「いらっしゃいませ~」
凛ちゃんに連れられて早速店の中へと入っていく。
空いているテーブルの席へと座って一息。
「ふー、凛ちゃんについていくの疲れたよ」
「そうかな? 凛はへーきだよ、むしろ最近のダンスの練習の方が疲れるかな~」
昔からああやって走り慣れてるのだろうか。
準備運動も無しにいきなり走らされるものだから、さすがの俺も体が疲れてしまった。
かよちんはいつもこうやって凛ちゃんに連れて行かれてるんだろうなあ…
ある意味彼女にとっては、それで少し運動の癖はついてるのかもしれない。
「話し込むのもアレだし、とりあえずメニュー表を見ようか。凛ちゃんの言ってたのはどのパフェなんだ?」
「えーと… このページのパフェだね。…ってこれは…!!」
と、凛ちゃんがメニューを指差したのはいいものの、少しビックリしたような顔をしている。
何だろうと気になった俺もそのメニュー表のページを覗いてみた。
そこには驚愕してしまう文字が書いてあった。
"※なおこのメニューは男女お2人でお越しのカップルの方限定となります"
今時こんなメニューなんてあるもんなんだな… クレームが来てもおかしくなさそうな気はするぞ…
「で、凛ちゃんは俺とカップルのフリをしてまでこのパフェが食べたかったってことか…」
どう反応したものかいいのかわからなくなったので、とりあえず凛ちゃんをイジってみる。
「ち、違うよ!友達から聞いた時にはこんなこと言われなかったよ!凛だって今始めて知ったばかりだったし…」
この凛ちゃんの慌てっぷりを見る限りは、ウソをついているということはなさそうだ。
本当に知らなかっただけだろうな。ここで凛ちゃんを責めるのも気の毒だ。
「わかったわかった。でもせっかく来たんだし食べよう、な?」
「え、いいの…? 竜也君と凛は別に付き合ってるカップル同士じゃないんだよ?」
「大丈夫大丈夫。こんなおふざけ企画で、店の人が"お二人は本当にカップルなんでしょうか?"
って聞いてくることもないだろうし。それに周りを見渡してみろって」
周りを見渡すと他の客たちでいっぱいだ。
その他の客たちは俺達と同様に男女2人組ばかりだ。
パッと見、どの2人組もカップル同士に見える。
「このカップルばかりの空間なんだから余裕でカモフラージュ出来るしな!」
「なんだか納得できるようなそうでないような…」
凛ちゃんはまだ躊躇っている雰囲気を醸し出している。
言いだしっぺは凛ちゃんなのに、どうして俺が誘ってみるような感じになってるんだ。
これでは、俺が凛ちゃんをデートに誘ってる口説いてる男みたいな図じゃないか。俺は口説くつもりは全くないのに。
うーん、じれったい…。さすがにこれ以上時間がかかるとかよちんとの約束に遅刻しかねない。
「とりあえず注文するぞ」
「あ、待って!」
俺が机の上にある呼び出しのボタンに手を伸ばそうとすると、それを止めようとした凛ちゃんの手が上に重なった。
凛ちゃんが止めるよりも先に、俺はボタンを押すことに成功したが。
店員さんに注文の旨を伝えた後、厨房へ戻って行った店員さんはクスッと笑っている気がした。
なぜ笑っていたのだろう?俺達がメニューを決めるのに揉めている姿がツボに入っていたのだろうか…?
もしかしてカップルのフリをしてこのメニューを頼んでいることがバレてた、とか。
それだとしたら店員さんに申し訳ないな。
きっとバイトさんなのだろう、心遣いに感謝。
「も~…店員さんに笑われてたじゃん。私たち変なカップルに思われてないかなあ…?」
「変なのかはともかく、俺とカップルのフリはイヤ、だったりする…?」
別にフリをしているわけではないが。
「そういうわけじゃないんだけど…。むしろ竜也君がイヤがってないか心配で…」
「俺は別にそんなことないけど? 俺一人だとこういう甘菓子を食べる機会なんてないし、凛ちゃんとこうやって来られて俺は嬉しいけどな」
素直に俺の今の気持ちを伝えた。
そもそも俺は昔から買い食いはしても、大抵は唐揚げだとか油ものを食べてばかりでアイスなどの甘いものを食べることなんてなかった。
昔から俺の周りに女っ気があまりなかったのもあるのだが。
「そうなんだ、それなら良かった…。前にも言ったけど、凛ってこんなに髪が短いし女の子に見えないだろうから、カップルなんて言っていいのかなって心配で…」
…本当に自分に自信がない子なんだな。
昔の話を聞いていたら、凛ちゃんが自分自身に自分は女の子だと思っちゃダメ、という自己暗示をかけてしまっても仕方ないとは思う。
でもそれじゃダメだ。凛ちゃんはμ'sの一員としてアイドルなんだから。
仮に他の誰がどう思っていても、自分自身だけでも女の子なんだということを認識してくれないと。
それを説得するのも"マネージャー"の仕事。…って思うのはさすがに俺自身が前面に出過ぎなのかもしれないけど。
「本当にそう思ってるのか? 凛ちゃんは俺から見たら十分に可愛らしい女の子だと思うし、もっと自分に自信を持っていいと思う。というか持つべき!」
「そ、そうかなあ…?」
「これからスクールアイドルとしてやっていくのに、そんな自信無さげにしてたら誰も振り向いてくれなくなるぞ。それに、かよちんを支えてあげたいんだろ?」
μ'sに入った理由の一番に、かよちんがアイドルをやりたかったから。というのがあるだろう。
しかし本当にそれだけだろうか?
