なお本編とは別の世界のお話なので見なくても本編を読む分には全く問題ございません。
るーちゃんは最後だけ。
どうして、どうして、どうして・・・。
私、若狭悠里は独り学校の屋上を走る。背後から今も聞こえてくる呻き声と破砕音に追いつかれないように、走り続ける。
どうして、どうして、どうして・・・?
さっきまで、ついさっきまでのんびりとお茶会を楽しんでいたはずなのに。ゆきちゃんの授業が終わるのを待ちながら、るーちゃんが持ってきた茶葉(ちょっとばかり値が張るものだった)でのんびりティータイム。今日もまたそうして一日過ごしていくはずだったのに。
始まりは咳だった。美紀さんが急に咳き込みだして倒れたのだ。リーダーさんが「おい、どうしたー?」なんて言って様子を見ている間に、私は美紀さんを寝かせるように毛布を用意しようとしていた。
ゴホゴホと、美紀さんの咳を背景に毛布を取り出していた私の耳に、次に入ってきたのは何かをぶちぶちと喰い千切るような嫌な音と、短い悲鳴。そして何か液体が滴る音。
振り向いた私の視界に広がっていたのは惨劇。いつの間にか咳の収まっていた美紀さんが、リーダーさんの喉笛を喰いちぎっていたのだ。まだ成り立てだからか、いつもと何も変わらないように見える美紀さんの目に映る私の顔は驚愕に彩られていただろう。リーダーさんが美紀さんに食い破られた首から無理に呻き声を上げて起き上がるまで、私の思考は空白で埋められていた。
「・・・っ! りーさん!!」
くるみが私の手を引いて部屋を飛び出す。咄嗟の行動だったのだろう、その手にはいつも握られているシャベルは無かった。
「く、くるみ・・・美紀さんが・・・リーダーさんが・・・」
「話は後だ!はやくめぐねえ達と合流しないと―」
走る私達の前に人影がふらりと躍り出た。それは私達の見慣れた姿をしていて、でもその衣服は緋色で染められていて。その身体には傷が刻まれていて・・・
「ゆき・・・きー・・・」
「嘘・・・なんで・・・」
ふらり、ふらり、と私達の前に出てきたときと変わらぬ動きで迫る二人。崩れ落ちそうになる私。くるみが引き摺るようにして連れて逃げてくれなかったら、きっと私も二人と同じようになっていただろう。
二人が見えなくなるまで逃げて、走って・・・私が転びかけたころにようやくくるみは足を止めた。
「ねえ、くるみ・・・なんで、みんなが・・・どうして・・・っ」
くるみに聞いたとしてどうにかなるという話ではない。くるみがそんなこと知っているはずがないのだから。でも、一度口を開いたらもう止まらなかった。
「どうしてっ・・・どうしてよッ!!私達が何をしたって言うのよッ!!こんな・・・こんなの・・・」
「・・・りーさん」
身体の震えと涙が止まらない。なだめるように抱きしめてくれたくるみをひしと抱き返す。くるみだけは失ってなるものかと、腕に力を込めて・・・。
しばらくそうしていると、ひたりひたりと足音が近づいてきた。「りーさん、ちょっと離れて」と言われてくるみから身を離す。温もりが名残惜しい。
周囲を警戒していると、近づいてくる人影を徐々に認識することができた。
「・・・なんで」
今朝まで元気だったはずだ。朝が弱くて、でもゆきちゃんが飛びつくと一緒に元気になって・・・
「・・・めぐねえっ!」
真っ青な顔でこちらを見つめていた私達の先生は、急にその速度を速めると倒れこむような勢いでくるみに襲い掛かってきた。
「うわぁっ!?」
「くるみっ!?」
倒れこむめぐねえを受け止めきれずに押し倒されるくるみ。私が助ける間もなく、その身体から血が飛び散った。
「りーさん、屋上!屋上に逃げろっ!!・・・鍵かけて、隠れててっ!!」
「でも、くるみっ」
