デミえもん、愛してる! 作:加藤那智
ーーギルドのみんなと一緒の時間を長く続けたい。
そう為にはどうしたらいいのだろう?
ーーみんなのリアル生活に余裕があればゲームのイン率が上がるのではないか?
問題はなんだ?
ーーお金だ、ギルドメンバーにリアルのお金がないことが問題だ。
今世は政府を実質支配している
ただお金を搾り取るだけではない、人々から「なぜこんなに苦しいのか?」と思考することも奪っている。
モモンガおにいちゃんさんが小卒なのも愚民化政策の一つだ。最低限の知識さえあればいい、使いやすければいい、個人の考えなど不要、よい奴隷であれという支配者層の考え。
ヘロヘロさんはなんであんなにブラック企業の文句をいっていたのに会社を辞めないのか?
ーー辞めたらそれは死を意味するからだ。
この現世の状態はわたしの前世からすでに予測された未来だった。
江戸幕府の倒幕は欧米多国籍企業の後押しがあって成り立った。開国させて新たな植民地がほしかったのだろう。
そして戦後GHQによる3R5D3S政策。
基本政策の【3R】(Revenge―復讐、Reform―改組、Revive―復活)でアメリカ世論の復讐心を満足させ、アメリカによる日本の組織の都合のよい解体と組み替え(省庁すら変更された)、最後に独立という希望をちらつかせた。
重点政策の【5D】(Disarmament―武装解除、Demilitalization―軍国主義排除、Disindustrialization―工業生産力破壊、Decentralization―中心勢力解体、Democratization―民主化)で徹底的に弱体化された。(軍と同じ位の力を持っていた警察も分けられた。警視庁と警察庁の管轄が違うのはこのせい)
補助政策の【3S】(Sexーセックスの解放、Screenーテレビや映画の活用、Sportsースポーツの奨励)で、問題の本質から目をそらし娯楽を楽しめというもの。
ーーVMMOーRPGもその一つである。
前世わたしはなんとかしたかった。しかし女ということもあり、政府で重要なポストは得ることはできなかった。
男並みに働けば女扱いされず結婚を逃し、女らしく男を支えて子供を育てれば税金を払え外で働けといわれる、働いても家庭に入っても子供を育てても文句を言われた前世の女性の不遇な状況は現世まで続いている。
男だって支えてくれる女を政府の税金を払うために外にとられている(共働きでないと生活が成り立たないようにされた)状況で過剰労働をさせられて心にゆとりを持つのは大変だったろう。
男女ともに嫁が欲しがった。家に帰ったらご飯とお風呂そして「おかえりなさい、大変だったね」という温かい言葉に飢えていた前世は「おかしかった」
そして、今世は「おかしい」と考えることすら奪われていた。
今世のわたしには莫大な資産がある。とはいえ、
富を持つ真の支配者層の地位は19世紀にすでに確立されている。
くいこめたのは自社の商品パッケージに自分の赤ちゃんの時の写真を使用した人間位だ。
それでも、わたしが何もせずとも会社が勝手にお金を生み出してくれる。
1ヶ月に2000万課金してもまったく生活に問題ないほどはある。
じゃあ、このお金をギルメンに分け与えればいいのか、といえばそれはあまりうまくない選択だ。
たとえば、お金をあげるとしよう。
ーー税金で半分以上政府に持って行かれ、なんらかの正当な理由づけがされて
ーーそれでもあげたとしよう。
ただでお金をもらった側の心理を考えたことがあるだろうか。
何もせずにお金をもらうとただでもらえるのが当たり前と思うようになり自身の存在意義を他に求めるようになる。
わたしに依存し自立できない人間を作ることになる。わたしはギルメンを自立できない人間にはしたくない。
なので陰ながら、ギルドメンバーの仕事や生活がうまくいくようにばれないように融通した。
病院、親の介護、子供の面倒など人の手が必要となればヘルプをボランティアと称して派遣してフォローした。
家族の学費が必要となれば無利子で貸し、卒業後はわたしの関連企業で就職できるように取計らった。
労働環境がひどすぎるギルメンは、ギルメンと同職種の会社を買って転職をすすめた。
ーーこの時間が永遠に続けばいい、そんな気持ちから。
しかし、これは悪手だった。
生活に余裕ができると結婚して家庭をつくるギルメンが増えた。そしてログイン率が減っていった。
たっちさんと同じくリアルに時間を割くようになっていたからだ。
そして、だんだんとギルメン全体のログイン率は下がっていった。
ギルメンのログインが減っていくと寂しくて悲しくて落ちこんだ。でもだからといってギルメンへのフォロー止めることはしなかった。
物語のモモンガおにいちゃんは本当にすごかったんだ。
その状況に比べたらリア充してるからギルメンがログインできないなんて素晴らしいことだ。
