最近何かと色々忙しくて(某動画サイトに投稿するラブライブ動画作ってました…)小説がないがしろになっていました、待ってくれていた方々申し訳ないです。
そういえばラブライブの映画BDが本日だったり、6thライブの日程が決まったりと色々ニュースが増えてましたね。
それでは、どうぞ!今回はいつもより長文となっております…。
――あるところに3人の少女がいた。
ある1人は、夢を持ちつつも、ほんの少しの勇気と自信が持てなかった。
ある1人は、自分自身に女の子らしさを求めたが、過去の自分に囚われていた。
ある1人は、悩みはあったが相談する相手も居らず、家庭環境もそれを良しとしなかった。
その3人の関係が入り混じった時――――
――――――――――
現代文の授業。この授業は非常に眠い。昼休みも間近で腹も減ったし体が重い。
しかも生徒が先生に音読を指示されて読まされるタイプの授業となっているので、おちおち居眠りも出来ない。
しかし季節はもう5月なのだから、5月病だと言ってしまえば、たとえ先生に当てられても言い訳出来るのではないのだろうか。
まあ、それが通じれば苦労することはないのだが。
「遠い山からこの一文が示す芳郎の気持ちは、い、一体なんのっ…!」
なんてことを考えてたら、かよちんが音読を指示されていた。本人は少し慌ててた様子だったし思わず噛んでしまった。
周りは思わず笑ってしまっている。皆、心もないと言えばそれまでだが、噛んでしまった者に対して悪気や悪意はないはずだ…と思いたい。
しかし以前に比べると声は大きく出していると思うし、それを思えば成長したのではないのだろうか?
昨日、真姫ちゃんの家に来たことで彼女の中で変わったものがあったのだろう。
だからこその意識改革で、大きな声を出して音読していたのだとしたらいい傾向だ。
「はい、それまで。じゃあ次、東谷君」
このタイミングかよ。
いや、逆に考えろ。今ここで音読を支持されたということは、この授業中はもう二度と当てられないということだ。
無事に音読という役目を終えた俺は即効で眠りにつくことにした。
やはり席は後方に限るな。先生のマークも薄いし、前の席の人でガードすれば何の問題もない。
――と思ったのも束の間。
机の上で眠りに眠ってた俺は肩をトントンと叩かれた。横に先生が立っていたので起こされたということだろう。これは非常にマズイ。
「東谷君?お目覚めですか?」
先生は微笑んでいるようだったが、目は笑っていなかった。
「いやー、1回音読を終えたので俺の仕事は終了したと思いまして」
「じゃあ今から君に仕事です。残りの文章全て読むように」
「……ヘイ」
どうやら俺は賭けに負けたようだ。
クラス中が笑いに包まれる中、遠くの席からいかにも"バカみたい"と言いたげな真姫ちゃんの視線が刺さった。
クッソ…ムカつくなあ、あの女め…。
授業が終わった後、原稿用紙数枚分はあるのではないかと思われる文章を読まされた俺はすっかり疲れ切っていた。
とにもかくにも、やっと飯だ…。
「たーつーやーくん!ご飯食べるにゃ~!」
「そうだな、かよちんはどうしたんだ?」
いつもは俺の隣の席であるかよちんを含め3人で昼食を取っていたのだが、かよちんは席を外していた。
「お手洗いじゃないのかな~? そのうち来ると思うよ、早く食べよう食べよう!」
気弱なかよちんだからな…。さっきの授業でのミスが彼女にとって少し傷ついたものでなければいいのだが。
そのせいで落ち込みお昼も取ってないとかだったらあまりよろしくはない。
「そういえばさ」
凛ちゃんが俺の考えてることを遮るように言った。
「竜也君、アイス奢ってくれるって言ったよね? 凛はちゃんと覚えてるからね、いつ食べさせてくれるの?」
「あー… そういえばそうだったな」
勢いに任せてアイスを奢ると言ったこともあったなあと、今更になって思い出す。