突然の事態に動けずに立ちすくんでいた私だったが、めぐねえを押しのけて押さえつけたくるみの「あたしも後で追いつくから、ぜったいに!」という言葉を信じて屋上へと向かった。くるみの肩の傷を見ないフリをしながら・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・」
あの日と違い、屋上にたどり着いたのは私一人だけ。くるみも、ゆきちゃんも、めぐねえも、たかえも、ここには誰もいない、噛まれた先輩でさえも。とうとう独りぼっちになってしまった。
扉の横のフェンスに背を預ける。そのまま座り込んだ。
「もうやだよ・・・怖いよ・・・」
心の内側に留めておけなくなった恐怖が口からこぼれる。かれらに見つかる可能性を上げるだけの行為だけど、止められなかった。
「みんな・・・誰か・・・助けて、助けてよ・・・」
もう限界だった。わけもわからないまま叫びだしたくなる。かろうじて自分を保っていられるのは、くるみが追いつくと言ったから。
だから、階段を上ってくる足音がしたときは本当に嬉しかった。くるみだ。くるみが追いついてきてくれたんだ。
「くるみ、ちょっと待ってて。今鍵を開けr―」
「ぐおおおおっ!」
割れた窓から見えたくるみは、既に私の知るくるみではなくて・・・伸ばされた手にはもう何の温もりも感じることができなくて・・・
どうして、どうして、どうして・・・。
私、若狭悠里は独り学校の屋上を走る。背後から今も聞こえてくるくるみの呻き声とドアを壊しているらしい音に追いつかれないように、走り続ける。
貯水槽を通り過ぎ、太陽電池を抜け、遂に屋上も端が見えてしまった。
これ以上逃げることはできない、いずれここにはあのくるみがやってくる。私もここまでだろう。
後ろから今もひたひたと足音がしている。もうすぐそこまで来ているのだ。
・・・覚悟を決めて振り向く。近づいてくる人影は、予想に反してくるみよりもだいぶ小柄なものだった。
「・・・るーちゃん?」
いつの間にかいなくなってしまっていたるーちゃんだ。無事にここまで逃げてきたんだ!
「るーちゃん!」
駆け寄り、ひしと抱きしめる。私は独りぼっちじゃなかった。るーちゃんが生きていてくれた。
「ごめんねるーちゃん。もう離さないからね・・・」
独りで頑張って逃げ延びていたのだろう。その冷え切った身体をしっかりと抱き、少しでも暖めてあげなければ。
そう思って身を寄せると、私の肩にちくりとした痛みが走った。なぜだろう?
私は自分の肩を見る。どうしてだろう?
なんで、るーちゃんは私に噛み付いているんだろう?
「・・・るー、ちゃん?」
ぐぎ
ぎぎぎ
どうして、るーちゃんはわたしをたべてしまうんだろう?
・・・・・・どうして・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・気絶してますね」
「後ろで振ってるドッキリの看板には気付かなかったのか」
「いや、このメイクのるーちゃんが至近距離にいたら普通後ろまで見えませんよ」
結構途中でボロは出てたんですけどね。みっきーの表情がそのままだったり、めぐみがずっこけたり、くるみさんが棒読みだったり。
まあ、とにかくどっきり大成功なのですよー。
言うまでもありませんが、後日全員泣くほど怒られました。
休み時間ですらないという。
みんなは洒落にならない冗談とか、相手に実害があるような嘘はついてはいけません、るーちゃんとのお約束だよ。
なお前日の夜
「・・・まあ、血や傷は特殊メイク255のるーちゃんに任せるとして、太郎丸はどうするんだい?」
「部屋に置いてきてしまった、って感じでフェードアウトさせるしかないですね。出て行かないように私とリーダーさんで見てましょう」
「ゾン子はどうする?あいつらにやられることはないんだが」
「背景で倒れててもらおう。多分りーさん気付かないだろ」
・・・・・・季節はずれの肝試し、にへ。