デミえもん、愛してる!   作:加藤那智

3 / 18
side: 気がつけば、妹が金持ちだった

 

 うちの妹はかわいい。

 

「おにいたん、おかえりー」

 

 学校から帰った俺に気づいた妹が、俺のそばに、とてとてとやってきて足につかまる。

 そのまま見上げて俺をみつめる妹。

 

 ぐは!!!

 かわいい。歩きのつたなさがまたかわいい。しぬ。しぬしぬ。

 

「ただいま美代ちゃん!」

 

 兄の特権として妹を抱擁すべく、思いっきりギュッと抱きしめた。

 家の中は至福である。

 なぜなら自分の座るソファにすゆすやと眠る妹。寝顔は天使。

 

「YES!ロリータNO!タッチ!うぐ!」

「ばか!起きちゃうでしょ」

 

 姉に思いきり頭を叩かれた。

「そのやにさがったにやけ顏をやめろ」

「だって、姉ちゃん、美代がかわいいから仕方がないだろ」

「そんなの知ってる、お前の顔が気持ち悪いだけだ」

 

 かけられたブランケットの中でむにゃむにゃと寝言を言う妹。

 見ているだけで胸が締め付けられる。

 胸に手のひらをあてて姉に質問。

 

「……これが恋?」

「なぁわけないだろぉ!ロリコン!シスコンがああ!」

「いってええええ!」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 昔は弟が欲しかった。

 外見はいいくせに内面が粗暴な姉に、幼い頃からどつかれ、使いっ走りにされ、現実の女に夢が持てなくなった。

 女は恐ろしい。

 これでまた女が家に増えたらますます俺の居場所も時間も無くなる。

 だから妹より弟が欲しかったけど生まれたのは妹だった。

 

 できるだけ妹のいるベビーベッドには近寄らないようにした。

 母に言われたときだけ仕方なく面倒を見た。

 

 ある日、友達の家に遊びに行ったら、妹と同じ位の友達の妹がギャン泣きしていて驚いた。

 ご飯とかオムツじゃね?と聞けば、わかんないいきなり泣くんだ、という。友達もいつものことという様子だった。

 妹はあんな風に泣いたのを見た事がない。

 友達の妹は、友達と俺が遊んで、かまってもらえないのが腹がたつとばかりに積木をなげてくる。

 恐ろしい、女予備軍だ。

 

 妹と他の子供の違いが目につきはじめてから、妹をよく観察するようになる。

 いつも大人しい。

 必要があるとき、たとえば、空腹、

 オムツといったとき以外は泣いたのを見た事がない。

 泣くといっても

 妹はきわめて手がかからない子供のようで、

 母は、「助かるわーあんたたちのときなんか……」と何度もいっていた。

 妹は俺の知っている女とは違った。

 

「にいにい」

 

 お出かけするとき、俺と妹は手をつなぐ。

 母や父や姉より俺と手をつなぎたがる。

 妹の手はまだ小さいから、俺が人差し指と中指だけをまとめてチョキの形にすると、それにギュッとつかまる。

 嬉しそうな顔をする妹。

 俺がどこかにいこうとすると、ついてくる。

 そして、俺の触るものや、やっていることを興味津々に聞いてくる。

 放置されているというわけではないが、この家で俺の興味のあることに興味を持つ人間はいない。

 男と女の興味の方向が違うせいかもしれない。

 父は仕事で殆ど家にいないし、男の話はできない。

 それが普通だと思っていたのに妹は違う。

 

「にいにい、すごい〜」

「そっかあ?」

「みーもやるー」

「しゃーないなー」

「この……!!なんてもんやらせてんのよ!!」

「ひっ!ね、姉ちゃん!姉ちゃんだってでてるじゃ「いうなああー!!」ぐっ!ごっ!ぼげ!」

 

 妹は、俺のホロPC、本、スポーツ、エ……ゴホン、なんでも一緒にやりたがった。

 妹をいやいや面倒をみていたのはいつまでだったか。もう覚えていない。

 

 俺の友達と遊ぶときも妹を連れて行くようになり、俺たちがゲームに夢中になっててほっといてもぐずることなく楽しそうだった。

 あとで、「ごめんな」というと、「たのいかった」と笑顔。

 いつの間にか、妹と楽しく過ごすようになっていた。

 姉にいじめられたときは妹を抱っこして癒されるようにしている。

 急いで移動するときは、妹を抱っこするのだけど、はじめて抱っこしたときはその柔らかさに驚いた。

 寝る前に妹におやすみをいうと、大きい目に俺を写して、

 

「にいにいすきー」

 

 と、初めて言われたときは体に電流が走った。

 いまでは、毎日かならずおやすみをいって妹の言葉を聞いてから寝る。

 妹の目は大きく、幼児らしいぷりっとした丸い顔でつついて、はむはむしたくなる。将来はきっと美人だ、嫁にはやらない。

 そういうと、姉には「ばっかじゃない」といわれた、うっせ。

 そんなかわいい妹がもうすぐ小学生になる。

 ランドセルは何色がいいだろう、新しいお友達できるかな、そんな話をしていた頃、

 