とはいえアイスくらいの金銭なら大したことはない。
「凛は大きなパフェを食べに行きたいにゃ~!最近駅前に大きなお店が新しく出来たんだよ~」
「よりにもよって値段が高くなりそうなものを選んできたな!しかもパフェってアイスじゃないだろ!」
「だってアイス奢ってくれるって言ったじゃ~ん。それにね、パフェにだってアイスは乗ってるんだよ?アイスの種類は別に限定してなかったしそれは凛が選んでもいいよね?」
「あー…わかったわかった好きにしろ…」
凛ちゃんがニタニタしながら俺に微笑みかけてくる。
これはじゃれようとしている猫ではない。小悪魔だ。
「また今週末にでもかよちんと3人でいくか」
「じゃあかよちんの分も奢るんだね、太っ腹だね竜也君」
「せめて大きなものを3人で分け合う形にさせてくれ…」
2000円程度で収まってくれるのを祈るばかりだ。…無理だろうな。
一時の気分で気軽に女性に対して"奢る"という言葉を使わないということは肝に命じておこう。
これじゃあお金がいくらあっても足りない。
女は怖い。そういう生き物なのだ。
「そういえばかよちん…来ないな」
少し話をしていたのだが、未だにかよちんが姿を見せない。
「おかしいな~ あ、もしかしてまた1人で俯いてご飯食べてるのかも!」
「あの子ってよくそういう行動を取るのか?」
「そうそう。凛はいつも、俯いても仕方ないよー!と言ってはいるんだけどね。早く昼食を食べて探しにいこ!」
俯いていても仕方ないという凛ちゃんの言葉はもっともだ。
しかし、落ち込んでる時に1人にさせて欲しいと思う人も居るだろう。
自ら1人になりに行ったであろうかよちんもおそらくそのようなタイプかもしれない。
「うーん、でも無理にかよちんのところへ行かなくてもいいんじゃないか? 少し時間を置いて本人の中でじっくり考えてもらった方が…」
「いやいや!かよちんは今までそうやって消極的だったから、もっと積極的になるべきだと思うの!たぶん今かよちんが悩んでるのはアイドル部に入るかどうかってことじゃないのかな?」
そうか、さっきの授業のことで落ち込んでるのかもしれない。
しかし、それ以上にかよちんはアイドル部に入るかどうかを悩んでいるのだろう。
昨日に真姫ちゃんの家へ来た時も迷っていそうだったし、それが今日になっても考え続けている、ということか。
しかしだからといって、凛ちゃんが本人の代わりにどんどんと前に進んで行って大丈夫なのだろうか?
「そ、そうなのか。昔からかよちんのことは凛ちゃんの方がよく知ってるからな、任せるよ」
2人の間柄をよく知らない俺には、凛ちゃんの今の行動を止めることは出来なかった。
そんなわけで、俺と凛ちゃんはすぐに昼食を終えて、かよちんを探しに行った。
………………
「あ、あそこにかよちん居たよ!」
かよちんは中庭にいた。早く1人で…と思っていたが
「真姫ちゃんが一緒にいる…?」
あの2人だけの組み合わせってあまり見たことないな。昨日でも横には俺が居たし。
そもそもあの2人だけで会話って過去にはあったのだろうか。
その2人の中に割って入るようにして、凛ちゃんが向かっていった。
「か~よちん!西木野さんとどうしてここに?」
「励ましてもらってたんだ」
「わ、私は別に…!」
「励ますっていうのは真姫ちゃんのガラじゃなさそうだしな」
「あ、あんたも居たの!?」
「居ちゃ悪いのかよ…」
ヌッと輪に入っていたら驚かれてしまった。
励ましてたことを言われるだけで顔が赤いぞこの女。やっぱり褒められてない類の子だな…。
「それより、今日こそ先輩のところへ行って、アイドルになりますってこと言わなきゃ!」
凛ちゃんは相変わらずグイグイ行くなあ…。
かよちんは見た感じ困ってるしどうしたものか。
「そんな急かさない方がいいわ。もう少し自信をつけてからでも…」
「なんで西木野さんが凛とかよちんの間に入ってくるの!?」