凛ちゃんだってれっきとした女の子だ。
――自分も女の子らしくなりたい。
そんな思いが。
かよちんからアイドルの話を聞いてるのならそういう思いがあってもおかしくはないだろう。
「だから、もっと自分に自信を持ってくれ。凛ちゃんが可愛らしい女の子ってことが俺が保証する!…会ってまだそんなに経ってない俺が言っても説得力に欠けるかもしれないけどさ」
「う、うん…。ゴメンね。こんなウジウジしてたらかよちんに会わせる顔がないもんね」
「そうそう、とりあえずパフェを食べて元気出そうぜ」
「うん!」
そんな話をしているうちにパフェが届いた。…大きいな。カップル用ということで、1つの器に盛っているわけだが…大きすぎる。
届いたその瞬間に凛ちゃんは躊躇いなくどんどん食べ始めた。
さっきの暗い雰囲気がなかったかのようだ。
とはいえ、俺一人でなんやかんやで説得してみた感じだが…本当に納得してくれたのだろうか。
俺なんかが言ったところで、凛ちゃんの心の奥底に眠る悩みが解決できるとも思えない。
今回の一件はこれで済むかもしれないが…
――最終的には、かよちんの協力が必要となりそうだな。
…俺もパフェ食べよう。
「…甘い」
そういえば俺は生クリームがさほど好きじゃないんだった。
・・・・・・・・・・
「ふー、食べた食べた。何だあの量は…今日はもう何もいらねえ…」
慣れないものを食べたからか腹が相当膨れてしまった。夕飯が食べきれるか不安だ。
「竜也君は甘いもの好きじゃないの?」
「好きじゃないってほどでもないけど、食べる機会は少ないかな」
「えー!それなら、これからどんどん食べに行こうよ!かよちんや真姫ちゃんも一緒に!」
「まあ、たまにならいいかもな」
ふと時計に目をやるとそろそろかよちんの家に行く約束の時間だ。
俺が食べるのに時間をかけすぎてしまっただろうか、少し遅刻気味だ。
「時間がないなら走ればいいじゃん!アイドルは体力付けなきゃだもん!」
「いや、さっき食べたばっかで…」
「出発にゃー!」
「えぇ…」
かよちんの家に着いた時に俺の胃の中身が逆流しかけたのは言うまでもない。意地でも耐えたが。
…今度から生クリームには気を付けよう…本当に。
それなりに体力はあったはずだが、受験期はあまり動いてなかった祟りが来てしまっているのだろうか。昔はラーメンを大量に食べた後でも十分に動けたというのに。
少なくともどんなコンディションであれ、μ'sのみんなに体力で負けるようなことがあってはならないな… 俺もますます体力をつけないとだ。
「そういえば凛ちゃんはかよちんの家には何回目くらいなの?」
「そんなの覚えてるわけないよ~ 昔からよくお互いの家に行ってたし」
「まあ…幼なじみでよく家に行ってるのなら覚えてるわけないか」
家のインターホンを押すと、かよちんの母親が出迎えてくれた。
娘同様にほんわかとした方だった。
凛ちゃんはともかく、母親さんが俺に対する目線が少しビックリしているようだった。
男子が遊びに来ることは過去になかったので余計に驚いているのだろう。あのかよちんだからなあ…それも納得だ。
真姫ちゃんの土産を母親さんに渡してかよちんの部屋へと入っていく。
…そういえば。居候させてもらっている真姫ちゃんの部屋はともかくとして、赤の他人である女の子の部屋に入るのは初めてだな。
ま、そういうのを気にするのはよくないな。そもそも今日は病人の見舞いなのだから。
「かーよちん!遊びに来たよ!」
「おいおい、病人の居る部屋で大きな声を出すなって。しかも遊びに来たわけじゃないから」
「あ、凛ちゃんに竜也君。わざわざ来てもらってありがとう。今日は一緒に行けなくてゴメンね…」
見ればかよちんの顔は少し赤かった。
喋り方といいそこまで重い風邪でもなさそうなので、深い心配は無用だろうか。2,3日待てばなんとかなりそうだ。
「なーに、あのうるさい真姫も来なかったしいいってことよ。おかげで色々凛ちゃんと話が出来たし。な?」