 妹の様子が変わった。

 

 妹はよく好きなおもちゃ(人形)や女優の動画を見ていたのだが、いきなり自分も「(動画に)写りたい」いいだした。

「プライベートをうつすなんて!個人情報が!かわいいから危ない!」と母と俺は反対したが、

 姉と父は「やりたいことやらせたら?そんな(誰も)みないと思うし」

 と賛成し、家族会議紛糾。

 結果、危ない人とはコンタクトをとらない、と約束させ動画配信にOKを出した。

 

 やばい、妹が世の変態たちに目をつけられてしまう!俺は妹を守るぞ!こんなかわいい妹の日常動画を見るやつの目的なんて変態しかいない!

 俺が毎日見て見張らないと……!

 

 妹の送り迎えのために部活をやめようと俺は決心した。

 しかし、思惑と現実は違う方向に流れはじめる。

 

 第一回目動画を撮り始めたら、妹が宇宙語を話しはじめた。

 

 いや、ちがう、よく聞くとドイツ語だ。

 え、なんで、ドイツ語はなせんの?

 

 あとで聞くと、俺や姉が学校にある間、妹は昼間インターネットで語学学習をしていたそうだ。

 

 知らなかった……!

 

 日本語字幕を頼まれたので手伝ってつけてやった。

 

「ありがとうーおにいちゃん」

 といわれ、

「こんなの動画モザイク削除に比べたら大したことないぜ!でも、おにいちゃんじゃなくて、おにいたんな!」といったら、

 姉にペットボトル500ml投げつけられた。いてえ。

 

 そこからさらに驚きの連続は続いた。

 

 妹はその後、ドイツ語に続き、

 英語、ヒンディー語、スペイン語、アラビア語、ポルトガル語、イタリア語、フランス語、北京語、広東語、福建語、ロシア語、ジャワ語、ベトナム語、韓国語、マラーティー語、テルグ語、タミル語、トルコ語、ウルドゥー語、ベンガル語、インドネシア語の動画を配信しはじめた。

 

 えっ!?妹、天才じゃね??

 

 姉にいったら、アンタ今頃何言ってんのよ。とため息つかれた。どうやら我が家で妹の頭の良さを知らなかったのは俺だけみたい、悔しい。これからもっと妹を見つめて話をしよう。

 

 すげえ、すげえよ、俺の妹。

 

 才能は日の光をあびてこそ輝くものね、と、言う姉のドヤ顔にムカつきつつも、俺は妹を誇らしい気持ちでいっぱいになった。

 その内、妹の動画はたくさんの人たちにお気に入りされ、電子出版の誘いまできた。俺は妹自慢を学校でしまくった。

 それからしばらくして妹はまた新しいチャンネルをはじめた。今度はゲーム実況プレイを配信するらしい。

 

 これは、また、妹の隠された才能が開花するのか……!

 

 と思ったら、ダメダメだった。まず、妹は酔う。

 いわゆるDMMO酔いというやつである。妹は乗り物に弱い、すぐ酔うし吐く。ぐったりしてる様子が可哀想で、やめるか?といえば、大丈夫、といってヘルメットをかぶりまた酔って吐く。

 

「違うテーマのチャンネルにしたら?」

「やめ、ない、ぜったい、やる」

 

 と、よろよろダイブする。見ていて胸が痛くなって仕方がないから何度も止めるのに妹は決してやめない。

 

 なんだよーもういいだろー?

 

 と思うが、妹はやめない。吐いて、ダイブする。ダイブして吐く。そんな妹の様子に姉も眉をしかめていたが止めることはなかった。

 

 なんでそんなに必死なんだ?

 

 無理するなっていっても、妹は涙ぐみながら謝ってまたダイブする。なんで謝るんだ、謝ることないのに。どうしてもやりたい、やりたい、という。

 妹がどうしてそこまでゲームをやりたいのかわからない。でも、ここまで妹がやりたがるなら……気がすむまでやらせよう。

1ヶ月たって妹はだんだんと吐かなくなりゲームをプレイできるようになった。

 

 ゲーム実況プレイでの妹はとても楽しそうだった。初心者ギルドに入り、出会った人とパワーレベリングをする。

 もちろん俺は悪い虫ーーネットストーカーとかーーが可愛い妹につかないように一緒にプレイしてぴったり張り付いてる。どこにいくのも一緒だ。

 そんな風に妹充していたら、動画をみた姉からメールが届く。

 

「アンタ、キモい」

 

 ははははっ。ひがんだな姉ちゃん!

うらやましかろう!いいだろう!

 

 

 

 




のじゃロリは最高!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。