それなりに真っ当な意見を真姫ちゃんが言ったがすぐに凛ちゃんに跳ね除けられていた。
ううむ…これはちとマズイ展開な気がする。
「あ、あの…ケンカは…」
「とりあえずお前ら落ち着け」
場を収めようと思ったが、2人の耳にはあまり届いてない様子だった。
「かよちん今すぐにでも行こう!」
「待って!どうしてもって言うなら私が連れて行くわ!音楽に関しては私の方がアドバイス出来るし、μ'sの曲は私が作ったんだから!」
「えっ、そうなの?」
「え、いや…えーと…」
真姫ちゃん、思わず口を滑らせるの巻。
本来言うつもりはなかったんだろうが、凛ちゃんと張り合うために言っちまったって顔してるな。
「まあ事実っちゃ、事実だな」
「ちょっと!被せなくてもいいじゃない!」
「別に隠すことでもないだろ?それともバレちゃマズイ事情でもあるのか?」
バレちゃマズイ事情はないだろう。
強いて言えば、μ'sの曲を自分が作ったということがバレてしまうことでの勧誘を恐れているということだろうか。
勧誘されたところで自分が打ち込める立場ではないから。
そうやって遠巻きになりがちなのが真姫ちゃんらしいと言えばそうなんだが…俺はやりたいことがあればやってみればいいと思うけどな。
「西木野さんが凄いのはわかったから!でもかよちんは凛が連れてくからね!」
「いいえ、私が!」
「凛が!」
「私が!」
結果的に俺は火に油を注いでるだけの存在になってないだろうか…。これはマズイ。
「だ、誰か助けてぇ~……」
そしてかよちんの声が虚しく響いた。
とりあえず引きずられていくのはマズイ、止めよう。
「とりあえずお前ら待った!そのままかよちんを引きずってケガでもしたら本末転倒だろ!」
2人の前に立った後に強く声を張り上げ過ぎただろうか、真姫ちゃんと凛ちゃんは少しビックリしていた。
「凛ちゃんは幼馴染としてかよちんを引っ張っていきたい気持ちがあるのはわかるし、真姫ちゃんも音楽のことの知識は十分にあってそれで引っ張っていきたい気持ちもよくわかる。
だけどな、かよちん本人をないがしろにして2人で争う形で2人を引っ張っていくのはやめてやってくれ」
かよちんのことを思いやっている気持ちは十分に伝わる。
だが、それはお互いにかよちんを取り合う気持ちに変貌してしまい、"かよちんにアイドルになってもらう"という目的が失われつつあった。
かよちんが小心者で自分で言いにくいからこそ、こうやって第三者が割って入らなきゃいけないのだ。
…それが男の俺ってのもなんだか変な話になってしまうのだが。
「わ、悪かったわよ…」
「ゴメンねかよちん…」
「い、いや…私がいっつも迷ってばかりだから…」
とりあえず場は収まって良かった。勢いで穂乃果先輩達のところへ行っても迷惑をかけかねないからな。
とは言っても、このまま日が過ぎて待つよりはなるべく早めに先輩達のところへ行くのがいいような気もする。
「もう昼休みも終わりかけだし、どうせ行くなら放課後にするか」
「それもそうね」
「かよちん、ちゃんと心の準備をしておくんだよ?」
「う、うん…!」
「こらこら急かすな」
俺達は一旦その場をあとにした。
そしてその放課後。
「で、今こうなっているというわけか」
「いい加減覚悟を決めなさいよ、確かに自信をつけさせてからの方がいいとは言ったけれど…」
「かーよちん、パッと決めてパッと先輩達の元へいこ?」
放課後になってもかよちんの心は準備するまでに至らなかったらしい。
授業中にチラチラと様子を見ていたが、確かに俯いてることが多かったし授業に集中出来てはいない様子だった。
かよちんにとってはとても勇気が必要なことだろうし、ここで無理強いは出来ないが…
「あーもー!やっぱりあの時私が連れて行けば良かったんじゃん!」
「何言ってるの!無理に行かせるよりは自信をつけさせてからって言ってるじゃない!」
「お前ら思い出したようにまたケンカするなよ…」