「真姫ちゃんはともかく、そうだね~。今度はみんなで行こうにゃ!」
「2人が楽しそうなら良かったよ~」
「こーんな量のパフェを凛ちゃんがほとんど1人で食べきってたからなあ…正直凛ちゃんがあんなに食べる人だなんて驚いたよ」
「凛ちゃんは昔から食べる量が多いからね~。特にラーメンとかも凄いよ~」
「かよちんが凛に言う~? そんなこと言ったらかよちんの方がもっと食べると思うけどにゃー」
「えぇー、竜也君の前でそれを言わないでー! 竜也君も今凛ちゃんが言ったこと忘れて!?」
「ラーメン…だと?」
ラーメンという単語に俺は反応してしまった。俺も昔からよくラーメンを食べる上に好物の1つだからだ。
かよちんが忘れてと言っているが何のことかさっぱりだ。
「竜也君ラーメン好きなのかにゃ?」
「そうだな…親から貰った小遣いのほとんどはラーメン屋に消えていったくらいには」
「じゃあパフェの次はラーメン屋だにゃー!」
「え、あ、えーと…(よく食べるってこと聞いてなかったのかな。まあいいや…。)私はそれでもいいけど…真姫ちゃんはどうなのかなあ?」
「あのブルジョアはラーメン屋とかいう庶民のお店に行ったことなさそう」
「あー…」
凛ちゃんも少し納得しているような感じだ。
とはいえ、凛ちゃんがラーメンが好きだとは驚いたな。女の子でラーメンが大好きって話はあまり聞かないだろうし。
そういえば凛ちゃんは中学生の時に陸上部だっけか。陸上部は男女一緒にしてトレーニングしてるという話を伝え聞いたことがあるけど、それも相まって男子と仲良くしてあまり女子だと認識されにくくなった…とかいうこともあるのだろうか。
部活の帰りに男連中とラーメンを食べに行ってたということもあれば、それにも合点がいく。
しかし、それでも距離が近い分、凛ちゃんを女子だと意識している男子は少なからず居たのではないのだろうか…?
…俺の中で色々と決めつけるのはよくないな。
そんなこんなで3人での会話は続いた。
俺は夕飯の時間がそろそろ近いようなので凛ちゃんより先にかよちんの家から帰ることにした。
家も近いのだからこの幼なじみ同士は羨ましい限りだ。この間に俺なんかが割って入って良かったのだろうか…。
とはいえ、3人での会話は楽しかったし、きっと2人も喜んでくれていたし良かったのだろう。
かよちんの母親には帰り際に「これからも花陽をよろしくお願いします」と丁寧にご挨拶されたくらいだし問題なかったはずだ。
…正直、今回の一件は練習の激しさが風邪の引き金となったのは間違いないので、母親さんにも申し訳が立たなかったわけなのだが。
今度に家に来た時は、かよちんの頑張りを母親さんにも紹介してあげたいくらいだ。
とにもかくにも、最初かよちんが風邪を引いたと聞いた時は心配だったが、そこまで重くなさそうで一安心。
俺もかよちんに無茶をさせ過ぎていかないように気を付けないと。
急に激しい運動が始まって筋肉痛も酷そうだからなあ。
かよちんに練習は厳しいかどうかを聞いたところ、こう返された。
「確かに練習は厳しいけれど…大丈夫!私、頑張るから!」
やっぱりアイドルになると決めたから、その決意は固いものだった。
だからこそこの気合いが空回りしないように、
俺達が…、いや、俺がしっかりと見てあげる必要があるのだ。
確かにメニュー決めに関しても海未先輩は頼りになるわけだが、海未先輩だって実際に踊っているメンバーなのだ。全て先輩に任せるわけにもいかない。
…俺も成長しないとだな。
――女の子に気を配る、ということに。
――――――――――
竜也君が帰ってからは、凛ちゃんと竜也君のことばかり話し込んでいた。
どんなことを話していたの?とか、すっごく単純なことだけれど。
竜也君のことを話す凛ちゃんはとっても楽しそう。
「凛を普通に女の子と見てくれる男の子なんて今まで居なかったから…そういう意味でも今日は嬉しいし楽しかったなあ」
「そっかぁ~、良かったね、凛ちゃん」