寂しい気持ちもあるけど、ギルメンの幸せはわたしの幸せ。これで良かったんだ。
お姉ちゃんは「若いうちが稼ぎ時だからね!もちろん歳をとったからといって消えていくような女優になるつもりはないけどね」と仕事を増やし、
おにいたんはゲームの仕事で重要なポジションを任せられるようになり、休もうとすると誰かが病気になったり、事故にあったりで、仕事を休めなくて「好きなエロゲーもする時間がない」と嘆いていた。
……なんだろう、これは。
背中を悪寒が走る。
ギルメンがユグドラシルから離れていくことを止めることができない。
無理やり続けさせることはしたくない、ギルメンにはそれぞれの幸せを追求する権利がある。仲間には幸せになってほしい。だから彼らが離れていくこと自体は仕方がないと思っている、なのにーー。
なんだろう、この嫌、な感じは。
わたしは考え方を変えた。ギルメンがいまログインできない時期なら、ユグドラシルを続けさせればいい。サービス期間を伸ばせばいいのだ。
転移はあと何年かしてからすればいい。転移すれば異形種のアバターだ、こちらの寿命など関係ないだろう。
生のデミウルゴスに会えるのは先の楽しみにするのだ。
サービスさえ続けばギルメンも仕事や学校や子育てがひと段落したら顔をだしてくれると思うし。
「こんこん」
「こんー」
「維持費稼ぎにいてきま!」
「あ、俺も行く、アイテム整理するから5分待って」
「はーい」
モモンガおにいちゃんとよく2人きりになるようになった。2人でナザリック維持費を稼いで、ナザリックを防衛し、アイテムをつくって、話をした。陽気だった骸骨さんはキラキラオーラをまとう事も、パンドラと遊ぶこともへり、物静かになっていった。
二人きりの対話というのは第三者がいない分、個人的な心情を吐露しやすい。モモンガおにいちゃんと寂しい、みんなが戻って来ればいい、戻るまで待ちましょう、と気持ちを共有しあった。
モモンガおにいちゃんは、ユグドラシルはこのままだとユーザーが減りつづけて終わってしまうのではないかという不安をもらす。わたしはギルメンのこと、仲間が幸せなのは嬉しいけど会えないと寂しいね……と話した。
ギルドメンバーを待つわたしとモモンガおにいちゃんの気持ちは同じだった。
あんまりわたしとモモンガおにいちゃんが寂しげだったせいなのか、ギルメンが狩りも話もしないけどログインだけしてアバター放置することが増えた。たっちさんにつづく放置アバターである。たまに朝と夜で位置がずれていたりする。モモンガおにいちゃんとわたしで1日1回はギルメンの位置の間違い探しをするようになった。その内、わたしとモモンガおにいちゃんは、寂しさが頂点に達すると放置アバターがいるところまでいってアイテムをぶつけるという習慣ができた。正確には当たらないんだけど、気持ち的にお賽銭投げる感覚で投げつけてる。えいえいっ
わたしはβテスト開始前からユグドラシル制作会社の株を少しづつ買い今では大株主になっていた。会社さえ掌握すればユグドラシルはなんとでもなる。
銀行にお金を借りたらバカ高い金利をとられるから(そして
オンラインはとかく金がかかる。だけど金さえだせば続くのだ。ますますわたしの事業は成長し、それらのいくつかを
ーーそう思っていたのに。
「またプログラマーが病気に?」
ユグドラシルのスタッフが原因不明の病気になる。
その割合は年を追うごとに増えていった。年々不調をうったえるスタッフは増えていき、とうとう全スタッフの8割が体調の不調を訴えるようになった。
病院で診察し様々な検査をしても原因不明。どんな治療、療法も効果がなくほとほと困り果てた。
なんだろう。いやまさか……もしかして。
わたしは嫌な予感が当たらないようにと思いながら、試しに体調不良のスタッの1人をユグドラシル制作からはずし別会社にうつしてみた。
するとスタッフはまたたく間に治った。スタッフ自身もあまりの変化に首をかしげるほど。
やはり……ううん、まだ断定はできない、はず……。
「まさか」と思いながら同じような体調不調であるスタッフを別会社にうつした。
全員が快復ーー全快である。
わたしは確信した。
ここは
これはこの世界の強制力ではないだろうか?
わたしがねじ曲げようとしているのを本来あるべき本筋から外れないようにしているようにしか思えない。
「……どうして……」
気がつけばガタガタと体が震えていた。震えが止まらない。背筋に悪寒が走り手足がどんどん冷たくなっていく。
わたしという異分子が自由に行動できているから、きっと世界も物語どおりに進まないだろうと楽観視していた。ーーなんと根拠のない気楽な見通しだったことか。
変えようのない未来がだんだんと近づいてきていたのだ。
「なんとか……なんとかしないと……っ」
零れた呟きは暗い部屋のなかに消えていく。わたしの世界に対する無力さ表すかの如くーー。
かんがえがあまかった!