「アンタはアンタで分かった風に言うのやめなさいよ」
今度はこっちに火が飛んできたか…。
しかし、確かに俺も声をかけてやるばかりでかよちんに対しての行動らしきことは特にしてない…。
この短時間で自信をつけさせるべきと言っても無茶な相談だからな、どうしたものか…。
そう考えていると一つ、案が浮かんだ。
「ちょっと俺に考えがあるんだが… みんな、少しだけ教室に残って待っていてくれないか?」
「何よそれ、教えなさいよ」
「まあ後でわかるから待ってろって、2人はしばらくかよちんを励ましてやっててくれ」
「うーん、、凛にはどういうことなのかわからないけど、りょーかいにゃ!」
「そんじゃ、後はよろしく任せた」
そう言って俺は教室を後にして、ある場所へとすぐ駆け出して行った。
「…ホント掴めない人なのよね、アイツって」
「でもなんとかしてくれそうな感じがあるんだよね~。堅物の西木野さんを黙らせるくらいだし?」
「なんですって?それは心外ね…」
「ほ~らまた怒った!」
「アンタねぇ… ほら、今はかよちんを励ましてって言われてたでしょ」
「そうだったにゃ!かーよちん、竜也君から連絡あるまではしばらく待っておこう?」
「う、うん…」
…………………………
「先輩!」
階段を駆け上がり、ドアを開けた瞬間、開口一番に先輩方を呼んだ。そう、俺が行っていた場所が穂乃果先輩達の練習場所、屋上だ。
…その屋上に行くまでは良かった。
俺のミスはここだ。"ドアをノックしなかった"ということ。
「え、竜也君!?ちょ、ちょっと待って今はだめぇぇぇえええええええ!」
「あれ、どうかしたんですか?」
どういうことなのだろうと思って、持っていたドアノブから手を離し、声の聞こえる方へ向かってみた。
そこまでやっておいて、俺は後悔する羽目になる。
そこへ居たのは、、、着替え中の穂乃果先輩だった。
下半身はスカートのままだったが、上半身の下着が露わになって……ってそんな場合じゃねぇ!
真っ先にこの場を去らなければ!と思ったのも束の間。
後ろには邪悪な笑みを浮かべていた海未先輩。思わず苦笑していることり先輩がそこには居た。
終わった。色々と。
「すみません、少しで済みますので…。私たちの曲を作って下さった方と仲の良い殿方でも穂乃果を辱めるような方だったとは思いませんでしたわ…」
やべぇ、こえぇ。女とは思えない。
俺はすぐに両手を上げた。咄嗟だった。むしろ威圧感でそう恣意的にさせられたような気分だった。
直後、みぞおちに痛い一撃を見舞われた。容赦ないなこの先輩…。
「すみませんでした、てっきり屋上で着替えなんてしてないものだとてっきり…」
正気に戻ったところで穂乃果先輩に頭を下げた。
さすがに想定してなかったとはいえ、やってることは覗き魔と変わらないわけだ。あまりにも申し訳が立たない。
「い、いいよ~気にしなくても。今度からは着替え中とか張り紙しておかなくちゃだ!むしろ海未ちゃんが痛いことしちゃって私からもゴメンね?」
「穂乃果は甘いんです!自分の身は自分で守るべきなんですよ!?」
「まあまあ海未ちゃん、本人も悪気はなかったんだし…」
「ことりはそうやってすぐ穂乃果を甘やかす!」
「いやもう何て言えばいいのか…本当にすみませんでした」
そう言って深々と頭を下げた。
「私の方は大丈夫だから!竜也君に変なトコ見せちゃってむしろ私の方がゴメンナサイって感じだよ!」
「こういうことが起きて思うけど、屋上にもそういう着替え場所的なものが欲しいよね…。冬とかになったら寒すぎるよ~」
「そうですね、こうやって不埒な方が訪れた時の対処にも困りますし…」
「海未ちゃんしつこいよ!竜也君がこれだけ謝ってるんだからそろそろ許してあげて、今度は私が怒るよ!」
「は、はい…」
穂乃果先輩の優しさに助けられるなあ… 俺が全面的に悪いとはいえありがたい人だ…。
