美食家と写真家   作:黒兎可

1 / 4
※注意:本作は小説版「東京喰種」のネタバレがいくらか含まれます。


いちまいめ

 

 

 

 

 

 シャッターの音が響く。かしゃり、というか、ぱしゃり、というか、ともかくそんな音だ。

 カメラのレンズを回し、ピントを調節。

 もう一度構えて、彼女は「被写体」をぱしゃりと撮影した。

 

「……よし」

 

 デジタルカメラの液晶に写ったそれを見て、彼女は意味もなく、満足げに頷く。

 

 立ち上がり、とことことその物体に向かって彼女は近づいて行った。

 

 背は低い。圧倒的に低い。体の起伏もそれに従ってほとんどなく、見た目だけなら小学校高学年前後だと判断されるだろう。ゆらゆらゆれる適当に切られたショートカットに、くりくりとしたお目目は童顔も相まって、小動物のようでさえある。

 まとっている服装が、高等学校の制服であることが、むしろ違和感すら引き立てていた。

 

「――やあ、掘。何を撮ってるんだい?」

 

 そんな彼女に背後から声をかけてくる男子生徒。あどけなさこそ残るが既に著しいほどの美形の少年である。身長は彼女と比較すれば、大人と子供ほどの差があるといえよう。

 

「こんにゃく」

 

 そんな彼に振り向きもせず、彼女はそれだけ答えた。

 What's that? と頭を傾げる彼。

 

「知らない? 月山君。へいっ」

 

 ぺち、と彼の顔面が、ひらべったいこんにゃくで叩かれる。

 軽い音に弱い威力。だがその分、接触した時の独特のぬめりや感触が、ダイレクトに彼の肌に伝わった。

 

 英語だかフランス語だか何語だかわからない悲鳴を上げる少年、月山習。

 そんな彼を見ながら無言でぱしゃりと、彼女、掘ちえは普通に撮影した。

 

「おお、学習したのか今回は不細工じゃない」

「ふ、ふふふふ、掘よ。僕とて日々進化しているのさ! そう、それはまるでLittle Women(若草)のごとく――」

「ていっ」

「beuuuuuuuuuuuuh!!?」

 

 得意げな顔でポージングを決めようと動いた彼の首に、咄嗟にこんにゃくを這わせる掘。

 げげぇ!? と言わんばかりのリアクションをとる月山を見て、今度は彼女が頭を傾げた。

 

「あんまり面白くなかったよ、月山君。やっぱり似たようなのって、新鮮味がないね」

「人に色々やらせといて、随分な物言いじゃないかげっ歯類……。

 そんな君は、こうだ! Vas-yyyyyyyyyy!」

 

 数秒間悶えた後、カメラを構えて腕を上げていた彼女の脇の下に手を入れ、胴体を持ち上げる月山。

 まさに絵面としては、高い高いのそれである。

 

 大層ご満悦そうな笑顔の彼に、彼女は特にリアクションすることもなく、フラッシュを焚いて激写。

 

「Briiiiiiiiiiiiiiiiiiiight!」

 

 悶絶する彼。手の拘束が弱まったのを見計らい、さっと腕を避け、彼の胴体にダイブをかます。そのまま抱きつくような要領で地面に足を付け、今撮影した中身を確認した。

 お互い照れなど欠片もなさそうな辺り、最近親しく? なった関係にも拘らず妙にこなれた感があった。

 

「うん。これなら高く売れそう」

「は、ははは、掘、僕の顔で商売するのは止めたまえ」

「なら、月山君もセクハラするのは止めようか。どっちにしても叶君あたりには売るけど」

「だから止めろと言ってるだろうがリトルマウス!」

 

 動物扱いされてることには特に突っ込みも入れず、彼女はどこからか取り出したスプーンを使い、こんにゃくの、月山に接触した箇所を削り取っていた。

 

「あんまり言いたく無いけど、手がちょっとおっぱい当ってたからね。起伏なくても多少は気にしてほしーかな。必要に応じては無視できる範疇だけど」

「す、すまないそれは……」

 

 恥らうでもなく淡々と言うそれが、どこか妙に生々しいというか。

 逆に月山の方が、普段のノリをそぎ落とされてローテンションとなってしまっていた。いくら食指(ヽヽ)が動かなかろうと、相手は一応女性なのだと彼は認識を改めた。

 

 改めたところで、対応が然程変わるわけでもないのだが。

 彼女もそれは想定済みらしく、言うだけ言った後は普段通りテキトーに振舞う。

 

 どこからか取り出した味噌ソースをぶっかけ、ワイルドにがぶりと齧りついた。

 

「……言うなら掘、君はまず食事をもっとエレガントに食べるべきだ。それでも淑女(レディ)なのだから」

「必要ないならやらないよ。淑女じゃないし。

 あ、月山君食べる?」

「分かってて言ってるな? 掘よ」

「美食だっけ? 月山君のポリシー。面白いから特に何も言わないけど、カモフラージュもなしに今までよくバレなかったよね」

 

 軽く雑談程度というノリで話を振る彼女に、月山は「No wonder!」と手を天に掲げ叫んだ。

 

「僕は美食を追求する求道者だッ! それは即ち、己の血肉と成り自身を高めるものだからね」

「ふ~ん」

「そして『あの夜』も含め、目の前の光景を手に収め続けることにのみ平等である君とは、近しいわけだ。

 つまり、僕と君は似た者同士というわけだ。中々名コンビになるんじゃないかな? リトルマウス」

 

 得意げな笑顔で振り返る彼。対する掘は、いつも通り。

 

「なんかヤだなー」

「Heartless attitude……」

 

 ちょっとだけシュンとした月山を、掘は一枚。

 

 今度は、満足げに頷いた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。