秒間悶えた後、カメラを構えて腕を上げていた彼女の脇の下に手を入れ、胴体を持ち上げる月山。
まさに絵面としては、高い高いのそれである。
大層ご満悦そうな笑顔の彼に、彼女は特にリアクションすることもなく、フラッシュを焚いて激写。
「Briiiiiiiiiiiiiiiiiiiight!」
悶絶する彼。手の拘束が弱まったのを見計らい、さっと腕を避け、彼の胴体にダイブをかます。そのまま抱きつくような要領で地面に足を付け、今撮影した中身を確認した。
お互い照れなど欠片もなさそうな辺り、最近親しく? なった関係にも拘らず妙にこなれた感があった。
「うん。これなら高く売れそう」
「は、ははは、掘、僕の顔で商売するのは止めたまえ」
「なら、月山君もセクハラするのは止めようか。どっちにしても叶君あたりには売るけど」
「だから止めろと言ってるだろうがリトルマウス!」
動物扱いされてることには特に突っ込みも入れず、彼女はどこからか取り出したスプーンを使い、こんにゃくの、月山に接触した箇所を削り取っていた。
「あんまり言いたく無いけど、手がちょっとおっぱい当ってたからね。起伏なくても多少は気にしてほしーかな。必要に応じては無視できる範疇だけど」
「す、すまないそれは……」
恥らうでもなく淡々と言うそれが、どこか妙に生々しいというか。
逆に月山の方が、普段のノリをそぎ落とされてローテンションとなってしまっていた。いくら
改めたところで、対応が然程変わるわけでもないのだが。
彼女もそれは想定済みらしく、言うだけ言った後は普段通りテキトーに振舞う。
どこからか取り出した味噌ソースをぶっかけ、ワイルドにがぶりと齧りついた。
「……言うなら掘、君はまず食事をもっとエレガントに食べるべきだ。それでも
「必要ないならやらないよ。淑女じゃないし。
あ、月山君食べる?」
「分かってて言ってるな? 掘よ」
「美食だっけ? 月山君のポリシー。面白いから特に何も言わないけど、カモフラージュもなしに今までよくバレなかったよね」
軽く雑談程度というノリで話を振る彼女に、月山は「No wonder!」と手を天に掲げ叫んだ。
「僕は美食を追求する求道者だッ! それは即ち、己の血肉と成り自身を高めるものだからね」
「ふ~ん」
「そして『あの夜』も含め、目の前の光景を手に収め続けることにのみ平等である君とは、近しいわけだ。
つまり、僕と君は似た者同士というわけだ。中々名コンビになるんじゃないかな? リトルマウス」
得意げな笑顔で振り返る彼。対する掘は、いつも通り。
「なんかヤだなー」
「Heartless attitude……」
ちょっとだけシュンとした月山を、掘は一枚。
今度は、満足げに頷いた。