真姫ちゃんもこれくらいの優しさに溢れてたらなあと思ってしまう。それはそれで、それは真姫ちゃんの姿をした別の人になりそうな予感はするが。
「ところで私たちのところへ来たのは何か理由があってなんだよね?どうしたの?」
そうだった、酷い過ちをしてしまったおかげで忘れそうになっていた。
このまま帰るとカッコつけて出て行ったのに、実は覗き魔してくるだけの男でした、だなんて笑えない冗談だ。
「俺の友人にアイドル部に入りたさそうにしている子がいるんです。でもその子、なかなか勇気が出せずに先輩達の元へ行くのを怖がっていて…」
「あら、もしかして…」
「たぶん昨日の子じゃない?」
「その子って…もしかして小泉花陽ちゃん?」
「そ、そうです!」
面識はあるとはいえ、普通に知られてるじゃないか。
前々からアイドル部と接触はあったみたいだしこれなら話は通じやすそうだ。
とはいえ、ことり先輩の言った"昨日"という単語が引っかかる。
「かよ…じゃなくて、小泉さんと昨日何かあったんですか?」
「昨日私の家に来たんだよ。私の家ってお饅頭屋さんをやってるんだけど、たまたま通りかかったらしく店番中の私とバッタリ会っちゃって」
思わず先輩の前でアダ名で呼びそうになってしまった。
…ということは、昨日真姫ちゃんの家に来た後に、和木さんに送ってもらった後だろうか。
「昨日話した感じだとアイドルへの意気込みはバッチリって感じだったなぁ~、ゆっくり考えて答えを聞かせてとは言ったけど… やる気満々だね!」
「そうですねー、後もう少しあの子に自信や勇気があればいいんですが…」
「ハッ、もしかして海未ちゃんが怖いから入部を拒んでるんじゃ!」
「私のせいですか!?」
「でも私たちはいつでも大歓迎だから。勿論早い時期の方が嬉しいけれど…」
先輩達はいつでも大歓迎。これだけ後押ししてくれてるんだ。
これが聞けただけでも十分。
「先輩方ありがとうございます。先輩方が小泉さんのことを快く思っているということを聞いて安心しました。またしばらくした後に連れてくるんで、待っててください」
「おお!もうこの後に連れてこれるの!?」
「俺に任せといてくださいよ」
「じゃあ期待してるよ~、このまま連れてこれなかったらただの覗き魔だからね~?」
「やっぱ少し根に持ってるじゃないですか!勘弁してくださいよー!」
「わかったら早く連れてくる!」
思わずひぃ~と声が出てしまうが、右手でグッとサインを出してその場をあとにした。
色々とマズイことをしてしまったのに、普通に話を聞いてくれた先輩方はさすがだ。やっぱり大人って感じがするな、たった一年だけ歳が上でもこうも違うように感じるとは。
すぐに教室に戻ってドアを開けようとしたが少し俺は躊躇した。まさかまた誰かが着替えてるだなんてことはないよな…。
念のためノックをしてから入る。
「何よ、わざわざノックだなんて律儀ね」
「まあ、色々あってだな。あれだ。ノックするのがマナーだろ?」
まさかさっき起こった出来事を言うわけにはいかない。
真姫ちゃんの視線が何か痛かった。勘が良さそうな子なのでバレてしまわないか心配だ…。
「それはそうと竜也君どこ行ってたの?」
「ああ、先輩のところだよ。俺も面識があるからね。んで、かよちんのことをサラッと話してきた。先輩方は本当にいつでもウェルカムって感じだったよ。…あとは、かよちんの気持ち次第」
俺が先輩のところへ行って確認したかったこと。
それは、かよちんがなぜこんなにも拒んでいるのかということ。
一瞬、2年生の先輩達の輪に入ることを躊躇していたのではないのかと、俺は勘ぐってしまっていた。
穂乃果先輩達はそんな理由で拒む人じゃないっていうのはわかりきっていたし、その後付けが欲しかったのだ。新しい部員が入ってきても大丈夫なのかいう、後付けを。
「…竜也君、ありがとう。凛ちゃんも西木野さんも、私のためにこれだけ動いてくれて…。私もいい加減、覚悟を決めなくちゃね」
