遠足前夜、私は屋上から街を眺めていた。明日には学校を出て、あの街中を動き回ることになる。何の救助も連絡もないことから外はいまだにあいつらが闊歩する危険地帯のままなのだろう。外から合流してきたらしいリーダーの発言からもそれは間違いない。
必要なことなのだろう、それはわかる。学校の中の物資は無制限にあるわけではない。どこかで調達に出向かなければならないことは確かだ。だが、外に出ることに賛成かといわれると私はすぐには頷けないだろう。当初の予定よりは危ういとはいえ食料が尽きたというわけではない。生きて戻れるかわからない状況に飛び込むのはまだ早いのではないかと私は思っている。遅かれ早かれとも思うのだが、時間を稼いでいれば救助が来る可能性も無いわけではないわけだし・・・・・・。
「お前は、どう考えてんのよ?」
ふと、隣に立っていたカチューシャに話を振りたくなった。こいつが以前のように物事を考えられないのはわかっている、別に返事を期待したわけではない。・・・のだが、何故だか話をしたくなったのだ。こう成り果ててもまだ人類側(そもそもあいつらが人類ではないという定義もそれはそれで怒られそうなものなのだが)に留まっているこいつの視点を知っていれば、自分がああなってもこうして人の輪の中にいられるのかもしれない、なんて打算も無いわけではないが、ただ昔の行動と同じことをすることで精神を落ち着けようとしたというのが大きな理由だろう。我ながら単純な思考である。
「・・・・・・ギギッ」
カチューシャが何を言ったのかは今の私にはわからない。ただ、なんとなく気は楽になったような気はしないでもなかった。
やっぱり、我ながら単純である。
一方で布団の中でごろごろとしている人影が3つ。るーちゃんと、ゆきさん、・・・そしてわたし、小沢みくである。子供ははやく寝なさいと大人たち(その半数以上は高校生だが)に布団に押し込められたものの、流石にそんなにすぐには眠れない。別に遠足が楽しみで眠れないなんて子供じみた話ではない。今この学校を出るというのは、そんなに楽しいことばかりではないのだ。るーちゃんと再会してからは危険を感じることなどなかったが、本来のこの街は地獄そのものである。なおきくんもカミヤマも、とうとうここまで生き延びることはできなかった(二人とも、直接その最期を確認したわけではないのだが、あの状況では生きてはいないだろうという諦念じみた思いがあった)。そんな地獄に明日飛び込むのだ・・・それもるーちゃん抜きで。モールまで行けば再びるーちゃんと合流できるけど、そこまで生き残れるかと言われると怪しいところだと思う。くるみさんがどれだけの腕前なのかは知らないけど、元々は普通の女の子だろうし、頼り切るのはよくない。これが軍人から高度な訓練を受けていますとかだったら後はお任せなんだけど、世の中そうそうそんな人がいるわけもないわけで。
死ぬかなぁ・・・死なないにしてもすごい頑張らなきゃだよなぁ・・・なんてマイナス思考がぐるぐるしてる。ゆきさんは怖くないのだろうか?
「あ~、遠足が楽しみでねむれないよぅ・・・るーちゃん、みくちゃん、まだ起きてる~?」
そうだった、この人は参考にならないんだった。
「はいはい、起きてるよー」
別にわざわざ無視することもない、ちょっと相手してやれば騒ぎ疲れて寝るでしょ。
「るーちゃんは、起きてる?」
話題を振られたるーちゃんはめんどくさそうにころりと転がると、起きてますよーと上体を起こします。明らかにいつもの挨拶の流用です、手抜きです・・・あ、またひっくり返った。
「ショッピングだよるーちゃん、何買おうかなぁ・・・」
好きにしなさいと言わんばかりの適当な対応のるーちゃん、あれは多分話聞いてないだろうなぁ・・・。
「みくちゃんは?」
「そうだね・・・果物の苗とか探したいかな」
一つ考えたことがあるのだ。危険な遠足から無事に帰ってくるための、一つの願掛け。
「無事に遠足から帰ってきたら、果物の栽培をしようと思って。毎回外行くたびにるーちゃんにバナナ取ってきてもらうわけにもいかないでしょ?」
「あ、それいいかも、やろうやろう!」
「でしょ!・・・うん、絶対無事に帰ってくるぞ~」
るーちゃんが、『こいつマジか!?』みたいな顔でこっち見てるのは気になるけど、そんなに変なこと言ったかなぁ・・・。
結局果物栽培計画で盛り上がった私とゆきさんは様子を見に来た悠里さんに早く寝なさいと怒られてしまうのでした、ちくせう。
さあ、いよいよ遠足・遠征の当日です。手早く準備を整えたみんなは昇降口に集合します。
「さて、後はくるみとるーちゃんが車を取ってくるのよね」
「おう、任せとけ・・・いけるな、るーちゃん」
やる気満々なるーちゃん、返事代わりにくるみさんに飛びつきます。
「おい、待て待て、お前にくっつかれるとりーさんが・・・」
「るーちゃぁぁんっ!!」
案の定突っこんできたりーねーに押し出される形でるーちゃんとくるみさんは出陣です。一緒に出てきたりーねーはきーさんが引き摺って昇降口の中へと消えたのでとりあえずは大丈夫そうです。
「よっし、よーい・・・」
どん。
それなりダッシュで駐車場を目指す二人。あいつらの間をすり抜けて進んでいきます。
と、二人の前にやけに大柄なあいつらだ立ちはだかります。柔道部の主将、山岡くんです。