私から見ても凛ちゃんはとっても可愛い女の子だと思う。
でも凛ちゃん自身はそのことに気づいてないんだよね…。昔それでからかわれた経験があるからそれが少しトラウマになっているんだと思うけど…。
実際にどんな風に言っていたのかはわからないけど、そうやって竜也君が凛ちゃんを元気づけてくれてたのなら良かった。凛ちゃんの友達として本当に嬉しい。
でもこれだけじゃ凛ちゃんもまだ実感が湧いてないと思う。
だから、いつか私たちが色んな人に知ってもらえるアイドルになれたら…その時改めて凛ちゃんに女の子なんだよ、って言ってあげたいな。
その前に私が体力つけなきゃだけどね…えへへ…。
「そういえばさ、竜也君って私たちに凄く気を遣ってるような気がするよね」
「わかるわかる!今日でもかよちんの家にお見舞いに行くって言った時に、先にお土産買いに行くって言ってたからね。あんなに礼儀正しい人とは思わなかったにゃー」
「それは竜也君にちょっと失礼だよ…。でも、真姫ちゃんとの会話を見てると確かにそう思っちゃうよね」
竜也君と真姫ちゃんの関係って一体何なんだろう?
別に付き合ってるわけでもないけど、いい意味で気を遣ってないように感じる。
同じ家に住んでるからなのかな?
でも、真姫ちゃんと会ったのは3月と言ってたから、私たちと初めて会った期間とさほど変わらない…。
「2人は口ゲンカばっかりしてるから一見合わなさそうに見えるけど、ああいう性格の2人だからこそ案外馬が合うのかもしれないね~」
「ああいう性格って…。でも竜也君は私たちには凄く丁寧なんだよね。たま~にビックリすることがあるけど」
「え、かよちんは何があったの?」
「えーと…私がちょっと慌ててる時に両手で肩を掴まれたこととかかな…」
あの時は竜也君も少し焦っている気がしたけど。
「えー!竜也君そんな大胆なことしてたんだ!さてはかよちんに手を出すつもりなのかもだにゃ…!」
「そ、そういうわけじゃないと思うよ!私があまりにも慌ててたから彼にとってはそうするのが最善だったのかも。その後一部始終を真姫ちゃんに見られてて怒られちゃったけどね…」
「それは真姫ちゃんに嫉妬されてたのかもしれないね!」
「そんなことないよ~」
あれは普通に怒ってた気がする…たぶん。
確かに他人様の家だったし仕方ないよね、うん。
「まあ、結局のところ竜也君と真姫ちゃんの仲はよくわからないってことだよね。私たち外野がとやかくと言うのもあまり良くない気がするなあ」
「そうだね。…でも、あの2人のやり取りを見てるともう少し踏み込んできてくれてもいいのになーって思う事はあるかな」
決して寂しいだとか、嫉妬しているわけではないけれど…。
竜也君にとって"自分"を出しているのが真姫ちゃんだけなのが、羨ましいなーと思っちゃうな。
「それだけ竜也君が凛たちに気を遣ってる、配ってるってことなんだと思うよ。かよちんに対して凄く申し訳なさそうだったじゃん」
「そうだったね…。風邪は私のせいなのにあたかも自分のせいだと思って謝ってたのはビックリだったなあ」
「凛達ももっと竜也君に絡んでいけばそういう風に接してくれるかもしれないね。竜也君もまだ手探りの状態なんだよ」
「そうだね…いつかそうなるといいなあ…」
気を遣う、気にかけてくれる、心配してくれてる、気を配ってくれる。
そんな竜也君は優しいしいい人だと思うけど、もう少し距離が縮まったらなあ…と思う、凛と花陽でした。
今回もありがとうございました。ちょっと本編から外れたお話を書いてみたくなりましたw
年末年始はさることながら、現在はテスト期間という…。誰か執筆時間を下さい(懇願)
そういえばお気に入り数が100件、通算UAは10000を超えたみたいですね。見て下さってる方はありがとうございますm(_ _)m
感想もお待ちしておりますので時間あればどうぞどうぞ←
というわけで次回もお楽しみにです。次回はまた本編に戻ります。ではでは('◇')ゞ