「かよちん…!」
「私、行くよ。先輩達のところへ」
「よし、それじゃ、行きますか。ほら、凛ちゃんも真姫ちゃんも行くぞ」
そして再び屋上へ。
「お、竜也君おかえり~、今度はちゃんとノックしてるんだね?」
穂乃果先輩がニタニタと笑っている。やめてくれ、穂乃果先輩にそういう笑い方をされても俺は何も反論できない…。
1年生組はきょとんとした顔をしている。よし、そのままで居てくれ。
さもないと俺の社会的立場が危うい。
気を取り直して…
「先輩、小泉さんを連れてきましたよ。ほら、かよちん」
ポンと背中を押してあげ、前に出るように促した。
しかし、ここに来てかよちんがまた緊張してしまっている様子だ。
「もう、いつまで迷ってるの?アイドル、絶対やった方がいいよ!」
「そうよ、やってみたい気持ちがあるなら、やってみた方がいいに決まってるわ」
「凛は知ってるよ、かよちんがずっとずっとアイドルになりたいって思ってたこと…!」
最後の緊張を振り解くように、凛ちゃんと真姫ちゃんが励ましの言葉を送っている。
先輩達もかよちんのことを温かい目で見守ってくれていた。
ホント、かよちんはいい人たちに囲まれてるな…。
俺なんかこういう時にロクなこと出来なかったってのに…、逆にみんなに救われた気持ちになっていくのを感じる。
「頑張って、凛がずっとついててあげるから!」
「私も少しは応援してあげるって言ったでしょ?」
「アイドル、やりたかったんだろ? 今こそ、勇気を出して。頑張れ」
そしてもう一度…
今度は3人でかよちんの背中を押してあげた。
かよちんが振り向く。
凛ちゃんはニコニコと笑っていた。
真姫ちゃんは温かい目をしていた。
俺はこういう時なかなか笑えない男なので少し俯き加減で…それでも笑うように心がけた。
背中を押してあげたことで、改めてかよちんの決意は確かなものになったはずだ。
押してあげた手は、きっとその手の力以上に、かよちんにとって力強いパワーになってくれたことに違いない。
そして…
「私、小泉花陽と言います!
1年生で、背は小さくて、声は小さくて、人見知りで、得意なものは何もないです…!
でも…でも…!アイドルへの想いは誰にも負けないつもりです!
だから、μ'sのメンバーにしてください!」
言えた…。本心からの気持ちを、ありのままの気持ちを、かよちんがやっと伝えることが出来たのだ。
「こちらこそ、よろしく!」
ここまでの過程を見守ってくれていた先輩達はありたっけの笑顔で、かよちんを温かく出迎えてくれた。
ホント、優しい先輩達だ。
穂乃果先輩とかよちんは、熱い握手を交わした。
それを見た凛ちゃんは、感動のあまり少し泣いてしまっていたし、真姫ちゃんも少し涙目だ。
確かにここまで紆余曲折あったことを思えば感動してしまうのも無理もないな。
俺も少し目頭が熱くなってきそうだ。女の前だから絶対涙は見せないけれど。
「それで、他のみんなは?」
と、こちらにも問いが飛んできた。
「「どうするって… え?」」
「メンバーは、まだまだ募集中ですよ!」
海未先輩も、ことり先輩も手を差し出してきた。
「せっかく先輩に誘われてるんだ、ここまでかよちんを後押ししておいて自分はアイドルなんてやりません、だなんてことはないよな?」
凛ちゃんはともかくとして、真姫ちゃんは色々事情がある。
しかしそれも考慮した上で、俺は真姫ちゃんにアイドルになることを勧めた。
「わ、わかったわよ。ここまで来たのなら仕方ないものね」
案外、簡単に了承したな。
断れない状況ってほどでもなかったが、真姫ちゃんもアイドルをやるかどうか悩んでいたところだったんだろう。だからこそ、今回のこのかよちんの一件で心を動かされるものがあったのかもしれない。
何にせよ良かった。これにて一件落着。この3人がアイドルとなるのなら…
「これにて俺はお暇…」