その巨体はそう簡単には通さんぞといわんばかりに行く手を阻みます。
しかしくるみさんが突撃を躊躇し速度を落とした瞬間、るーちゃんが適当に右パンチを放つと山岡くんは校外までぶっ飛んでいきました。「グギィィィィィッ!!?」とか言いながら視界から消えていきます。排除完了です。
「ソコマデダァァァァ!」
続いて二人の邪魔をするのは3-Cメンバーにして野球部のエース、佐々木武正。日本語を話すレベルの知能は残ってるようですが、バットを武器にるーちゃんたちを捕食せんと強襲してきます。
しかしくるみさんが「喋りやがった!?」と驚いた瞬間、るーちゃんの竜巻旋風脚がクリーンヒットして校外ホームランが成立してしまいました。「ホームラァァァァァン!!」とか言いながら視界から消えていきます。駆除完了です。
そこから進むと大型三角定規を抱えたポニーテールが突っ立っていました。うわ、ヤッバイのが来たよとでも言いたげな形相です。
しかしくるみさんが「武器か!?それ武器なのか!?」と突っこんだ瞬間、「あ、いえどうぞ、お通り下さい」と引き下がっていきました。人間二人にドン引きしながら進行ルート上から消えていきます。退避完了です。
「なにがしたかったんだあいつは・・・」とくるみさんもゲンナリしています。一々気にしてたら生きていけませんよとはるーちゃんの談。
そろそろ駐車場、というあたりでくるみさんを囲むように群がるあいつら、その数6体。しかしるーちゃんにあれだけ暴れさせて年長者の自分があっさりやられるわけにもいかないとくるみさん猛奮起です。「でりゃああああっ!!」と気合の入った叫び声と同時にシャベルを一閃、6体全員の体勢を崩して突破していきます。
しかしくるみさんが「どうだ、るーちゃん!」とドヤ顔で振り返るとストリートファイト255のるーちゃんがサイコなクラッシャーを敢行して6体纏めて蹴散らしてしまいました。
「これ、誰でも良かったんじゃないかね・・・」
駐車場までやってきたるーちゃんとくるみさん。るーちゃんカー二号はその異様さゆえ一目ではっきりわかります。しかしくるみさんはめぐみの車の特徴をちゃんと聞いてなかったようで、「くそ、どれだ?」とか言ってました。
こんなこともあろうかと美術255のるーちゃん、あらかじめ段ボールで精巧なめぐみ像を作って車のところに置いておいたのです。これならばっちり見分けがつくはずです。
「いや、見当たらないぞそんなの。どこ置いたんだよ」
そんなわけないだろと車を見に行くと、段ボールめぐみはその精巧さが仇になってあいつらに集中攻撃されていたようで、みるも無残な姿で発見されました。これはめぐみには見せられません。泣く泣く廃棄処分です。
推理255のるーちゃんは僅かに残った段ボールの残骸からでも下手人を特定することができます。駐車場から校舎の中へと飛び込んでいくと、二階をうろつくあいつらの一体を掴んで駐車場へとんぼ返り、そのまま手頃な車に乗せてシートベルトを固定すると一切手加減無しに全力投擲しました。おそらくあっという間に地球の重力を振り切り、戻ってくることはないでしょう。るーちゃんを怒らせるとこうなるのです。
名推理をしている間にくるみさんは車を発進させたようです。るーちゃんもさっさと車に乗り込み後を追います。
「運転、私じゃなくてほんとに大丈夫?」
「だいじょーぶだよ、めぐねえ。よゆーよゆー」
遠征班は車に乗り込んだようです。遠足班もさっさとのりこめー、とるーちゃんジェスチャーです。
「おいおいおいおいちょっと待て、コイツの運転でモールまで行くのか!?」
きーさんが驚愕してますが、他の面々は誰もツッコミ入れてないから大丈夫です。決して「わたしもやるー」とか言ってるやつとか「るーちゃん、がんばってねー」とか言ってるやつで班を固めて異論を潰していたわけではありません。全ては偶然の産物です。
「待て、まてまて落ち着け幼女!話し合おう、飴か?飴が欲しいのか?」
ではアクセル踏んで出発です、遠足班、遠征班ともに学校を出て行きます。きーさんの話は聞こえません、エンジンがうるさいのです。「し、死ぬ!流石の私もこれは死ぬぞ!」とか言ってるのも聞こえません。あーあー。
「くるみちゃーん、めぐねえー、また後でねー」
「おーう、またモールでなー!」
「「それでは遠足に、しゅっぱーつ!!」」
遠足&遠征に出発です。はたして何人生きて学校に戻ってこれるのでしょうか。
ちなみに免許持ってるのはめぐねえだけなので何かあったら大変です
遠征班・車内
「くるみさん、運転本当に大丈夫なのー?るーちゃんがめっちゃ警戒してたんですけど」
運転手にジト目を向ける美紅。胡桃の運転技術を全く信用してないようである。
「あー、・・・いつもとちょっと感覚が違うけど、まあ任せろって」
「違う?そりゃ車種とか、いろいろ違うんだろうケド・・・まさかAT車とMT車の違いとか言わないよね?」
「そうじゃなくてさ、いつもはハンドルコントローラーじゃなくてパッド派だからなーって話」
車内の空気が凍った。比喩でなく、本当に温度が下がった。
「え…、それってゲームの」
おそるおそる、といった様子の慈の呟きに、返事は無かった・・・・・・。
「「「えええええええええっ!?」」」
「グオオオオオオオオッ!!?」