「ちょっと待って!」
後はアイドルとなる女の子だけの世界にさせてあげようと思ったが矢先。
穂乃果先輩に呼び止められてしまった。
一体どうしたのだろうか…。かよちんを連れてきてアイドル部に入ってもらったことだし、俺の用は済んだはずだ。
「君は… 竜也君はどうするの?」
「俺ですか?俺は…」
この質問の意図は。
おそらく、3人がまとめてμ'sのメンバーとなったまではいいものの、結局俺自信の享受はどうするのかということだろう。
しかし、男の俺がスクールアイドルのメンバーになるってのはおかしい話だ。
かといって他にアテがあるのかと問われれば。
「俺は―― 適当に他の部活でも探しますよ。先輩達やみんなのことは遠目で見守っておきます」
まあ、これが模範解答だろう。さすがにメンバー集め以上のことをするのはお節介というものだ。
しかし、穂乃果先輩から言われた次の言葉に、俺は驚くことになる。
「竜也君さえよければなんだけど… 私たちを裏で手伝ってくれる役とかやってくれると嬉しいかな~って」
「…いわゆるマネージャー的なものでしょうか?」
「そうそうそれそれ!別に雑用ばかり任せるわけじゃないから!よかったら、って程度なんだけど…」
「穂乃果!いきなりそんなことを頼むなんて失礼ですよ!
…とはいえ、それは私からもお願いしたいです。いつもトレーニングは私が見てることが多いので、第三者の意見が聞ければ練習効率も遥かに良くなると思うので…」
「何よりも、竜也君が居てくれたら、この子達も喜んでくれるんじゃないのかなぁ?」
そう言って、ことり先輩は1年生の皆を見渡した。
マネージャーか。それは思いもしなかったな。
確かに、手伝うことがあれば、俺に出来ることがあれば、最善は尽くそうとは考えなかったこともない。
しかしマネージャーともなると勝手は違ってくる。
女の園みたいな場所に1年生の男が1人ポンと入って来るのだ。気を遣わせてしまわないだろうか?
「気を遣わせてしまう、とか考えてない?」
「え、あ… まあ、そうですね…」
図星なことを言われて驚いてしまった。
「3人のメンバーを勧誘してくれたんだから、もう十分だよ。むしろ必要以上に気を遣ってもらったら、それこそ練習にならないよ。私たち、本気でスクールアイドルをやろうと思っているから。本気でこの学校の廃校を阻止したいから。竜也君にも女だからとか、そういうことは抜きにして、本気でぶつかってきて欲しいの」
穂乃果先輩の目は本気そのものだった。
いつもにこやかにしている穂乃果先輩の本気の目つき。
…講堂でのライブの時で見た、あの目つきと似ていた。
これがあるからか。
このたまに見せる穂乃果先輩の本気の姿があるから、海未先輩も、ことり先輩も、協力しているのだろう。
こりゃ、負けたな。ここまで言われたら俺も男だ。
「先輩の言うことはよくわかりました。そこまで先輩が本気になって考えているのなら、俺も本気になって協力したいと思います。よろしくお願いします!」
「本当!? ありがとう!助かるよ~!」
そうして俺と穂乃果先輩は握手を交わした。
今度こそ一件落着…かと思われたのだが。
「あ、でも着替え中とかは気を遣ってくれると嬉しいかな… さっきみたいなことになるとイロイロと大変だし…」
てへへと笑いながら穂乃果先輩が爆弾を投げ込んできた。
さすがに不慮の事故だったので、わざわざ事実を言うつもりはなかったのだろう、穂乃果先輩は言った後に「あっ」となって口が開いていた。先輩、遅いです。
「へえ… さっき屋上から帰ってきた時から何か挙動がおかしいなとは思っていたけれど… まさか覗き魔をしていただなんてねぇ…?」
今世紀一番の真姫ちゃんの視線が刺さる刺さる。痛いです。
「ま、まあ… そんなこんなでこれからもよろしくってことで?」
「うまいことまとめきれてないですから」
かくして、俺は変な肩書きを持ち、真姫ちゃん達1年生組にやや悪印象を持たれたままマネージャーとして入部することになった。
どうしてこうなった…。まあ、信頼はこれから勝ち取ればいい話だな、ポジティブに考えるしかない。
…………………………
今後のことを話し終え、そして新たな一日が始まる。
晴れてマネージャーとなった俺は誰よりも早く練習場所の神田明神でみんなを待っていた。
本気でサポートすると言ったからな。これくらいは当然のこと。
最初に、メガネを外しコンタクトに変えたかよちんがやってきた。
アイドルをやるということでイメチェンか。彼女らしいな。
しばらくかよちんと談笑していると、少し遅れて凛ちゃんと真姫ちゃんもやってきた。先輩よりも早く来てるしやる気十分といったところか。
「あ、あれ…!メガネは?」
「コンタクトにしてみたの。へ、変かな…?」
「ううん!全然変じゃないよ、すっごく似合うよ!」
「へぇ、いいじゃない」
メガネからコンタクトへのイメチェンは2人にも好評だった。
「ね、ねぇ… メガネ取ったついでに、名前で呼んでよ」
「「え?」」
何のついでだよ、と激しくツッコミを入れたくなったが、この状況に水を差しかねないのでやめておいた。
真姫ちゃんを弄ってはやりたいが、凛ちゃんとかよちんを巻き込むわけにはいかない。
「私も名前で呼ぶから。花陽。凛。」
真姫ちゃんのその顔はとても赤くなっていた。よっぽど小っ恥ずかしいのだろう。
その真姫ちゃんの渾身の提案に応えるように、
「真姫ちゃん!」
「真姫ちゃ~ん!真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃ~ん!」
この2人も快く下の名前で呼び返した。
凛ちゃんが真姫ちゃんに抱き付いているのを見ると、まさに青春を感じる…。
あれ、ちょっと待て…
「俺は下の名前で呼ばないのか…?」
「アンタは別に必要なくない?」
「急に素に戻ってキツイこと言わないでくれよ」
流れに沿って言ってくれれば、その真姫ちゃんのひん曲がった性格を矯正できそうなのに。
「真姫ちゃん、せっかく竜也君が言ってくれてるんだから… ね?」
「う…わかったわよ。…竜也。」
さすがかよちん、天使かこの子は。
俺なんかよりもよっぽど真姫ちゃんの扱いを心得てそうだ。
「ってか呼び捨てなのな。じゃあ俺も真姫って呼ぶわ」
「恋人同士でもないのになんか馴れなれしいわね」
「そっちは呼び捨てで言っておいてひでぇ言いがかりだな…。別に俺らの間柄なんだから今更だろ」
「ふ~ん、ま、それもそうね。改めてよろしく、竜也」
「おう、こっちこそよろしくな。真姫」
親しみを持った意味なのかそうでないのかはわからない。
でも、この一件で確実に真姫との距離は近づいただろう。
距離が近づいたからといって、何かが変わるわけでもないし、これからも変わることはない、はずだ。
ただ言えるのは、今、俺にとって新たな目標が出来たのだ。
それは、
音ノ木坂学院の廃校を阻止する。
ということ。そのためにも、俺も全力でみんなをサポートしよう。
その決意を胸に。心に、強く、誓った。
「(…なんかあの2人。前々から思ってたけど、あんな言い合いしてるくらいだし、なんだかんだで仲良いよね)」
「(だね~。大ゲンカしても普通にすぐ仲直りしてそうだもん)」
「(まさかあの2人がくっついたりするのかにゃ…?)」
「(今はまだわからないけど… もしかすると…もしかするかも!)」
ここまでありがとうございました。
一旦区切りの話ということで長くなってしまいましたがいかがでしたでしょうか?
今後もこの作品にお付き合いして頂ければ何よりです。
余談ですが、冒頭で話してた通りたま~に動画作ってたりするので、この作品の宣伝も兼ねて、Twitter是非是非覗いてくださいませ←
@_rollingworld
それではまた次回の話でお会いしましょう!